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奇跡の人に、奇跡の力
しおりを挟む「私一人で讃美歌を…ですか?」
「ええ、そうよ。」
3人の神官を前に、少し戸惑っています。
私に、1人で讃美歌を歌ってほしいというのです。
今までは、町の人や見習いのみんなと一緒に歌っていたのに。
「あなたの歌声は美しいと評判なの。もし歌ってくれると、みんなとても喜ぶわ。」
えっと・・・つまり、客寄せみたいなものでしょうか。
この町では、神殿に通う人が年々減少しているようなのです。
そこで、1人も多くの人がお祈りに来てくれるように、ということでしょう。
「分かりました。私でよければ、喜んで。」
歌うのは苦じゃありませんし、少しでもみんなに恩返しができるのなら、と思って承諾しました。
それに・・・人の目につけば、ひょっとしたら天界の誰かに私を見つけてもらえるかもしれません。
私が無事だということだけでも、どうにかして伝えたいです。
「ありがとう、では早速明日からよろしくね。」
「はい!」
*****
「ねえ、何の話だったの?」
部屋に戻ると、そこにはリリーがいました。
心配して来てくれたみたいです。
「悪い話ではありませんでしたよ。私1人で讃美歌を歌うように言われました。」
改めて考えると、少し緊張します。
人前で、それも1人で歌うなんて私、生まれて初めてです。
「すごいじゃない!エリン、とっても歌が上手いものね。1人で歌うなんて、聖女様みたい。さすが天使の歌声ね。」
「えっ・・・あ、ありがとうございます。」
天使というキーワードが出てきて、一瞬ドキリとしましたが、ただの比喩だと気づいてホッとしました。
「ところで、聖女様って誰ですか?」
聞いたことのない単語が出てきました。
神官とはまた違うのですよね・・・
「あ、そっか。エリンは知らないんだよね。聖女様っていうのは、何百年かに1度現れる、奇跡の人のことだよ。その人も大勢の人の前で歌うんだけどね、聖女様の歌には不思議な力があるのよ。」
奇跡の人、ですか・・・
すごい肩書きですね、それに、不思議な力・・・?
「聖女様が歌うとね、けが人や病人が元気になったり、ケンカしていた人がケンカをやめたりするの。だから、聖女様の歌は奇跡の歌って呼ばれているのよ。」
奇跡の人に、奇跡の力・・・
「なんだか、夢みたいなお話ですね・・・」
思わず正直な感想を口にすると、リリーも笑いました。
「伝説みたいなものだからね。もう何百年も現れていないらしいし・・・」
「そうなんですね。」
じゃあもうすぐ現れるのでしょうか・・・とのんきに考えていた私は、またもや悲しい未来が待つ道に足を踏み入れてしまったことに気づきませんでした。
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