I'll

ままはる

文字の大きさ
3 / 107
第一章

実地訓練

しおりを挟む
「これから入隊試験までは、真剣を使った稽古と、近隣の魔物討伐へ向かう剣士隊への同行及び実地訓練となる」

 練習生たち1人に1本、真剣が行き渡ったところで、部隊長が言った。

「当然ながら、真剣での私闘は言語道断。即刻ここから叩き出す」

 視線をアイザックとウィルに向ける。2人は静かに視線を宙に彷徨わせた。

「昨今、グリーンヒル周辺に厄介な魔物はほとんど出ないが、油断は禁物だ。魔物に遭遇した場合は直ちに剣士に報告すること。討伐は剣士に任せれば良いが、可能であれば駆逐しても良い。が、間違っても死ぬな」

 練習生が怪我を負ったり、万が一命を落としたとしても、何の補助金も保険金も出はしない。骨折り損の犬死にである。

「いいか。些細なことでも、何かあれば必ず同行している剣士に報告しろ。絶対に、だ」

 語尾を強め、部隊長は再度注意を促した。

「……やっぱり、少し緊張するな」

 カストを含めて数人、真剣を初めて握った者たちは、その手に感じる重みに内心ヒヤリとする。

「2つのグループに分ける。先発隊として、さっそく明日の実地訓練に向かいたいという希望者はいるか?」

 迷わずウィルは挙手する。真剣の素振りをしているより、絶対に実地訓練の方が楽に違いない。
 ウィルの挙手を見て、アイザックも手を挙げた。他にも手が挙がり、計6名。
 アイザックはチラリとカストを見たが、さすがにいきなり実戦は無理だと判断して手は挙げていなかった。

「出没する魔物は?」
「スライムとゴブリン。稀に飛蛇が出ると聞いている」
「雑魚ばっか」
「ウィル。そうやって油断している奴ほど、足元を掬われるんだぞ」
「へいへーい」

 部隊長は大きく息を吐く。本当にこの幼い少年に、真剣を握らせて良いものだろうか。これまでに何度も自問自答を繰り返した。そしていつも辿り着く答えは、自分にはこうすることしかできないのだ、ということ。

「それでは、挙手した6名は、明朝6時に剣士隊のグラウンドに集合。剣士隊第2部隊7班と8班と共に現地に向かってもらう」
「第2部隊?」

 ウィルがカストに問う。

「専属剣士隊は第3部隊まであって、第1部隊は、グリーンヒル・シティ内が管轄。第2部隊がグリーンヒル近郊。第3部隊がそれ以外の国内だね。各地に支部隊もあるけど、所属は第3部隊になるんだ」
「つまり、第3部隊より第2、第1の方が偉い奴らの集まりってことか」
「入隊したばかりの剣士はほとんど第3部隊に配属されるらしいよ。第3部隊でも首都本部の配属ならいいけど、地方の支部となると……場所によっては辛いなぁ」
「ちなみに、あのオッサンは?」

 と、ウィルは目の前の部隊長を指差す。
 部隊長はわざとらしく咳払いをした。

「私は第3部隊の部隊長だ。こうして練習生の様子を見に来るのも仕事のうちだ」

 普段、主にウィルたちに剣技の稽古をつける師範は別にいる。また、基礎知識を身につける座学の講師も然り。部隊長は月に1度程度やってきて練習生の様子を見たり、時にはこの間のように稽古をつけてくれることもある。

「第3部隊って、暇なん?」
「誰が暇だ!」

⭐︎

 ━━明朝。
 集まった練習生6人と、第2部隊7班の5人、8班の4人は、2台の馬車に分かれて移動した。
 ウィルとアイザック、それからイアンという名の練習生の3人は、8班の4人と同じ馬車だった。

 特にお互い自己紹介も無かった為、ウィルは心の中で『日焼け』『傷痕』『筋肉ハゲ』『金髪』とあだ名をつけた。見たままの特徴である。

「あのぉ……剣士のお仕事ってどうですか?」

 馬車が走り始めてしばらくしてから、イアンが遠慮がちに、剣士たちの中の誰という誰ともなく尋ねた。
 どの剣士たちも鍛え抜かれた体つきで、大きい。その雰囲気だけでも、どこか近寄りがたく圧倒される。

「どう、とは?」

 日焼けした男が眉を顰めた。

「その……思っていたよりも楽だなぁとか、逆にしんどいなぁとか。剣士になって良かったこととか、何でもいいんですけど」
「そうだなぁ……思っていたよりも死にかけることが多い、だな」
「え」

 凍りついたイアンをよそに、剣士たちが口々に口を開く。

「特に第3部隊にいた時はきつかったよなぁ。俺は入院2回で済んだけど」

 そう言ったのは顔に大きな傷痕のある男。

「あれだろ? オークにぶん投げられて、粉砕骨折」
「俺は人狼を相手にした時、腹から腸を引き摺り出された時はさすがにもうダメかと思ったわ」
「あと遠征も地味にしんどいよな。馬車で2日、3日ならまだしも、1週間とか」
「足場の悪い雪山もあったよな」

 そんな事もあったよなー、と笑う金髪の男。
 剣士たちの昔話に花が咲くにつれ、どんどんとイアンの顔色が青ざめていく。

「今回の練習生は全部で20人だろ? 外部からくる奴も合わせて、入隊試験を受けるのは50人くらいか。まぁ、30人は受かると思うぜ」
「その……根拠は……?」

 聞かなくても答えはわかったが、聞かずにいられないイアン。

「減った駒は補充しねぇとな?」

 やっぱり、とイアンは絶句する。
 就職活動に失敗したからと、軽い気持ちで剣士の練習生になってみたものの、稽古の辛さに2ヶ月で嫌気がさした。そこからなんとか自分を騙し騙しここまで来たが、今は猛烈に後悔している。

「それで、そっちのガキは何の冗談だ?」

 筋肉隆々のスキンヘッドが、ウィルに視線を向けた。
 ウィルは馬車の窓からぼんやりと外を眺めたまま、返事をしない。隣に座っていたアイザックが、肘でウィルを小突いた。

「おい、クソガキ。指名されてんぞ」
「新人をビビらせて楽しんでるような奴らのことなんかほっとけ」
「おま……っ!」

 慌ててアイザックは両手でウィルの口を押さえ付ける。

「す、すみません! こいつ、礼儀とか常識を母親の胎内に忘れてきたみたいで!」
「ふぬーっ!」
「ちっ。今年の練習生にガキが紛れ込んでるって噂は聞いてはいたが、実地訓練までノコノコやってくるとはな」
「ガキのお守りなんかまっぴらゴメンだからな。せいぜい泣き出さないよう、あんたら練習生がおんぶでもしてやれよ」
「あ、あ、あの! でもこの子、一応根性があるっていうか、そこそこ強いんじゃないかなぁって、俺たち練習生の間では一目置いてるんですよ! な? アイザック!」
「はっ。口の悪さと素行の悪さと不遜な態度には一目置いて……で、でべぇっ! ぐびをじべるな!」

 押さえつけた口を放さないアイザックの首を、ウィルが締め上げる。

「ごちゃごちゃうるせぇなぁ!」

 アイザックの手を振り解き、ついでに首を絞めていた手も放す。

「年齢なんかどうでもいいじゃねぇか。要は魔物を殺すか殺されるか、それだけだろ」
「肝が座ってやがる」

 筋肉男がニヤリと笑う。

「お手並み拝見といこうじゃねぇか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 サナリア王国は、隣国のガルナズン帝国の使者からの通達により、国家滅亡の危機に陥る。 従属せよ。 これを拒否すれば、戦争である。 追い込まれたサナリアには、超大国との戦いには応じられない。 そこで、サナリアの王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るため。 サナリア王が下した決断は。 第一王子【フュン・メイダルフィア】を人質として送り出す事だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことなんて出来ないだろうと。 王が、帝国の人質として選んだのである。 しかし、この人質がきっかけで、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす。 伝説の英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

Lost Heaven

PN.平綾真理
SF
 『隔離世奈落』(かくりよならく)  身体を機械化した【機械人間】(サイボーグ)――……、薬や遺伝子操作で超人的な力を得た【強化人間】(ブーステッド)――……、身体の一部もしくは全身が異形化している【改造人間】(フリークス)――……。  それらが、跳梁跋扈する無秩序で無法者たちの楽園。  この地では公の法的機関などは一切存在せず、唯一の法は「弱肉強食」それのみである。

自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女

神谷モロ
ファンタジー
 主人公ルーシーは10歳の少女である。  彼女はなぜか自分を「呪いのドラゴンロード」の生まれ変わりと信じてやまない。  そんな彼女の日常と少しばかりの冒険のお話。 ※この作品は『カイルとシャルロットの冒険~ドラゴンと魔剣~』のエピローグから10年後のお話です。  どちらの作品も主人公が違うので時系列を追う必要はありませんが興味を持たれたらご一読お願いします。  カクヨムでも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...