I'll

ままはる

文字の大きさ
49 / 107
第五章

眠る時に

しおりを挟む
「えっと……おやすみ、なさい」

「……おやすみ」

一方、フォトを寝かしつけに部屋を移動したゼン。
ランプの明かりを消そうとして、ふとその手を止めた。

「明かり……あった方がいいか?」

フォトが小さく頷くのを見ると、明かりは消さずに少し小さくした。
ほっとして、フォトはベッドの布団に入る。そして頭まで布団を被ると、体を丸めた。
ゼンはもう一台あるベッドに腰掛け、それをじっと見つめる。

「……苦しくないか」

「……うん」

「そうか」

サイドボードの上の置き時計。その秒針が動く音だけが、部屋の中に響く。

(俺は……ランク家ではどうだった……?)

引き取られてすぐ、どうやって眠っていたかを思い出す。

確か自分も、ああやって頭まで布団を被り、丸まって寝ていた気がする。
寝ている時に、突然殴られないように。恐怖から自分自身を守るように。

しかしあの家には、同い年のセイルと、三歳年上のクリストファーという兄がいた。いつの間にかセイルとクリスが部屋に遊びに来るようになって、狭いベッドで三人で寝るようになった。そうしているうちに、眠ることが怖くなくなっていた。

(俺には、あの家の人たちがいた。この子には……)

ゼンは立ち上がって、フォトのベッドの脇に腰を下ろした。そして布団の中に手を入れて、フォトの小さな手を握る。
びくっとフォトの体が大きく揺れた。

「……リズは、どうやって寝かしつけてくれた?」

「あ……えと……お話。色んなお話、聞かせてくれた。昔話とか、お姫様のお話とか……」

「そうか……」

それは自分には真似出来なさそうだと考える。

「あの、ね。ラリィくんが、お歌を歌ってくれたことも、あるよ。すごく、上手」

「ああ……」

ラリィは酔ったらよく歌うので、上手なのは知っている。しかしそれも、自分には真似できない。
さて困ったと、ゼンが天井を見上げた時、フォトの手がぎゅっとゼンの手を握り返した。

「お兄……ちゃんは……手を、繋いでくれる」

じんわりと温かくて、大きな手。

「嬉しい」

「……」

ゼンは言葉が出なくて、手を握ったまま、布団の小さな膨らみをじっと見詰めた。

そのうち規則正しいフォトの寝息が聞こえてきて、布団をそっと捲る。息苦しくないように、顔だけ出してあげた。

(俺にも、あの人の血が流れていてーー)

起こさないようにそっと手を離し、その手でフォトの頬に触れてみた。

(だから、もしかしたら俺も、あの人たちみたいな事をするのかも……しれない)

幼い頃、何度謝っても両親が振り返ってはくれなかったのと同じように、きっと夫妻が泣いてゼンに謝ったとしても、心は動かないと思う。それほどまでに、彼らに対しての興味も感情も無い。
だからフォトは、自分と居てはいけないと思う。
理由も無く存在を否定されてきた自分が、同じ境遇の妹を育てられるはずがない。
この子にはまだ笑顔がある。その笑顔を守ってくれる人に、育ててもらうべきなのだ。

⭐︎

「花畑っつーか、毒蟲畑ですね」

「ロマンチックの欠片もないわね」

ハルトブルグの住宅街を離れたところに、畑があった。
この街が花の都と呼ばれる根幹には、恵まれた気候と豊かな水源と土地がバランス良く揃っていることがある。中でも土が良い。そして良い土には虫が住み、その肥えた虫を好む魔物もいる。それが毒蟲。体長10センチから30センチまでの、毒を持った棘が身体中にある毛虫のような魔物である。

「畑を放置するからこんなことになるのよ」

リズは足元に蠢く毒蟲たちを刀で突きながらぼやいた。
この畑の所有者が中途半端に手入れを放棄したが為に、虫が繁殖し毒蟲が発生した。そこですぐに駆除していれば良かったものを、それすらも放置し、今や夥しいほどの数に増えている。毒蟲を好む魔物、蟲喰鳥が集まるのも無理は無い。

「うげぇ……きもっ。くっせぇし、ゲロ吐きそう」

「スライムの方がまだマシだわ」

「もうこの畑、毒のせいでしばらく使えないですね」

ウィルも剣で蟲を潰して行く。大剣で地面に這う蟲を斬るのは、意外と骨の折れる作業である。

「これで蟲喰鳥に人が襲われたとしたら、誰が責任を取るんですか?」

「畑の所有者でしょうね」

「ですよねー」

剣士隊は基本的には国の税金で運営されているが、こういうパターンは個人に払わせるべきだとウィルは思う。

「それにしても……」

リズは手を止めて空を見上げた。視界を遮るものはなく、遠くまで空が広がっている。

「いないわね、蟲喰鳥」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 サナリア王国は、隣国のガルナズン帝国の使者からの通達により、国家滅亡の危機に陥る。 従属せよ。 これを拒否すれば、戦争である。 追い込まれたサナリアには、超大国との戦いには応じられない。 そこで、サナリアの王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るため。 サナリア王が下した決断は。 第一王子【フュン・メイダルフィア】を人質として送り出す事だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことなんて出来ないだろうと。 王が、帝国の人質として選んだのである。 しかし、この人質がきっかけで、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす。 伝説の英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

Lost Heaven

PN.平綾真理
SF
 『隔離世奈落』(かくりよならく)  身体を機械化した【機械人間】(サイボーグ)――……、薬や遺伝子操作で超人的な力を得た【強化人間】(ブーステッド)――……、身体の一部もしくは全身が異形化している【改造人間】(フリークス)――……。  それらが、跳梁跋扈する無秩序で無法者たちの楽園。  この地では公の法的機関などは一切存在せず、唯一の法は「弱肉強食」それのみである。

自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女

神谷モロ
ファンタジー
 主人公ルーシーは10歳の少女である。  彼女はなぜか自分を「呪いのドラゴンロード」の生まれ変わりと信じてやまない。  そんな彼女の日常と少しばかりの冒険のお話。 ※この作品は『カイルとシャルロットの冒険~ドラゴンと魔剣~』のエピローグから10年後のお話です。  どちらの作品も主人公が違うので時系列を追う必要はありませんが興味を持たれたらご一読お願いします。  カクヨムでも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...