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第八章
天使
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⭐︎
創世祭は祝日である。
グランチェスの繁華街は、これまでどこに隠れていたのかと問いたくなるほどの、大勢の人でごった返していた。
「はぐれないように、手ぇ繋ぐ?」
「斬り落として欲しいの?」
手を差し出したラリィに、リズは一瞥することも無く言い捨てる。
しかしラリィはめげない。
「なぁ。リズー。ちょっとだけ遊びに行こーよぉ」
「しつこい」
「何かプレゼント買ってやろうか?」
「気持ち悪い」
「イチゴ好きだろ? イチゴ飴食べる?」
「うざい」
「なぁなぁ、リズーー」
リズは額を押さえ、盛大にため息をついた。
「遊びたいなら勝手に行けばいいでしょ? 私を巻き込まないで」
「折角一緒にいるんだから、一緒に楽しみたいじゃん?」
屈託のない笑顔を浮かべるラリィ。
リズはそれが無性に腹が立つ。
「創世祭は嫌いなの」
冷たさを纏ったリズの言葉に、ラリィは一瞬言葉に詰まった。
「あー……それは……」
「いい思い出が無いのよね。どっかの馬鹿のせいで」
ラリィは頭を乱暴に掻き乱し、リズに頭を下げる。
「それは……ごめん。本っ当にごめん!」
しかしリズは明後日の方角を見たまま、応えない。
「リズ?」
「……」
「オレたち、友達に戻れない?」
リズはラリィを振り返り、右手を挙げた。そのまま頬を叩こうとしたがーーその手は力無くダラリと落ちる。
「2度とあんたと友達にはならない」
そう言ってリズは先に行ってしまった。
取り残されたラリィは深いため息をつく。そして荷物の中から、赤いリボンの少女のぬいぐるみを取り出した。
「……仲直りって、難しいなぁ……」
ぬいぐるみに向かって、小さな声で溢した。
「めっちゃ怒ってましたね」
「おぉ!? ビッックリしたぁ!」
突然背後から聞こえたウィルの声に、ラリィは飛び上がる。
ウィルはホットチョコの入った紙コップを両手で持って、リズが消えて行った方を眺めた。
「何をしたらあそこまで嫌われるんですか?」
「……嫌われてねーし」
「無理矢理チューでもしたんじゃないかってくらい、怒ってましたよ?」
「……」
黙って視線を逸らしたラリィに、ウィルは目をがっつり開いた。
「は!? マジで!?」
「いや、それは……オレが悪い。うん、あれはオレが悪いんだけど……え? あれ? リズって、それで怒ってるんだっけ?」
ウィルはジト目でラリィを睨む。
「ないわー……あれだけ怒らせてる相手が、何で怒ってるのか分かってないとか、ないわー……」
そう言いながら立ち去ろうとするウィルの服の裾を、ラリィは引っ掴んだ。
「ウィルー! フラれたばっかのオレを独りにしないでー!」
「友達になりたくないって言われただけじゃないですか」
「傷つく!」
涙目のラリィの顔を、ウィルは半眼で見る。
「ってゆーか、そのぬいぐるみ……持ち歩いてるんですか?」
「オレの魂だもん! 肌身離さず持ってる!」
「き……」
気持ち悪い、と喉まで出かかった言葉をなんとか飲み下すウィル。
「魂だとか宝物だとか……一体なんなんですか、それ」
「これはオレの魂だし、宝物だしーー」
ラリィはぬいぐるみに顔を埋めて目を閉じる。
瞼の裏に、こちらを見上げる無垢な青い瞳が蘇り、幸せなくらい可愛い笑い声が耳の奥に聞こえた。
「オレの天使」
⭐︎
天使が実在するのだと知ったのは、ラリィがリディアと出会って3日も経たない頃だった。
寝床にしている廃教会の、崩れかけた天井に描かれた天使の絵。しかし本物の天使はそれよりも愛らしく、無邪気に笑い、温かだった。
ラリィは天使のふわふわの金の髪を撫で、マシュマロのような頬に指先で触れる。彼女はくすぐったそうに体をくねらせて、鈴を鳴らしたようにクスクスと笑った。
それがたまらなく愛おしくて、ラリィは腕の中にすっぽりと収まる小さなリディアを抱きしめた。
「可愛い! 可愛すぎて死ぬ! もう、なんでそんなに可愛いのー!?」
「……ラリィ……さっきから『可愛い』しか言ってないけど、頭大丈夫か?」
可視化できるとすれば、全身から止めどなくハートマークを垂れ流しているであろうラリィに、ヴィンスは本気で心配になって声を掛けた。
「オレの頭、大丈夫じゃないと思う。寝ても覚めてもリディアのことしか考えらんない! 見ろよ、この天使ちゃん! あ、待って。やっぱ見ないで! オレのだから!」
「……キモいって……」
ヴィンスは深いため息と共に、ラリィの腕の中でニコニコしている少女を見た。
これが同い年の少女ならば、ただの惚気と笑い飛ばせるのだが、ラリィが愛でている相手は6歳の幼児である。
「なぁ、ラリィ。そういうの、ロリコンって言うんだって。小児性愛好者」
「あ゛ぁ?」
ラリィは一転、ドスの効いた声でヴィンスを見据えた。
「オレはリディアをスケベな目で見たことは一度もねぇぞ」
「いや、でもさぁ……」
困った顔でヴィンスは頭を掻く。それから隣で同じような顔をしているリズとジーナを見た。
「まさかあたしのライバルがこっちじゃなくて、そっちだったなんてね……」
ジーナはリズとリディアを見比べる。
「ラリィって、前から子供好きだったの?」
「そんなわけないじゃない。ロリコンだって分かってたら、あたしだって……」
ジーナもまた、深いため息をついた。
ラリィが子供に対しても優しいのは知っていたが、これほど執着するのは初めてのことである。
「でもまぁ、ラリィの気持ちも分からなくもないけど。あの子、あたしから見ても可愛いって思うもの」
「そうね」
ジーナの言葉に同意するリズ。
リディアの可愛いさは、外見や子供特有の幼さだけではない。
リディアはとにかく物怖じしない少女だった。人見知りもしない為、強面のレオにもすぐに懐き、物分かりも良いので大人を困らせる事が無い。最初は猛烈に反対していたレオも、今ではすっかり孫を甘やかすおじいちゃんの顔になっている。
「なぁ、ラリィ? 本当にリディアを育てるつもりか?」
「オレが? 育てるわけねーじゃん」
予想と違った返答に、ヴィンスは首を傾げる。
「オレは、リディアがしたいようにさせてやるだけ。ここに居たいなら居ればいいし、腹が減ったなら食べ物をあげる。孤児院に行きたくなったら、ちゃんと連れてってやるよ。リディアが幸せになる手伝いをするだけだ」
「リディアは、ラリィと一緒がいい」
そう言ってラリィにしがみ付くリディアに、ラリィは骨抜き状態である。
「それって無責任だと思うけど」
「そういう人間の集まりだからね、あたしたち」
リズの呟きに、ジーナが答える。
親に捨てられた子、孤児院や人身売買から逃げてきた子、そんな子供たちが、既にこの街で生きていた大人たちの気まぐれで拾われ、利用され、大きくなっているのだ。
「リディアがオレと居たいと思ううちは、オレはリディアと居るよ」
「リディア、大きくなったらラリィと結婚してあげるね」
「はわぁぁ……! ちょっと! みんな、今の聞いた!? 可愛すぎて頭溶けそうなんだけどー!」
リディアが潰れてしまうのではないかというくらい、ラリィは力いっぱい抱き締める。
「リディアが18歳になってもオレのことが好きだったら、結婚しような!」
「うん!」
「ヤだもう、やってられないわ……ちょっと、ヴィンス! リズ! あんたたち、あたしの酒に付き合って……ってーーあんた、何泣いてんの?」
惚れた男のこんな姿はもう見てられないと踵を返したジーナの目の前に、ボロボロと涙を流すリズがいた。
「え? 何? リズ、どした?」
「ごめ……っ! 違うの、ちょっと……思い出しちゃって……」
吉良を思い出して、涙が止まらない。
18になったらーー同じ事を言ったあの人は、今何をしているのだろうか。
「リズ? だいじょーぶ?」
リディアがやって来て、その小さくて温かい手がリズの手を握った。
「大丈夫。ありがとう」
涙を拭い、リディアの頭を撫でるリズ。見つめ合って微笑む2人の少女に、ヴィンスは思わず息を呑んだ。
「天使と女神だな。絵になるねぇ」
「……ちょっと。あたしは?」
「え? あー……ジーナは、その……」
「ふんっ! あんたたち、今日の晩飯は抜きだからね!」
「ジーナ! 違うんだってばー!」
不貞腐れながら教会を出て行くジーナ。それを追いかけていこうとするヴィンスだが、途中で諦めて足を止めた。
リズはジーナを見送ってから、ラリィの隣に腰掛けた。リディアは定位置とばかりに、ラリィの膝の上に座る。
「ヴィンスって、ジーナのことが好きなんだって。知ってた?」
「おい、バラすなよ!」
「まぁ、見てたらわかるよね」
しかしそのジーナに想いを寄せられていることは、当のラリィは気付いていないようだが。
「ねぇ、もしもリディアが同い年の女の子だったらどうしてた?」
「同い年の……?」
リディアの髪の毛をくるくると指先で弄びながら、ラリィは想像してみた。そして悶絶する。
「可愛すぎるー! すぐ結婚する!」
「それってやっぱり、恋愛感情なんじゃないの?」
「そーだなぁ。そーかもなぁ? マジで自分でもよくわかんねーの」
性欲ではない。しかし恋愛感情とも、ただの庇護欲ともつかない。
「この子が18になるまで待てる?」
「そりゃ待つよ。好きだもん」
恐らく吉良とラリィは、考え方が似ているとリズは思う。しかしそれは、彼女にはさっぱりと理解が出来ないのである。
するとヴィンスは両手を打ち鳴らし、わかった、と声を上げた。
「つまり、そこまで好きじゃない女には色んなプレイが出来るけど、マジで好きな女には手も触れられないって事だな?」
「……例え方が嫌だわ」
「お前、年々ゲスさが増してるよな」
「なんで!? 的確だろ!?」
「もうヴィンスはリディアに接近禁止! ゲスいのがうつる!」
「あはは! ヴィンス、ゲスいー!」
「ほらぁ、リディアが変な言葉覚えちゃっただろ!」
「オレのせいじゃなくねぇか!?」
賑やかなやり取りを背に、リズはそっと目を伏せた。
——18になったら結婚しよう。
かつてあの人が言ったその言葉は希望なのか、それとも呪いなのか。
まだ、答えは出ない。
創世祭は祝日である。
グランチェスの繁華街は、これまでどこに隠れていたのかと問いたくなるほどの、大勢の人でごった返していた。
「はぐれないように、手ぇ繋ぐ?」
「斬り落として欲しいの?」
手を差し出したラリィに、リズは一瞥することも無く言い捨てる。
しかしラリィはめげない。
「なぁ。リズー。ちょっとだけ遊びに行こーよぉ」
「しつこい」
「何かプレゼント買ってやろうか?」
「気持ち悪い」
「イチゴ好きだろ? イチゴ飴食べる?」
「うざい」
「なぁなぁ、リズーー」
リズは額を押さえ、盛大にため息をついた。
「遊びたいなら勝手に行けばいいでしょ? 私を巻き込まないで」
「折角一緒にいるんだから、一緒に楽しみたいじゃん?」
屈託のない笑顔を浮かべるラリィ。
リズはそれが無性に腹が立つ。
「創世祭は嫌いなの」
冷たさを纏ったリズの言葉に、ラリィは一瞬言葉に詰まった。
「あー……それは……」
「いい思い出が無いのよね。どっかの馬鹿のせいで」
ラリィは頭を乱暴に掻き乱し、リズに頭を下げる。
「それは……ごめん。本っ当にごめん!」
しかしリズは明後日の方角を見たまま、応えない。
「リズ?」
「……」
「オレたち、友達に戻れない?」
リズはラリィを振り返り、右手を挙げた。そのまま頬を叩こうとしたがーーその手は力無くダラリと落ちる。
「2度とあんたと友達にはならない」
そう言ってリズは先に行ってしまった。
取り残されたラリィは深いため息をつく。そして荷物の中から、赤いリボンの少女のぬいぐるみを取り出した。
「……仲直りって、難しいなぁ……」
ぬいぐるみに向かって、小さな声で溢した。
「めっちゃ怒ってましたね」
「おぉ!? ビッックリしたぁ!」
突然背後から聞こえたウィルの声に、ラリィは飛び上がる。
ウィルはホットチョコの入った紙コップを両手で持って、リズが消えて行った方を眺めた。
「何をしたらあそこまで嫌われるんですか?」
「……嫌われてねーし」
「無理矢理チューでもしたんじゃないかってくらい、怒ってましたよ?」
「……」
黙って視線を逸らしたラリィに、ウィルは目をがっつり開いた。
「は!? マジで!?」
「いや、それは……オレが悪い。うん、あれはオレが悪いんだけど……え? あれ? リズって、それで怒ってるんだっけ?」
ウィルはジト目でラリィを睨む。
「ないわー……あれだけ怒らせてる相手が、何で怒ってるのか分かってないとか、ないわー……」
そう言いながら立ち去ろうとするウィルの服の裾を、ラリィは引っ掴んだ。
「ウィルー! フラれたばっかのオレを独りにしないでー!」
「友達になりたくないって言われただけじゃないですか」
「傷つく!」
涙目のラリィの顔を、ウィルは半眼で見る。
「ってゆーか、そのぬいぐるみ……持ち歩いてるんですか?」
「オレの魂だもん! 肌身離さず持ってる!」
「き……」
気持ち悪い、と喉まで出かかった言葉をなんとか飲み下すウィル。
「魂だとか宝物だとか……一体なんなんですか、それ」
「これはオレの魂だし、宝物だしーー」
ラリィはぬいぐるみに顔を埋めて目を閉じる。
瞼の裏に、こちらを見上げる無垢な青い瞳が蘇り、幸せなくらい可愛い笑い声が耳の奥に聞こえた。
「オレの天使」
⭐︎
天使が実在するのだと知ったのは、ラリィがリディアと出会って3日も経たない頃だった。
寝床にしている廃教会の、崩れかけた天井に描かれた天使の絵。しかし本物の天使はそれよりも愛らしく、無邪気に笑い、温かだった。
ラリィは天使のふわふわの金の髪を撫で、マシュマロのような頬に指先で触れる。彼女はくすぐったそうに体をくねらせて、鈴を鳴らしたようにクスクスと笑った。
それがたまらなく愛おしくて、ラリィは腕の中にすっぽりと収まる小さなリディアを抱きしめた。
「可愛い! 可愛すぎて死ぬ! もう、なんでそんなに可愛いのー!?」
「……ラリィ……さっきから『可愛い』しか言ってないけど、頭大丈夫か?」
可視化できるとすれば、全身から止めどなくハートマークを垂れ流しているであろうラリィに、ヴィンスは本気で心配になって声を掛けた。
「オレの頭、大丈夫じゃないと思う。寝ても覚めてもリディアのことしか考えらんない! 見ろよ、この天使ちゃん! あ、待って。やっぱ見ないで! オレのだから!」
「……キモいって……」
ヴィンスは深いため息と共に、ラリィの腕の中でニコニコしている少女を見た。
これが同い年の少女ならば、ただの惚気と笑い飛ばせるのだが、ラリィが愛でている相手は6歳の幼児である。
「なぁ、ラリィ。そういうの、ロリコンって言うんだって。小児性愛好者」
「あ゛ぁ?」
ラリィは一転、ドスの効いた声でヴィンスを見据えた。
「オレはリディアをスケベな目で見たことは一度もねぇぞ」
「いや、でもさぁ……」
困った顔でヴィンスは頭を掻く。それから隣で同じような顔をしているリズとジーナを見た。
「まさかあたしのライバルがこっちじゃなくて、そっちだったなんてね……」
ジーナはリズとリディアを見比べる。
「ラリィって、前から子供好きだったの?」
「そんなわけないじゃない。ロリコンだって分かってたら、あたしだって……」
ジーナもまた、深いため息をついた。
ラリィが子供に対しても優しいのは知っていたが、これほど執着するのは初めてのことである。
「でもまぁ、ラリィの気持ちも分からなくもないけど。あの子、あたしから見ても可愛いって思うもの」
「そうね」
ジーナの言葉に同意するリズ。
リディアの可愛いさは、外見や子供特有の幼さだけではない。
リディアはとにかく物怖じしない少女だった。人見知りもしない為、強面のレオにもすぐに懐き、物分かりも良いので大人を困らせる事が無い。最初は猛烈に反対していたレオも、今ではすっかり孫を甘やかすおじいちゃんの顔になっている。
「なぁ、ラリィ? 本当にリディアを育てるつもりか?」
「オレが? 育てるわけねーじゃん」
予想と違った返答に、ヴィンスは首を傾げる。
「オレは、リディアがしたいようにさせてやるだけ。ここに居たいなら居ればいいし、腹が減ったなら食べ物をあげる。孤児院に行きたくなったら、ちゃんと連れてってやるよ。リディアが幸せになる手伝いをするだけだ」
「リディアは、ラリィと一緒がいい」
そう言ってラリィにしがみ付くリディアに、ラリィは骨抜き状態である。
「それって無責任だと思うけど」
「そういう人間の集まりだからね、あたしたち」
リズの呟きに、ジーナが答える。
親に捨てられた子、孤児院や人身売買から逃げてきた子、そんな子供たちが、既にこの街で生きていた大人たちの気まぐれで拾われ、利用され、大きくなっているのだ。
「リディアがオレと居たいと思ううちは、オレはリディアと居るよ」
「リディア、大きくなったらラリィと結婚してあげるね」
「はわぁぁ……! ちょっと! みんな、今の聞いた!? 可愛すぎて頭溶けそうなんだけどー!」
リディアが潰れてしまうのではないかというくらい、ラリィは力いっぱい抱き締める。
「リディアが18歳になってもオレのことが好きだったら、結婚しような!」
「うん!」
「ヤだもう、やってられないわ……ちょっと、ヴィンス! リズ! あんたたち、あたしの酒に付き合って……ってーーあんた、何泣いてんの?」
惚れた男のこんな姿はもう見てられないと踵を返したジーナの目の前に、ボロボロと涙を流すリズがいた。
「え? 何? リズ、どした?」
「ごめ……っ! 違うの、ちょっと……思い出しちゃって……」
吉良を思い出して、涙が止まらない。
18になったらーー同じ事を言ったあの人は、今何をしているのだろうか。
「リズ? だいじょーぶ?」
リディアがやって来て、その小さくて温かい手がリズの手を握った。
「大丈夫。ありがとう」
涙を拭い、リディアの頭を撫でるリズ。見つめ合って微笑む2人の少女に、ヴィンスは思わず息を呑んだ。
「天使と女神だな。絵になるねぇ」
「……ちょっと。あたしは?」
「え? あー……ジーナは、その……」
「ふんっ! あんたたち、今日の晩飯は抜きだからね!」
「ジーナ! 違うんだってばー!」
不貞腐れながら教会を出て行くジーナ。それを追いかけていこうとするヴィンスだが、途中で諦めて足を止めた。
リズはジーナを見送ってから、ラリィの隣に腰掛けた。リディアは定位置とばかりに、ラリィの膝の上に座る。
「ヴィンスって、ジーナのことが好きなんだって。知ってた?」
「おい、バラすなよ!」
「まぁ、見てたらわかるよね」
しかしそのジーナに想いを寄せられていることは、当のラリィは気付いていないようだが。
「ねぇ、もしもリディアが同い年の女の子だったらどうしてた?」
「同い年の……?」
リディアの髪の毛をくるくると指先で弄びながら、ラリィは想像してみた。そして悶絶する。
「可愛すぎるー! すぐ結婚する!」
「それってやっぱり、恋愛感情なんじゃないの?」
「そーだなぁ。そーかもなぁ? マジで自分でもよくわかんねーの」
性欲ではない。しかし恋愛感情とも、ただの庇護欲ともつかない。
「この子が18になるまで待てる?」
「そりゃ待つよ。好きだもん」
恐らく吉良とラリィは、考え方が似ているとリズは思う。しかしそれは、彼女にはさっぱりと理解が出来ないのである。
するとヴィンスは両手を打ち鳴らし、わかった、と声を上げた。
「つまり、そこまで好きじゃない女には色んなプレイが出来るけど、マジで好きな女には手も触れられないって事だな?」
「……例え方が嫌だわ」
「お前、年々ゲスさが増してるよな」
「なんで!? 的確だろ!?」
「もうヴィンスはリディアに接近禁止! ゲスいのがうつる!」
「あはは! ヴィンス、ゲスいー!」
「ほらぁ、リディアが変な言葉覚えちゃっただろ!」
「オレのせいじゃなくねぇか!?」
賑やかなやり取りを背に、リズはそっと目を伏せた。
——18になったら結婚しよう。
かつてあの人が言ったその言葉は希望なのか、それとも呪いなのか。
まだ、答えは出ない。
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