お嬢様、流刑地に送られ婚約も破棄。でも最強になったら、ザマぁとかどうでも良くなってた

好きな言葉はタナボタ

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第1部

第55話 「保護リスト」

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2度目のクマ狩りを終えた日の夕刻。 マリカたちが食卓でクマ鍋をつついていると、玄関のドアを乱暴に叩く者がいる。

「マリカ、マリカ!」

ジュニアの声だ。 ドアを壊されてはたまらないので、マリカはすぐにはしを置いて席を立った。 ミツキがその後に続く。

ドアを開けると、そこにはやっぱりジュニアが立っていた。 後ろには数人の手下。

「マリカ、元気でやってるか? 犯されたりしてねえか?」

「ええ」

「ちょっと話があるんだ。 中へ入れてくれ」

食事中なので遠慮してもらいたかったが、ジュニアにしては丁寧な物腰なので断りにくい。 マリカは仕方なくジュニアと手下たちを家に上げた。

                   ◇❖◇

部屋に入ってきたジュニアは食卓の上のクマ鍋に気付いた。

「クマ肉か」

ジュニアの言葉にマリカの警戒心は一気にレッド・ゾーンに突入する。 ジュニアは5人前は食べそうだ。 悪いけど、あなたの分はないの。

だが幸いにもジュニアは食卓に座らなかった。

「クマは焼き肉が旨いぞ」

そう言いながら彼は食卓を通り過ぎ、ソファーにどっかりと腰を下ろす。

「マリカがいいもんを食ってるようで安心したぜ。 お前のとこに食料を届けさせようとも思ったんだが...」

早く食事に戻りたいマリカは性急に尋ねる。

「話って何かしら?」

問われたジュニアは食卓に座るエライナをちらりと見る。

「エライナがこの家にいると聞いてな」

マリカの顔に緊張が走る。 まさかエライナを連れ戻しに来たの? でもどうしてジュニアが? エライナの派閥のボスがジュニアに頼んだのかしら?

マリカの緊張に気付いた様子もなく、ジュニアは淡々と告げる。

「エライナの保護リスト入りが決まった。 エライナの弟から要請が来たんだ」

                   ◇❖◇

保護リストとは、流刑地における身の安全と衣食住を保証されている人物のリストである。 そうした保証をするのは流刑地を取り仕切るボス連中だ。 流刑地はアガマサラ市の裏社会が指定する人物を保護し、その代わりに裏社会から物資の提供などのサービスを受ける。

アガマサラ市が公的に流刑地に送る物資だけでは流刑地はやっていけない。 食料が質と量ともに足りないだけでなく、刃物・農具・耳かき・筆記用具・農作物の種や苗・医薬品などの物資が公的な補給には含まれていない。 そうした不足を補うのが裏社会が非公式に提供する物資。 それにアガマサラ市と流刑地の間の貿易だ。 そして、この貿易も裏社会の支援なくしては円滑に行われない。

いっぽう、アガマサラ市の裏社会も流刑地での保護を必要としている。 裏社会で権勢を誇ったヤクザ者でも、流刑地では新参者である。 ヤクザ者はコモノよりは流刑地への適性は高いが、それだけに流刑地の既存の勢力に目を付けられて殺されやすい。 おまけにヤクザ者は一般市民よりも流罪になりやすい。 したがって裏社会の者にとって流刑地での保護は極めて重要で、それゆえアガマサラ市の裏社会は流刑地に頭が上がらない。
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