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第7章
第84話 関係ない
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「そうでしたか...」
ミダイドコロの説明はサホウと、騒ぎを聞きつけて集まった人々を納得させた。 それはクルチアも、少し離れた場所からミツキと共に事態を注視するアリスも同じだった。 後ろ手に縄で縛られ大男に膝で背中を押さえつけられ、悔し涙をポロポロとこぼすクギナに同情はすれど、親権者の意向ならば仕方がない。
「サホウよ、どうにかしてやれんのか?」
サクラが気の毒そうな声を出すが、サホウは首を横に振る。 クギナ捕獲チームが法に則り行動する以上、正義は彼らのもとにある。 法を遵守する善良な市民であるサホウには手の出しようがない。
アリスも介入を控えている。 戦闘力はサホウ以上の彼女だが、適法に行動する男たちを相手に公衆の面前で暴力沙汰に及ぶつもりはない。 クギナのために犯罪者になる義理も覚悟もない。
◇
だがミツキは違った。
「いい加減にしろ」
怒りに押しつぶされる声。 それに気づいたのは隣にいたアリスだけ。 怒りで閉塞する喉から出たミツキの声は小さすぎた。 だからミツキは捕獲現場に向かって歩みつつ、再び声を出す。
「いい加減にしろ!」
今度の声は周囲の注意を引いた。 珍しく心の底から腹を立てるミツキに、クルチアの肌が軽く粟立つ。
(ミツキが怒ってる。 オウリンさんのために...?)
◇
捕獲チームの面々もミツキに気付いた。 しかし彼らはミツキが示す怒りに取り合わず、半笑いの表情でミツキを見下ろす。
「なんだこのガキ」
サイズの小さいミツキがどれほどの怒りを示そうと、子猫が毛を逆立てて威嚇するようなもの。 捕獲チームは大会にエントリーしなかったのでミツキのことを知らない。
捕獲チームの反応に構わず、ミツキは自分の要求を突きつける。
「縄をほどけ」
頭ごなしの命令が、捕獲チームの心に怒りの火を灯す。
「は?」「なんだコイツ?」
しかしミダイドコロ所長が慌ててミツキの前に進み出て、3人のそれ以上の言動を封じた。
「カスガノミチくん、邪魔をしてもらっては困る」
ミダイドコロは当然、ミツキの顔を見知っている。 戦えば絶対に勝てない相手であることも。
「私たちはクギナさんの保護者の意向で―」
ミダイドコロの言葉を、怒れるミツキは遮る。
「関係ない」
「もし君が我々に手を出せば―」
ミツキは再びピシャリと遮る。
「オレには関係ない。 縄をほどけ。 クギナから離れろ」
クルチアは突如として理解した。
(そっか。 そういうことね)
ミツキが連発する "関係ない" の意味を、クルチアは理解した。 この場に居合わせる人々はミツキの "関係ない" をブチ切れた人が用いる常套句の一種として理解している。 しかし、ミツキにとっては本当に "関係ない" のだ。 捕獲チームと自分と法律的にどちらが正しいかなど。 市民権を奪われたアウトローであるミツキにとっては。
◇◆◇
怒りに燃えてミダイドコロ所長の顔を見上げるミツキ。 ミダイドコロはその視線を真っ向から受け止め、ミツキを睨み返す。 相手がクイ混じりでも引き下がれはしない。 オニーロ会長の指示は、万難を排して遂行されねばならない。
傍で見守るクルチアはハラハラ。 ドキドキ
(いけない! このままじゃ...)
このままではKO沙汰だ。 ミダイドコロは法を盾に強気でいるが、ミツキは法を守る気が毛頭ない。
クルチアは口を挟むことを決意した。
「あのっ、ミツキは法律に縛られていません」
ミダイドコロはミツキを睨む厳しい目つきを、そのままクルチアに向ける。 どういうことだ?
「ミツキは市民権を持ってなくて、エクレア小国の法律に保護されていません。 だから法律を守る必要もないんです」
「なにッ!?」 法律を守らないだとっ!?
驚愕のミダイドコロ。 ミツキを睨みつける彼の視線は目に見えて勢いを失った。
「その... なんだ。 まずは落ち着こう、カスガノミチくん。 ちょっとオニーロ会長に相談してみる」
◇◆◇
相談の結果、クギナを縛るロープは解かれクギナ捕獲チームは解散した。 ゼンメイ・オニーロがミツキとの対決を避けたのだ。 貴族の仲間入りを果たしたいゼンメイはクイ混じりと揉めるのを嫌った。 クギナが名門事業所に採用される強さに達していないとの判断も働いた。
◇◆◇
サクラは未だ興奮冷めやらぬミツキに歩み寄り、白く優美な手で頭を撫でる。
「ようやったミツキ」 えらいえらい。
ミツキが市民権を持たないとのクルチアの発言に、サホウもサクラも反応を示さない。 市民権と契約履行の関係にまで、2人とも頭が回らなかった。
ミダイドコロの説明はサホウと、騒ぎを聞きつけて集まった人々を納得させた。 それはクルチアも、少し離れた場所からミツキと共に事態を注視するアリスも同じだった。 後ろ手に縄で縛られ大男に膝で背中を押さえつけられ、悔し涙をポロポロとこぼすクギナに同情はすれど、親権者の意向ならば仕方がない。
「サホウよ、どうにかしてやれんのか?」
サクラが気の毒そうな声を出すが、サホウは首を横に振る。 クギナ捕獲チームが法に則り行動する以上、正義は彼らのもとにある。 法を遵守する善良な市民であるサホウには手の出しようがない。
アリスも介入を控えている。 戦闘力はサホウ以上の彼女だが、適法に行動する男たちを相手に公衆の面前で暴力沙汰に及ぶつもりはない。 クギナのために犯罪者になる義理も覚悟もない。
◇
だがミツキは違った。
「いい加減にしろ」
怒りに押しつぶされる声。 それに気づいたのは隣にいたアリスだけ。 怒りで閉塞する喉から出たミツキの声は小さすぎた。 だからミツキは捕獲現場に向かって歩みつつ、再び声を出す。
「いい加減にしろ!」
今度の声は周囲の注意を引いた。 珍しく心の底から腹を立てるミツキに、クルチアの肌が軽く粟立つ。
(ミツキが怒ってる。 オウリンさんのために...?)
◇
捕獲チームの面々もミツキに気付いた。 しかし彼らはミツキが示す怒りに取り合わず、半笑いの表情でミツキを見下ろす。
「なんだこのガキ」
サイズの小さいミツキがどれほどの怒りを示そうと、子猫が毛を逆立てて威嚇するようなもの。 捕獲チームは大会にエントリーしなかったのでミツキのことを知らない。
捕獲チームの反応に構わず、ミツキは自分の要求を突きつける。
「縄をほどけ」
頭ごなしの命令が、捕獲チームの心に怒りの火を灯す。
「は?」「なんだコイツ?」
しかしミダイドコロ所長が慌ててミツキの前に進み出て、3人のそれ以上の言動を封じた。
「カスガノミチくん、邪魔をしてもらっては困る」
ミダイドコロは当然、ミツキの顔を見知っている。 戦えば絶対に勝てない相手であることも。
「私たちはクギナさんの保護者の意向で―」
ミダイドコロの言葉を、怒れるミツキは遮る。
「関係ない」
「もし君が我々に手を出せば―」
ミツキは再びピシャリと遮る。
「オレには関係ない。 縄をほどけ。 クギナから離れろ」
クルチアは突如として理解した。
(そっか。 そういうことね)
ミツキが連発する "関係ない" の意味を、クルチアは理解した。 この場に居合わせる人々はミツキの "関係ない" をブチ切れた人が用いる常套句の一種として理解している。 しかし、ミツキにとっては本当に "関係ない" のだ。 捕獲チームと自分と法律的にどちらが正しいかなど。 市民権を奪われたアウトローであるミツキにとっては。
◇◆◇
怒りに燃えてミダイドコロ所長の顔を見上げるミツキ。 ミダイドコロはその視線を真っ向から受け止め、ミツキを睨み返す。 相手がクイ混じりでも引き下がれはしない。 オニーロ会長の指示は、万難を排して遂行されねばならない。
傍で見守るクルチアはハラハラ。 ドキドキ
(いけない! このままじゃ...)
このままではKO沙汰だ。 ミダイドコロは法を盾に強気でいるが、ミツキは法を守る気が毛頭ない。
クルチアは口を挟むことを決意した。
「あのっ、ミツキは法律に縛られていません」
ミダイドコロはミツキを睨む厳しい目つきを、そのままクルチアに向ける。 どういうことだ?
「ミツキは市民権を持ってなくて、エクレア小国の法律に保護されていません。 だから法律を守る必要もないんです」
「なにッ!?」 法律を守らないだとっ!?
驚愕のミダイドコロ。 ミツキを睨みつける彼の視線は目に見えて勢いを失った。
「その... なんだ。 まずは落ち着こう、カスガノミチくん。 ちょっとオニーロ会長に相談してみる」
◇◆◇
相談の結果、クギナを縛るロープは解かれクギナ捕獲チームは解散した。 ゼンメイ・オニーロがミツキとの対決を避けたのだ。 貴族の仲間入りを果たしたいゼンメイはクイ混じりと揉めるのを嫌った。 クギナが名門事業所に採用される強さに達していないとの判断も働いた。
◇◆◇
サクラは未だ興奮冷めやらぬミツキに歩み寄り、白く優美な手で頭を撫でる。
「ようやったミツキ」 えらいえらい。
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