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どうかどうか、届きますように
しおりを挟む「じゃあエリン、準備はいい?」
「はい、大丈夫です。」
少し緊張しながら、ミーシャさんに頷いて、私は聖堂の中に入っていきました。
お祈りに来ている人たちの視線がつきささります。
前方にある「歌い場」と呼ばれる場所の中央に一人で立ちました。
いつもなら、見習いのみんなと一緒に立っていたのですこし寂しいです。
以前はここで、歌う私達に合わせて町のみなさんも歌っていました。
でも、今日は違います。
私1人の歌声に、みんなが耳を傾けるのです。
伴奏すらなく、正真正銘、私の歌だけ。
深く息を吸って、小さく歌い始めました。
小さな歌声を拾おうと、みんなが耳を澄ませました。
讃美歌は、神様に捧げる歌。
もしかすると、神界に出入りする父さまにも届くかもしれません。
胸の前で手を組んで、私は声量を上げました。
広い聖堂一杯に、私の歌声が響き渡ります。
その感覚が気持ちよくて、私はさらにのびやかに歌います。
父さま、父さま、聞こえますか。
私は無事です。
必ず戻りますから、待っていてください。
祈りに満ちた歌声は、空高く、昇っていきます。
どうかどうか、届きますように・・・
聖堂の人たちのことなんてどうでもよくなり、私は夢中で音を追いかけました。
最後の1音を響かせ、ゆっくりと瞳を開けた私の視界に飛び込んできたのは、歓喜の表情を浮かべた人々でした。
一瞬の沈黙の後、聖堂がドッと揺れました。
「聖女様ー!」
「奇跡の歌だ、奇跡が舞い降りたぞ!」
「聖女様、私達に祝福を!」
次々と叫ばれる声に混乱して、どうすればいいのか分からずオロオロしていた私は、ミーシャさんに目を向けました。
『何も言わずに外に出なさい。』
ミーシャさんに目でうながされ、私はゆっくりと歩き始めました。
通路を歩く私に触れようと、町の人達が我先にと席を立って押し寄せてきます。
しかし、そこは見習いのみんながさっと前に出てきて押しとどめてくれました。
「エリン!お疲れ様!」
外に出てホッと一息ついた私に声をかけたのはリリーでした。
「すごかったわ、みんながエリンのこと、聖女様って呼ぶのも分かるくらい。本当に、伝説の聖女様みたいだった・・・」
思い出すようにホウッとため息を漏らすリリーに慌てて首を振ります。
「やめてください、私、そんな大層な人じゃありませんから。」
そもそも私、人でさえもありませんし。
「・・・あれ?」
「どうしたの?エリン」
不意に後ろを振り返って首をかしげる私に、エリンが不思議そうな顔をしました。
「何か視線を感じたんですけど・・・気のせいみたいです。」
確かに、誰かに見られていたような気がしたんですけどね・・・
さっきまでたくさんの人に見られていたから、きっとその余韻みたいなものでしょう。
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