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ままはる

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第三章

いざディアス侯爵別邸へ

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二週間、みっちりマナーを叩き込まれた二人は、ようやく当日を迎えた。

「馬子にも衣装じゃなぁ」

高らかに笑う剣士隊元帥と共に、迎えの馬車に乗ってディアス侯爵別邸へと向かう。

「リズ先輩、ハイヒール慣れたんですね」

「毎日これで過ごしたお陰で、走れるくらいにはなったわ。ウィルもスーツ、よく似合ってるよ」

「動きにくいし、蝶ネクタイも苦しいし、早く脱ぎたいですけど」

「……数時間の、我慢」

そう言ったゼンも、やはりスーツの着心地は悪そうで、何度も蝶ネクタイを調節し直していた。

「お前たちは今夜の夜会の見せ物だ。特にお主は、余計なことは喋らず、黙って私の隣におれば良い」

「……ホント、つまんねぇの」

元帥に釘を刺されたウィルは、唇を尖らせる。

ーー程なくして馬車は、海が望める高台の屋敷の前に止まった。

「別邸とは言え、さすが公爵家ね」

ゼンのエスコートで馬車から降りながら、リズが感嘆の声を漏らす。

剣士のグラウンド二つ分はありそうな広大な敷地。受付を過ぎて門を潜ると、立派な噴水が招待客を出迎えた。綺麗に剪定された植木たちは、キラキラと輝く電飾で彩られている。

「アーヴァイン元帥」

屋敷の中に入ってすぐ、横手から声が掛かった。
ウィルたちも足を止めてそちらを見る。

「お忙しい中ご足労いただき、ありがとうございます」

「ディアス侯爵。今夜はお招きいただき、誠に感謝致します」

(こいつが事の元凶か)

頭を下げる元帥の隣で、ウィルは内心で悪態をついた。
快活そうな初老であるが、やはり一見して気品を感じる男である。

「彼らが例の守護剣士殿たちかな?」

「お前たち、ご挨拶を」

「お初にお目にかかります。ゼン=ハーニアスと申します」

元帥に促され、ゼンが頭を下げる。

「魔剣士殿でしたね。剣術に長けておられるだけでなく、魔法にも精通しておられるとは、誠に感服いたします」

「……痛み入ります」

「初めまして、侯爵様。リズと申します」

セイルに何度も指導されたように、丁寧に片足を下げて礼を取るリズ。

「これはこれは、噂以上にお美しい剣士様ですなぁ。妖刀村雨の使い手でしたね?」

「はい」

「……ウィル=レイトです」

最後にウィルが前に出た。
侯爵は更に満面の笑顔を浮かべて、ウィルの手を取る。

「史上最年少の守護剣士殿! いやぁ、天晴れ! 素晴らしい才能をお持ちですな!」

「いえ……あー……」

「貴族の戯れに呼び出されて、さぞご不快な思いをされていることでしょう。どうしても三人揃った守護剣士殿にお会いしてみたくてね。年寄りの我儘と思って、今夜限りご容赦いただきたい」

終始笑顔を絶やさず、明朗な侯爵。
どんな気難しい貴族なのかと構えていたウィルは、少しだけ肩透かしを食らった気分である。

「どうか肩の力を抜いてお楽しみください。後ほど宜しければ、守護剣をご披露いただければ幸いです」

それでは、と元帥に一礼をして、侯爵は他の招待客の方へと向かって行った。

「なんか、めっちゃ感じのいいおっちゃんでしたね」

「ディアス侯爵は、優れたお人柄で人望も厚いことで有名なお方だ。加えて新しいもの、面白いものに目がない」

「ミーハーかよ」

「……もう口を閉じておれ」

その後もどこかの貴族、夫人、令息、令嬢が入れがわり立ち替わり、物見遊山でウィルたちに声を掛けて来た。会話の受け答えまで叩き込まれていたウィルは、ひたすら試験を突破する気持ちでそれに臨んでいた為、食事の席へと案内された時には既に疲労困憊。それでも挨拶攻撃が中断されたので、少しばかりほっとして、ようやく周りを見る余裕ができた。

豪華な衣装で上品に笑う貴族たち、優雅な音楽を奏でる学芸団、スマートに給仕を行うウェイターたちに、細かな気配りを見せるメイドたち。

(あれ?)

そのメイドの中に、ウィルは見覚えのある顔をみつけた。

(誰だっけ? 見た事あるはずなんだけど……)

ウィルがじっとそのメイドを見ていると、向こうも視線に気がついて、小さく微笑んで頭を下げた。

「ところでアーヴァイン元帥。元帥は、守護剣が実は他にも存在するという話をご存知ですか?」

食後のデザートが運ばれてくる中、ディアス侯爵が尋ねた。

「その噂は私も聞いた事がありますが……剣士隊に身を置いて五十年、この三本以外を目にしたことは御座いませんね」

「確か守護剣は、ティルア帝国より賜った宝剣だとか。ティルアにある可能性は?」

「さて……どうでしょう。可能性は低いとは思いますが、無いとも言い切れませんなぁ」

実際、元帥はキリーに尋ねたことがある。しかし当の本人も、知らないと答えたのである。

「では、守護剣には精霊が宿っているという話は?」

「はっはっはっ。侯爵様は守護剣の噂について本当にお詳しい」

ぎくりとしたウィルを気取られまいと、元帥は大きな声で笑う。

「私も精霊とやらに会えるのを楽しみにしておるのですが、なかなかどうして、姿を現してはくれません」

「ふむ……あくまで噂は噂でしかないということですか」

「所詮はただの剣に過ぎませんよ。しかし、何か面白い真実がわかり次第、すぐにお耳にお届けいたしましょう」

残念そうな侯爵に、元帥はすました顔でそう言った。
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