108 / 123
第2部
第28話 「大事な相談が済んだ後で①」
しおりを挟む
大事な相談がひとしきり済んで、パグルが言い出した。
「今日アガマサラ市から定期便が来ましてね」
そう言いながらパグルは、足元の紙袋から紙箱を2つ取り出してテーブルの上に置く。
「注文していた拳銃のホルスターと弾薬が届いたんです」
「まあ!」
マリカは胸の前に両手を合わせて喜んだ。 弱っていた心に朗報である。
「こちらの箱がホルスターで、こちらが弾薬。 50発です」
「ありがとう。 大切に使わせて頂くわ」
マリカは2つの箱を大事そうに膝の上に載せた。 本当は弾薬をもっと大量に欲しいところだが、高価だからマリカの派閥の経済力ではそう多くは買えない。 ミツキに去られると分かっていれば、無理してでも大量に注文しただろうが。
「ええ。 それから、マリカさんのご実家に関する噂を耳にしました」
「わたしの実家?」
自分の実家と聞いてすぐに、マリカはお嬢様だった頃の気分に戻った。 マキハタヤ家の壮麗な邸宅、マリカを可愛がってくれた使用人たち、そしてお父さまとお母さま... マリカは両親の顔と声を、まるで昨日会ったばかりのようにはっきりと思い出した。
◇❖◇
マリカが追憶に浸るうちにも、パグルは話を続ける。
「マキハタヤ家がサナキダ派の連中から、ひどい嫌がらせを受けているそうです。 町中で噂になるほどに」
パグルの言葉にマリカはドキリとする。
「嫌がらせ?」
「邸宅が放火や投石の被害に遭っているほか、脅迫状が送られて来るそうです。 マキハタヤ氏の奥方は寝込んでるらしいですよ」
「っ! ...いったい誰が私の家に嫌がらせを?」
「サナキダ系ヤクザの仕業だろうって話です。 マリカさんのお父上が最近になって反サナキダの急先鋒に立つようになったからだとか」
「お父さまが? どうして...?」
サナキダ市はマリカの元婚約者シンジュロウが住む都市である。 娘をサナキダ市の元首の息子に嫁がせようとしていたぐらいだから、これまでマリカの父はサナキダ市を嫌っていなかった。
(シンジュロウさまが私との婚約を破棄したから? でも、事情を考えれば当然だし、お父さまもそのことは分かってるはず...)
「それは不明ですが、マキハタヤ氏は国内の親サナキダ派を一掃しサナキダ市と距離を置くことを主張しているそうです。
「私としては、マキハタヤ氏の主張に賛成ですね。 親サナキダ派がアガマサラ市よりもサナキダ市の利益を優先するのは以前から明らかでした。 警察もサナキダ派の影響下にあるから、マリカさんの実家への嫌がらせも、きっと野放しでしょう」
そこまで語って、パグルはマリカの顔から血の気が引いているのに気付いた。
「いや、余計なことを伝えてしまって申し訳ない」
流罪人であるマリカに実家の危機を丁寧に伝えても、マリカの心を無意味に乱すだけだ。 派閥ボスとはいえ流罪人であるマリカに、アガマサラ市内にある実家を救えはしない。
だが、マリカはパグルの謝罪の言葉を聞いていなかった。 ただただ望郷の念に圧倒されていた。 マリカの里心を封じていた蓋をパグルの話が開けてしまったのだ。
マリカには実家の嫌がらせに立ち向かう自信があった。 流刑地でメンタルを鍛えられたマリカの心は、放火・投石・脅迫状と聞かされたぐらいでは揺らがない。 彼女には拳銃もあれば、《水生成》で人を殺した経験もある。 そんなマリカが帰省すれば ―たとえミツキが一緒でなくても― 両親の強力な味方となることだろう。
マリカは絞り出すように言う。
「なんとかならないの?」
「なんとかとは?」
「なんとかして...」 自分でも分かってる。わたし無茶なこと言っている。「アガマサラ市に戻れないかしら?」
「それは無茶な相談」そこまで言って、パグルは何かを考えついた。「...いや、マリカさんなら」
「私なら!? 戻れるの?」
マリカは勢い込んでパグルに尋ねたが、彼は返事をせず思考にふける。
「...」
しばしの黙考ののち、パグルはマリカに告げた。
「マリカさんならアガマサラ市に戻れるでしょう。 ですがマリカさんの帰還を手助けするにあたり、1つ条件を求めたいと思います」
「今日アガマサラ市から定期便が来ましてね」
そう言いながらパグルは、足元の紙袋から紙箱を2つ取り出してテーブルの上に置く。
「注文していた拳銃のホルスターと弾薬が届いたんです」
「まあ!」
マリカは胸の前に両手を合わせて喜んだ。 弱っていた心に朗報である。
「こちらの箱がホルスターで、こちらが弾薬。 50発です」
「ありがとう。 大切に使わせて頂くわ」
マリカは2つの箱を大事そうに膝の上に載せた。 本当は弾薬をもっと大量に欲しいところだが、高価だからマリカの派閥の経済力ではそう多くは買えない。 ミツキに去られると分かっていれば、無理してでも大量に注文しただろうが。
「ええ。 それから、マリカさんのご実家に関する噂を耳にしました」
「わたしの実家?」
自分の実家と聞いてすぐに、マリカはお嬢様だった頃の気分に戻った。 マキハタヤ家の壮麗な邸宅、マリカを可愛がってくれた使用人たち、そしてお父さまとお母さま... マリカは両親の顔と声を、まるで昨日会ったばかりのようにはっきりと思い出した。
◇❖◇
マリカが追憶に浸るうちにも、パグルは話を続ける。
「マキハタヤ家がサナキダ派の連中から、ひどい嫌がらせを受けているそうです。 町中で噂になるほどに」
パグルの言葉にマリカはドキリとする。
「嫌がらせ?」
「邸宅が放火や投石の被害に遭っているほか、脅迫状が送られて来るそうです。 マキハタヤ氏の奥方は寝込んでるらしいですよ」
「っ! ...いったい誰が私の家に嫌がらせを?」
「サナキダ系ヤクザの仕業だろうって話です。 マリカさんのお父上が最近になって反サナキダの急先鋒に立つようになったからだとか」
「お父さまが? どうして...?」
サナキダ市はマリカの元婚約者シンジュロウが住む都市である。 娘をサナキダ市の元首の息子に嫁がせようとしていたぐらいだから、これまでマリカの父はサナキダ市を嫌っていなかった。
(シンジュロウさまが私との婚約を破棄したから? でも、事情を考えれば当然だし、お父さまもそのことは分かってるはず...)
「それは不明ですが、マキハタヤ氏は国内の親サナキダ派を一掃しサナキダ市と距離を置くことを主張しているそうです。
「私としては、マキハタヤ氏の主張に賛成ですね。 親サナキダ派がアガマサラ市よりもサナキダ市の利益を優先するのは以前から明らかでした。 警察もサナキダ派の影響下にあるから、マリカさんの実家への嫌がらせも、きっと野放しでしょう」
そこまで語って、パグルはマリカの顔から血の気が引いているのに気付いた。
「いや、余計なことを伝えてしまって申し訳ない」
流罪人であるマリカに実家の危機を丁寧に伝えても、マリカの心を無意味に乱すだけだ。 派閥ボスとはいえ流罪人であるマリカに、アガマサラ市内にある実家を救えはしない。
だが、マリカはパグルの謝罪の言葉を聞いていなかった。 ただただ望郷の念に圧倒されていた。 マリカの里心を封じていた蓋をパグルの話が開けてしまったのだ。
マリカには実家の嫌がらせに立ち向かう自信があった。 流刑地でメンタルを鍛えられたマリカの心は、放火・投石・脅迫状と聞かされたぐらいでは揺らがない。 彼女には拳銃もあれば、《水生成》で人を殺した経験もある。 そんなマリカが帰省すれば ―たとえミツキが一緒でなくても― 両親の強力な味方となることだろう。
マリカは絞り出すように言う。
「なんとかならないの?」
「なんとかとは?」
「なんとかして...」 自分でも分かってる。わたし無茶なこと言っている。「アガマサラ市に戻れないかしら?」
「それは無茶な相談」そこまで言って、パグルは何かを考えついた。「...いや、マリカさんなら」
「私なら!? 戻れるの?」
マリカは勢い込んでパグルに尋ねたが、彼は返事をせず思考にふける。
「...」
しばしの黙考ののち、パグルはマリカに告げた。
「マリカさんならアガマサラ市に戻れるでしょう。 ですがマリカさんの帰還を手助けするにあたり、1つ条件を求めたいと思います」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる