クイックリングちゃんドロップキック!

好きな言葉はタナボタ

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第7章

第87話 手ずから鳴らす

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クルチアは決断した。

「わかりましたトオマス先輩。 じゃあ、私は『金の盾』に入りません。 一緒に『いなぎりハンター事業所』でやっていきましょう」 閑古鳥ですが。

トオマスの顔が輝き、瞳に精気が満ちる。 

「本当かマイ・レディー!」

「もちろんです」

「つまり、ミツキくんが『金の盾』に入所してもイナギリさんは『いなぎりハンター事業所』に...?」

トオマスは確認した。 大事なことなので。

「ハイ、残ります」

            ◇

クルチアの宣言にミツキが表情を険しくする。

「クルチアはオレよりセンパイが大事なの?」

ミツキにだって、クルチアがいなければこの世とお別れする自信はある。

でも、その自信は今のところ鳴りを潜めており、クルチアは気づかない。

「仕方ないでしょ? 私が付いてないと先輩が死んじゃうんだもん」

「オレだってクルチアがいないと死ぬ自信ぐらいあるさ」

ミツキは自信のほどを表明した。 自信が自主的に鳴り出さないので、手ずから鳴らした。

それをクルチアは受け流す。

「あんたも『いなぎりハンター事業所』に残ればいいじゃん」

ミツキは地団駄を踏む。

「クルチアがオレよりセンパイを優先するのが問題だって言ってんの!」

           ◇◆◇

ミツキの地団駄をはたで眺めていたサクラノヒメが言い出す。

「トオマスも『金の盾』に入れば良い」

このままではミツキが『いなぎりハンター事業所』に残留する流れになると危惧した。

激しく喜んだのはクルチア。

「いいんですか!」

喜んでいるのは主にクルチア。 トオマスも喜んでいるが、彼の望みは『金の盾』自体よりクルチアと同じ事業所に所属すること。 ミツキは実のところ、『金の盾』より『いなぎりハンター事業所』の方が望ましい。 自信に満ちる一流ハンターと顧客で賑わう名門事業所より、小じんまりした閑静な事業所を、彼は好む。

「構わぬ。 なあ、サホウ?」

サクラに同意を求められたサホウは頷く。

「そうですね。 まだまだ未熟ですが」

サホウもサクラも口にしないが、この決定はミツキが欲しいためだけではない。 トオマスがナイトリングだからだ。 ナイトリングがもたらす幾つかの恩恵に期待している。

           ◇◆◇

同じ事業所に行けると喜び合うクルチアとトオマス。 そんな2人から視線を外したミツキは、クギナの様子に気付いた。 顔には出さないが、いや出ているのだが、明らかに寂しがっている。 自分だけ『金の盾』に入れないのを寂しがっている。

ミツキはクギナに哀れを催し、サホウとサクラのどちらにともなく訴える。

「クギナも『金の盾』に入っていい?」

ミツキの声にクギナが勢いよく振り向く。 なにィッ! 私も『金の盾』に!?

サクラは美しい眉間に微かなシワを寄せる。

「クギナ? さっきの娘か。 う~む」 ゼンメイ・オニーロの姪なら、あの娘はオーク混じり。 常人より強かろうが入所後に問題を起こす恐れがある。 ミツキの意向を受け入れたいのはヤマヤマだが...

「ダメ?」

「う~む」

サクラは考える。 入所後に問題を起こす恐れがあるが、オークは自分より強い者には絶対従順と聞く。 ならばむしろ監督しやすいのでは? 未熟さに関しては、トオマスともども入所後に特別訓練プログラムに放り込めばよい。 "裏社会を牛耳る" とまで言われるクギナの叔父ゼンメイ・オニーロはクギナのハンター業界入りに良い顔をせぬに違いないが、言い出しっぺがミツキだと聞けば文句を言わんだろう。

「まあ良かろう」

クギナは上ずった声で確認を求める。

「ほ、本当に...?」 私が名門事業所の一員に?

「うむ。 なあサホウ?」

「異存はありません」 サクラさんがそう言うなら。
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