20 / 44
偽りの聖女 ~レオンside~
しおりを挟むガタゴトガタゴトと揺れる馬車の中で、休憩が終わったばかりというのに早くも青い顔をしている女を眺めた。
月の光を集めたような銀の長い髪に、雪よりも白い肌。
長いまつげに縁取られた大きな瞳は、神秘的な金色。
数々の美女を見てきた俺からしても、彼女、エリンはとても美しいと思えた。
まあ、まだエリンは幼さが残っており、美女というよりは美少女。
ただ、あと2年もすれば色気も出てきてとんでもない美女に化けるだろうなとは思う。
俺は、レオン・ジュセ・エルファランド。
このエルファランドの第二王子。
王太子である兄を支え、国を守る者として、俺はエリンを利用しなければならない。
この国には、聖女の伝説がある。
聖女が歌えばどんな怪我でも病でもたちまち治り、争いさえも消えていく。
人々を守る守護の力も持っていたらしい。
神秘的な美貌を持ち、慈愛にあふれるその姿から、当時の人々は彼女を聖女と呼んでいたらしい。
しかし、その聖女はどこから来たのか分かっていない。
ある日突然、現れたのだそうだ。
そのことも、神の使いだという噂の信憑性を高めた。
もう1000年以上昔の伝説だ。
それからだいたい百年の間隔で聖女は現れ、国を救い、民に勇気を与えていたのだという。
・・・しかし、それらは皆、偽りの聖女。
元祖聖女のような、癒しや守護の力を持たないが、見目の良い女達を国が聖女にしたてあげた。
全ては民を勇気づけるために。
このことを知っているのは、王族のみ。
国が1000年間、民に突き続けている大きな嘘だ。
偽りの聖女が歌っても、怪我は治らないし病も癒えない。
争いだってなくならないのに、皆聖女の歌というだけでまるで癒されたかのように振る舞い、礼を言う。
偽りの聖女なのに、彼女らが王城にいるだけで民は自分達が守られていると盲信し、感謝する。
前任の偽聖女が亡くなってから、そろそろ100年。
民の間でも、新たな聖女を期待する声が上がっている。
そろそろ誰か良い感じの女を聖女にしたてあげようとしていたところで、エリンを見つけた。
人攫いが出るとの噂を聞き、森に身を潜めていると案の定やって来た怪しげな馬車。
タイミングを見計らって捕らえようと見ていれば、急に眩しい光があふれ出した。
どうやら光を出したのはまだ幼さが残る少女。
怯えきっていて庇護欲をそそられる姿だった。
あの光は、光属性の魔法を使えば出せなくもない。
きっとエリンは光属性を持っているのだろう。
聖女ではないが、ただでさえ珍しい光属性をあれだけ強い力で扱える者はそうそういない。
聖女にしたてあげても、何ら問題はない。
頭では、そう理論づけて自分を納得させている。
でも・・・
目の前の少女をもう一度見る。
少し潤んだ金の瞳。
光の中心にたたずむ少女が宿していた、あの強い瞳の輝きが忘れられない。
別に、偽聖女なんて、彼女じゃなくてもいいのだ。
ただ・・・なんとなく。
エリンを王城に、自分の手の届くところに留めておきたいと、思ってしまった。
ただ、それだけだ。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる