お嬢様、流刑地に送られ婚約も破棄。でも最強になったら、ザマぁとかどうでも良くなってた

好きな言葉はタナボタ

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第1部

第25話 「そうね、あの肌なら齧ってみたい」

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マリカは納屋への道のりを一人で急ぐ。 スピード・プリンセスとなってジュニアの桎梏しっこくを逃れるため、何としてもクイックリングのお肉を食べなくては。

(顔役さんみたいに大きな傷は付けない。 ひとくちかじるだけ。 クイックリングはスモモみたいな良い香りがするし、肌もスベスベでプリプリだから私でも無理なく食べれそう。 そうね、あの肌なら齧ってみたい)

自分ならクイックリングの肉を食べても老衰死ろうすいしせず素早くなれる。 その確信はマリカの中で深まる一方で、それにつれてマリカの気持ちは上向き始めた。

(お肉を食べてスピード・プリンセスとなったなら、私が齧ったクイちゃんの傷は勿論もちろんすぐに治してあげるし、ロープをほどいて野山のやまに帰してあげる。 逃すのと引き換えにお肉を齧らせてもらうってわけ。 クイちゃんにとっても良い取引のはずよ)

マリカにとっては都合の良いことに、流刑地の住民は次の顔役が誰になるのかをいち早く知ろうとボス連ぼすれん会議が行われている建物の周囲に集まっていて、町は人気ひとけがなかった。 だからマリカは一人でも安心して町中を歩けた。

                 ◇❖◇

しかし安心と安全は別物である。 実はこのときマリカは危険にさらされていた。 無防備に一人で歩くマリカの存在に目を付ける男がいたのだ。

男の名はリンチ。 彼は無法者アウトローばかりが住む流刑地の中でもひと際ひときわの無法者で、破滅的で向こう見ずデスペラードだから誰が次の顔役になるのかにも興味がなかった。

リンチがマリカを見かけたのは窓際のテーブルの上に両足を放り出して酒を飲んでいたときだ。

「おっ? あいつぁ、昨日この町に送られてきたとかいうお嬢さまか?」

ほろ酔いだったリンチは納屋へと急ぐマリカの後ろ姿をぼーっと目で追っていたが、やがてハッと気づいた。

「なにやってんだオレめ、女の一人歩きなんて絶好のチャンスじゃねえか!」

何のチャンスであるかは言うまでもない。 リンチは酒の残ったコップを乱暴にテーブルに置き、あわただしく家を出て行った。
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