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第三章
合流
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「なんちゃら侯爵の別荘って、アレだろ?」
ディアス侯爵の別荘からやや離れた場所。
ラリィは遠目に見える豪邸を指差し、隣を歩くセイルに確認した。
セイルは煙草の煙を吐き出しながら頷いてみせる。
「今頃ウィルたち、美味いもん食ってんのかなぁ。いいなー」
「堅苦しい飯を食っても美味くないだろ」
「そうかぁ? 美味いもんは美味いよ」
「それよりも、どこに行く気だ。食堂じゃなかったのか?」
夕食時、ラリィが一緒に飯を食おうと誘いにきたので、寮を出てきたセイル。しかしラリィは寮の食堂には向かわず、繁華街の方へ向かっていた。
「この間、めっちゃ美味いラーメン屋見つけたんだよ! 餃子食いながらビール飲んでぇ、からのラーメン!」
「……何でもいい。腹減った」
「じゃあこっちの道! 丸猫飯店っていうーー」
そう言いかけた時、ディアス侯爵別荘の方で何かが光るのが見えて、二人は立ち止まった。
「何だぁ? 花火でもやってんのか?」
「いや、何か変だ」
金色の光に包まれた屋敷が、やがて闇色に染まっていく。パフォーマンスにしては不気味である。
「っ!」
「おい、ラリィ!」
突然何かを思い出したように、屋敷に向かって走り出すラリィ。一瞬迷って、セイルもその後を追った。
「なんかわかんねーけど……ヤバそうじゃね?」
門は開いていて、こちらに向かって何かを叫んでいる様子の人間たちがいる。だがその声は、まるでこの闇の幕に遮られているかのようで、届いてこない。
「ゼン!」
人だかりの向こうにゼンの姿が見えた。魔物らしきものと対峙しているように見える。
「どうなってるんだよ、これ! なんで中に入れねーの!? あれ、魔物だよな!?」
「……他の入り口を探すか」
二人は屋敷の外を、高い塀に沿ってぐるりと周る。
「閉じ込められてんのかな? ゼンもいたし、ウィルやリズも中だよな? ってか、ダメだ! 早く助けに行かないと……!」
「方法がわからん。武器もない。どうするつもりだ」
「そんな事はわかってるけどーー」
次の瞬間、すぐ近くの屋敷の塀が、突然爆発した。
「うぉ!? っっくりしたぁ!」
「その声は、お猿くんではないかな?」
塀の向こう側から、聞き覚えのある声がした。
「シュイか!?」
「ご名答。少し離れていたまえ」
シュイは魔法式を口の中で唱え、高らかに片手を天に、片手を顔の前に置いて顔を斜め四十五度に傾ける!
「【阿修羅の如き天地の怒り】!」
魔法というものは、トリガーとなる術者の声が必要なのであって、その言葉は何でも良いのである。
そして再度爆発が起きて、塀がガラガラと崩れ落ちた。
「ようやく防壁の弱いところを見つけたよ」
「中で何が起きている?」
人ひとりがようやく通れるほどの穴。そこから中を覗きながら、シュイに尋ねるセイル。
「合成獣で溢れかえっている。何故このようなことになっているのかは、僕の預かり知らぬ事だ」
「合成獣って……魔物だよな? みんなは無事なのか!?」
「さて。僕は出口を探せと言われただけだからね」
「っ!」
ラリィは塀の隙間に身体を捩じ込むと、屋敷の敷地内へと走って行った。
「馬鹿が……武器も持たずに何ができる」
煙草を携帯灰皿に押し付けてから、セイルも中に入った。
「俺が避難誘導をする。お前はゼンのところへ戻れ」
「僕に命じていいのはゼンだけだよ」
ニコリと笑ってから、シュイはその場から姿を消してゼンの紋章へと戻って行った。
「くっそ……! 飛び道具は卑怯だろ!」
全身を針に覆われた狼は、その鋭利で大きな針を、ウィルに向かって飛ばしながら襲いかかってくる。
ウィルはその針を交わすことで精一杯で、反撃が出来ずにいた。
狼が地面を蹴る。
それを迎え討とうと剣を構えるが、やはり無数の針が飛んできて、身体を捩って避けた。
「あー、イライラする! 正々堂々向かって来いよ!」
その時、近くの植え込みが揺れた。
狼の注意がそちらに向く。
「っ! なんでそんなところに……!」
メイドだ。
おそらくそこにじっと隠れていたのだろうが、恐怖のあまり物音を立ててしまった。
狼がメイドに向かって針を飛ばすのと、ウィルが駆け寄ったのは、ほぼ同時。
「つっ!」
メイドの手を引いて、屋敷の中に逃げ込んだ。
「あ……あ……ご、ごめんなさ……」
ウィルの左肩に、数本の針が深く突き刺さっている。
ウィルは適当な部屋の中に駆け込むと、狼が追ってきていないことを確認してから、その針を抜き捨てた。
「いってぇなぁ、クソが。絶対にぶっ殺す」
それからようやくメイドの方を見た。
「怪我してねぇか?」
「は……はい」
(あれ、この女……)
ウィルが、見覚えがあると思って探していたメイドである。
くりくりとした大きな目に、小柄な身長ーー
「……あ! フリフリリボン!」
地味なメイド服だったからわからなかったが、思い出した。以前写真を見せて貰ったことがある、ラリィの彼女だ。
「あー、スッキリした! そうだそうだ、チェリちゃんだろ?」
「はい。あ、あの……ラリィ君から、ウィル君の話は聞いています。助けてくれて、ありがとうございました」
チェリはウィルの肩の傷を申し訳なさそうに見る。
「毒はなさそうだし、大丈夫。てかあんた、ここのメイドやってんの?」
「アルバイトで……」
「いいね、メイドのバイト。萌えるわ」
ウィルの砕けた物言いに、チェリの緊張が解けて笑顔が見える。
「ひとまずこの部屋に隠れてな。終わったら迎えに来てやるから」
不安そうに頷くチェリ。その頭にウィルはそっと手を置いた。
「あんた、そっちの服の方が可愛いよ」
「え……?」
じゃ、とウィルは手を振って部屋から出て行った。
閉じた扉をチェリは見つめながら、ウィルが触れた頭に、そっと指先を乗せる。
「ウィル君……」
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