【完結】魔王、奴隷、聖女。それが私の経歴です。〜追放されし奴隷魔王は聖女となり、勇者を育て復讐する〜

アキ・スマイリー

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奴隷から聖女へ。

第15話 ネリスの家。

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「ただいま」

 ネリスは自分の家の玄関戸をノックし、中から出てきた中年の夫婦にそう言った。

「ネ、ネリス......!」

「ああ......! 夢じゃないかしら......!」

 夫婦は涙を流しながら、ネリスを抱きしめた。

「すまないネリス! 私達が間違っていた......!」

「ごめんね、ごめんねネリス! でも生きていてくれて良かった! ありがとう、帰って来てくれて!」

 号泣するネリスの両親。ネリスは優しく彼らの肩を抱く。

「僕なら大丈夫だよ。一緒に働く仲間と支え合って、十年間生きてきた。父さんの事も、母さんの事も、もう恨んでないよ。それに、大切な人にも巡り逢えたんだ。おいで、アリエッタ」

 私は戸惑いながらも、ネリスの側に歩み寄り、その隣に立つ。

「お父様、お母様、初めまして。私はアリエッタと申します。私もシェダールで奴隷として使われていました。過酷な日々でした。ですがネリスと出会い、彼と支え合う事で今日まで生き延びる事が出来たんです」

 私はそう言って微笑み、それからネリスの顔を見上げた。ネリスも優しく微笑んでいた。

「初めまして、アリエッタ。良く来てくれたね。これからもネリスの側に、いてやって欲しい」

 ネリスの父親が、そう言って私の肩に手を置いた。

「はい、もちろんです」

 私は笑顔で彼の願いを了承した。

「アリエッタ、素敵な名前ね。まるで聖女様のようだわ。ネリス、素敵な人に出会えて良かったわね。さぁ、疲れているでしょう。中に入って休むといいわ」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」

 ネリスの母親に導かれ、私とネリスは家の中に入った。木造一階建の小さな家。内装は質素で、家具も最低限の物しか無い。窓も少なく、季節は春だが少し寒く感じられた。

「さぁ、何も無いところですが、どうぞおかけになって」

 四角いテーブルに案内され、私達は四人でお茶を飲んだ。とても味の薄いお茶だったが、それが夫婦にとって精一杯のもてなしである事は理解していた。

 夫婦はネリスに再び謝罪した後、奴隷の生活がどんなものかを尋ねて来た。私とネリスは少し話をでっち上げながら、労働の話をした。罰や拷問、処刑の話は刺激が強いのでやめておいた。それでも夫婦は、罪悪感をさらに強くしたようだった。

「ああ、なんて事だ......。ではシエラもきっと、苦しんでいるんだろうね」

 ネリスの父が、がっくりと項垂れて頭を抱える。

「姉さんなら大丈夫だよ。奴隷の中でも比較的高い地位にいるんだ。給料ももらっているらしいし、そんなに心配する事ないよ」

 ネリスは私が教えたように、両親にシエラの事を話した。実際にシエラがどんな状況にあるかはわからないが、きっと生きている筈だ。彼女を救出した暁には、もう一度ここを訪れようと思う。

「そうか。それを聞いて少しだけホッとしたよ。それでも私達が犯した罪が消える訳では無いが、しかし......言い訳になってしまうんだが、あの奴隷商人の声を聞いていると、不思議と信じたくなってしまう。罪悪感が、ふっと心から消えて、自分が正しい事をしていると思えてしまうんだ。十年前のあの日、この村のほとんどの家から子供が連れ去られてしまった。もしまたあいつが来たら、今度こそこの村の子供は全滅してしまうだろう」

 ネリスの父は、悲しげな目をしてテーブルを見つめた。奴隷商人の男。もしかしたらそいつは人を騙す技術、もしくは何らかの「加護」能力を持っているのかも知れない。

「私の両親は、シェダールの奴隷制度撤廃を求めて処刑されました。私はその遺志を継ぎ、必ずそれを成し遂げるつもりです。奴隷商人の存在も、もちろん許すつもりはありません。見つけたら叩き潰します!」

 私はドンッとテーブルに拳を叩きつけた。ネリスの両親は驚いて飛び上がった。

「ごめんなさい! つい熱が入っちゃって......」

 私は即座に頭を下げて謝罪した。ネリスはヨシヨシと私の頭を撫でてくれる。

「いえ、いいのよ。ありがとうアリエッタ。その気持ち嬉しいわ。奴隷商人だって、私達と同じリーファスの国民の筈。それなのに子供を買収して敵国に売るなんて、とても許せる行為じゃ無いわ。私だって同じ気持ちよ」

 ネリスの母はそう言って、私の手をそっと握った。

「お母様......」

 私が言いかけたその時。玄関の戸が激しくノックされた。

「ウォーホールさん! あいつが来た! 奴隷商人だ!」

「何だって!?」

 ネリスの姓はウォーホールと言うらしい。ネリスの父は慌てて立ち上がり、玄関へと走った。そしてドアを開け、ノックしていた人物の話を聞く。

「あいつは村長さんの家に向かってる! 前回どこの家を回ってないか、しっかり覚えてやがるんだ!」

「何だと!? ロザンナが危ない!」

 ネリスの父は焦っているようだ。おそらくロザンナとは村長の娘か孫だろう。

「みんなで村長さんの家の前に集まってるんだ! あんた達も来てくれ!」

「わかった!」

 奴隷商人の来訪を伝えに来た男が走り去っていく。ネリスの父は振り返り、私達を見た。

「例の奴隷商人が、十年ぶりにやって来たようだ。きっと奴隷が足りなくなったんだろう。私と母さんは村長の家に行くが、お前達はどうする?」

 心配そうに私達を見るネリスの父。奴隷商人を恐れていると思っているのだろう。

 私はネリスの顔を見た。彼は頷く。きっと私と同じ気持ちだ。

「もちろん行きます! ねぇ、ネリス!」

「ああ! こんな絶好の機会を、逃すわけがない!」

「よし、じゃあついて来なさい!」

 ネリスの父はそう言って、ネリスの母の手を引いて駆け出した。私とネリスも、手を繋いでその後を追った。
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