98 / 107
最終章
棺
しおりを挟む
ラリィの死亡が告げられたのは、それから3時間後の事だった。
胸の短剣は急所に届いており、医務室に運ばれた時には既に手遅れだったと、苦い顔でライトは呟いた。
「待ってよ……意味が、わからない……」
医務室の前で、リズは震える声でライトに問う。
「誰が? 誰が……死んだって……?」
「リズ……」
「ラリィが? あのラリィが、死んだって仰っているんですか……?」
「……」
「そんなわけ……そんなわけない! ラリィに会わせてください!」
「リズ。今はまだ会わせてやれん。綺麗にしてやらないと……」
「そんなの、どうだっていい!」
医務室に入ろうとするリズを、ライトが阻む。それでも彼を押し退けようとして、後ろからセイルに羽交締めにされた。
「やめろ、リズ!」
「なんで!? あいつの心臓なんか、殴ればまた動くわよ!」
「リズ!」
「だって――っ!」
リズは医務室の扉を睨みつけた。
そして拳を扉に思い切り叩きつけると、リズはその場を離れて行った。
セイルは額を押え、長い沈黙を落とす。
「……ゼンと話がしたい」
「ゼンも……まだ混乱している。落ち着くまで待ってやれ」
「くそっ……!」
セイルは、廊下の椅子に座ったまま俯いているウィルに視線を向けた。
ようやくリムの村の一件から立ち直っていたのに、また堕とされた。しかも1番最悪な方法で。
セイルには、ウィルにかけてやる言葉は見つからない。セイル自身にも、そんな余裕は無い。
「本当に、死んだのか」
ライトは短く頷く。
セイルは医務室の扉をじっと見つめた後、静かに歩き出した。
「……ウィル。お前も部屋に戻れ」
ウィルの肩に触れるライト。
ウィルは床の一点を見つめたまま、掠れた声を絞り出す。
「嫌だ」
「ウィル――」
「あんな部屋、帰れねぇよ……」
部屋の中には、ラリィの物が溢れている。なのに、そこにはラリィがいない。
「すげぇ疫病神だな、俺」
そう言ってウィルは自嘲する。
「次はセイル先輩かも。ゼン先輩や、リズ先輩……やっぱりみんな、殺される」
「そんな事は……」
「あんな化け物、誰が止められるって言うんだよ……」
大丈夫だと、そう言って笑っていたラリィはもういない。
「ウィル。とにかく今は休みなさい。それから今後の事を、みんなで考えよう」
「……」
ウィルは鉛のような体で立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。
(今後の事を考える……?)
寮とは反対の方向へ歩きながら、ぼんやりと思う。
今後やるべき事なんて、一つしかないのに。
⭐︎
ラリィの入った棺は城の一角にある教会へと運ばれ、葬儀は明後日の朝、執り行われることになった。
棺の側には、まるで寄り添うようにラグエルの槍が横たわっている。あの場所から、剣士たちが2人がかりで運んできたのだ。
あれからラグエルは姿を現さず、沈黙を貫いている。
ゼンは礼拝堂の椅子に腰を下ろし、祭壇の真ん中に安置された棺に視線を向けていた。もう半日以上、そこから動いていない。1度家に帰ってフォトにランク家へ行くよう伝えてから、ずっとここで棺を見つめているのだ。
礼拝堂へは、ひっきりなしに噂を聞きつけた人々が訪れていた。その誰もが棺を前に涙を流し、怒り、悲しんでいた。
ジーナから報せを受けたヴィンスとレオもやって来て、泣き喚いてようやく先程帰ったところである。
「……」
ゼンは深い息を吐いて、天井を見上げた。
酷い気分である。
「……馬鹿野郎……」
ぽつりと呟いたところに、足音が近付いて来た。
振り返らなくても、足音だけで誰かはわかる。
「……リズと、ウィルは……大丈夫か?」
「知るか」
ゼンの後ろに座ったセイルは、吐き捨てるように答えた。
「お前はいつまで、ここで棺を眺めているつもりだ」
「……わからない」
ゼンは無表情だ。彼が今、何を想って何を考えているのか、セイルにはわからない。
「妹が待ってる。帰ってやれ」
「今は……ここに、いたい」
「お前がここにいて、何になる?」
「……」
ゼンは自分の手の中へ視線を落とし、今の自分に出来ることは何だろうかと考える。
そうして暫く考えを巡らせた後、ぼそりと呟いた。
「……次は、誰だろう……」
「弥月に殺されるのは、か?」
セイルは小さく笑う。
「俺なら、全員殺す。俺もお前も、リズも殺して最後にウィル。そして指輪を奪う」
「全員……」
「大人しく殺されるつもりはない。こいつと違ってな」
立ち上がり、教会の出口へと向かうセイル。
「リズが怒るのも当然だ」
入れ違いにリズが教会の中へと入って来た。
リズは険しい顔で棺の前まで進み、そして右足を大きく振り上げて棺を蹴り飛ばす。
「リズ……」
「時間を置いて、考えた。たくさん考えた……けど……っ! やっぱりどうしたって、赦せない!」
もう一度棺を蹴ろうとしたので、ゼンは彼女の腕を引いて止めた。
「放して! こんな奴、殺してやる!」
「言っていることが、無茶苦茶だ……」
「何度私を裏切れば気が済むのよ!? 私に赦されるまで諦めないんじゃなかったの!?」
本気で棺を破壊しそうで、ゼンはリズを祭壇から引き離す。
リズはぼろぼろと涙をこぼしながら、棺に向かって手を伸ばした。
「なんで……」
伸ばした手が、途中で力無く落ちる。膝の力も抜けて、ゼンがリズを支えた。
「なんでまた、私を独りにするのよ……」
リズはゼンの肩に顔を埋め、声を殺して嗚咽を漏らす。
置いていかれるのは、いつも自分の方だ――
「赦さないから……! 金輪際、赦さないから……っ!」
胸の短剣は急所に届いており、医務室に運ばれた時には既に手遅れだったと、苦い顔でライトは呟いた。
「待ってよ……意味が、わからない……」
医務室の前で、リズは震える声でライトに問う。
「誰が? 誰が……死んだって……?」
「リズ……」
「ラリィが? あのラリィが、死んだって仰っているんですか……?」
「……」
「そんなわけ……そんなわけない! ラリィに会わせてください!」
「リズ。今はまだ会わせてやれん。綺麗にしてやらないと……」
「そんなの、どうだっていい!」
医務室に入ろうとするリズを、ライトが阻む。それでも彼を押し退けようとして、後ろからセイルに羽交締めにされた。
「やめろ、リズ!」
「なんで!? あいつの心臓なんか、殴ればまた動くわよ!」
「リズ!」
「だって――っ!」
リズは医務室の扉を睨みつけた。
そして拳を扉に思い切り叩きつけると、リズはその場を離れて行った。
セイルは額を押え、長い沈黙を落とす。
「……ゼンと話がしたい」
「ゼンも……まだ混乱している。落ち着くまで待ってやれ」
「くそっ……!」
セイルは、廊下の椅子に座ったまま俯いているウィルに視線を向けた。
ようやくリムの村の一件から立ち直っていたのに、また堕とされた。しかも1番最悪な方法で。
セイルには、ウィルにかけてやる言葉は見つからない。セイル自身にも、そんな余裕は無い。
「本当に、死んだのか」
ライトは短く頷く。
セイルは医務室の扉をじっと見つめた後、静かに歩き出した。
「……ウィル。お前も部屋に戻れ」
ウィルの肩に触れるライト。
ウィルは床の一点を見つめたまま、掠れた声を絞り出す。
「嫌だ」
「ウィル――」
「あんな部屋、帰れねぇよ……」
部屋の中には、ラリィの物が溢れている。なのに、そこにはラリィがいない。
「すげぇ疫病神だな、俺」
そう言ってウィルは自嘲する。
「次はセイル先輩かも。ゼン先輩や、リズ先輩……やっぱりみんな、殺される」
「そんな事は……」
「あんな化け物、誰が止められるって言うんだよ……」
大丈夫だと、そう言って笑っていたラリィはもういない。
「ウィル。とにかく今は休みなさい。それから今後の事を、みんなで考えよう」
「……」
ウィルは鉛のような体で立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。
(今後の事を考える……?)
寮とは反対の方向へ歩きながら、ぼんやりと思う。
今後やるべき事なんて、一つしかないのに。
⭐︎
ラリィの入った棺は城の一角にある教会へと運ばれ、葬儀は明後日の朝、執り行われることになった。
棺の側には、まるで寄り添うようにラグエルの槍が横たわっている。あの場所から、剣士たちが2人がかりで運んできたのだ。
あれからラグエルは姿を現さず、沈黙を貫いている。
ゼンは礼拝堂の椅子に腰を下ろし、祭壇の真ん中に安置された棺に視線を向けていた。もう半日以上、そこから動いていない。1度家に帰ってフォトにランク家へ行くよう伝えてから、ずっとここで棺を見つめているのだ。
礼拝堂へは、ひっきりなしに噂を聞きつけた人々が訪れていた。その誰もが棺を前に涙を流し、怒り、悲しんでいた。
ジーナから報せを受けたヴィンスとレオもやって来て、泣き喚いてようやく先程帰ったところである。
「……」
ゼンは深い息を吐いて、天井を見上げた。
酷い気分である。
「……馬鹿野郎……」
ぽつりと呟いたところに、足音が近付いて来た。
振り返らなくても、足音だけで誰かはわかる。
「……リズと、ウィルは……大丈夫か?」
「知るか」
ゼンの後ろに座ったセイルは、吐き捨てるように答えた。
「お前はいつまで、ここで棺を眺めているつもりだ」
「……わからない」
ゼンは無表情だ。彼が今、何を想って何を考えているのか、セイルにはわからない。
「妹が待ってる。帰ってやれ」
「今は……ここに、いたい」
「お前がここにいて、何になる?」
「……」
ゼンは自分の手の中へ視線を落とし、今の自分に出来ることは何だろうかと考える。
そうして暫く考えを巡らせた後、ぼそりと呟いた。
「……次は、誰だろう……」
「弥月に殺されるのは、か?」
セイルは小さく笑う。
「俺なら、全員殺す。俺もお前も、リズも殺して最後にウィル。そして指輪を奪う」
「全員……」
「大人しく殺されるつもりはない。こいつと違ってな」
立ち上がり、教会の出口へと向かうセイル。
「リズが怒るのも当然だ」
入れ違いにリズが教会の中へと入って来た。
リズは険しい顔で棺の前まで進み、そして右足を大きく振り上げて棺を蹴り飛ばす。
「リズ……」
「時間を置いて、考えた。たくさん考えた……けど……っ! やっぱりどうしたって、赦せない!」
もう一度棺を蹴ろうとしたので、ゼンは彼女の腕を引いて止めた。
「放して! こんな奴、殺してやる!」
「言っていることが、無茶苦茶だ……」
「何度私を裏切れば気が済むのよ!? 私に赦されるまで諦めないんじゃなかったの!?」
本気で棺を破壊しそうで、ゼンはリズを祭壇から引き離す。
リズはぼろぼろと涙をこぼしながら、棺に向かって手を伸ばした。
「なんで……」
伸ばした手が、途中で力無く落ちる。膝の力も抜けて、ゼンがリズを支えた。
「なんでまた、私を独りにするのよ……」
リズはゼンの肩に顔を埋め、声を殺して嗚咽を漏らす。
置いていかれるのは、いつも自分の方だ――
「赦さないから……! 金輪際、赦さないから……っ!」
21
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚
咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。
帝国歴515年。サナリア歴3年。
サナリア王国は、隣国のガルナズン帝国の使者からの通達により、国家滅亡の危機に陥る。
従属せよ。
これを拒否すれば、戦争である。
追い込まれたサナリアには、超大国との戦いには応じられない。
そこで、サナリアの王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。
当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。
命令の中身。
それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。
出来たばかりの国を守るため。
サナリア王が下した決断は。
第一王子【フュン・メイダルフィア】を人質として送り出す事だった。
フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。
彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。
そんな人物では、国を背負うことなんて出来ないだろうと。
王が、帝国の人質として選んだのである。
しかし、この人質がきっかけで、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。
西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。
アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす。
伝説の英雄が誕生することになるのだ。
偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。
他サイトにも書いています。
こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。
小説だけを読める形にしています。
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女
神谷モロ
ファンタジー
主人公ルーシーは10歳の少女である。
彼女はなぜか自分を「呪いのドラゴンロード」の生まれ変わりと信じてやまない。
そんな彼女の日常と少しばかりの冒険のお話。
※この作品は『カイルとシャルロットの冒険~ドラゴンと魔剣~』のエピローグから10年後のお話です。
どちらの作品も主人公が違うので時系列を追う必要はありませんが興味を持たれたらご一読お願いします。
カクヨムでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる