【完結】魔王、奴隷、聖女。それが私の経歴です。〜追放されし奴隷魔王は聖女となり、勇者を育て復讐する〜

アキ・スマイリー

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奴隷から聖女へ。

第12話 伝説の怪物。

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 魔王国シェダールとリーファス聖王国の境界には、大陸を東西に分ける巨大な森がある。通称「魔の森」と呼ばれるその森には、「魔獣」が多く生息している。

 魔獣は魔人を襲う事は無く、人間のみを襲う。そしてシェダールから魔の森を越えた先、リーファスの領域には魔の森を見張るように「聖獣」が生息している。聖獣は人間を襲う事はなく、魔人のみを襲う。

 つまり両国の境界を越える事は、魔人にとっても人間にとっても命がけの危険な行為と言えた。

 私とネリスは馬車に揺られながら、魔の森を目指していた。服は漆黒の奴隷服から、白を基調としたものに着替えてある。監獄を出る際に、ロークに用意させた物だ。

 私とネリスはリーファスの聖王に謁見し、「聖女」と「勇者」に任命されなくてはならない。それなりに見合った服装をする必要があったのだ。

「フォリーとミルダ、今頃どうしてるかな」

 ネリスが遠くを見ながらそう呟いた。私とネリスは、馬車の客室で向き合っている。一応今は、魔人の貴族という事になっていた。リーファスに入ったら、その肩書は捨てるつもりだ。

「きっとうまくやってるよ。今までで一番、快適な仕事の筈だし」

 私も遠くを見つめながら、そう返す。フォリーとミルダは現在、奴隷省大臣ロークの補佐として働いている。身分は上級奴隷だが、下手な魔人達よりも立場は上だと言える。

 私は奴隷省に奴隷使用に関する規約を改定させ、その命、安全、権利を保証させた。ロークとフォリー、ミルダの三人は、シェダールの各地を巡って奴隷の人権確保に動いている。

 もちろん最終目標は奴隷制度の廃止だが、何事にも順序がある。今はとにかく奴隷が虐待されている現状を打破しなくてはならない。

「もうすぐ魔の森に到着しますよ! そこまでで、いいんでしたよね?」

 御者を務める中級奴隷の青年、ワールが客席に声をかけてくる。その声はやや緊張気味だ。魔の森は誰もが恐れる場所。無理もない。

「うん、そこで大丈夫! 私達を降ろしたら、帰ってもいいからね」

 私は快活に返事を返した。馬車はロークに手配してもらい、御者もつけてもらった。御者のような労働を行うのは中級奴隷。中級奴隷は商売をやっている魔人が労働力として使ったり、貴族が領地の農業に使っている。自分達は指示を出すだけで、一切の労働はしないのだ。

 私も城にいた頃は、労働をした事がなかった。今回奴隷となって監獄で働いた事は、辛くはあったが良い経験になった。

 しばらく馬車に揺られていると、突然御者の青年が叫んだ。

「うわあああっ! 化け物!」

 青年が手綱を引き、二頭の馬がのけぞって嘶(いなな)く。

 馬車の前には、身の丈三メートル程の巨漢。その姿は、まるで豚を人間にしたような化け物だった。魔獣ではない。サイクロプスと同じ、伝説の怪物「オーク」だ。魔術による召喚によってしか現れない筈の存在。そいつは不気味な声で唸るように叫ぶ。

「ブヒィ! そこにいるんだろう、ネリス! そしてアリエッタ! 貴様らのせいで私はどん底まで落ちた! この新しい力で、貴様らを殺す!」

 オークはどうやら私達を知っているようだった。その声は憎悪に満ちている。

「アリエッタ、あの化け物は君の知り合い?」

 ネリスが真顔で私に尋ねる。

「知らないよ、あんな豚」

 そう答えるも、察しはついていた。おそらくあの男だろう。

「ルーエント・デナフィリア! かの者の詳細を我が目に伝えよ!」

 私は魔術「鑑定の呪文」を使用し、オークの情報を得た。それによると、やはり正体はあの男だった。ちなみに、隷属の首輪はロークが解除してくれたから全身の痛みは訪れない。ネリスも同様に、ロークに解除してもらっていた。

「今魔術で調べてみたけど、あの怪物はパンデリンだよ。どういう訳か伝説の怪物、オークに変身してしまったみたい。知性や記憶は残ってるみたいだけど、多分話し合いは無駄かな」

 オークは仁王立ちで待機しているようだが、私達が反応しなければ馬車を攻撃してくる可能性が高い。ここは出て行くしかないだろう。私は客席から、御者のワールに話しかけた。

「あの怪物の狙いは私達みたいだから、ここで降りるね! 私達が降りたらすぐに逃げて!」

「わっ、わかりました!」

 ワールが震える声で返す。私はネリスと目を合わせる。彼は頷いて、客席のドアを開けた。

「行こう、アリエッタ!」

「うん!」

 ネリスがまず飛び出し、私もその後に続く。直後、ワールが馬に鞭を入れ、その場を離れようと向きを変え始める。まだ逃げ出すまで時間が必要だ。馬車とワールが攻撃を受けないように、パンデリンの注意を引きつけなくてはならない。ここは私の得意技、挑発の出番だ。

 仁王立ちしたまま、私達を見据えるパンデリン。私は豚の怪物になった男に、ビシッと指を差す。

「久しぶりねパンデリン! 一目でわかったわ、正体があんただってね! その豚みたいな姿は、きっと心の醜さが滲み出たんだわ! 何が新しい力よ! あんたは豚! つまり家畜になった! あんたが蔑(ないがし)ろにしてきた人間の奴隷の、さらに下の家畜にね! この豚野郎!」

 挑発は効果テキメンだった。パンデリンの豚顔は、みるみる険しくなって行く。

「ブヒィー! アリエッタ貴様ぁ! ブヒ殺す!」
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