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第12話 地下五十階層の階層主。
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俺たちは早足で移動し、約束の時間までに冒険者ギルドに到着することが出来た。シュタイン達Sランクの四人と合流し、迷宮攻略に必要な装備を見に纏う。
「装着!」
掛け声と共に、鎧や剣などの装備品が体に装着されていく。これは冒険者のみの特権で、魔術機構である「冒険者証」に装備品を収納出来るのだ。着替えなんかも簡単に行える。
あらかじめ装備や服装の組み合わせを「冒険者証」に登録しておく事で、いつでもその組み合わせを身に纏う事が可能だ。
「よし、みんな準備はいいな。指揮は依頼を受けた俺が取らせてもらう。では出発!」
俺の号令で、ゾロゾロと冒険者ギルドの外へ。ギルドの外には、馬車が待機していた。事前に運搬ギルドに連絡して、手配してもらっていたのだ。
馬車は八人乗り。魔術自動車に比べれば揺れるが、贅沢は言っていられない。そもそも平民にあの乗り物は手配出来ない。軽い作戦会議と雑談をしつつ、馬車に揺られて迷宮に向かう。ダフネとキーラは俺にべったりで、目だけは笑っていないシュタインの視線が痛い。やっぱり彼の恨みや嫉妬は消えた訳では無いようだ。
ちなみにダフネはフルプレートメイルを装着している為、ゴツゴツしていて抱きつかれると痛い。
みんなそれなりに仲良しムードだったが、ミストはやっぱり無愛想で、周囲と少し距離を取っている感じがした。基本的にはいい奴なのだが、物怖じしないというか、嫌なものは嫌とハッキリ言うタイプなのだ。
そして馬車に酔ったのか、俺を見つめながらも、ずっと黙りこくっている。まぁ二人で迷宮に行く時は「人間ロケット砲台」で飛んでいくからなぁ。馬車には慣れていないのかも知れない。
やがて馬車は、迷宮付近の停留所へ到着。そこからは歩きだ。三十分程歩き、巨大な宮殿のような建物に辿り着く。
「では予定通りの陣形を組み、探索を始める。だが臨機応変での対応も忘れないでくれ。よし、行くぞ」
ダフネを先頭に、ミスト、キングスリー、ノートン。その後ろにシュタイン、モリー、俺。最後尾にキーラという陣形で、菱形のように並んでいる。
俺はなるべく迷宮の把握に努め、戦闘は他のみんなが頑張る作戦だった。だがヤバイ敵が出現した時は、当然俺の出番となる。つまり切り札って奴だ。
軽い打ち合わせの後、探索を開始。
一階の内装は貴族が住う宮殿と大差はない。窓から外も見えるし、部屋によっては調度品もある。人間が住んでいたとしても、何ら不思議はない。
だが地下階層は違う。発光する不思議な石壁によって視界は確保出来るものの、薄暗くひんやりとし、不気味なおぞましさを感じる。例えるならば地下牢といった所だろう。
現在時刻は朝の十時。日光が差し込む一階の探索は、あっという間に終了した。俺が見つけた迷宮の法則により、入り口付近のわずかな探索で特徴を把握。一階のモンスタークリスタルはすぐに発見出来た。
「よし、じゃあ破壊するか。ちょっとみんな下がっていてくれ」
そう言って俺が前に出ようとすると、キングスリーに阻まれた。だが彼は「押忍」しか言わない。
「どうやらキングスリーは、自分の力を試したいようです。ここは彼に譲って頂けませんか?」
ノートンがニコニコとそう言った。表情や態度だけでキングスリーの心情を察したのだ。さすが付き合いが長いだけはある。
「ああ、もちろんそれで構わない。やってくれ、キングスリー」
「押忍」
キングスリーは武術の構えを取ると、気合一閃、モンスタークリスタルに飛び蹴りを放った。
「押忍!」
激しい破壊音と共に、砕けちるクリスタル。飛んでくる破片を、ダフネが大楯で防ぐ。お陰でみんなは怪我一つない。キングスリー自身も、クリスタルの破片が体に付着はしているようだが、怪我はしていないようだ。彼のスキル「鋼鉄の肉体」の効果だろう。
「流石だな。よし、これで一階のミッションは達成だ。もう新たなモンスターが出現する事もないだろう。すぐに地下一階へ進むぞ。出来れば日付が変わる前に、地下五十階層までを制覇したい」
日付が変わる事で、迷宮の構造も全く別のものに姿を変える。そうなると厄介だ。迷宮の把握に余計な時間がかかってしまう。
まずは五十階層。その後は一日毎に十階層ずつクリアしていくのが、今の俺たちの指針だった。
モンスタークリスタルを破壊して、その階層のモンスターを一掃すれば安全は確保出来る。時折休憩を挟みつつ、俺たちは地下五十階層を目指した。
俺とミスト以外のメンバーは、既に地下五十階層までを経験している。十階層毎にいる「階層主」。十階層から四十階層までの四人は、既に倒してあるらしい。
つまりその階層主の部屋さえ見つければ、出口に戻れる「転移門」は利用する事が出来る。
階層毎の移動も「転移門」で行うが、これは一階層下への一方通行だ。
通常は「転移門」の発見にも時間がかかる。だが迷宮の法則性を把握している俺は、即座に転移門を見つける事が出来る。おまけにパーティーの強さも王国最強と言えるメンバーだ。モンスタークリスタルの破壊は順調に進んで行った。
ちなみに宝箱は、入るたびに構造が変わる迷宮と同様、位置や内容も入る度に変わる。ここに来るまでにも相当な数のお宝をゲットした。冒険者は命懸けの職業だが、なりたがる者が後を絶たないのも頷ける。
「いよいよ五十階層だ」
五十階層の階層主は、まだ誰も遭遇した事が無い。パーティーにやや緊張が走る。
「どんな敵が相手でも、ティムがいれば余裕じゃない?」
そんなキーラの一言で、少しだけ緊張が和らぐ。
「姉上のおっしゃる通りです。さぁ、どんどん進みましょう」
ダフネを先頭に、探索を進める。階層主が存在する階層に限り、モンスタークリスタルは階層主の部屋にある。つまり、階層主との戦闘は避けられ無い。
「きっとこの先だ」
俺はこれまでの経験に基づき、階層主の部屋の当たりをつけていた。迷宮と呼ばれるだけあって、非常に複雑な構造ではあるが、素早く判断して道を選択していく。
「ありました。さすがティム様。ビンゴです」
いくつかの角を曲がった先に、見上げる程の巨大な扉があった。俺が鍵開けの道具を取り出そうとすると、キーラに制止された。
「ここの扉は普通じゃない。魔術で鍵がかかっているわ。今開けるから待ってて」
キーラがそう言って、複雑な印を結びつつ、呪文を唱える。
「解錠!」
キーラの右手から光が放たれ、扉を打つ。すると「ガチャリ」と大きな音が聞こえた。どうやら鍵があいたようだ。
「では頼みます、キングスリー」
「押忍」
ノートンがキングスリーに声をかけ、彼が扉を両手で押し始める。
ゴゴゴ、と重い音と共に、扉が奥へと開く。
「よし、下がってくれキングスリー。ダフネを先頭に潜入。陣形を乱さないように注意するんだ」
俺は全員に号令をかけ、室内に促す。
「なっ、なんだ、この部屋は!?」
ダフネが叫ぶ。パーティーに再び緊張が走った。進んでいくにつれ、俺にも部屋の様子が見えてきた。
煌びやかな室内。忙しそうに働くメイド達。奥の玉座に鎮座しているのは魔人だ。この階層の主で間違いないだろう。側には黒服の執事が控えている。
ダフネが驚いた理由は、この部屋の煌びやかさだろう。ノートンの話によれば、四十階層までの階層主の部屋は、暗く陰鬱で不気味だったそうだ。そして階層主も、およそ人の姿をしていない異形の怪物ばかりで、知能もさほど高くはないらしい。
それに引き換え魔人は知性が高く、人間と同等かそれ以上と言われている。暮らしぶりや嗜好も、どうやら近いようだ。
「貴様ら、何者だ!」
魔人の側に控えていた執事が、大声で叫ぶ。魂が震えるような、恐ろしい声だった。
どうやら仕事に集中していたらしいメイド達も、ビクリとして手を止める。そして俺たちの姿に気づき、手に持ったモップや箒を構えた。掃除用具で戦うのだろうか。
執事もメイドも、見た目は人間にそっくりだった。きっと魔人の好みに合わせて擬態しているのだ。魔人は人間の容姿が好きなのかも知れない。
「俺たちは、冒険者だ! この迷宮から出てきたモンスター達が、近隣の村や町の住民を襲っていると言う報告を受け、討伐にやってきた!」
俺は声の限りに叫んだ。執事と魔人のいる玉座まで、結構距離がある。
「何と傲慢な! それにモンスターとは酷い言われようだ! 我々も貴様ら人間と同じく、この地に住う生き物だと言うのに! 闇の女神テネブラエ様は、我ら夢魔にも知性を授けてくださった! 全ては魔人の力となり、この地を魔人のものとする為! さぁ、狩れるものなら、狩ってみるがいい!」
執事は一瞬で、異形の怪物へと変身する。服は消滅。全身が黒く、頭には鋭く尖ったツノ。背中にはコウモリのような大きな翼。尻尾もあり、先端はトランプのスペードのような形だ。
彼の変身に合わせ、メイド達も姿を変える。彼女達の頭にもツノが生え、背中には翼、尻には尻尾がある。だが執事のように全身真っ黒ではなく、胸や股間、手足だけが黒く変化していた。まるで露出度の高い服を身につけているようだ。
魔人は玉座に鎮座したままで、ワインを揺らしている。どうやら戦闘に加わるつもりはないようだ。
一斉に襲いかかってくる夢魔達。パーティー全員が、臨戦態勢になる。
よし、俺もいっちょやったるか。左手を前につきだし、右拳を腰まで引く。お気に入りの構えだ。魔狼戦では、この態勢から衝撃波を放つ事が出来た。
「ティム様! ここは我々にお任せ下さい! 恐らくあの魔人は、ティム様でなければ勝てません! 今は力を温存しておいて下さい! それにこの夢魔達を倒す事で、我々もレベルアップ出来るかも知れません! そうすれば、もっとティム様のお力になれます!」
戦いながら、叫ぶダフネ。俺はみんなを見た。頷く仲間達。
「わかった! だが、やばそうだったら手ェ出すからな!」
「そうはなりません! ご安心を!」
ダフネの言う通り、仲間達はとんでもなく強かった。
ダフネはみんなを守りながら敵を斬り、ミスト、キングスリーは縦横無尽に飛び回り、敵を蹴散らしている。
ノートンはスキル「超記憶」により、一度見た魔術や技術を真似できるらしい。探索士でありながら、様々な魔術によって後方から援護している。
薬学士のモリーは火薬の調合も得意らしく、爆弾を用いて夢魔達を攻撃しているし、シュタインはその一流の弓術で、次々と敵を撃ちぬいていく。
キーラは卓越した魔術の詠唱スピードで、次々と強力な魔術を繰り出している。
うん。こりゃ確かに俺の出る幕はないわ。
やがて夢魔達は一掃され、爆弾で荒れ放題になった部屋と俺たち、そして魔人だけが残った。
「後はお前だけだぞ魔人! 俺と勝負しろ!」
やり切った顔の仲間達を休ませ、俺は一人で魔人の前に進んで行った。すると彼は立ち上がり、拍手を始めた。
「なかなか面白い余興だったぜ。ずっとこんな場所にこもっていると、退屈でしょうがねぇ。お前、俺と勝負したいのか? すげぇ自信だな。それとも単なる馬鹿なのか?」
魔人は玉座を降り、コツコツと靴を鳴らしながら、こちらへやってくる。その顔には、どこか見覚えがあった。俺は正直なところ、あまり記憶力が良くない。一度見ただけの顔なんかはうろ覚えだ。だからなんとなく見た気がする、という程度。
「まぁ、自信は結構あるぜ。一度魔人を退けた事があるんでね。そいつの魔術を素手で打ち消し、引き連れていた魔狼共も蹴散らした」
俺の言葉に、魔人はギクリとする。
「お前、まさかあの時の......」
「やっぱりな。ああ、そうさ。今確信したよ。お前があの時の魔人か。あの時は見逃したが、今回はそうは行かない。俺たちは、先に進まなきゃならないんでね」
そう言って構えを取る。魔人は慌てた様子で「待て!」と言って両手を出し、すかさず土下座した。後方からどよめきが起こる。
「魔人が土下座!? ティムさんって何者!?」
「ティム様は一度、あの魔人を地上から迷宮へと追い返しているのだ」
声を裏返させるモリーに、ダフネが説明をしている。
「見逃してくれ! まだ死にたくないんだ!」
土下座で命乞いをする魔人。うっ。ちょっと可哀想になってきた。
「だ、駄目だ。お前を倒さないと転移門が使えない。次の階層に進めないんだ。許せ! はぁーっ!」
俺は罪悪感に心を痛めつつ、土下座する魔人に拳を振り抜いた。
だが、何も起きなかった。
「あれ? 変だな」
俺は何度も魔人に拳を突き出したが、やっぱり何も起きなかった。全身の血の気が引いていく。
「ま、まさか!」
キョトンとする魔人を尻目に、俺は自分の冒険者証を見る。
「なんてこった......」
99999だった俺のレベルは、1に戻っていた。
「装着!」
掛け声と共に、鎧や剣などの装備品が体に装着されていく。これは冒険者のみの特権で、魔術機構である「冒険者証」に装備品を収納出来るのだ。着替えなんかも簡単に行える。
あらかじめ装備や服装の組み合わせを「冒険者証」に登録しておく事で、いつでもその組み合わせを身に纏う事が可能だ。
「よし、みんな準備はいいな。指揮は依頼を受けた俺が取らせてもらう。では出発!」
俺の号令で、ゾロゾロと冒険者ギルドの外へ。ギルドの外には、馬車が待機していた。事前に運搬ギルドに連絡して、手配してもらっていたのだ。
馬車は八人乗り。魔術自動車に比べれば揺れるが、贅沢は言っていられない。そもそも平民にあの乗り物は手配出来ない。軽い作戦会議と雑談をしつつ、馬車に揺られて迷宮に向かう。ダフネとキーラは俺にべったりで、目だけは笑っていないシュタインの視線が痛い。やっぱり彼の恨みや嫉妬は消えた訳では無いようだ。
ちなみにダフネはフルプレートメイルを装着している為、ゴツゴツしていて抱きつかれると痛い。
みんなそれなりに仲良しムードだったが、ミストはやっぱり無愛想で、周囲と少し距離を取っている感じがした。基本的にはいい奴なのだが、物怖じしないというか、嫌なものは嫌とハッキリ言うタイプなのだ。
そして馬車に酔ったのか、俺を見つめながらも、ずっと黙りこくっている。まぁ二人で迷宮に行く時は「人間ロケット砲台」で飛んでいくからなぁ。馬車には慣れていないのかも知れない。
やがて馬車は、迷宮付近の停留所へ到着。そこからは歩きだ。三十分程歩き、巨大な宮殿のような建物に辿り着く。
「では予定通りの陣形を組み、探索を始める。だが臨機応変での対応も忘れないでくれ。よし、行くぞ」
ダフネを先頭に、ミスト、キングスリー、ノートン。その後ろにシュタイン、モリー、俺。最後尾にキーラという陣形で、菱形のように並んでいる。
俺はなるべく迷宮の把握に努め、戦闘は他のみんなが頑張る作戦だった。だがヤバイ敵が出現した時は、当然俺の出番となる。つまり切り札って奴だ。
軽い打ち合わせの後、探索を開始。
一階の内装は貴族が住う宮殿と大差はない。窓から外も見えるし、部屋によっては調度品もある。人間が住んでいたとしても、何ら不思議はない。
だが地下階層は違う。発光する不思議な石壁によって視界は確保出来るものの、薄暗くひんやりとし、不気味なおぞましさを感じる。例えるならば地下牢といった所だろう。
現在時刻は朝の十時。日光が差し込む一階の探索は、あっという間に終了した。俺が見つけた迷宮の法則により、入り口付近のわずかな探索で特徴を把握。一階のモンスタークリスタルはすぐに発見出来た。
「よし、じゃあ破壊するか。ちょっとみんな下がっていてくれ」
そう言って俺が前に出ようとすると、キングスリーに阻まれた。だが彼は「押忍」しか言わない。
「どうやらキングスリーは、自分の力を試したいようです。ここは彼に譲って頂けませんか?」
ノートンがニコニコとそう言った。表情や態度だけでキングスリーの心情を察したのだ。さすが付き合いが長いだけはある。
「ああ、もちろんそれで構わない。やってくれ、キングスリー」
「押忍」
キングスリーは武術の構えを取ると、気合一閃、モンスタークリスタルに飛び蹴りを放った。
「押忍!」
激しい破壊音と共に、砕けちるクリスタル。飛んでくる破片を、ダフネが大楯で防ぐ。お陰でみんなは怪我一つない。キングスリー自身も、クリスタルの破片が体に付着はしているようだが、怪我はしていないようだ。彼のスキル「鋼鉄の肉体」の効果だろう。
「流石だな。よし、これで一階のミッションは達成だ。もう新たなモンスターが出現する事もないだろう。すぐに地下一階へ進むぞ。出来れば日付が変わる前に、地下五十階層までを制覇したい」
日付が変わる事で、迷宮の構造も全く別のものに姿を変える。そうなると厄介だ。迷宮の把握に余計な時間がかかってしまう。
まずは五十階層。その後は一日毎に十階層ずつクリアしていくのが、今の俺たちの指針だった。
モンスタークリスタルを破壊して、その階層のモンスターを一掃すれば安全は確保出来る。時折休憩を挟みつつ、俺たちは地下五十階層を目指した。
俺とミスト以外のメンバーは、既に地下五十階層までを経験している。十階層毎にいる「階層主」。十階層から四十階層までの四人は、既に倒してあるらしい。
つまりその階層主の部屋さえ見つければ、出口に戻れる「転移門」は利用する事が出来る。
階層毎の移動も「転移門」で行うが、これは一階層下への一方通行だ。
通常は「転移門」の発見にも時間がかかる。だが迷宮の法則性を把握している俺は、即座に転移門を見つける事が出来る。おまけにパーティーの強さも王国最強と言えるメンバーだ。モンスタークリスタルの破壊は順調に進んで行った。
ちなみに宝箱は、入るたびに構造が変わる迷宮と同様、位置や内容も入る度に変わる。ここに来るまでにも相当な数のお宝をゲットした。冒険者は命懸けの職業だが、なりたがる者が後を絶たないのも頷ける。
「いよいよ五十階層だ」
五十階層の階層主は、まだ誰も遭遇した事が無い。パーティーにやや緊張が走る。
「どんな敵が相手でも、ティムがいれば余裕じゃない?」
そんなキーラの一言で、少しだけ緊張が和らぐ。
「姉上のおっしゃる通りです。さぁ、どんどん進みましょう」
ダフネを先頭に、探索を進める。階層主が存在する階層に限り、モンスタークリスタルは階層主の部屋にある。つまり、階層主との戦闘は避けられ無い。
「きっとこの先だ」
俺はこれまでの経験に基づき、階層主の部屋の当たりをつけていた。迷宮と呼ばれるだけあって、非常に複雑な構造ではあるが、素早く判断して道を選択していく。
「ありました。さすがティム様。ビンゴです」
いくつかの角を曲がった先に、見上げる程の巨大な扉があった。俺が鍵開けの道具を取り出そうとすると、キーラに制止された。
「ここの扉は普通じゃない。魔術で鍵がかかっているわ。今開けるから待ってて」
キーラがそう言って、複雑な印を結びつつ、呪文を唱える。
「解錠!」
キーラの右手から光が放たれ、扉を打つ。すると「ガチャリ」と大きな音が聞こえた。どうやら鍵があいたようだ。
「では頼みます、キングスリー」
「押忍」
ノートンがキングスリーに声をかけ、彼が扉を両手で押し始める。
ゴゴゴ、と重い音と共に、扉が奥へと開く。
「よし、下がってくれキングスリー。ダフネを先頭に潜入。陣形を乱さないように注意するんだ」
俺は全員に号令をかけ、室内に促す。
「なっ、なんだ、この部屋は!?」
ダフネが叫ぶ。パーティーに再び緊張が走った。進んでいくにつれ、俺にも部屋の様子が見えてきた。
煌びやかな室内。忙しそうに働くメイド達。奥の玉座に鎮座しているのは魔人だ。この階層の主で間違いないだろう。側には黒服の執事が控えている。
ダフネが驚いた理由は、この部屋の煌びやかさだろう。ノートンの話によれば、四十階層までの階層主の部屋は、暗く陰鬱で不気味だったそうだ。そして階層主も、およそ人の姿をしていない異形の怪物ばかりで、知能もさほど高くはないらしい。
それに引き換え魔人は知性が高く、人間と同等かそれ以上と言われている。暮らしぶりや嗜好も、どうやら近いようだ。
「貴様ら、何者だ!」
魔人の側に控えていた執事が、大声で叫ぶ。魂が震えるような、恐ろしい声だった。
どうやら仕事に集中していたらしいメイド達も、ビクリとして手を止める。そして俺たちの姿に気づき、手に持ったモップや箒を構えた。掃除用具で戦うのだろうか。
執事もメイドも、見た目は人間にそっくりだった。きっと魔人の好みに合わせて擬態しているのだ。魔人は人間の容姿が好きなのかも知れない。
「俺たちは、冒険者だ! この迷宮から出てきたモンスター達が、近隣の村や町の住民を襲っていると言う報告を受け、討伐にやってきた!」
俺は声の限りに叫んだ。執事と魔人のいる玉座まで、結構距離がある。
「何と傲慢な! それにモンスターとは酷い言われようだ! 我々も貴様ら人間と同じく、この地に住う生き物だと言うのに! 闇の女神テネブラエ様は、我ら夢魔にも知性を授けてくださった! 全ては魔人の力となり、この地を魔人のものとする為! さぁ、狩れるものなら、狩ってみるがいい!」
執事は一瞬で、異形の怪物へと変身する。服は消滅。全身が黒く、頭には鋭く尖ったツノ。背中にはコウモリのような大きな翼。尻尾もあり、先端はトランプのスペードのような形だ。
彼の変身に合わせ、メイド達も姿を変える。彼女達の頭にもツノが生え、背中には翼、尻には尻尾がある。だが執事のように全身真っ黒ではなく、胸や股間、手足だけが黒く変化していた。まるで露出度の高い服を身につけているようだ。
魔人は玉座に鎮座したままで、ワインを揺らしている。どうやら戦闘に加わるつもりはないようだ。
一斉に襲いかかってくる夢魔達。パーティー全員が、臨戦態勢になる。
よし、俺もいっちょやったるか。左手を前につきだし、右拳を腰まで引く。お気に入りの構えだ。魔狼戦では、この態勢から衝撃波を放つ事が出来た。
「ティム様! ここは我々にお任せ下さい! 恐らくあの魔人は、ティム様でなければ勝てません! 今は力を温存しておいて下さい! それにこの夢魔達を倒す事で、我々もレベルアップ出来るかも知れません! そうすれば、もっとティム様のお力になれます!」
戦いながら、叫ぶダフネ。俺はみんなを見た。頷く仲間達。
「わかった! だが、やばそうだったら手ェ出すからな!」
「そうはなりません! ご安心を!」
ダフネの言う通り、仲間達はとんでもなく強かった。
ダフネはみんなを守りながら敵を斬り、ミスト、キングスリーは縦横無尽に飛び回り、敵を蹴散らしている。
ノートンはスキル「超記憶」により、一度見た魔術や技術を真似できるらしい。探索士でありながら、様々な魔術によって後方から援護している。
薬学士のモリーは火薬の調合も得意らしく、爆弾を用いて夢魔達を攻撃しているし、シュタインはその一流の弓術で、次々と敵を撃ちぬいていく。
キーラは卓越した魔術の詠唱スピードで、次々と強力な魔術を繰り出している。
うん。こりゃ確かに俺の出る幕はないわ。
やがて夢魔達は一掃され、爆弾で荒れ放題になった部屋と俺たち、そして魔人だけが残った。
「後はお前だけだぞ魔人! 俺と勝負しろ!」
やり切った顔の仲間達を休ませ、俺は一人で魔人の前に進んで行った。すると彼は立ち上がり、拍手を始めた。
「なかなか面白い余興だったぜ。ずっとこんな場所にこもっていると、退屈でしょうがねぇ。お前、俺と勝負したいのか? すげぇ自信だな。それとも単なる馬鹿なのか?」
魔人は玉座を降り、コツコツと靴を鳴らしながら、こちらへやってくる。その顔には、どこか見覚えがあった。俺は正直なところ、あまり記憶力が良くない。一度見ただけの顔なんかはうろ覚えだ。だからなんとなく見た気がする、という程度。
「まぁ、自信は結構あるぜ。一度魔人を退けた事があるんでね。そいつの魔術を素手で打ち消し、引き連れていた魔狼共も蹴散らした」
俺の言葉に、魔人はギクリとする。
「お前、まさかあの時の......」
「やっぱりな。ああ、そうさ。今確信したよ。お前があの時の魔人か。あの時は見逃したが、今回はそうは行かない。俺たちは、先に進まなきゃならないんでね」
そう言って構えを取る。魔人は慌てた様子で「待て!」と言って両手を出し、すかさず土下座した。後方からどよめきが起こる。
「魔人が土下座!? ティムさんって何者!?」
「ティム様は一度、あの魔人を地上から迷宮へと追い返しているのだ」
声を裏返させるモリーに、ダフネが説明をしている。
「見逃してくれ! まだ死にたくないんだ!」
土下座で命乞いをする魔人。うっ。ちょっと可哀想になってきた。
「だ、駄目だ。お前を倒さないと転移門が使えない。次の階層に進めないんだ。許せ! はぁーっ!」
俺は罪悪感に心を痛めつつ、土下座する魔人に拳を振り抜いた。
だが、何も起きなかった。
「あれ? 変だな」
俺は何度も魔人に拳を突き出したが、やっぱり何も起きなかった。全身の血の気が引いていく。
「ま、まさか!」
キョトンとする魔人を尻目に、俺は自分の冒険者証を見る。
「なんてこった......」
99999だった俺のレベルは、1に戻っていた。
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