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裏切られたんですね
しおりを挟む私が天界から落ち、人間界に来てから1年がたち、15歳になりました。
天界に戻る方法は未だ何一つ見つからず、ただ神殿で歌う毎日です。
私の歌のおかげかどうかわかりませんが、あれからお祈りにくる人の数は確実に増えていき、今では遠くの町からわざわざ私の歌を聴くためにやってくる人もいるくらいです。
人間界にも大分慣れ、なんとなく、この世界について分かってきました。
人間界に住んでいるのは、獣人族、魔族、そして人族です。
獣人族は魔力を持ちませんが、高い身体能力を持っています。
魔族は魔力、知能がともに高く、他の2つの種族から恐れられています。
そして人族は、貴族や王族といった特権階級の人々が魔力を保有しています。
その量は人によりますが。
表向きには3つの種族は平等なのですが、裏では獣人族を奴隷として売買する商人がいるそうなのです。
そしてそして、私にとって最も恐ろしいのは、天使についての言い伝え。
『天使の血肉を口にすると、どんな病もケガもたちまち治り、永遠の命を手にすることができる。』
もちろん真実ではありませんが、全くのウソとも言えません。
それでも実際怪しげな裏市場では天使の血やら天使の肉やらがかなりの高額で取引されているそうです。
どれくらい高額かといいますと、天使の血一口分で王都に立派な屋敷が1つ建ってしまうほど。
売られているほとんどは偽物だと思いますが、天使の間に広まっていた人間に対する悪いイメージはこれが原因かもしれないと、納得してしまいました。
同時に、とっさの判断で天使であることを隠した自分をほめてあげたいです。
バレてしまえば、私はあっというまに捕まって、殺され、売られてしまうでしょう。
想像するだけでもゾッとします。
何としても正体を隠し通し、無事に天界に戻らなくては・・・!
部屋の中で1人決意を新たにしていると、遠慮がちにドアがノックされました。
「はい、今開けますね。」
誰でしょうか、こんな遅い時間に。
「リリー?」
「ご、ごめんね、こんな遅い時間に。ちょっと、相談があって・・・」
廊下にたたずむリリーは心なしか顔色が悪いです。
本当に、何かに悩んでいるみたいですね。
「大丈夫ですよ、何ですか?」
いつもお世話になっているのですし、少しでも役に立とうと思って微笑みました。
「あ、あのね、ここじゃちょっと・・・外で、いいかな?」
「ああ・・・いいですよ。」
部屋の中の音は結構廊下や隣の部屋に響きます。
人に聞かれたくないというリリーの心情を慮って、私達は外に出ました。
月が雲に隠されていて、文字通り真っ暗です。
「それでリリー、相談とは一体・・・リリー?」
少し建物から離れてリリーを見ると、リリーの体が小刻みに震えていました。
「大丈夫ですか・・・っ!!」
一体彼女は何に怯えているのでしょう。
そう思いながら問いかけた私は次の瞬間、本当に何も見えなくなりました。
どうやら、後ろから目隠しをされたみたいです。
リリーは目の前にいたので、他の誰か・・・
「ごめん・・・ごめんなさい・・・」
「リリー!?一体・・・っ」
涙まじりに謝罪を繰り返すリリーの声。
口元に布を当てられ、それにしみこんでいた独特の香りを吸い込んだ私は、意識が遠のいていくのを感じました。
混乱する頭に、最後に1つだけ思い浮かんだのは。
ああ、私・・・リリーに裏切られたんですね。
深い深い、悲しみでした。
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