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第六章
女子会
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「あははは! ゼン君、可愛いところあるのね」
リズにあてがわれた寝室で、さっきの出来事を聞いたキリーはお腹を抱えて笑い声を上げた。
「女だって意識されるのもなんだかね……」
部屋着に着替えたリズ。部屋にはシルクのパジャマが用意されていたが、着慣れないものなのでやめておいた。ちなみに侯爵からは、入浴後にマッサージやエステも勧められたが、それも遠慮した。そこまで良くしてもらう謂れはない。
「そんなの、女の子だって意識しない方が無理じゃない? 入浴中に入ってくるウィルは論外だけど、意識しなさすぎるセイル君やラリィ君が変なのよ。ねぇ、村雨?」
「私にはよくわからない」
部屋の中にいるのは、リズ、キリー、村雨の3人。地方へ遠征に行った時は、時々こうやって女だけで集まって女子会を開いているのである。
「リズちゃんはもうちょっと、自覚を持った方がいいと思うよ。可愛いんだから」
「私に可愛いなんて言ってくれるのはキリーだけよ」
「何言ってるの? 嫌味?」
「本当に」
リズは周囲の人たちから見た目を揶揄され、疎外されて育ってきた為、自己肯定感が極端に低い。人の美醜についてもよくわからない。
「一班の人たちは別として、男の子にモテてるじゃない?」
「モテてるわけじゃないと思う。あの人たちは下心しかないもの」
「そ……そう言われると……」
不倫上等の上司を始め、剣士隊には力でリズを手籠にしようとする男ばかり。グラウンドにリズを観に来る男は、ロクに会話をしたこともないような人たち。モテているというよりも、オスの檻に放り込まれたメスの気分でしかない。
「あなたのご主人様、このままじゃマトモな恋愛できないよ」
「殿方など、リズ様には必要無い。剣があれば生きていける」
「恋バナをするメンツじゃないわねー……」
堅苦しい村雨の返答に、キリーは天井を仰いだ。
「……リズ様。時折このように我々を封印から解放してくださいますが、私にはそのような心配りは不要です。主のお役に立つことが私の使命。駒のように扱っていただいて構いません」
「迷惑だった?」
「い、いえ! 迷惑などとは……」
「じゃあ、たまにはこうして話し相手になってよ。私、友達いないんだし」
「はあ……」
リズは頻繁に、村雨を封印から解放する。武器が不必要であれば、休みの日はほとんどである。解放したからと言って何かをするわけではなく、気が向けば会話をするし、ふらりと街に出ることもある。村雨だけでどこかへ行っておいでと言われることも。こんな主は初めてで、村雨は未だに慣れていない。
「ウィルもよく解放してくれるよ。封印されたままだと退屈だろうからって。お互い優しいご主人様で良かったよね」
「……しかし……」
村雨は困り顔で口を閉ざす。キリーは外でなんだか楽しそうだが、村雨は特にやりたいことはなく、いつも手持ち無沙汰になってしまうのだ。
「ねぇ、あなたたち守護剣の精霊って、3人だけよね?」
キリー、村雨、シュイ=メイ。グリーンヒル専属剣士隊が所有する守護剣は3本である。
「元帥のおじーちゃんにも聞かれたことがあるけど、本当のところはわかんないのよ。だって、私自身が私のことをよく分かっていないんだもの」
ね? と村雨に同意を求めるキリー。
「私は守護剣の精霊としてイシュタリアに仕えて100年余り、他の守護剣を見たことは御座いません」
「イシュタリアに仕える前は?」
「前……」
村雨は遠い昔の記憶を辿る。しかし1番古い記憶でも、村雨は既にイシュタリアにいた。何故いたかと言われても、そんな昔のことは思い出せない。
「私も、私が何者なのかよくわかっておりません。ただ漠然と刀と共に在り、刀の持ち主を選んでいるだけで……」
そう言いながら、何故自分は主を選んでいるのだろうかと疑問が浮かんだ。誰かにそうするように言われたような気もするが、それは誰だっただろうか。
「それにしても、何故今更そのようなことを?」
「あぁ……うん。今日、侯爵が幽霊の話をされていたから……」
「幽霊、ですか?」
「ここの山、時々男の唸り声がするんだって。何処かに槍が落ちていて、その槍に取り憑いた亡霊じゃないか、って……」
「やだ、何それ。怖い!」
そう言いながらも、キリーは面白そうだと表情をキラキラさせている。
「幽霊だって思うと気味が悪いけど、実は守護剣が落ちていて、男の声は精霊だと思うと怖くないじゃない?」
「リズちゃん、幽霊怖いの?」
「幽霊って実在するのよ。見たことあるもの」
実際は、子供の頃リズ(由利)に構って欲しかった海斗が、シーツを被って脅かしただけなのであるが、リズがこの真相を知ることは無い。
「ご希望とあらば、今から探して参りましょうか? 真相を知ればリズ様も安心して休めるでしょう」
「あ、大丈夫! そこまでしなくていいよ」
「けれど……」
「じゃあ今度、シュイと顔を合わせた時に聞いてみるね。私、あの人苦手であんまり喋ったこと無いんだよねー」
シュイが苦手だというキリーに、リズと村雨も同意である。マイペース過ぎて話が噛み合わず、掴みどころが無さすぎるのだ。
「ってなわけで、やっぱり恋バナしようよ! 村雨は誰がタイプ? ウィルって答えてもいいよ!」
「そなたともシュイ殿と同様に会話が噛み合わない……!」
リズにあてがわれた寝室で、さっきの出来事を聞いたキリーはお腹を抱えて笑い声を上げた。
「女だって意識されるのもなんだかね……」
部屋着に着替えたリズ。部屋にはシルクのパジャマが用意されていたが、着慣れないものなのでやめておいた。ちなみに侯爵からは、入浴後にマッサージやエステも勧められたが、それも遠慮した。そこまで良くしてもらう謂れはない。
「そんなの、女の子だって意識しない方が無理じゃない? 入浴中に入ってくるウィルは論外だけど、意識しなさすぎるセイル君やラリィ君が変なのよ。ねぇ、村雨?」
「私にはよくわからない」
部屋の中にいるのは、リズ、キリー、村雨の3人。地方へ遠征に行った時は、時々こうやって女だけで集まって女子会を開いているのである。
「リズちゃんはもうちょっと、自覚を持った方がいいと思うよ。可愛いんだから」
「私に可愛いなんて言ってくれるのはキリーだけよ」
「何言ってるの? 嫌味?」
「本当に」
リズは周囲の人たちから見た目を揶揄され、疎外されて育ってきた為、自己肯定感が極端に低い。人の美醜についてもよくわからない。
「一班の人たちは別として、男の子にモテてるじゃない?」
「モテてるわけじゃないと思う。あの人たちは下心しかないもの」
「そ……そう言われると……」
不倫上等の上司を始め、剣士隊には力でリズを手籠にしようとする男ばかり。グラウンドにリズを観に来る男は、ロクに会話をしたこともないような人たち。モテているというよりも、オスの檻に放り込まれたメスの気分でしかない。
「あなたのご主人様、このままじゃマトモな恋愛できないよ」
「殿方など、リズ様には必要無い。剣があれば生きていける」
「恋バナをするメンツじゃないわねー……」
堅苦しい村雨の返答に、キリーは天井を仰いだ。
「……リズ様。時折このように我々を封印から解放してくださいますが、私にはそのような心配りは不要です。主のお役に立つことが私の使命。駒のように扱っていただいて構いません」
「迷惑だった?」
「い、いえ! 迷惑などとは……」
「じゃあ、たまにはこうして話し相手になってよ。私、友達いないんだし」
「はあ……」
リズは頻繁に、村雨を封印から解放する。武器が不必要であれば、休みの日はほとんどである。解放したからと言って何かをするわけではなく、気が向けば会話をするし、ふらりと街に出ることもある。村雨だけでどこかへ行っておいでと言われることも。こんな主は初めてで、村雨は未だに慣れていない。
「ウィルもよく解放してくれるよ。封印されたままだと退屈だろうからって。お互い優しいご主人様で良かったよね」
「……しかし……」
村雨は困り顔で口を閉ざす。キリーは外でなんだか楽しそうだが、村雨は特にやりたいことはなく、いつも手持ち無沙汰になってしまうのだ。
「ねぇ、あなたたち守護剣の精霊って、3人だけよね?」
キリー、村雨、シュイ=メイ。グリーンヒル専属剣士隊が所有する守護剣は3本である。
「元帥のおじーちゃんにも聞かれたことがあるけど、本当のところはわかんないのよ。だって、私自身が私のことをよく分かっていないんだもの」
ね? と村雨に同意を求めるキリー。
「私は守護剣の精霊としてイシュタリアに仕えて100年余り、他の守護剣を見たことは御座いません」
「イシュタリアに仕える前は?」
「前……」
村雨は遠い昔の記憶を辿る。しかし1番古い記憶でも、村雨は既にイシュタリアにいた。何故いたかと言われても、そんな昔のことは思い出せない。
「私も、私が何者なのかよくわかっておりません。ただ漠然と刀と共に在り、刀の持ち主を選んでいるだけで……」
そう言いながら、何故自分は主を選んでいるのだろうかと疑問が浮かんだ。誰かにそうするように言われたような気もするが、それは誰だっただろうか。
「それにしても、何故今更そのようなことを?」
「あぁ……うん。今日、侯爵が幽霊の話をされていたから……」
「幽霊、ですか?」
「ここの山、時々男の唸り声がするんだって。何処かに槍が落ちていて、その槍に取り憑いた亡霊じゃないか、って……」
「やだ、何それ。怖い!」
そう言いながらも、キリーは面白そうだと表情をキラキラさせている。
「幽霊だって思うと気味が悪いけど、実は守護剣が落ちていて、男の声は精霊だと思うと怖くないじゃない?」
「リズちゃん、幽霊怖いの?」
「幽霊って実在するのよ。見たことあるもの」
実際は、子供の頃リズ(由利)に構って欲しかった海斗が、シーツを被って脅かしただけなのであるが、リズがこの真相を知ることは無い。
「ご希望とあらば、今から探して参りましょうか? 真相を知ればリズ様も安心して休めるでしょう」
「あ、大丈夫! そこまでしなくていいよ」
「けれど……」
「じゃあ今度、シュイと顔を合わせた時に聞いてみるね。私、あの人苦手であんまり喋ったこと無いんだよねー」
シュイが苦手だというキリーに、リズと村雨も同意である。マイペース過ぎて話が噛み合わず、掴みどころが無さすぎるのだ。
「ってなわけで、やっぱり恋バナしようよ! 村雨は誰がタイプ? ウィルって答えてもいいよ!」
「そなたともシュイ殿と同様に会話が噛み合わない……!」
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