【完結】婚約破棄された猫耳令嬢、転生してOLになる。〜特技は暗殺です〜

アキ・スマイリー

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第32話 魔王の胸中。(魔王視点)

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 魔王マオ・ラーナキア。彼女がユークリウッドに向けて放った転生魔術は、魔球と地球の両方にも絶大な影響を及ぼした。

 次元の裂け目。それが出現したのはマオの転生魔術の直後。彼女の膨大な魔力が、平行世界との境界を破ったのだ。

 それはマオにとっても予想外の事だった。もう関わりたくないと思っていたモンスター達が、大挙としてマオの転生した世界「地球」へとやって来たのだ。

(モンスターどもめ......! 好き勝手やりおって)

 マオはモンスター達が暴れる事で、自分の第二の人生が脅かされる事を恐れた。だが、それ以上に恐ろしいのは、自分の正体がバレる事。

(ここは冒険者どもに任せる事にしよう)

 マオは力を隠し、なるべく目立たないように平凡を装った。両親は優しく、マオに「優希(ゆき)」と名前を付け、心から愛してくれた。

 マオが二十代後半になると、両親は結婚の心配をし始めた。

「好きな人がいるんだけど、中々関係が進展しないの。長い目で見守って」

 マオは両親に、そう言い訳をした。未だにユークリウッドを見つける事が出来ず、焦っていた。

(どこなのだ、ユーク。そなたの為に、私はあらゆるものを犠牲にして来というのに......。早く私の前に現れてくれ......)

 そんな折、何気なく見ていたテレビドラマ。主演の俳優に、何故か惹かれた。

(イケメン・ヘブンか。主演は天空勇気。ふむ、どことなくユークに似ている。もしやこやつが......)

 マオはその日以来、勇気の事が気になって仕方がなかった。ファンクラブにも入り、何度かラインのやり取りもした。

(間違いない。この天空勇気はユークリウッドだ。私の愛する勇者。誰にも渡すものか)

 偶然目にしたニュース。ロシア料理店「ローレライ」で、モンスターが出現したらしい。チラリとだけ映った勇気と、彼に寄り添う女。

 間違いない。あの女はモンスターだ。どんなに人間の振りをしても、魔王の目はごまかせない。

 サキュバス。あの女は、男の精気をむさぼる淫乱モンスターだ。

(何故下賤なサキュバスなどが勇気と一緒にいるのだ! まさかあの女、勇気と......! 許せぬ! 許せぬ!)

 モンスターの居場所ならば、マオはどんなに離れていても見つける事が出来る。それが魔王の力。

(あの女、切り刻んでくれる! そして勇気を我が手に取り戻すのだ!)

 マオは決意した。もう力を隠すのはやめだ。どんな犠牲を払ってでも、必ず勇気を......勇者ユークリウッドを、自分の元へ!

 マオは勇気との愛の巣を、「としまえん」の地下ダンジョンと定めた。使えるものは全て使う。忌々しいが、モンスターを金で雇ってダンジョンに配置。自分が魔王である事は明かさない。明かしたくない。

「魔王ともあろうものが、何故勇者などに恋を......」

 かつて魔球で配下に言われた言葉が、脳裏に蘇る。あんな言葉は、二度と聞きたくない。

 人を好きになって何が悪い。自分が愛する者は、自分で決める。

 冒険者達が、ダンジョンへとやって来た。あのホムラとイグニスもいるようだ。

 だが、ここへは決して辿り着けまい。八つの鍵を全て集め、それぞれが対応する八つの鍵穴を探し出して差し込む。

 それをクリアしなければ、マオと勇気がいる部屋へは辿りつけないのだ。

「ふふ......ユーク。ここなら邪魔は入らぬぞ。存分に私の体を味わってくれ」

「うん。それじゃあ行くよ、マオ」

 ベッドに横たわるマオに、勇気がのしかかってくる。その目はどこか虚だ。マオの術で、「魅了」したのだ。

(サキュバスに出来る程度の事、私に出来ない筈はないからな。まずは既成事実を作り、徐々に私を愛するように仕向ければ良い。人の心など、いくらでも思い通りになる)

 ギシッとベッドが軋み、勇気の唇がマオの唇に重なる......寸前。

「勇気くん!」

 轟音と共に、扉が破壊される。飛び込んで来たのは、忌まわしきあの女と、一匹の豹。

「貴様! ホムラ・フレイマー! 何故邪魔をする! 【ダークネス・ボーテックス】!」

 勇気をベッドに伏せさせ、マオは魔術を放つ。闇が渦となって、ホムラとイグニスを飲み込んでいく。

「勇気君を、返せ! 【シャイニング・フィスト】!」

 ホムラの体が光輝き、彼女の繰り出す拳が、闇を払っていく。

「うおおーっ!」

 ホムラは闇を払いながら、イグニスを駆ってこちらへと突進してくる。

「チッ! 小癪なやつめ! ならばこれでどうだ! 【コキュートス・プリズン】!」

 マオの両腕から冷気が迸り、ホムラの周りに氷の牢獄を作り出していく。

「負けるものかぁーっ! 【ヘルフレイム・ボンバー】!」

 ホムラの全身が炎に包まれ、彼女が繰り出す高速の拳が、氷の牢獄を打ち砕いていく。

「もらったぁーっ!」

 ホムラの燃え盛る拳が、マオの顔面を捉える。

(馬鹿め! 油断したな!)

 マオは両眼に全魔力を込め、石化の呪いをホムラに放つ。

「【ゴルゴン・アイズ】!」

「しまっ......!」
「何と......!」

 ホムラとイグニスは一瞬にして石像へと変わり、ピクリとも動かなくなった。

「ふふっ。残念だったな。せっかく鍵を集めてここまでやって来たのにな。相変わらず詰めが甘いぞ、ホムラ」

 マオは石像と化したホムラとイグニスに一瞥をくれ、勇気が待つベッドへと戻ろうとした。

「詰めが甘いのはどっちかしらね」

「何!?」

 背後から女の声がしたかと思うと、マオの周囲の景色がぐるぐると回り始めた。

 遅れて痛みが襲ってくる。首が痛い。いや、首だった場所、か......?

 マオの頭は、切り離されて宙を待っていた。暗転する意識の中で目にしたのは、倒れていく自分の体と......ダガーを持った、猫耳の女だった。


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