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第四章
空洞の獣
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「ラリィ先輩。なんでリズ先輩置いて来たんですか? なんか、意地悪してるみたいで感じ悪いですよ」
樹海の中を移動しながら、ウィルがラリィに尋ねた。
ラリィは頭を掻きながら、言葉を選ぶ。
「だってさぁ……なんか、アレだよ。こう……何て言えばいいのかなぁ? 上手く言えないんだけど……」
「海斗とくっつけたいとか?」
「違う違う! それは全然違う! リズは嫁にはやらねーよ!」
「はぁ……?」
ラリィの中でのリズの立ち位置がよくわからず、ウィルは曖昧に頷いてからセイルを振り返った。
「セイル先輩は?」
「あんな顔してたら、面倒臭いだろ」
「あんな顔って?」
ウィルにはいつもと変わらないように見えたが、ラリィはそれそれ! と大きく頷く。
「女の顔」
「それ! オレが言いたいのもそれだ!」
「……リズは女だと思っていたが……?」
ゼンも意味がわからず、首を傾げる。
「いつものリズは可愛いんだけどカッコいいって言うか、ちゃんと芯があって、魔物なんか余裕で倒しちゃうだろうなって安心感があるんだよ」
「今は失恋したただの女だ」
「あんな感じで剣持たせたら危ねーな、って思って」
「なるほど……?」
意味がわかるような、わからないような、微妙なゼン。
「俺が言うのも、説得力がないかもしれないが……二人とも、言葉が足りなかったと、思う」
「ですよね。リズ先輩、可哀想でしたもん。傷付いてるかも」
セイルとラリィは、気まずそうに視線を彷徨わせた。
「今頃、海斗が慰めてるかもな……」
「だったら昨日の賭け、俺たちの勝ちですね」
「やめろよ。リズはそんなーー」
ラリィが何かを言いかけた時、近くの茂みが揺れた。
反射的に身構える四人。
しかし現れたのはーー
「キュゥ……」
金と黒の毛並みをした獣。それも手のひらに乗るサイズで、子猫のようなおぼつかない足でよちよちと歩いている。
「何だこれ? ネコ?」
「ネコ……とは違うようだが……」
「野生動物ですか?」
「いや……」
セイルは獣の顔をよく見た。長い毛で覆われた顔には、大きな目が一つだけしかない。
「魔物だろう」
鞘から剣を抜くセイル。
「魔物ったって、赤ちゃんじゃねーの?」
「お前は今まで、魔物の赤子を見た事があるのか」
魔物がどこでどうやって繁殖しているのかは、誰も知らない。ただ卵や赤子は発見されたことがないことから、そのままの姿で、どこからか湧いて来ているのだろうと言われている。
「ちょっと可愛いんだけどなぁ。殺す?」
「当然だ」
セイルが剣を振り上げた時、獣の独眼が薄暗い光を帯びた。かと思えば獣は低い唸り声を上げ、体が一回り大きくなる。
「セイル、待て……!」
ゼンの制止と、セイルの剣が獣の独眼を貫いたのは同時だった。
だが。
「なんだ……!?」
獣の目だと思っていた場所は、空洞だった。ぽっかりと空いた穴に刺さった剣は、強い力で穴に引き摺り込まれる。とても柄を握っていられず手を離すと、剣はすっぽりと穴の中に消えていった。
「は……? こいつ、剣を飲んだ……?」
ウィルは獣から一歩退がる。
「その魔物……弥月のものだと思う……」
獣の体が大きくなった時に、弥月の魔力に似た力を感じた。
「ってことは、なんか厄介な魔物ってことか……?」
ラリィも鞘から剣を抜き、構える。
獣は四人を観察するように、じっとその空洞を彼らに向けている。
そしてまた、光を発したと思えば体が大きくなった。
「これ、どこまで大きくなるんですかね……?」
「まずいな……」
大型犬ほどの大きさになった獣に、ゼンは魔法を放つ。
「【hyou】」
鋭利な氷柱が、獣に降り注ぐ。
しかしその全てを、顔の穴で受け止め飲み込んでしまった。
「ブラックホールだな……」
「斬る!」
巨大な守護剣ヴァルキリーで背後から斬りかかるウィル。
獣はくるりと回転し、剣の切先を飲み込もうと前のめりにウィルに向かってきた。
「気持ち悪ぃ奴だな! これって守護剣飲まれたらどうなんの!?」
「試したくもない……」
下手な斬撃は繰り出せない。
「とにかくその穴に触れなきゃいいんだろ? 挟み撃ちすれば……」
ウィルに気を取られている獣の背後を狙うラリィ。
そして剣を振り下ろそうとした時、獣の咆哮と共に黒い火花を纏った雷撃が現れ、ラリィの鼻先を掠った。
「何だよコイツ!」
雷撃はランダムに落ちてくる。避けるのに精一杯で、攻撃を仕掛ける余裕がない。
そうしているうちにも獣は成長を続け、大人の獅子や虎ほどの大きさになった。
「どこまで大きくなるんだよ……」
獣が唸る。
しかしそれはウィルたちへの敵意や警戒の声とは、少し違うような気がした。
「ガアァァア!」
頭を振り乱し吠える。黒い雷が落ちて、地面に穴を開けていく。
「苦しそうだな」
剣を失ったセイルは、代わりの短剣を握りそう呟いた。
悲鳴のような咆哮。助けて欲しいと叫びながら、ウィルの剣を躱し、手足の長い爪で襲いかかった。
「ラリィ先輩。なんでリズ先輩置いて来たんですか? なんか、意地悪してるみたいで感じ悪いですよ」
樹海の中を移動しながら、ウィルがラリィに尋ねた。
ラリィは頭を掻きながら、言葉を選ぶ。
「だってさぁ……なんか、アレだよ。こう……何て言えばいいのかなぁ? 上手く言えないんだけど……」
「海斗とくっつけたいとか?」
「違う違う! それは全然違う! リズは嫁にはやらねーよ!」
「はぁ……?」
ラリィの中でのリズの立ち位置がよくわからず、ウィルは曖昧に頷いてからセイルを振り返った。
「セイル先輩は?」
「あんな顔してたら、面倒臭いだろ」
「あんな顔って?」
ウィルにはいつもと変わらないように見えたが、ラリィはそれそれ! と大きく頷く。
「女の顔」
「それ! オレが言いたいのもそれだ!」
「……リズは女だと思っていたが……?」
ゼンも意味がわからず、首を傾げる。
「いつものリズは可愛いんだけどカッコいいって言うか、ちゃんと芯があって、魔物なんか余裕で倒しちゃうだろうなって安心感があるんだよ」
「今は失恋したただの女だ」
「あんな感じで剣持たせたら危ねーな、って思って」
「なるほど……?」
意味がわかるような、わからないような、微妙なゼン。
「俺が言うのも、説得力がないかもしれないが……二人とも、言葉が足りなかったと、思う」
「ですよね。リズ先輩、可哀想でしたもん。傷付いてるかも」
セイルとラリィは、気まずそうに視線を彷徨わせた。
「今頃、海斗が慰めてるかもな……」
「だったら昨日の賭け、俺たちの勝ちですね」
「やめろよ。リズはそんなーー」
ラリィが何かを言いかけた時、近くの茂みが揺れた。
反射的に身構える四人。
しかし現れたのはーー
「キュゥ……」
金と黒の毛並みをした獣。それも手のひらに乗るサイズで、子猫のようなおぼつかない足でよちよちと歩いている。
「何だこれ? ネコ?」
「ネコ……とは違うようだが……」
「野生動物ですか?」
「いや……」
セイルは獣の顔をよく見た。長い毛で覆われた顔には、大きな目が一つだけしかない。
「魔物だろう」
鞘から剣を抜くセイル。
「魔物ったって、赤ちゃんじゃねーの?」
「お前は今まで、魔物の赤子を見た事があるのか」
魔物がどこでどうやって繁殖しているのかは、誰も知らない。ただ卵や赤子は発見されたことがないことから、そのままの姿で、どこからか湧いて来ているのだろうと言われている。
「ちょっと可愛いんだけどなぁ。殺す?」
「当然だ」
セイルが剣を振り上げた時、獣の独眼が薄暗い光を帯びた。かと思えば獣は低い唸り声を上げ、体が一回り大きくなる。
「セイル、待て……!」
ゼンの制止と、セイルの剣が獣の独眼を貫いたのは同時だった。
だが。
「なんだ……!?」
獣の目だと思っていた場所は、空洞だった。ぽっかりと空いた穴に刺さった剣は、強い力で穴に引き摺り込まれる。とても柄を握っていられず手を離すと、剣はすっぽりと穴の中に消えていった。
「は……? こいつ、剣を飲んだ……?」
ウィルは獣から一歩退がる。
「その魔物……弥月のものだと思う……」
獣の体が大きくなった時に、弥月の魔力に似た力を感じた。
「ってことは、なんか厄介な魔物ってことか……?」
ラリィも鞘から剣を抜き、構える。
獣は四人を観察するように、じっとその空洞を彼らに向けている。
そしてまた、光を発したと思えば体が大きくなった。
「これ、どこまで大きくなるんですかね……?」
「まずいな……」
大型犬ほどの大きさになった獣に、ゼンは魔法を放つ。
「【hyou】」
鋭利な氷柱が、獣に降り注ぐ。
しかしその全てを、顔の穴で受け止め飲み込んでしまった。
「ブラックホールだな……」
「斬る!」
巨大な守護剣ヴァルキリーで背後から斬りかかるウィル。
獣はくるりと回転し、剣の切先を飲み込もうと前のめりにウィルに向かってきた。
「気持ち悪ぃ奴だな! これって守護剣飲まれたらどうなんの!?」
「試したくもない……」
下手な斬撃は繰り出せない。
「とにかくその穴に触れなきゃいいんだろ? 挟み撃ちすれば……」
ウィルに気を取られている獣の背後を狙うラリィ。
そして剣を振り下ろそうとした時、獣の咆哮と共に黒い火花を纏った雷撃が現れ、ラリィの鼻先を掠った。
「何だよコイツ!」
雷撃はランダムに落ちてくる。避けるのに精一杯で、攻撃を仕掛ける余裕がない。
そうしているうちにも獣は成長を続け、大人の獅子や虎ほどの大きさになった。
「どこまで大きくなるんだよ……」
獣が唸る。
しかしそれはウィルたちへの敵意や警戒の声とは、少し違うような気がした。
「ガアァァア!」
頭を振り乱し吠える。黒い雷が落ちて、地面に穴を開けていく。
「苦しそうだな」
剣を失ったセイルは、代わりの短剣を握りそう呟いた。
悲鳴のような咆哮。助けて欲しいと叫びながら、ウィルの剣を躱し、手足の長い爪で襲いかかった。
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