60 / 123
第1部
第59話 「豪語」
しおりを挟む
朝食を済ませたマリカとミツキは、仲良く手をつないでコモノ・ハウスへと向かった。 コモノたちを狩りに誘うのだ。
コモノ・ハウスの前にはすでに身支度を整えたコモノたちが待ち構えており、マリカとミツキの姿を見つけて大喜び。
「マリカさん!」「ミツキくん!」
マリカはコモノたちのもとへ歩み寄った。
「準備万端だなんて感心じゃない」
「連れて行ってもらうんですから当然ですよ!」
会話を交わしながらマリカは違和感を感じる。 籠を背負っている者の数がやけに多い。 それに女性も混じっている。 女性たちは30~40代で、妊娠している者もいる。
「いま籠を背負ってる人が全員きょうの狩りに参加するのかしら?」
元気のいい返事が返ってきた。
「はいっ!」「そうでーす」「よろしくお願いしまーす」
籠を背負う者の数を目で数えていたミツキが、カウントを完了して悲鳴を上げる。
「30人もいるよ!」
昨日の3倍である。 言うまでもないが、マリカが仕留めた獲物を運ぶのに30人も必要ない。
マリカがコモノ代表に要求する。
「30人はさすがに多すぎるわ。 人数を絞ってちょうだい。 それにどうして女の人までいるの?」
「共用女の人たちです」
コモノから共用女にマリカ主催の狩りの話が伝わったのだという。 コモノ・ハウスのすぐ隣には共用女ハウスがある。
「ふ~ん。 まあ、それはいいとして、狩りに連れて行くのは10人という約束だったでしょう? どうして増えてるのよ?」
「新たに参加したい人が出るいっぽうで、マリカさんの狩りに一度参加した者が必ずまた参加したいと言って譲らなかったんです。 皆で一晩中話し合ったんですが折り合いがつかなくて...」
コモノにとってマリカの狩りはご馳走にありつくチャンスであるだけでなく、息抜きとして格好の機会でもある。
しかしマリカにとっては狩りは単なる食料確保の手段だし、コモノを雇うのも仕留めた獲物を運ばせるため。 コモノの生活を豊かにしようと狩りを主催しているわけではない。 だからマリカが次のように突っぱねてしまうのも無理からぬことである。
「それはあなたたちの問題でしょう? 私が雇えるのは10人が限度よ」
それまで朗らかに活気づいていたコモノと共用女が、マリカの言葉の意味を理解して一斉に静まり返る。 意気消沈してガックリと肩を落とす。
マリカは自分の発言の影響力に驚いた。
「なにもそんなにショックを受けなくてもいいじゃない...」
そう言いつつもマリカは罪悪感に苛まれ始めていた。 暗い顔のコモノは貧相さもひとしおで憐れみを誘う。 彼らは流刑地で皆が嫌がる労働を押し付けられる一方で満足な食事を与えられず、みな痩せていて疲労の色も濃い。
(考えてみれば、コモノさん達は私のほかに頼れる人がいないのよね)
その思いから連鎖的にマリカの頭に浮かぶ言葉がある。
(いい年をした大人が情けない)
マリカは慌ててその言葉を否定した。 無法地帯にあって肉体的に貧弱なコモノに何ができようか? 勇気を出して行動したところで問答無用の暴力が返ってくるだけである。 いい年をした大人にもどうしようもない状況は存在し、コモノにとっての流刑地はそういう状況なのだ。
マリカは幸いにも魔法が使えるし、ミツキという最強の妖精とも懇ろの仲だ。 不条理な理由で流刑地に送られたのがそもそも不運だとはいえ、流刑地においては格別に恵まれた立場にある。 そんなマリカは恵まれない者を助けてやるべきではないのか? 流罪に処された当初にマリカ自身も感じた流罪の不公平さを解消するために何かをすべきではないのか?
「少し... 言い過ぎたかもしれないわね」
近くのコモノたちがマリカのつぶやきに耳敏く反応し、耳をピクつかせて瞼を瞬かせる。 えっ、それじゃあ? もしかして? 彼らの瞳に希望の光が戻り始める。 その次のセリフを早く聞かせてくださいマリカさん。
しかしマリカがなかなか続きの言葉を口にしようとしないので、焦れたコモノ代表が水を向ける。
「あの... 言い過ぎたとは?」
「ぜ、全員...」
マリカは言い淀んだ。 いま自分は間違った決断をしようとしているのでは? 果たして面倒を見切れるのか?
「全員?」
ええい、ままよ! マリカは半ばヤケっぱちで言い放つ。
「狩りに行きたい人は全員つれて行ってあげるわ!」
コモノと共用女が歓喜を爆発させる。 やったー! ばんざーい、ばんざーい! どすこーい!
(言っちゃった。 豪語しちゃった)
コモノ・ハウスの前にはすでに身支度を整えたコモノたちが待ち構えており、マリカとミツキの姿を見つけて大喜び。
「マリカさん!」「ミツキくん!」
マリカはコモノたちのもとへ歩み寄った。
「準備万端だなんて感心じゃない」
「連れて行ってもらうんですから当然ですよ!」
会話を交わしながらマリカは違和感を感じる。 籠を背負っている者の数がやけに多い。 それに女性も混じっている。 女性たちは30~40代で、妊娠している者もいる。
「いま籠を背負ってる人が全員きょうの狩りに参加するのかしら?」
元気のいい返事が返ってきた。
「はいっ!」「そうでーす」「よろしくお願いしまーす」
籠を背負う者の数を目で数えていたミツキが、カウントを完了して悲鳴を上げる。
「30人もいるよ!」
昨日の3倍である。 言うまでもないが、マリカが仕留めた獲物を運ぶのに30人も必要ない。
マリカがコモノ代表に要求する。
「30人はさすがに多すぎるわ。 人数を絞ってちょうだい。 それにどうして女の人までいるの?」
「共用女の人たちです」
コモノから共用女にマリカ主催の狩りの話が伝わったのだという。 コモノ・ハウスのすぐ隣には共用女ハウスがある。
「ふ~ん。 まあ、それはいいとして、狩りに連れて行くのは10人という約束だったでしょう? どうして増えてるのよ?」
「新たに参加したい人が出るいっぽうで、マリカさんの狩りに一度参加した者が必ずまた参加したいと言って譲らなかったんです。 皆で一晩中話し合ったんですが折り合いがつかなくて...」
コモノにとってマリカの狩りはご馳走にありつくチャンスであるだけでなく、息抜きとして格好の機会でもある。
しかしマリカにとっては狩りは単なる食料確保の手段だし、コモノを雇うのも仕留めた獲物を運ばせるため。 コモノの生活を豊かにしようと狩りを主催しているわけではない。 だからマリカが次のように突っぱねてしまうのも無理からぬことである。
「それはあなたたちの問題でしょう? 私が雇えるのは10人が限度よ」
それまで朗らかに活気づいていたコモノと共用女が、マリカの言葉の意味を理解して一斉に静まり返る。 意気消沈してガックリと肩を落とす。
マリカは自分の発言の影響力に驚いた。
「なにもそんなにショックを受けなくてもいいじゃない...」
そう言いつつもマリカは罪悪感に苛まれ始めていた。 暗い顔のコモノは貧相さもひとしおで憐れみを誘う。 彼らは流刑地で皆が嫌がる労働を押し付けられる一方で満足な食事を与えられず、みな痩せていて疲労の色も濃い。
(考えてみれば、コモノさん達は私のほかに頼れる人がいないのよね)
その思いから連鎖的にマリカの頭に浮かぶ言葉がある。
(いい年をした大人が情けない)
マリカは慌ててその言葉を否定した。 無法地帯にあって肉体的に貧弱なコモノに何ができようか? 勇気を出して行動したところで問答無用の暴力が返ってくるだけである。 いい年をした大人にもどうしようもない状況は存在し、コモノにとっての流刑地はそういう状況なのだ。
マリカは幸いにも魔法が使えるし、ミツキという最強の妖精とも懇ろの仲だ。 不条理な理由で流刑地に送られたのがそもそも不運だとはいえ、流刑地においては格別に恵まれた立場にある。 そんなマリカは恵まれない者を助けてやるべきではないのか? 流罪に処された当初にマリカ自身も感じた流罪の不公平さを解消するために何かをすべきではないのか?
「少し... 言い過ぎたかもしれないわね」
近くのコモノたちがマリカのつぶやきに耳敏く反応し、耳をピクつかせて瞼を瞬かせる。 えっ、それじゃあ? もしかして? 彼らの瞳に希望の光が戻り始める。 その次のセリフを早く聞かせてくださいマリカさん。
しかしマリカがなかなか続きの言葉を口にしようとしないので、焦れたコモノ代表が水を向ける。
「あの... 言い過ぎたとは?」
「ぜ、全員...」
マリカは言い淀んだ。 いま自分は間違った決断をしようとしているのでは? 果たして面倒を見切れるのか?
「全員?」
ええい、ままよ! マリカは半ばヤケっぱちで言い放つ。
「狩りに行きたい人は全員つれて行ってあげるわ!」
コモノと共用女が歓喜を爆発させる。 やったー! ばんざーい、ばんざーい! どすこーい!
(言っちゃった。 豪語しちゃった)
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる