お嬢様、流刑地に送られ婚約も破棄。でも最強になったら、ザマぁとかどうでも良くなってた

好きな言葉はタナボタ

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第1部

第27話 「俺を逃がすだけにしようよ」

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「私ならあなたのお肉で素早くなれる。 そうなんでしょ?」

マリカが自分の推測をズバリと突き付けるとミツキが驚きの声を上げる。

「知ってたの!?」

「やっぱり!!」

確認を終えたマリカはいそいそと取引を提案する。

「あなたのお肉を食べさせて頂戴ちょうだい。 そしたらあなたを逃がしてあげる」

スピード・プリンセスの座を目前にして、マリカの目はギラギラと輝き鼻息は荒い。 ミツキの傷を治したり水を作ってくれたりしたのと同一人物とは思えない。

ミツキはマリカの提案に対しカウンター・オファー対案を出してきた。

「肉は嫌だ。 俺を逃がすだけにしようよ」

「お願い! 私の人生がかかってるの。 痛いのは少しの間だけ。 あなたを齧った後ですぐにあなたの傷を治してあげるから。 それであなたは自由になれるのよ!」

「肉を切り取られるのはスゴク痛いから、とりあえず俺のロープをほどいて欲しい。 チョウチョ結びだから、ロープの先を引っ張るだけだよ」

「お願い、あなたを食べさせて! ひとくちでいいの」

互いの主張が平行線をたどりかけたとき、納屋の扉が乱暴に開かれた。

「見つけたぜ。 いやがったなお嬢様」

リンチだ。 いっときはマリカの姿を見失ったが、それらしい場所を探すうちに彼はとうとうマリカの居場所を探りあててしまった。

マリカは男の目的に見当がついていた。 男たちはいつだってマリカの体が目当てなのだ。 だが、推量すいりょうで人を殺すのも躊躇ためらわれる。 だからマリカは警告した。

「そこで用件を述べなさい。 それ以上わたしに近づいたら殺すわよ?」

しかし男はマリカの警告を無視して、大股でマリカのほうに近づいてくる。 こうなれば接近される前に《水生成》で攻撃するしかない。

横合いからミツキが叫ぶ。

「マリカ! そいつはオマエを襲う気だ。 オレのロープをほどけ!」

マリカはミツキを無視して《水生成》の詠唱を開始。 ターゲットは男の喉元だ。

「ヴィテーム・ウルビテーム...」

マリカの発声が呪文の詠唱だと気づいたリンチが慌ててマリカに飛びかかる。 しかし、リンチに押し倒されながらもマリカは詠唱を完了。

「...ラ・ウィータ!」

ところがリンチに押し倒された衝撃で狙いが外れ、リンチの喉ではなく顔の辺りに水が生成された。 口中にき出た水にリンチはむせ返りゲホゲホと激しく咳き込むが、これではリンチは死なない。

マリカは容赦なく《水生成》の呪文を再び唱え始めた。 今度こそ男を溺死できしさせるのだ。

「ヴィテーム...」

マリカが詠唱を開始するや否や、リンチはき込みながらもマリカを突き飛ばす。 リンチも必死である。 すでに死ぬほど苦しいのに、また同じことをやられたら死んでしまう。

突き飛ばされて詠唱を中断したマリカが尻餅を突いている隙に、リンチは咳き込みながら納屋を出て行った。
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