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第1部
第28話 「スピード・プリンセスに!」
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マリカは男を追ってトドメを刺そうと納屋を出かけて思い直した。 一刻も早くクイ肉を食べてスピード・プリンセスになっておくべきだ。 クイ肉は目前に転がっていて、あとは一口いただく承諾を本人から得るだけ。 その承諾を得る交渉の材料もある。
「交換条件よ! あなたを逃がしてあげるから、私にあなたのお肉を少し分けて」
「マリカが素早くなる必要はない。 俺が守ってやるからロープをほどいてくれ」
「それじゃダメなのよ!」
「どうして?」
そう問われてマリカは言葉に詰まった。 マリカの望みは、流刑地で誰にも脅かされず心安らかに生きていくこと。 だから、クイックリングに数日間や数週間ほど守ってもらっても意味がない。 自分自身がスピード・プリンセスになるしかないのだ。 しかし焦るマリカはそれを簡潔な言葉にまとめられない。
だからマリカは癇癪を起こした。
「素直に取引に応じればいいじゃない!」
マリカはこれまでの鬱憤をぶつけるかのようにミツキに向かって叫ぶ。
「あなただって逃げないと殺されちゃうのよ? どうして肉を齧られるぐらい我慢できないの?」
流刑地に送られてからというもの、いや、そのもっと前に審理局に連行されたときから、マリカの周囲は自分より肉体的に強大な男たちばかりで、マリカはストレスや怒りを感じても思うように表に出せずにいた。 ネガティブな感情の発露が男たちを刺激することを恐れたためだ。
しかし目前のクイックリングはマリカよりも小さいうえに縄で縛られている。 だからマリカは自分の負の感情を思う存分にぶつけられた。
「殺されたり売り飛ばされたりするのに比べたら、肉をひとくち齧られるぐらいどうってことないでしょう? どうしてそれぐらい我慢できないの! どうして私に意地悪するの?」
「意地悪なんかしてない。 俺はただ」
ミツキの言葉の途中で、納屋の扉が乱暴に開かれた。 入って来たのは4人の男。 さっきマリカを襲おうとした男の顔もある。 リンチが3人の仲間を連れて戻って来たのだ。
それを見て、マリカの口から声にならない悲鳴が漏れる。 ひいっ。 《水生成》ではいっぺんに4人も撃退できない。 クイ肉を食べて素早くなっていれば話は別だったが、もう遅い。 たとえ今からクイックリングに無許可で齧りついたとしても、マリカが肉を飲み下して肉の効果が発揮される前に男たちがマリカに殺到する。
男たちはマリカを見て舌なめずり。
「おお、本当にいやがった!」
リンチが他の男たちに指示を出す。
「女の口をふさげ! そしたら呪文も唱えられねえ」
絶体絶命のマリカにミツキが叫ぶ。
「マリカ! 俺のロープをほどけ!」
目前に迫る危機に対処するにはクイックリングに頼るしかない。 しかし、クイックリングを解放するとマリカは取引の材料を失ってしまう。 クイックリングがマリカを見捨てて納屋から逃げ出す恐れだってある。
それでも他に選択肢はない。 マリカは断腸の思いでクイックリングの腕を縛るロープの端を手に握る。 それを引っ張ると、チョウチョ結びだったロープは簡単に解けてしまった。
(ほどいちゃった...)
マリカが失意と不安に包まれようとしたそのとき! マリカの目の前で金色の光が爆発し、周囲にスモモの香りが立ち込めた。
◇❖◇
眩しさに目を閉じるマリカ。 そのマリカの背後で男たちの悲鳴が重なって聞こえる。 ぐあっ。 ぎゃっ!
目を開けたマリカが背後を振り返ると、4人の男は血を流して地面に倒れクイックリングだけが立っている。 クイックリングの手にはナイフ。
クイックリングはどうやら、マリカがクイックリングの腕のロープをほどいたあと、足のロープは自分でほどき、マリカの背後に移動して男たちの誰かからナイフを奪い、そのナイフで4人の男を一瞬でかたずけたらしい。
マリカはクイックリングの素早さを目の当たりにして言葉を失う。
(クイックリングって、ここまで素早いの!?)
輝くのをやめたミツキは、驚きのあまり声も出せずにいるマリカを見てほくそ笑む。 クイックリングの素早さを見るのは初めてかい? どうだ、俺はスゴイだろう?
ミツキは目前の情景に驚くマリカの前に回り、背伸びをしてマリカの視界にニョッキリと顔を出した。
「俺の強さを見てくれた? 俺は」
言葉の途中でミツキはマリカに腕を掴まれた。 おっ、スキンシップ。 やっぱり俺が好きだろ、この子。
「ええ、助けてくれてありがとう。 早いとこ、この場を去りましょう」
「交換条件よ! あなたを逃がしてあげるから、私にあなたのお肉を少し分けて」
「マリカが素早くなる必要はない。 俺が守ってやるからロープをほどいてくれ」
「それじゃダメなのよ!」
「どうして?」
そう問われてマリカは言葉に詰まった。 マリカの望みは、流刑地で誰にも脅かされず心安らかに生きていくこと。 だから、クイックリングに数日間や数週間ほど守ってもらっても意味がない。 自分自身がスピード・プリンセスになるしかないのだ。 しかし焦るマリカはそれを簡潔な言葉にまとめられない。
だからマリカは癇癪を起こした。
「素直に取引に応じればいいじゃない!」
マリカはこれまでの鬱憤をぶつけるかのようにミツキに向かって叫ぶ。
「あなただって逃げないと殺されちゃうのよ? どうして肉を齧られるぐらい我慢できないの?」
流刑地に送られてからというもの、いや、そのもっと前に審理局に連行されたときから、マリカの周囲は自分より肉体的に強大な男たちばかりで、マリカはストレスや怒りを感じても思うように表に出せずにいた。 ネガティブな感情の発露が男たちを刺激することを恐れたためだ。
しかし目前のクイックリングはマリカよりも小さいうえに縄で縛られている。 だからマリカは自分の負の感情を思う存分にぶつけられた。
「殺されたり売り飛ばされたりするのに比べたら、肉をひとくち齧られるぐらいどうってことないでしょう? どうしてそれぐらい我慢できないの! どうして私に意地悪するの?」
「意地悪なんかしてない。 俺はただ」
ミツキの言葉の途中で、納屋の扉が乱暴に開かれた。 入って来たのは4人の男。 さっきマリカを襲おうとした男の顔もある。 リンチが3人の仲間を連れて戻って来たのだ。
それを見て、マリカの口から声にならない悲鳴が漏れる。 ひいっ。 《水生成》ではいっぺんに4人も撃退できない。 クイ肉を食べて素早くなっていれば話は別だったが、もう遅い。 たとえ今からクイックリングに無許可で齧りついたとしても、マリカが肉を飲み下して肉の効果が発揮される前に男たちがマリカに殺到する。
男たちはマリカを見て舌なめずり。
「おお、本当にいやがった!」
リンチが他の男たちに指示を出す。
「女の口をふさげ! そしたら呪文も唱えられねえ」
絶体絶命のマリカにミツキが叫ぶ。
「マリカ! 俺のロープをほどけ!」
目前に迫る危機に対処するにはクイックリングに頼るしかない。 しかし、クイックリングを解放するとマリカは取引の材料を失ってしまう。 クイックリングがマリカを見捨てて納屋から逃げ出す恐れだってある。
それでも他に選択肢はない。 マリカは断腸の思いでクイックリングの腕を縛るロープの端を手に握る。 それを引っ張ると、チョウチョ結びだったロープは簡単に解けてしまった。
(ほどいちゃった...)
マリカが失意と不安に包まれようとしたそのとき! マリカの目の前で金色の光が爆発し、周囲にスモモの香りが立ち込めた。
◇❖◇
眩しさに目を閉じるマリカ。 そのマリカの背後で男たちの悲鳴が重なって聞こえる。 ぐあっ。 ぎゃっ!
目を開けたマリカが背後を振り返ると、4人の男は血を流して地面に倒れクイックリングだけが立っている。 クイックリングの手にはナイフ。
クイックリングはどうやら、マリカがクイックリングの腕のロープをほどいたあと、足のロープは自分でほどき、マリカの背後に移動して男たちの誰かからナイフを奪い、そのナイフで4人の男を一瞬でかたずけたらしい。
マリカはクイックリングの素早さを目の当たりにして言葉を失う。
(クイックリングって、ここまで素早いの!?)
輝くのをやめたミツキは、驚きのあまり声も出せずにいるマリカを見てほくそ笑む。 クイックリングの素早さを見るのは初めてかい? どうだ、俺はスゴイだろう?
ミツキは目前の情景に驚くマリカの前に回り、背伸びをしてマリカの視界にニョッキリと顔を出した。
「俺の強さを見てくれた? 俺は」
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「ええ、助けてくれてありがとう。 早いとこ、この場を去りましょう」
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