ロリっ子Jkは平穏を愛す

赤オニ

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 その日、そーちゃんは休みだった。


 朝、登校して下駄箱を覗いたら上履きに、名前ペンで沢山の悪口が書きなぐられている。ブス、キモイ、ウザイ等々。


 身に覚えがなくて、とりあえず落書きを消した方がいいなぁと思ったことだけは覚えている。
 外の洗い場で、冷たい水に濡らしながら上履きをタワシでゴシゴシこする。


 落書きは取れなくて、結局ビショ濡れになった上履きだけがわたしの手に残った。何で、だろう。わたしは何かしただろうか、よく分からなくて悲しかった。


 落書きだらけの上履きを先生に見せるわけにもいかなくて、忘れましたと伝え薄っぺらいスリッパで教室に入る。
 上履きを履いていないわたしを見て、クラスの男子数人が意地悪そうに笑うのが見えた。


 あれを書いたのはあの子達かな、薄っぺらいスリッパのまま笑っている男子組に近付く。わたしが目の前に立つと、笑うのをやめる。


「ねぇ、何であんなことしたの?」
「何のことだよ」
「上履きだよ」
「はぁ? 何言ってんのか意味わかんね~。なぁ、お前ら」


 口元を意地悪く歪ませながら、男子達はとぼける。
 黒いモヤが、少しだけ濃く見えた。この子たちが落書きしたって証拠はない。わたしは、問い詰めるのを止めて自分の席へ戻る。


 授業をぼんやりとしながら聞いてると、不意に後頭部に軽い何かが当たった感覚がした。振り返って確かめると、後ろの席の男子が笑いをこらえるように肩を震わせる。
 床に落ちいていたのは、消しゴム。


 何なんだろう、意味がわからないのは、わたしの方だ。
 黒板へ視線を向けると、そばでクスクス笑い声が聞こえる。授業をしている先生には聞こえないけど、そばにいたら聞こえるぐらいの大きさで。悪意のこもった言葉を受けながら受けた授業は、道徳だった。


 いじめはよくありません、皆仲良くしましょう。教科書をそのまま読み上げたような内容の話を聞きながら、唇を強く噛んだ。


 昼休み、いつも給食を一緒に食べる子達のところへお盆を持って行こうとしたら、足をかけられ転ぶ。


 給食は、見事に床へぶちまけた。擦りむいた膝がじんじん痛む。足を引っ掛けた男子は、全然反省してない様子で笑いながら謝る。先生は大丈夫? と声をかけてくるけれど、この姿のどこが、大丈夫に見えるのかわからなかった。


 友達は、お喋りに夢中だ。
 ……ううん、夢中な、フリをしている。わたしが転んだのも、笑われているのも、ずっと見ていながら見て見ぬふり。


 何で? 疑問と怒りと悲しみと悔しさで、心の中がぐちゃぐちゃ。唇を強く噛む。先生に手伝ってもらいながら、落とした給食を片付ける。


 男子は笑っている。女子は気にする素振りを見せながらも、視線を逸らす。


 頭が痛い、先生にそう伝えて教室を一人で出た。廊下をとぼとぼ歩いていると、教室の中から笑い声が聞こえる。楽しそうな声。わたしも、あんな風に笑えていたはずだった。


 涙が零れた。唇を強く噛んで、袖で乱暴に涙を拭って裏庭へ走って向かう。
 芝生の上に体育座りして、ぼんやり空を見上げる。分厚い雲に覆われた空はどんより暗くて、見ていて余計に落ち込みそう。


 給食を食べ損ねたので、体が空腹を訴えてくる。
 体を丸めるように、膝を抱える。……大丈夫、明日にはいつも通りの日常が待っている。それまでの辛抱だ。今日は、多分厄日とか、そんな感じの日だったんだ。


 無理やり自分を納得させて、昼休みが終わった頃教室へ戻る。騒がしかった教室は、わたしが戻るとピタリと静まり返る。無言で自分の席に座ると、わたしに消しゴムをぶつけた後ろの席の男子が笑う。


「ぼっちのヤクザの息子なんかとつるんでるからこうなんだよ。お花畑な頭じゃわかんねぇだろうけど!」


 その言葉に、ケラケラ笑う男子達。遠巻きに見る女子達。
 自分が馬鹿にされたことより、嫌がらせを受けたことより、友達に無視されたことよりーーーーそーちゃんを笑うことが、一番腹が立って、許せない。


 ヤクザの息子。それは、陰でそーちゃんに向かって囁かれていた悪意ある言葉。そーちゃんはそれを気にして、わたしを遠ざけた。


 そんなの関係ない。だって約束したんだもの、離れないよって、あの日。ぐちゃぐちゃで荒ぶっていた心が、スッと冷める。静かに席を立って、後ろの男子を見る。


「誰かと一緒じゃないと嫌がらせ出来ないくせに、何言ってるの?」


 わたしの冷めた言葉に、一瞬言葉を詰まらせる男子は体を覆うほど大きくなった黒色のモヤを乗せ、眉を吊り上げて睨み、わたしを突き飛ばす。


 机やら椅子やらと一緒に派手に床に尻もちをついた姿を見て、ゲラゲラ笑う声が頭上で聞こえた。痛くて、悔しくて、俯いて唇を強く噛んで涙が出そうになるのをこらえていると、不意に笑い声が止む。


 不思議に思って顔を上げると、そこにはわたしを突き飛ばした男子の胸ぐらに掴みかかっている、休んでいるはずの彼がいた。


 その顔は、今まで見たことがないような顔で、突き飛ばした男子みたいに眉を吊り上げているわけでもないのに……空気が冷たくなったような気がする。


 静かだけど、ものすごく怒っているのが、ピリピリ肌から伝わってくる。彼は、胸ぐらを掴まれて真っ青になっている男子の目を真っ直ぐ、冷たい目で見てから低い声で一言。


「六花に手を出すな」


 それだけ言うと、簡単に男子の服から手を離した。
 床にへたり込んだ男子は、固まったままズボンを濡らす。


 黒いモヤが薄れて行くのがちらりと見えた。何かが、離れて行ったんだ。
 彼はわたしへ手を差し出して、その手を自然に握ると、優しく立たせてくれた。そのまま、手を引かれて教室から出る。クラスメイトの視線がチクチク痛かったけれど、それよりもいつもと違う彼の様子の方が、わたしには大事だった。


 校舎の裏庭まで連れてこられると、くるりと彼がわたしの目を真っ直ぐ見つめる。
 わたしは、彼の目を真っ直ぐ見つめ返す。しばらく、無言の時を過ごし、口火を切ったのはわたしの方だった。


 さっきみたいに静かに怒った雰囲気じゃなくて、普段と違う、何かに怯えているような、不安そうな顔が気になって。


「そーちゃん、何か怖いの?」
「……六花は、俺が怖くない? 聞いただろ、俺ヤクザの息子なんだ」
「怖くないよ! そーちゃんはそーちゃんだもん! ……違う?」


 泣きそうな顔で、声を震わせながら問いかける彼を見つめて、わたしは声を張り上げた。
 何もわからない。幼かったわたしは彼の家のこととか、難しくて分からなかったけれどーー彼が、彼自身が一番自分の存在を蔑ろにしているような気がして、それが許せなかった。


 ヤクザの息子、自分をそうとしか見ていない彼に腹が立った。そーちゃんはそーちゃんだ、家が何だろうと関係ない。そーちゃんはわたしの友達で、何で友達を怖がるのか、分からなくて。


「……っ、あり、がとう。六花」


 顔を歪めてくしゃくしゃの顔で笑った彼の顔に、わたしは安心して笑いかける。ーーーーだけど、次の日から彼は学校に来なくなった。転校したと聞いた。
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