23 / 42
第23話 戦略的撤退。
しおりを挟む
俺が次の行動を考えている数秒のうちに、緑爪の足元の鼠は、加速度的にその数を増やして行く。
このままでは前衛の三人が危ない。まずは時間を稼ぐ必要がある。
(ドラザエモン! 巨大な猫に変化するのじゃ! だが間違っても奴らを喰ってはいかんぞ!」
(わかった!オレに任せて銀杏ねぇちゃん!)
ドラザエモンが宙返りし、ドロンと煙に包まれる。煙が晴れると、そこには見上げる程に巨大な化け猫が一匹出現した。
「うにゃー! 食っちゃうぞー!」
ドラザエモンがシャー!と鼠共を威嚇する。
ビクーン!と震え、動きを止める鼠たち。効果てきめんだ。
「あらドラちゃん。可愛い猫ちゃんに変化したのねぇ。猫鍋にしたら、さぞかし美味しいでしょうね。私の爪の毒で、グツグツと肉を溶かして、ドロドロの汁にしてから煮込んであげるわ」
ドラザエモンの全身の毛がブワッと逆立つ。
(銀杏ねぇちゃん、こいつ怖いよー!)
ジリジリと後ずさるドラザエモン。
(戦う必要はないからな、ドラザエモン。おそらくお主一人でむかっても、切り刻まれるのがオチじゃ。どうにかして、また奴の動きを止めなくてはならぬ。それまでの時間稼ぎじゃ。もしやられそうになったら、逃げても構わぬぞ)
(う、うん。本音はもう、逃げたいけど......)
ブルブルと震えるドラザエモン。
「うふふ。可哀想に......そんなに怯えてしまって。だけどうちの子たちもね、ドラちゃんを見てとっても怯えているのよ。だからね、その変化を解いてほしいの。そうしたら、あなたを猫鍋にして食べるなんて事、しないわ。それどころか、抱きしめていい子いい子してあげるわ。どうかしら?」
目を細め、舌舐めずりする緑爪。
(騙されてはならぬぞ、ドラザエモン。そやつに抱きしめられでもしたら最後、殺されてしまうに決まっておる)
(うん、わかってる)
「おっぱいも触らせてあげるわ」
「えっ!」
明らかに動揺するドラザエモン。なんかモジモジしている。
(こらこら、どこまで助平なのじゃお主は。嘘に決まっておるじゃろう)
(わっ、わかってるよ!)
「騙されないぞ、緑爪! 白金様を足蹴にしたお前を!オレは許せないんだ!」
そう言ってもう一度威嚇するドラザエモン。
「へぇ、そう。残念ねぇ。ならいいわ。駆け引きはお仕舞い。私があなたを殺して、それから鼠たちに村人をご馳走してあげればいいだけの事」
緑爪は煙管を胸元にしまい、左手の爪を鋭く伸ばした。鼠たちも緑爪の影の中へと消えて行く。
(引け、ドラザエモン! 全力で逃げるのじゃ!)
緑爪は遊ぶのをやめて戦う事にしたようだ。ならば逃げるしかない!
「うにゃにゃ!」
ドラザエモンは俺の指示に素直に従い、脱兎の如く逃げ出した。
「逃がさないわよ!」
緑爪は前傾姿勢で駆け出した。だがその動きは数秒ともたなかった。
「くっ、何よこれ! 動けない!」
緑爪は走り出す態勢のまま、ピタリと動きを止めた。
(どうやら間に合いましたね!奴の周囲に蜘蛛の粘糸で網を貼りました! 今はまだ夜明け前。雨でも降らない限り、肉眼では見えないはずです!)
木蓮の声が俺の頭に響く。流石は木蓮、出来る男!
(よくやった木蓮! お手柄じゃ)
(いえ、ドラザエモンが時間を稼いでくれたおかげです。銀杏様の指示は、的確でした)
くぅ、謙虚。どこまでイケメンなんだ木蓮。
(ですが長くは持たないでしょう。時間を稼ぎ、奴を倒す方法を考えなくてはなりません)
(うむ。そうじゃな)
緑爪は白金を一方的に瀕死状態に追い込んだ化け物だ。おそらく網は破られる。だが今のところは、とりあえず大丈夫なようだ。緑爪はヒステリックにわめき散らし、網を破ろうともがいている。
あの網は敵を食い止めるには最適だ。だがこちらの攻撃で網を破る恐れもあるし、やすやすとは手出し出来ない。さてどうするか......。
とりあえずこの隙に、前衛の三人と俺、白金は緑爪から距離を取る。新たに出現した(と思われる)木蓮の狐式神が背中に乗せてくれたので、移動は楽に出来た。ここで一旦、作戦を練る必要がありそうだ。
緑爪の四方に展開していた狐人と大蜘蛛のペアが四組、それと先程俺たちを運んでくれた狐式神が三匹。現在は俺たちの前方で待機し、護衛してくれている。
それ以外の仲間は俺と共に円陣を組んでいる。作戦会議の為である。
「銀杏様、私の心眼をもってすれば、網の隙間をぬって矢を撃ち込む事は可能です。いかがでしょうか」
亜水が素敵なアイディアを寄越す。
ふむ、良いかも知れない。この位置からでも敵の動きは見えるが、結構離れているので細かい動きまでは見えない。千里眼が使えない今、あらゆる意味で亜水の心眼は役に立ってくれるだろう。
「そうじゃな。では頼む。それから、弓矢ももっと強力な物が必要じゃ。葉月、作れるか?」
葉月はクスッと笑って、ずっと後ろに回していた両手を前に差し出した。そこには大きな石弓が握られている。
「そうおっしゃると思って、すでに作っておきました。ただ、これを扱える者がいるかしら」
おおお! やるな葉月! 相変わらず抜け目がない。
「大きな弓だから、力持ちじゃないと使えないよね。日凛でも良いかも知れないけど、多分俺の方が弓の扱いは慣れてると思うから、俺がやるよ」
猫から子供の姿に戻ったドラザエモンが、ドンと胸を叩く。
「うー、ドラ、やって」
日凛も異論は無いようだ。ドラザエモンの髪をくしゃくしゃと撫でる。
日凛、覚醒は解けたけど前より喋れるようになったな。成長してるんだ。素直に嬉しい。日凛は俺の事を異性として愛してるって言ってたけど......俺にとっては可愛い弟みたいな存在だ。当然、恋愛対象にはできない。
!?なんか普通に恋愛対象がどうとか考えてるぞ俺。あー、乙女化止まんねぇ!
「ボク、気、送る。矢、強くなる」
悶える俺をよそに、日凛がそう言って葉月の持つ弓矢に触れる。すると弓矢が、ほんのり輝き始めた。
「ありがとう日凛。弓矢が強くなったみたいだ」
笑いあう、ドラザエモンと日凛。どうやらすっかり打ち解けたようだ。良かった。
「それじゃ、はい、ドラちゃん。矢は一本しかないから、しっかり集中して撃つのよ」
葉月が強化された弓矢をドラザエモンに渡す。それを嬉しそうに受け取るドラザエモン。
「うん、頑張るよお母さん。だからおっぱい触らせて」
ガン、と日凛がドラザエモンの後頭部をなぐる。
「ってぇ! 何すんだよ日凛! 冗談通じないんだもんなぁ」
「うー!エッチな事、駄目! ボク、許さない!」
「わかった、わかったって!」
再度にぎりこぶしを作る日凛に、両手をあげて降参の意を示すドラザエモン。その様子を見て、おかしそうに笑う葉月。
「累火、お主も力を送るのじゃ。ドラザエモンにな。さすればこやつの力は何倍にもなるじゃろう。頼めるか?」
累火はずっと泣きながら、白金に向かって「祈祷」で力を送っていた。ドラザエモンに力を送ると言う事は、白金の回復を一旦止めると言う事。
俺の顔を見つめ、ふるふると首を振る累火。白金が心配なのだろう。
「良いのじゃ、累火。白金はこの程度で死ぬような男ではない。あの緑爪を倒したら、また白金に力を送ってくれれば良い。じゃから、頼む」
少し悩んだように目を伏せ、こくりと頷く累火。白金の前で跪(ひざまず)いていたが、すっと立ち上がる。
そしてドラザエモンの方を振り返り、祈祷を始めた。徐々に光を失っていく白金の体と相反するように、ドラザエモンの体が輝き始める。
「うわぁ、すごい! 力がみなぎってくるよ! ありがとう累火おねぇちゃん!」
もりっと力こぶを作って見せるドラザエモン。累火はそれを見てクスッと笑う。良かった、やっと笑顔になった。
白金、少し待っててくれよ。きっとあいつを倒して、それからゆっくり治療してやるからな。
俺は白金の髪を撫で、冷たくなった頰に手を当てた。
胸が苦しい。こんな気持ち、初めてだ。コイツを失いたくない。今の俺には、それが全てだった。
「俺が囮になります。式神を使って、奴の注意を逸らしましょう。その隙にドラザエモンが矢を放つ。それでいかがでしょうか、銀杏様」
「うむ、良いぞ。その作戦で行こう」
木蓮の指示で、三匹の狐式神が飛び立つ。
そんな木蓮の颯爽とした姿を見ても、前のような胸の高鳴りは感じなかった。
ああ、俺、白金の事、好きになっちゃったんだ。そう確信せざるを得なかった。
「銀杏様、私が心眼で見ている光景を、神通力でお読み取りください」
「う、うむ!」
亜水の声にハッとなる。いけない。集中しなきゃ。
俺は「司令塔」の能力で、亜水が今見ている光景を見た。真っ暗な中に、いくつかの光が見える。その光は、人の姿をしていた。
「光が見えるでしょう。実際には『見えている』のとは少し違いますが......。それは生き物を示す光です。私は慣れているので、どの光が誰なのかわかりますが、銀杏様にはまだお分りにならないと思いますので、私が集中して見ている光をお読み取りください。それが緑爪です」
確かに、亜水が一点集中して見ている光がある。そしてその周囲には、白くぼんやりとした網のようなものが見える。
「肉眼では見えない網も、私の心眼ならこの通りです。視覚に頼りすぎると、見えなくなるものもあるますからね。この網の抜け道を突っ切って、矢を放ちましょう」
「心得た」
俺は亜水から受け取ったイメージを、そのままドラザエモンに送る。ドラザエモンも最初は戸惑っていたが、すぐに慣れた。
「いけるか、ドラザエモン」
「うん! 緑爪の奴、木蓮お兄ちゃんの式神に気を取られ始めた。今だ!」
すでに弦を引き絞っていたドラザエモンは、ピシュン!と矢を放った。
数秒の後、緑爪の叫び声が聞こえてきた。それは耳を覆いたくなるほど、恐ろしい声だった。
このままでは前衛の三人が危ない。まずは時間を稼ぐ必要がある。
(ドラザエモン! 巨大な猫に変化するのじゃ! だが間違っても奴らを喰ってはいかんぞ!」
(わかった!オレに任せて銀杏ねぇちゃん!)
ドラザエモンが宙返りし、ドロンと煙に包まれる。煙が晴れると、そこには見上げる程に巨大な化け猫が一匹出現した。
「うにゃー! 食っちゃうぞー!」
ドラザエモンがシャー!と鼠共を威嚇する。
ビクーン!と震え、動きを止める鼠たち。効果てきめんだ。
「あらドラちゃん。可愛い猫ちゃんに変化したのねぇ。猫鍋にしたら、さぞかし美味しいでしょうね。私の爪の毒で、グツグツと肉を溶かして、ドロドロの汁にしてから煮込んであげるわ」
ドラザエモンの全身の毛がブワッと逆立つ。
(銀杏ねぇちゃん、こいつ怖いよー!)
ジリジリと後ずさるドラザエモン。
(戦う必要はないからな、ドラザエモン。おそらくお主一人でむかっても、切り刻まれるのがオチじゃ。どうにかして、また奴の動きを止めなくてはならぬ。それまでの時間稼ぎじゃ。もしやられそうになったら、逃げても構わぬぞ)
(う、うん。本音はもう、逃げたいけど......)
ブルブルと震えるドラザエモン。
「うふふ。可哀想に......そんなに怯えてしまって。だけどうちの子たちもね、ドラちゃんを見てとっても怯えているのよ。だからね、その変化を解いてほしいの。そうしたら、あなたを猫鍋にして食べるなんて事、しないわ。それどころか、抱きしめていい子いい子してあげるわ。どうかしら?」
目を細め、舌舐めずりする緑爪。
(騙されてはならぬぞ、ドラザエモン。そやつに抱きしめられでもしたら最後、殺されてしまうに決まっておる)
(うん、わかってる)
「おっぱいも触らせてあげるわ」
「えっ!」
明らかに動揺するドラザエモン。なんかモジモジしている。
(こらこら、どこまで助平なのじゃお主は。嘘に決まっておるじゃろう)
(わっ、わかってるよ!)
「騙されないぞ、緑爪! 白金様を足蹴にしたお前を!オレは許せないんだ!」
そう言ってもう一度威嚇するドラザエモン。
「へぇ、そう。残念ねぇ。ならいいわ。駆け引きはお仕舞い。私があなたを殺して、それから鼠たちに村人をご馳走してあげればいいだけの事」
緑爪は煙管を胸元にしまい、左手の爪を鋭く伸ばした。鼠たちも緑爪の影の中へと消えて行く。
(引け、ドラザエモン! 全力で逃げるのじゃ!)
緑爪は遊ぶのをやめて戦う事にしたようだ。ならば逃げるしかない!
「うにゃにゃ!」
ドラザエモンは俺の指示に素直に従い、脱兎の如く逃げ出した。
「逃がさないわよ!」
緑爪は前傾姿勢で駆け出した。だがその動きは数秒ともたなかった。
「くっ、何よこれ! 動けない!」
緑爪は走り出す態勢のまま、ピタリと動きを止めた。
(どうやら間に合いましたね!奴の周囲に蜘蛛の粘糸で網を貼りました! 今はまだ夜明け前。雨でも降らない限り、肉眼では見えないはずです!)
木蓮の声が俺の頭に響く。流石は木蓮、出来る男!
(よくやった木蓮! お手柄じゃ)
(いえ、ドラザエモンが時間を稼いでくれたおかげです。銀杏様の指示は、的確でした)
くぅ、謙虚。どこまでイケメンなんだ木蓮。
(ですが長くは持たないでしょう。時間を稼ぎ、奴を倒す方法を考えなくてはなりません)
(うむ。そうじゃな)
緑爪は白金を一方的に瀕死状態に追い込んだ化け物だ。おそらく網は破られる。だが今のところは、とりあえず大丈夫なようだ。緑爪はヒステリックにわめき散らし、網を破ろうともがいている。
あの網は敵を食い止めるには最適だ。だがこちらの攻撃で網を破る恐れもあるし、やすやすとは手出し出来ない。さてどうするか......。
とりあえずこの隙に、前衛の三人と俺、白金は緑爪から距離を取る。新たに出現した(と思われる)木蓮の狐式神が背中に乗せてくれたので、移動は楽に出来た。ここで一旦、作戦を練る必要がありそうだ。
緑爪の四方に展開していた狐人と大蜘蛛のペアが四組、それと先程俺たちを運んでくれた狐式神が三匹。現在は俺たちの前方で待機し、護衛してくれている。
それ以外の仲間は俺と共に円陣を組んでいる。作戦会議の為である。
「銀杏様、私の心眼をもってすれば、網の隙間をぬって矢を撃ち込む事は可能です。いかがでしょうか」
亜水が素敵なアイディアを寄越す。
ふむ、良いかも知れない。この位置からでも敵の動きは見えるが、結構離れているので細かい動きまでは見えない。千里眼が使えない今、あらゆる意味で亜水の心眼は役に立ってくれるだろう。
「そうじゃな。では頼む。それから、弓矢ももっと強力な物が必要じゃ。葉月、作れるか?」
葉月はクスッと笑って、ずっと後ろに回していた両手を前に差し出した。そこには大きな石弓が握られている。
「そうおっしゃると思って、すでに作っておきました。ただ、これを扱える者がいるかしら」
おおお! やるな葉月! 相変わらず抜け目がない。
「大きな弓だから、力持ちじゃないと使えないよね。日凛でも良いかも知れないけど、多分俺の方が弓の扱いは慣れてると思うから、俺がやるよ」
猫から子供の姿に戻ったドラザエモンが、ドンと胸を叩く。
「うー、ドラ、やって」
日凛も異論は無いようだ。ドラザエモンの髪をくしゃくしゃと撫でる。
日凛、覚醒は解けたけど前より喋れるようになったな。成長してるんだ。素直に嬉しい。日凛は俺の事を異性として愛してるって言ってたけど......俺にとっては可愛い弟みたいな存在だ。当然、恋愛対象にはできない。
!?なんか普通に恋愛対象がどうとか考えてるぞ俺。あー、乙女化止まんねぇ!
「ボク、気、送る。矢、強くなる」
悶える俺をよそに、日凛がそう言って葉月の持つ弓矢に触れる。すると弓矢が、ほんのり輝き始めた。
「ありがとう日凛。弓矢が強くなったみたいだ」
笑いあう、ドラザエモンと日凛。どうやらすっかり打ち解けたようだ。良かった。
「それじゃ、はい、ドラちゃん。矢は一本しかないから、しっかり集中して撃つのよ」
葉月が強化された弓矢をドラザエモンに渡す。それを嬉しそうに受け取るドラザエモン。
「うん、頑張るよお母さん。だからおっぱい触らせて」
ガン、と日凛がドラザエモンの後頭部をなぐる。
「ってぇ! 何すんだよ日凛! 冗談通じないんだもんなぁ」
「うー!エッチな事、駄目! ボク、許さない!」
「わかった、わかったって!」
再度にぎりこぶしを作る日凛に、両手をあげて降参の意を示すドラザエモン。その様子を見て、おかしそうに笑う葉月。
「累火、お主も力を送るのじゃ。ドラザエモンにな。さすればこやつの力は何倍にもなるじゃろう。頼めるか?」
累火はずっと泣きながら、白金に向かって「祈祷」で力を送っていた。ドラザエモンに力を送ると言う事は、白金の回復を一旦止めると言う事。
俺の顔を見つめ、ふるふると首を振る累火。白金が心配なのだろう。
「良いのじゃ、累火。白金はこの程度で死ぬような男ではない。あの緑爪を倒したら、また白金に力を送ってくれれば良い。じゃから、頼む」
少し悩んだように目を伏せ、こくりと頷く累火。白金の前で跪(ひざまず)いていたが、すっと立ち上がる。
そしてドラザエモンの方を振り返り、祈祷を始めた。徐々に光を失っていく白金の体と相反するように、ドラザエモンの体が輝き始める。
「うわぁ、すごい! 力がみなぎってくるよ! ありがとう累火おねぇちゃん!」
もりっと力こぶを作って見せるドラザエモン。累火はそれを見てクスッと笑う。良かった、やっと笑顔になった。
白金、少し待っててくれよ。きっとあいつを倒して、それからゆっくり治療してやるからな。
俺は白金の髪を撫で、冷たくなった頰に手を当てた。
胸が苦しい。こんな気持ち、初めてだ。コイツを失いたくない。今の俺には、それが全てだった。
「俺が囮になります。式神を使って、奴の注意を逸らしましょう。その隙にドラザエモンが矢を放つ。それでいかがでしょうか、銀杏様」
「うむ、良いぞ。その作戦で行こう」
木蓮の指示で、三匹の狐式神が飛び立つ。
そんな木蓮の颯爽とした姿を見ても、前のような胸の高鳴りは感じなかった。
ああ、俺、白金の事、好きになっちゃったんだ。そう確信せざるを得なかった。
「銀杏様、私が心眼で見ている光景を、神通力でお読み取りください」
「う、うむ!」
亜水の声にハッとなる。いけない。集中しなきゃ。
俺は「司令塔」の能力で、亜水が今見ている光景を見た。真っ暗な中に、いくつかの光が見える。その光は、人の姿をしていた。
「光が見えるでしょう。実際には『見えている』のとは少し違いますが......。それは生き物を示す光です。私は慣れているので、どの光が誰なのかわかりますが、銀杏様にはまだお分りにならないと思いますので、私が集中して見ている光をお読み取りください。それが緑爪です」
確かに、亜水が一点集中して見ている光がある。そしてその周囲には、白くぼんやりとした網のようなものが見える。
「肉眼では見えない網も、私の心眼ならこの通りです。視覚に頼りすぎると、見えなくなるものもあるますからね。この網の抜け道を突っ切って、矢を放ちましょう」
「心得た」
俺は亜水から受け取ったイメージを、そのままドラザエモンに送る。ドラザエモンも最初は戸惑っていたが、すぐに慣れた。
「いけるか、ドラザエモン」
「うん! 緑爪の奴、木蓮お兄ちゃんの式神に気を取られ始めた。今だ!」
すでに弦を引き絞っていたドラザエモンは、ピシュン!と矢を放った。
数秒の後、緑爪の叫び声が聞こえてきた。それは耳を覆いたくなるほど、恐ろしい声だった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~
ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」
魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。
本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。
ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。
スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる