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ままはる

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第四章

空洞の獣

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⭐︎

「ラリィ先輩。なんでリズ先輩置いて来たんですか? なんか、意地悪してるみたいで感じ悪いですよ」

樹海の中を移動しながら、ウィルがラリィに尋ねた。
ラリィは頭を掻きながら、言葉を選ぶ。

「だってさぁ……なんか、アレだよ。こう……何て言えばいいのかなぁ? 上手く言えないんだけど……」

「海斗とくっつけたいとか?」

「違う違う! それは全然違う! リズは嫁にはやらねーよ!」

「はぁ……?」

ラリィの中でのリズの立ち位置がよくわからず、ウィルは曖昧に頷いてからセイルを振り返った。

「セイル先輩は?」

「あんな顔してたら、面倒臭いだろ」

「あんな顔って?」

ウィルにはいつもと変わらないように見えたが、ラリィはそれそれ! と大きく頷く。

「女の顔」

「それ! オレが言いたいのもそれだ!」

「……リズは女だと思っていたが……?」

ゼンも意味がわからず、首を傾げる。

「いつものリズは可愛いんだけどカッコいいって言うか、ちゃんと芯があって、魔物なんか余裕で倒しちゃうだろうなって安心感があるんだよ」

「今は失恋したただの女だ」

「あんな感じで剣持たせたら危ねーな、って思って」

「なるほど……?」

意味がわかるような、わからないような、微妙なゼン。

「俺が言うのも、説得力がないかもしれないが……二人とも、言葉が足りなかったと、思う」

「ですよね。リズ先輩、可哀想でしたもん。傷付いてるかも」

セイルとラリィは、気まずそうに視線を彷徨わせた。

「今頃、海斗が慰めてるかもな……」

「だったら昨日の賭け、俺たちの勝ちですね」

「やめろよ。リズはそんなーー」

ラリィが何かを言いかけた時、近くの茂みが揺れた。
反射的に身構える四人。
しかし現れたのはーー

「キュゥ……」

金と黒の毛並みをした獣。それも手のひらに乗るサイズで、子猫のようなおぼつかない足でよちよちと歩いている。

「何だこれ? ネコ?」

「ネコ……とは違うようだが……」

「野生動物ですか?」

「いや……」

セイルは獣の顔をよく見た。長い毛で覆われた顔には、大きな目が一つだけしかない。

「魔物だろう」

鞘から剣を抜くセイル。

「魔物ったって、赤ちゃんじゃねーの?」

「お前は今まで、魔物の赤子を見た事があるのか」

魔物がどこでどうやって繁殖しているのかは、誰も知らない。ただ卵や赤子は発見されたことがないことから、そのままの姿で、どこからか湧いて来ているのだろうと言われている。

「ちょっと可愛いんだけどなぁ。殺す?」

「当然だ」

セイルが剣を振り上げた時、獣の独眼が薄暗い光を帯びた。かと思えば獣は低い唸り声を上げ、体が一回り大きくなる。

「セイル、待て……!」

ゼンの制止と、セイルの剣が獣の独眼を貫いたのは同時だった。
だが。

「なんだ……!?」

獣の目だと思っていた場所は、空洞だった。ぽっかりと空いた穴に刺さった剣は、強い力で穴に引き摺り込まれる。とても柄を握っていられず手を離すと、剣はすっぽりと穴の中に消えていった。

「は……? こいつ、剣を飲んだ……?」

ウィルは獣から一歩退がる。

「その魔物……弥月みづきのものだと思う……」

獣の体が大きくなった時に、弥月の魔力に似た力を感じた。

「ってことは、なんか厄介な魔物ってことか……?」

ラリィも鞘から剣を抜き、構える。
獣は四人を観察するように、じっとその空洞を彼らに向けている。
そしてまた、光を発したと思えば体が大きくなった。

「これ、どこまで大きくなるんですかね……?」

「まずいな……」

大型犬ほどの大きさになった獣に、ゼンは魔法を放つ。

「【hyou】」

鋭利な氷柱が、獣に降り注ぐ。
しかしその全てを、顔の穴で受け止め飲み込んでしまった。

「ブラックホールだな……」

「斬る!」

巨大な守護剣ヴァルキリーで背後から斬りかかるウィル。
獣はくるりと回転し、剣の切先を飲み込もうと前のめりにウィルに向かってきた。

「気持ち悪ぃ奴だな! これって守護剣飲まれたらどうなんの!?」

「試したくもない……」

下手な斬撃は繰り出せない。

「とにかくその穴に触れなきゃいいんだろ? 挟み撃ちすれば……」

ウィルに気を取られている獣の背後を狙うラリィ。
そして剣を振り下ろそうとした時、獣の咆哮と共に黒い火花を纏った雷撃が現れ、ラリィの鼻先を掠った。

「何だよコイツ!」

雷撃はランダムに落ちてくる。避けるのに精一杯で、攻撃を仕掛ける余裕がない。
そうしているうちにも獣は成長を続け、大人の獅子や虎ほどの大きさになった。

「どこまで大きくなるんだよ……」

獣が唸る。
しかしそれはウィルたちへの敵意や警戒の声とは、少し違うような気がした。

「ガアァァア!」

頭を振り乱し吠える。黒い雷が落ちて、地面に穴を開けていく。

「苦しそうだな」

剣を失ったセイルは、代わりの短剣を握りそう呟いた。
悲鳴のような咆哮。助けて欲しいと叫びながら、ウィルの剣を躱し、手足の長い爪で襲いかかった。
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