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第2話 目覚めたら、のじゃロリ狐娘になってた。
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目を開けると、紅葉ちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「あ、起きた。新しい体の具合はどう?」
新しい体? ああ、あの木彫りの狐像の事か? え? って事は俺、木彫りの狐になっちゃったの?
「俺、今どうなって......」
なんだこの声ぇぇ!?思いっきり女の子の声じゃねーか!
俺はガバッと飛び起き、周囲を見渡す。
「鏡とか、ある!?」
「あるわよ。はい」
どこから取り出したのか、紅葉ちゃんは手鏡を俺に貸してくれた。
「うわああああ!なんだこえれぇ!」
鏡に映ってるのは、見た目六~八歳くらいの美少女だ。ん?あ、顔は変わってないや。元々女顔だったし違和感はないけど......うわわ、狐みたいな耳ついてるぅぅ!すっごい可愛い! ちなみに服装は、紅葉ちゃんが着ている服に似ていた。巫女さんみたいな感じだ。
「私の眷属になったんだもん。ちゃんと狐神の姿にしてあげないとね?守り神としての力を扱えるのは狐神だけ。そして狐神の性別は、女の子だけなの。勝手に性転換させちゃってゴメンだけど......でも可愛いでしょ?気に入ったかな」
いやいやいやいや!聞いてねぇし!
「女の子になったら、彼女出来ないじゃんかぁー!」
俺は魂の叫びをあげた。
「そこ!? じゃあ彼氏作ればいいじゃん」
「いやホモじゃねぇし! 俺はぜってぇ彼女作るかんな!」
もうこの際、体が女でもいいや。とにかく彼女を作るっていう俺の夢だけは、死んでも捨てきれん!
「はいはい、んじゃ好きにして。とにかく、この村を守るって言う使命だけは、絶対守ってよ!サボったら木彫りの彫刻に戻すからね!」
げっ、まじかよ。紅葉ちゃん、可愛い顔してやる事結構エゲツないな。
「わーったよ。やるよ。んで、まずは何から始めればいいんだ?」
俺がそう言うと、紅葉ちゃんは小首を傾げて、指を顎に当てる。くっ、可愛い。
「そうだなぁ。まずは村の皆に挨拶したらどうかな。それからその言葉使い、直して」
挨拶か。まぁ、挨拶はコミュニケーションの基本だしな。俺もどんな人たちが村に住んでるのか、興味ある。けど、言葉使い直すのは、結構難しそうだぞ。
「私、とか言えばいいのか?」
「そうねー。いや、ちょっと待って。ワシ、がいいわ。威厳あるでしょ。わしはこの村の守り神じゃ、みたいな感じで」
「ええ!? 本気か? まるっきりババァじゃねぇか。見た目とギャップありすぎんだろ」
「んっふふ。わかってないなぁ。それがいいんじゃない。のじゃロリって言ってね、ギャップ萌えってやつよ。まぁいいから言う通りにして」
「えー、しょうがないなぁ。わしはこの村の守り神じゃ。よろしく頼むぞよ。こんなんでいいか?」
「うんうん♡可愛い! いいよいいよー♡のじゃロリ最高よー♡あ、名前考えなきゃね。その見た目で来人(らいと)ってのも変だし。そうだなぁ......髪が銀色だし、銀杏(いちょう)ってのはどうかな?」
「えー、なんか可愛くない」
「こら、言葉使い」
「か、可愛くないのう。わしはもっと、可愛い名前が良いぞ」
「きゃはは、可愛いー♡いいじゃん、銀杏ちゃん。可愛い名前だよ。そのうち気にいるって」
「そうかのう......」
なんかいいように遊ばれてる気がするよ......。ま、いっか。そんな訳で、とにかく俺の二度目の人生が始まったのだった。
紅葉(もみじ)ちゃんから、この世界の知識を大量に叩き込まれた俺は、一人で村人たちに挨拶しに行くことになった。
うう......心細い。こんな見ず知らずの土地で、コミュ症の俺が、初めて会う他人とまともに話せるのだろうか。
うーん。ダメっぽいな。
だけど、いつまでもうじうじしてたって仕方ない。幸い今は見た目も違うし、ゲームか何かだと思って割り切れば、案外いけるか?
俺はほっぺに、ぱんっ!と気合を入れ、この村の村長の家へと歩き出した。暗くなる前に、村人全員に会いたい。空の明るさから察するに、今はお昼かな。そういや俺、どこに住めばいいんだろ。村長さん、泊めてくれるかな。
歩きながら、紅葉ちゃんが教えてくれた事を思い出す。この村の名前は霧隠れの村。この世界、「常世(とこよ)」では、大陸が一つしかなく、その中心には「都(みやこ)」と呼ばれる栄えた場所がある。この村は、都から追放された人々によって構成されているらしい。
村長の家に着いた。立派なお屋敷などではなく、木造一階建ての、古びた日本家屋風の佇まいだ。ノックしたら戸がぶっ壊れそうなほどボロい。
こほん。俺は咳払いを一つして、戸を軽くノックした。
少しして男の声がし、木の引き戸がガガガと引っかかりながら開く。
「どちらさん?」
男は見た目、四十代前半と行ったところだ。彼が村長なのだろうか。
「お初にお目にかかる。わしはこの村の守り神をしておる銀杏(いちょう)と申す者。お主が村長かえ?いささか話がしたいのじゃが」
うーん、年寄りっぽい喋り方って案外難しいぞ。これであってるかな。頭おかしい子供だと思われたらやだなぁ。
「いかにも私が村長だよ。君が守り神? 随分と幼い声をしているけど......喋り方はおばあちゃんみたいだね。おーい葉月(はづき)、ちょっと来てくれ」
男は目を閉じたまま俺の方を向いて話していたが、後ろを振り返って誰かを呼んだ。もしかしたら、目が見えないのかも知れない。
「はーい。あらあら可愛いお客様ね。えっ......!?あ、あなた!この子、もしかして神様のお使いなんじゃ......狐の耳と尻尾がついてるわ!」
奥からやってきた女性は俺を見て息を飲む。随分と驚いているようだ。だけど正直俺も同じくらい驚いている。何故なら彼女は白い面を顔につけていたからだ。目と鼻の穴、それから口の部分は穴が空いているが、それ以外は真っ白だ。それとは対照的な美しい黒髪が、肩へと流れている。
「おやおや、それは本当かい葉月。じゃあこの子の言っている事は本当なんだねぇ。この村の、守り神様だそうだよ」
またしても、はっと息を飲む葉月さん。仮面の奥の表情は伺い知れないが、目を見開いているのは確認出来た。
「まぁ! それは大変! 申し訳ございません、守り神様!ささ、狭い家ですが、どうぞお入りください」
「うむ、邪魔するぞよ」
葉月さんの案内で家の中へと入る。部屋は一つしかなく、中央には囲炉裏があった。火がたかれ、天井から吊るされた鍋がグツグツと煮えている。
俺は勧められるままに、囲炉裏のそばの床に腰を下ろした。
囲炉裏のそばには子供が一人座っていた。見た目十歳くらいの男の子だ。ニコニコと微笑みを浮かべ、俺を見ている。
「あー、うー、うっ、うっ!」
男の子は手を叩きながらはしゃいでいるが、唸るだけで言葉は話さなかった。と言うより、おそらく話せないのだろう。
「うふふ、日凛(にちりん)ったら凄く嬉しそう。この村には子供が少ないんですよ。だからきっと、守り神様とお友達になりたいんだと思います」
葉月さんはそう言って、優しく日凛の髪を撫でる。
俺の両親は、俺が幼い頃に事故で亡くなったらしい。児童養護施設で育った俺は、親の愛情ってやつに直に触れた事がない。もし俺の母親が生きていたら、こんな風に頭を撫でてくれたのだろうか。
「あら、うふふ。守り神様も、撫でて欲しいの?」
「い、いや、そんな事はないぞ」
俺は顔が熱くなるのを感じた。
「だって、撫でて欲しそうでしたよ? ほら、よしよし」
葉月さんの手は暖かく、心地よかった。俺は涙が出そうになるのを必死に堪えた。今まで誰も、こんな風に俺の頭を撫でてくれた事はなかった。親戚さえも俺を忌み嫌い、引き取るどころか施設に近寄ろうともしなかったらしい。施設長が、俺を蔑むようにそう言っていた事を思い出す。
「も、もう良い。満足じゃ。それからわしの名前は銀杏と言う。今後はそう呼ぶが良い」
「銀杏様ですね。わかりました。ところで銀杏様、本日はどの様なご用件で、こちらに?」
「うむ。この村に夜な夜な現れると言う、物ノ怪(もののけ)の事について、話したい事があってな。村長、今すぐ村人を集めてくれぬか?」
葉月さんと俺のやりとりを、目を閉じて聞いていた村長に話を振る。ちなみに物ノ怪ってのは、妖怪の事ね。
「なるほど、その事でしたか。確かに最近は頻繁に現れているようで、夜中に目を覚ますと不気味な声が聞こえます。幸いまだ喰われた者はおりませんが、私もこのままではまずいと思っていたところです」
村長は目を開けずにそう言った。やはり目が見えないのだ。
「うむ。物ノ怪は真夜中、丑ノ刻(うしのこく)に現れる。その時間に家から出た者は喰われてしまうじゃろうな。今はわしの張った結界が生きているから家の中には入って来れん。じゃが奴らは夜を超えるたびに力を増す。いずれ結界は破られるじゃろう。その前に、こちらから打って出るぞよ」
俺の言葉にこくりと頷き、家を出て行く村長。
「あの人は目が見えないから、私も一緒に行ってきます。帰るまで、日凛をお願い出来ますか?」
そう言って立ち上がる葉月さん。
「うむ、任せておけ」
俺は胸を叩く。正直子供の相手なんてどうしたらいいかわからないけど、まぁなんとかなるだろ。
「あ、起きた。新しい体の具合はどう?」
新しい体? ああ、あの木彫りの狐像の事か? え? って事は俺、木彫りの狐になっちゃったの?
「俺、今どうなって......」
なんだこの声ぇぇ!?思いっきり女の子の声じゃねーか!
俺はガバッと飛び起き、周囲を見渡す。
「鏡とか、ある!?」
「あるわよ。はい」
どこから取り出したのか、紅葉ちゃんは手鏡を俺に貸してくれた。
「うわああああ!なんだこえれぇ!」
鏡に映ってるのは、見た目六~八歳くらいの美少女だ。ん?あ、顔は変わってないや。元々女顔だったし違和感はないけど......うわわ、狐みたいな耳ついてるぅぅ!すっごい可愛い! ちなみに服装は、紅葉ちゃんが着ている服に似ていた。巫女さんみたいな感じだ。
「私の眷属になったんだもん。ちゃんと狐神の姿にしてあげないとね?守り神としての力を扱えるのは狐神だけ。そして狐神の性別は、女の子だけなの。勝手に性転換させちゃってゴメンだけど......でも可愛いでしょ?気に入ったかな」
いやいやいやいや!聞いてねぇし!
「女の子になったら、彼女出来ないじゃんかぁー!」
俺は魂の叫びをあげた。
「そこ!? じゃあ彼氏作ればいいじゃん」
「いやホモじゃねぇし! 俺はぜってぇ彼女作るかんな!」
もうこの際、体が女でもいいや。とにかく彼女を作るっていう俺の夢だけは、死んでも捨てきれん!
「はいはい、んじゃ好きにして。とにかく、この村を守るって言う使命だけは、絶対守ってよ!サボったら木彫りの彫刻に戻すからね!」
げっ、まじかよ。紅葉ちゃん、可愛い顔してやる事結構エゲツないな。
「わーったよ。やるよ。んで、まずは何から始めればいいんだ?」
俺がそう言うと、紅葉ちゃんは小首を傾げて、指を顎に当てる。くっ、可愛い。
「そうだなぁ。まずは村の皆に挨拶したらどうかな。それからその言葉使い、直して」
挨拶か。まぁ、挨拶はコミュニケーションの基本だしな。俺もどんな人たちが村に住んでるのか、興味ある。けど、言葉使い直すのは、結構難しそうだぞ。
「私、とか言えばいいのか?」
「そうねー。いや、ちょっと待って。ワシ、がいいわ。威厳あるでしょ。わしはこの村の守り神じゃ、みたいな感じで」
「ええ!? 本気か? まるっきりババァじゃねぇか。見た目とギャップありすぎんだろ」
「んっふふ。わかってないなぁ。それがいいんじゃない。のじゃロリって言ってね、ギャップ萌えってやつよ。まぁいいから言う通りにして」
「えー、しょうがないなぁ。わしはこの村の守り神じゃ。よろしく頼むぞよ。こんなんでいいか?」
「うんうん♡可愛い! いいよいいよー♡のじゃロリ最高よー♡あ、名前考えなきゃね。その見た目で来人(らいと)ってのも変だし。そうだなぁ......髪が銀色だし、銀杏(いちょう)ってのはどうかな?」
「えー、なんか可愛くない」
「こら、言葉使い」
「か、可愛くないのう。わしはもっと、可愛い名前が良いぞ」
「きゃはは、可愛いー♡いいじゃん、銀杏ちゃん。可愛い名前だよ。そのうち気にいるって」
「そうかのう......」
なんかいいように遊ばれてる気がするよ......。ま、いっか。そんな訳で、とにかく俺の二度目の人生が始まったのだった。
紅葉(もみじ)ちゃんから、この世界の知識を大量に叩き込まれた俺は、一人で村人たちに挨拶しに行くことになった。
うう......心細い。こんな見ず知らずの土地で、コミュ症の俺が、初めて会う他人とまともに話せるのだろうか。
うーん。ダメっぽいな。
だけど、いつまでもうじうじしてたって仕方ない。幸い今は見た目も違うし、ゲームか何かだと思って割り切れば、案外いけるか?
俺はほっぺに、ぱんっ!と気合を入れ、この村の村長の家へと歩き出した。暗くなる前に、村人全員に会いたい。空の明るさから察するに、今はお昼かな。そういや俺、どこに住めばいいんだろ。村長さん、泊めてくれるかな。
歩きながら、紅葉ちゃんが教えてくれた事を思い出す。この村の名前は霧隠れの村。この世界、「常世(とこよ)」では、大陸が一つしかなく、その中心には「都(みやこ)」と呼ばれる栄えた場所がある。この村は、都から追放された人々によって構成されているらしい。
村長の家に着いた。立派なお屋敷などではなく、木造一階建ての、古びた日本家屋風の佇まいだ。ノックしたら戸がぶっ壊れそうなほどボロい。
こほん。俺は咳払いを一つして、戸を軽くノックした。
少しして男の声がし、木の引き戸がガガガと引っかかりながら開く。
「どちらさん?」
男は見た目、四十代前半と行ったところだ。彼が村長なのだろうか。
「お初にお目にかかる。わしはこの村の守り神をしておる銀杏(いちょう)と申す者。お主が村長かえ?いささか話がしたいのじゃが」
うーん、年寄りっぽい喋り方って案外難しいぞ。これであってるかな。頭おかしい子供だと思われたらやだなぁ。
「いかにも私が村長だよ。君が守り神? 随分と幼い声をしているけど......喋り方はおばあちゃんみたいだね。おーい葉月(はづき)、ちょっと来てくれ」
男は目を閉じたまま俺の方を向いて話していたが、後ろを振り返って誰かを呼んだ。もしかしたら、目が見えないのかも知れない。
「はーい。あらあら可愛いお客様ね。えっ......!?あ、あなた!この子、もしかして神様のお使いなんじゃ......狐の耳と尻尾がついてるわ!」
奥からやってきた女性は俺を見て息を飲む。随分と驚いているようだ。だけど正直俺も同じくらい驚いている。何故なら彼女は白い面を顔につけていたからだ。目と鼻の穴、それから口の部分は穴が空いているが、それ以外は真っ白だ。それとは対照的な美しい黒髪が、肩へと流れている。
「おやおや、それは本当かい葉月。じゃあこの子の言っている事は本当なんだねぇ。この村の、守り神様だそうだよ」
またしても、はっと息を飲む葉月さん。仮面の奥の表情は伺い知れないが、目を見開いているのは確認出来た。
「まぁ! それは大変! 申し訳ございません、守り神様!ささ、狭い家ですが、どうぞお入りください」
「うむ、邪魔するぞよ」
葉月さんの案内で家の中へと入る。部屋は一つしかなく、中央には囲炉裏があった。火がたかれ、天井から吊るされた鍋がグツグツと煮えている。
俺は勧められるままに、囲炉裏のそばの床に腰を下ろした。
囲炉裏のそばには子供が一人座っていた。見た目十歳くらいの男の子だ。ニコニコと微笑みを浮かべ、俺を見ている。
「あー、うー、うっ、うっ!」
男の子は手を叩きながらはしゃいでいるが、唸るだけで言葉は話さなかった。と言うより、おそらく話せないのだろう。
「うふふ、日凛(にちりん)ったら凄く嬉しそう。この村には子供が少ないんですよ。だからきっと、守り神様とお友達になりたいんだと思います」
葉月さんはそう言って、優しく日凛の髪を撫でる。
俺の両親は、俺が幼い頃に事故で亡くなったらしい。児童養護施設で育った俺は、親の愛情ってやつに直に触れた事がない。もし俺の母親が生きていたら、こんな風に頭を撫でてくれたのだろうか。
「あら、うふふ。守り神様も、撫でて欲しいの?」
「い、いや、そんな事はないぞ」
俺は顔が熱くなるのを感じた。
「だって、撫でて欲しそうでしたよ? ほら、よしよし」
葉月さんの手は暖かく、心地よかった。俺は涙が出そうになるのを必死に堪えた。今まで誰も、こんな風に俺の頭を撫でてくれた事はなかった。親戚さえも俺を忌み嫌い、引き取るどころか施設に近寄ろうともしなかったらしい。施設長が、俺を蔑むようにそう言っていた事を思い出す。
「も、もう良い。満足じゃ。それからわしの名前は銀杏と言う。今後はそう呼ぶが良い」
「銀杏様ですね。わかりました。ところで銀杏様、本日はどの様なご用件で、こちらに?」
「うむ。この村に夜な夜な現れると言う、物ノ怪(もののけ)の事について、話したい事があってな。村長、今すぐ村人を集めてくれぬか?」
葉月さんと俺のやりとりを、目を閉じて聞いていた村長に話を振る。ちなみに物ノ怪ってのは、妖怪の事ね。
「なるほど、その事でしたか。確かに最近は頻繁に現れているようで、夜中に目を覚ますと不気味な声が聞こえます。幸いまだ喰われた者はおりませんが、私もこのままではまずいと思っていたところです」
村長は目を開けずにそう言った。やはり目が見えないのだ。
「うむ。物ノ怪は真夜中、丑ノ刻(うしのこく)に現れる。その時間に家から出た者は喰われてしまうじゃろうな。今はわしの張った結界が生きているから家の中には入って来れん。じゃが奴らは夜を超えるたびに力を増す。いずれ結界は破られるじゃろう。その前に、こちらから打って出るぞよ」
俺の言葉にこくりと頷き、家を出て行く村長。
「あの人は目が見えないから、私も一緒に行ってきます。帰るまで、日凛をお願い出来ますか?」
そう言って立ち上がる葉月さん。
「うむ、任せておけ」
俺は胸を叩く。正直子供の相手なんてどうしたらいいかわからないけど、まぁなんとかなるだろ。
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