【完結】魔王、奴隷、聖女。それが私の経歴です。〜追放されし奴隷魔王は聖女となり、勇者を育て復讐する〜

アキ・スマイリー

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魔王から奴隷へ。

第8話 ネリスの変身。

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「グルル......」

 酷い悪臭を放ちながら、ヘルハウンドは処刑場の中央へとゆっくり進んでくる。その大きさは、二階建ての家屋くらいはありそうだ。

「アリエッタ、予定通り君は見守ってて。隷従の首輪の影響で、魔術も使えないし暴力も振るえないんだからね」

「うん。わかってる。頑張って、ネリス。あのね......一年あなたと一緒にいたけど、ずっと言ってなかった事があるの」

「ん? 何?」

 ヘルハウンドがゆっくりと迫る中、私はネリスの顔を両手で挟み込む。

「あの時の返事、今するね。私もあなたの事が好き。大好きだよ」

 そう言って、彼の唇に自分の唇を重ねた。ネリスは私を強く抱きしめ、キスを返してくる。

「おおー! なんだあいつら、キスしてやがる! ヒュー! 熱いねぇ!」

「きっと死に際の別れって奴だぜ!」

 観戦している囚人達が騒いでいるが、関係ない。私達はヘルハウンドが攻撃を開始するその瞬間まで、何度もキスをした。

「グオオオオッ!」

 ヘルハウンドが飛びかかって来た。その鋭い牙で、私達をぐちゃぐちゃに咀嚼しようと。けれどその動きは私もネリスも読んでいる。

 私達は同時にその場を跳躍して離れた。何度か跳躍して、少しヘルハウンドと距離を取る。

「異空間ではアリエッタに守られっぱなしだったからね。今度は僕が、君を守る。超変身!」

 ネリスの体が光り輝く。そして次の瞬間。彼の姿は長身の美女へと変化した。その姿は、私の母とネリスの面影を持っていた。この「超変身」は、私の母が持っていた「女神の加護」の能力。ネリスが「融合進化」で身につけた力。肉体の潜在能力を極限まで引き出す。そして母が持っていた能力だからなのか、何故か女性に性転換してしまう。

「なっ! なんだアイツ! 女になったぞ!」

「しかもめちゃくちゃいい女じゃねぇか! くー! 色っぺぇ! 頑張れネェちゃん!」

 ネリスは片手を上げて声援に応え、私にフッと微笑む。

「それじゃ、行ってくる」

「うん! 頑張って!」

 私とネリスはまたキスをする。

「百合かよ! 尊いぜ!」

 騒ぐ外野。私とネリスはクスクスと笑い合う。そして次の瞬間、ネリスは華麗に跳躍して宙返り。再び飛びかかって来ていたヘルハウンドの目に剣を突き刺した。

「ギャフゥゥーン!」

 ヘルハウンドは痛みに悶える。ネリスは悶えるヘルハウンドの目玉から剣を引き抜き、噴き出した血液を身に浴びる。そして血に濡れた右手をペロリと舐めた。

「融合進化!」

 ネリスが叫ぶ。すると彼......いや、今は彼女か。の両腕が赤く燃えるように輝いた。これはヘルハウンドの固有能力(ユニークスキル)「ヘル・バーニング」だ。

「トドメだ!」

 ネリスは剣を構え、ヘルハウンドに振りかぶる。

「ネリス! 剣を捨てろ!」

 パンデリンが壁の上方にある、看守長用の観戦席から叫ぶ。フォリーとミルダも心配そうにこちらを見ている。

「わかりました」

 ネリスは素直に剣を捨てる。ネリスの「隷従の首輪」の作動条件はパンデリンへの反抗。命令に従わなければ、死よりも恐ろしい激痛が彼女を襲うのだ。きっとパンデリンは、最初から私達に勝たせる気はないのだろう。予想通りではあったが、心底ゲスの極みである。ふふっ......だがあの男は知らない。ネリスの強さを。

「くくく、それでいい。よしヘルハウンド。餌だ、食え」

 パンデリンの声に耳をピンと立て、ヘルハウンドは「クゥーン」と鳴きながら立ち上がる。そして目から血を流しつつ、ゆっくりと口を開いてネリスを食べようとした。

「剣は捨てましたが、闘うのはやめませんよ。ヘル・バーニング!」

 ネリスは燃え輝く右拳でヘルハウンドの上顎を打ち上げる。

「ギャィイイインッ!」

 のけぞるヘルハウンド。その下顎をさらに左拳で打ち上げ、空中に舞い上がったヘルハウンドの腹を、跳躍して蹴り飛ばした。

 ヘルハウンドは壁に叩きつけられ、燃え焦げてブスブスと黒煙を立ち昇らせた。もう鳴き声を上げる事もなく。身動きもしない。

「僕達の勝ちですね! パンデリン様!」

 ネリスは観戦席に向かってガッツポーズ。フォリーとミルダは拍手し、「やったぁ!」と喜び、抱きしめ合っている。

 パンデリンは愕然とし、声もない。まるでカカシにでもなったかのように立ち尽くしている。いい気味だ。ざまぁみろ!

「ネリス!」

 私はネリスの豊かに膨らんだ胸に飛び込む。

「アリエッタ!」

 彼女は少しハスキーな声で、私を抱きしめた。私達は見つめ合い、頷き合う。

「ありがとう、私の王子様! あれ? 今は王女様かな?」

「どっちでもいいさ! 君を守れたからね!」

 ネリスはそう言って、また私にキスをしたのだった。
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