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第13話 今日の獲物は極上美青年。(サキュバス視点)
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色城恭子(しきじょう きょうこ)は、この世界を気にっていた。
「魔球」と違って魔術文明はない。だがその代わり、科学文明が発展し、料理に関してのこだわりも凄い。
「地球」の人類は、天敵がいない。
「魔球」の人々のように、日々モンスターの襲撃に怯え、身を守るすべを磨く。そんな生活とは無縁だ。
国と国がいがみ合い、戦っている地域もある。だが、ほとんどの国の人々は、より良い生活水準を目指し、娯楽や快楽を追求した生活を送っている。
食事が美味しいのもその為。ベッドの寝心地がいいのもその為。大人のオモチャも充実している。
(それにこの世界の男は......サキュバスから身を守るすべを持たない)
「魔球」では当然のように、家に夢魔避けの結界を張る。もっとも無防備となる、寝込みを襲われない為だ。町や村を守る冒険者や兵士でさえ、夢魔であるサキュバスには手を焼くのだ。
サキュバスは神出鬼没。どこにでも現れ、いずこかへと消え去る。
子供のうちから、夢魔除けを持たされる事も多い。「魔球」では、人の精気を吸うのは一苦労だった。
「どうしたの、恭子ちゃん。ボーっとしちゃって」
同じテーブルに向かいあって、料理を食べている男。稀代のイケメン俳優「天空勇気(あまぞら ゆうき)」が、恭子を見つめている。
「ううん。何でもないの。ずっと食べたいと思っていたモノを、ようやく食べられるから嬉しくって♡」
そう言いながら、恭子は思わず舌舐めずりした。本当は今すぐにでも押し倒して食べてしまいたい。だが人間がそういった行為をするのには、手順がある。それがこの「デート」だ。
少々面倒だが、今は美味しい料理を楽しむとしよう。メインディッシュは、ホテルに行ってからのお楽しみだ。
「それにしても恭子ちゃん、よくローレライの予約取れたよね。魔術でも使ったの?」
恭子はドキリとした。だが、これは彼の冗談だ。勇気は漫画やアニメが大好きで、よくファンタジー系の妄想を口にする。自分が実は勇者であるという設定も持っているようだった。
「えっとね、魔術じゃなくて、ここは私の行きつけなの。店長さんとも仲良しなんだぁ」
「へぇ、そうなんだ! すごいね! このソーセージとか美味いよなぁ! ビールも最高だ。ここに来れてよかったよ。ありがとうね恭子ちゃん」
「どういたしまして♡」
勇気は喜んでいるようだ。これは純粋な彼の反応。まだ「魅了」の魔術はかけていない。その魔術をかけた途端、男はサキュバスの虜になってしまう。もうセックスの事しか考えられない、野獣と化す。だが同時に、従順な奴隷でもある。いつまでも「おあずけ」を食らわせる事も出来る。
精気は食べ放題だが、それでは面白みにかける。恭子は恋愛の駆け引きが好きだった。なびかない男には最後の手段として「魅了」を使うが、出来るだけ自身の魅力で落としたい。
「勇気さん♡ 食べさせてあげるよ。はい、アーンして♡」
恭子は切り取ったステーキをフォークに刺し、勇気の眼前に差し出した。
「え? 照れちゃうなぁ。 なんか恋人同士みたいだね」
「私はそう思ってるけど♡ はい、アーンしてぇ♡」
勇気は恥ずかしがりながらも、ようやく口を開けた。そこへ恭子はステーキを運ぶ。
(うふふ、楽しいわぁ、恋人ごっこ)
誰もが憧れる男を手に入れた事で、恭子は幸せと優越感を感じていた。
だがその時、凄まじい破壊音が、店内に響いた。
「何!?」
「なんだ!?」
恭子は出入り口を見た。勇気も振り返ってそちらを見る。
出入り口はよくあるガラス製の自動ドア。前に立てば当然開くので、待っていればいいだけなのだが......どうやらその女は、待ちきれずにドアを破壊してしまったらしい。
「あ、あ、あまぞら、ゆうき君!」
女はたどたどしい口調で勇気の名を呼びつつ、中へと侵入してきた。傍らには、真っ赤な毛並みの豹を引き連れている。
何人かは怯えて裏口から逃げていったが、数人の者は、彼女が何者か気づいたようだ。目を輝かせて声援を送っている。
「あれ、ホムラじゃね? 冒険者の」
「だよねやっぱ! 写メとっとこ! やっぱ綺麗だねー! スタイルもいいし!」
やはりそうだ。恭子もテレビで見た事がある。この世界にも、数は多くないが冒険者がいる。あのホムラという女は、その中でも代表格。強さも確からしい。
「ゆ、ゆ、勇気くん! その女から、すぐに離れてください! その女はサキュバスなんだ!」
(チッ! 私の正体に気づいて入ってきたのか。さて、どうするか......)
恭子は思案した。ホムラは警戒しながら、ゆっくり近づいて来る。ホムラの発言を聞いた店員たちが、客を避難させ始める。勇気も立ち上がり、恭子の手を引いて立ち上がらせた。
「魔球」と違って魔術文明はない。だがその代わり、科学文明が発展し、料理に関してのこだわりも凄い。
「地球」の人類は、天敵がいない。
「魔球」の人々のように、日々モンスターの襲撃に怯え、身を守るすべを磨く。そんな生活とは無縁だ。
国と国がいがみ合い、戦っている地域もある。だが、ほとんどの国の人々は、より良い生活水準を目指し、娯楽や快楽を追求した生活を送っている。
食事が美味しいのもその為。ベッドの寝心地がいいのもその為。大人のオモチャも充実している。
(それにこの世界の男は......サキュバスから身を守るすべを持たない)
「魔球」では当然のように、家に夢魔避けの結界を張る。もっとも無防備となる、寝込みを襲われない為だ。町や村を守る冒険者や兵士でさえ、夢魔であるサキュバスには手を焼くのだ。
サキュバスは神出鬼没。どこにでも現れ、いずこかへと消え去る。
子供のうちから、夢魔除けを持たされる事も多い。「魔球」では、人の精気を吸うのは一苦労だった。
「どうしたの、恭子ちゃん。ボーっとしちゃって」
同じテーブルに向かいあって、料理を食べている男。稀代のイケメン俳優「天空勇気(あまぞら ゆうき)」が、恭子を見つめている。
「ううん。何でもないの。ずっと食べたいと思っていたモノを、ようやく食べられるから嬉しくって♡」
そう言いながら、恭子は思わず舌舐めずりした。本当は今すぐにでも押し倒して食べてしまいたい。だが人間がそういった行為をするのには、手順がある。それがこの「デート」だ。
少々面倒だが、今は美味しい料理を楽しむとしよう。メインディッシュは、ホテルに行ってからのお楽しみだ。
「それにしても恭子ちゃん、よくローレライの予約取れたよね。魔術でも使ったの?」
恭子はドキリとした。だが、これは彼の冗談だ。勇気は漫画やアニメが大好きで、よくファンタジー系の妄想を口にする。自分が実は勇者であるという設定も持っているようだった。
「えっとね、魔術じゃなくて、ここは私の行きつけなの。店長さんとも仲良しなんだぁ」
「へぇ、そうなんだ! すごいね! このソーセージとか美味いよなぁ! ビールも最高だ。ここに来れてよかったよ。ありがとうね恭子ちゃん」
「どういたしまして♡」
勇気は喜んでいるようだ。これは純粋な彼の反応。まだ「魅了」の魔術はかけていない。その魔術をかけた途端、男はサキュバスの虜になってしまう。もうセックスの事しか考えられない、野獣と化す。だが同時に、従順な奴隷でもある。いつまでも「おあずけ」を食らわせる事も出来る。
精気は食べ放題だが、それでは面白みにかける。恭子は恋愛の駆け引きが好きだった。なびかない男には最後の手段として「魅了」を使うが、出来るだけ自身の魅力で落としたい。
「勇気さん♡ 食べさせてあげるよ。はい、アーンして♡」
恭子は切り取ったステーキをフォークに刺し、勇気の眼前に差し出した。
「え? 照れちゃうなぁ。 なんか恋人同士みたいだね」
「私はそう思ってるけど♡ はい、アーンしてぇ♡」
勇気は恥ずかしがりながらも、ようやく口を開けた。そこへ恭子はステーキを運ぶ。
(うふふ、楽しいわぁ、恋人ごっこ)
誰もが憧れる男を手に入れた事で、恭子は幸せと優越感を感じていた。
だがその時、凄まじい破壊音が、店内に響いた。
「何!?」
「なんだ!?」
恭子は出入り口を見た。勇気も振り返ってそちらを見る。
出入り口はよくあるガラス製の自動ドア。前に立てば当然開くので、待っていればいいだけなのだが......どうやらその女は、待ちきれずにドアを破壊してしまったらしい。
「あ、あ、あまぞら、ゆうき君!」
女はたどたどしい口調で勇気の名を呼びつつ、中へと侵入してきた。傍らには、真っ赤な毛並みの豹を引き連れている。
何人かは怯えて裏口から逃げていったが、数人の者は、彼女が何者か気づいたようだ。目を輝かせて声援を送っている。
「あれ、ホムラじゃね? 冒険者の」
「だよねやっぱ! 写メとっとこ! やっぱ綺麗だねー! スタイルもいいし!」
やはりそうだ。恭子もテレビで見た事がある。この世界にも、数は多くないが冒険者がいる。あのホムラという女は、その中でも代表格。強さも確からしい。
「ゆ、ゆ、勇気くん! その女から、すぐに離れてください! その女はサキュバスなんだ!」
(チッ! 私の正体に気づいて入ってきたのか。さて、どうするか......)
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