【完結】魔王、奴隷、聖女。それが私の経歴です。〜追放されし奴隷魔王は聖女となり、勇者を育て復讐する〜

アキ・スマイリー

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奴隷から聖女へ。

第21話 油断大敵、先手必勝。

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 まるで迷路のような洞窟宮殿の中を、私とネリスはひた走る。

「また別れ道だ、アリエッタ!」

「右よ、ネリス!」

 闇の女神テネブラエより授かりし加護能力「神眼」。私が求めているものを、視界に映し出す能力。

 方角と距離。それが今視界に映っている情報。それを手がかりに、私は別れ道の選択をしていた。

 もちろんそれだけでは判然としない場合もあるが、そこはナハティムから引き出した情報と照らし合わせて判断していく。

 数十分程走り抜けた先。ようやくそれらしき場所に辿り着いた。そこには、見上げる程に高い壁。一見すると行き止まりのように見えるが、ナハティムから得た情報と私の神眼が、ここで間違いないと太鼓判を押す。

「ネリス、この壁壊せる?」

「任せて! ヘル・バーニング!」

 ネリスは豊かな胸を揺らしながら、燃える拳を振りかぶって壁を打ち抜く。

 轟音と共に崩れる岩壁。

「ありがとう! 先に行ってるね! アイゼンラルダ・ホリンジオ! 私の体、宙を舞え!」

 私は魔術「飛行の呪文」を唱え、落下してくる岩を避けつつ飛翔する。自分ではなくネリスに壁を壊してもらったのは、これが理由。間髪入れずに飛び込む為だ。

 飛び込んだ先、研究所内は思ったよりも明るい。壁に埋め込まれた「光」の精霊機構が、所内を青っぽい光で照らしている。中には研究者らしき白衣を着た人間達が、忙しそうに歩き回っている。奥には「高速培養槽」があり、赤ん坊や幼児、少年や青年、様々な年齢と性別の人間が内部の水に浮かんでいる。

「なっ! 誰だ貴様!」

 宙に浮かぶ私を見つけ、入ってすぐの場所にいた「番人」が面食らう。見た目四十代くらいの痩せた男。とても強そうには見えないが、腰のホルダーに何か入っている。おそらくあれは、何かの精霊機構。

「いでよ、大地の精霊タイタン!」

 男は長方形のカード型をしたその精霊機構を引き抜きながら、声高に叫ぶ。

 刹那、思考がめぐる。

 聞いた事がある。精霊そのものを召喚し、従わせる伝説の精霊機構の話を。

 だが、遥か昔に封印された筈の遺物。何故それをこの男が持っているのか。答えは一つ。例の「あのお方」の差し金だろう。

 そのカード型精霊機構から放たれる膨大な圧力に、私の背に悪寒が走る。あれを解放させてはならない。

 私は強い。他に並ぶ者が居ないほどに。圧倒的強者。魔王無双。

 だが、奴隷商人ビザールの持つ「服従の笛」の前に一度は屈した。もしもあの場にネリスがいなければ、私の敗北は確定していた。

 油断大敵。どうやってかはわからないが、「あのお方」とやらは次々と伝説の精霊機構を蘇らせているようだ。そして自分の配下に使用させている。

 伝説の精霊機構は私にとっても未知数。ならば速攻で叩き潰すまで! 先手必勝!

 私は男がカードをホルダーから抜き切る0.5秒の間に呪文を選択し、右手を突き出しながら素早く詠唱する。

「ディハマリオ! 束縛せよ!」

 最も詠唱時間が短い呪文、「束縛の呪文」を選択。男の周囲に鎖が出現し、その全身を縛り上げる。

「うおおっ! なんだこりゃあ!」

 男はカードを取り落とすが、そこから放たれる圧力は消えない。召喚が成功してしまったのかも知れない。

 次の瞬間。カードから巨大な拳が出現し、私の全身を打ち抜く。脳を揺さぶられ、意識が飛びかける。

「アリエッタ!」

 ネリスの声が鼓膜に響く。落下する岩をくぐり抜け、来てくれたのだ。私を助ける為に。その瞬間、私の心臓は高速で脈打ち、脳に圧倒的な血流が流れ込む。

 ネリス! あなたがいる限り、私は絶対に負けない!

「おおおおおっ!」

 私は雄叫びをあげ、巨大な拳を殴りつけた。連打。圧倒的連打。大地の精霊タイタンの指が、ボキボキと折れひしゃげて行く。

 その間にもタイタンはカードからグングンと伸び上がってくる。指が折れるのをものともしない。全身が出現する頃には、私は研究所の高い天井に激突しそうな程に押し上げられていた。

 だが突如、その巨体がグラリと傾く。神眼で素早くネリスを探す。やはりそうだ。彼女が「ヘル・バーニング」の燃える拳で、巨人タイタンの片足を打ち抜いていたのだ。

 逃さない。このチャンスを! ネリスが作ってくれた、唯一の隙を!

「グイバイル・ドルト! 魔剣よ我が手に!」

 魔剣召喚の呪文。右手に現れたのは、最強の魔剣「ダーイン・スレイヴ」!

「おおう! また呼んでくれたなエッダ! じゃねぇやアリエッタ! 今度の奴は骨がありそうじゃねぇか!」

 ダーイン・スレイヴは現れると同時に軽口を叩く。

「ええ! きっと斬りがいあるわ! 行くよダース!」

「おうよ!」

 私は魔剣を振りかぶり、大地の精霊タイタンを一閃する。

「ぐごおおおおおおっ!」

 タイタンの体の中心に、まっすぐと光の線が駆け抜ける。頭から股間までが輝き、内側から溢れるその光に切り裂かれていく。

 巨体が半分に割れ、倒れていく。それは研究所を破壊し尽くすと思われたが、落下の途中で霧のように消滅した。

「はぁっ、はぁっ......」

 私は額の汗を拭いながら、ゆっくりと降下していく。

 そこには、ネリスが待っていてくれた。両手を掲げ、私を受け止める。

 その柔らかい感触に、私の全身から力が抜けていく。

「お疲れ様。僕の愛しい人」

 そう言って優しく微笑み、キス。

「......うん!」

 色んな言葉が溢れそうだった。だけど私はそれだけ言って、ネリスにキスを返した。それ以上の言葉は、今の私達には邪魔でしかなかった。

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