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天から遣わされた聖女 ~アレンside~
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おかしい。
我が国の第二王子レオン殿下と、聖女様であるエリン様が乗っておられる馬車に、護衛として共に乗っている私は内心首をかしげていた。
私はアレン・フィル・オブゼミリアン。
武の名門として知られる筆頭伯爵家、オブゼミリアン家の嫡男であり、20歳という異例の若さで騎士団長の地位に上り詰めたとして有名になっている、らしい。
私も自分の仕事に誇りを持ち、王子殿下と聖女猊下を護送するにあたり、いつも以上に気を引き締めて仕事にあたっていた・・・のだが。
先程からどうにも理解しがたいことがあるのだ。
それは、森の中で保護した、聖女猊下のこと。
彼女が放っていた眩い光を見ただけで、彼女が尊く、特別な存在であることが分かった。
その特別な存在が、聖女、なのかはまだ分からないが。
自分が守っていかなければと、肝に銘じたところであった。
そんな彼女は馬車に弱いらしく、馬車酔いでその美しい顔を青く染めていて、こちらとしては心配で心配で気が気ではなかったのだ。
ところが休息を終え、一歩街に入るとどうであろう。
つい先程までは青い顔をして、今にも倒れそうなくらいフラフラだったのに、窓の外で街の人々が口々に聖女様と叫んでいるのを聞いた途端、にこやかに手を振り出したのだ。
私はもちろん、レオン殿下も唖然として彼女を見つめた。
もっとも、殿下の場合、すぐに笑みを貼り付けてご自身も人々に向かって手を振り始めたのだが。
そう、自分の事情をさておいて人々のために手を振ることが出来るなんて、並の庶民にはできないことだ。
手を振ったところで誰かの命が救われるわけではないし、カーテンを閉めて無視したところで誰も咎めない。
それを分かっていて、たとえ馬車酔いしていようが、内心とても驚いていようが、民のために笑顔をつくれる人なんて、それ相応の教育を受けているとしか思えない。
悲しいことに、この国でしっかりとした教育が受けられるのは貴族だけ。
たとえ貴族でも、爵位や財力によっては教育の質に差が出てくる。
少しの間共にいただけでも分かる。
彼女の言葉遣い、仕草、そしてにじみ出る気品。
もしかすると、この国の王族と同じくらいの教育を施されているのかもしれない。
けれど・・・
だとしたら一体、彼女は何者だ?
この国の貴族の娘に、銀髪の娘なんていなかった。
金色の瞳なんて、この国中の人々をかき集めても見つからないだろう。
なら、異国の娘か?
いや、それにしては我が国の言葉を流暢に話している。
なまりも感じないし、礼儀作法に他国の癖が見受けられない。
本当に、何者なのだろう。
なぜあなたはあの森にいたのですか?
なぜあなたはさらわれかけていたのですか?
あなたは一体何者ですか?
あなたは本当に、聖女なのですか?
聞きたいことが、たくさんある。
けれど私は、騎士団長とはいえ、今はただの護衛。
話しかけて良い立場ではない。
グッとこらえていると、不意に彼女がこちらを見た。
そして、ふわりと花が咲くように微笑む。
軽く細められた瞳が窓から差しこむ光を反射してキラキラ輝く。
「お勤め、ご苦労様です。」
ありがとうございますと礼を言うその澄みきった声が聞き惚れるほどに美しくて。
その言葉が、笑みが、自分に向けられていることに心が歓喜する。
この恐ろしいほどの胸の高まりは何なのだろう。
天から遣わされた聖女。
そう言われても信じられるほど彼女は神々しく、慈愛に満ちていて。
それでいて、何だかとても愛おしく感じるのだ。
我が国の第二王子レオン殿下と、聖女様であるエリン様が乗っておられる馬車に、護衛として共に乗っている私は内心首をかしげていた。
私はアレン・フィル・オブゼミリアン。
武の名門として知られる筆頭伯爵家、オブゼミリアン家の嫡男であり、20歳という異例の若さで騎士団長の地位に上り詰めたとして有名になっている、らしい。
私も自分の仕事に誇りを持ち、王子殿下と聖女猊下を護送するにあたり、いつも以上に気を引き締めて仕事にあたっていた・・・のだが。
先程からどうにも理解しがたいことがあるのだ。
それは、森の中で保護した、聖女猊下のこと。
彼女が放っていた眩い光を見ただけで、彼女が尊く、特別な存在であることが分かった。
その特別な存在が、聖女、なのかはまだ分からないが。
自分が守っていかなければと、肝に銘じたところであった。
そんな彼女は馬車に弱いらしく、馬車酔いでその美しい顔を青く染めていて、こちらとしては心配で心配で気が気ではなかったのだ。
ところが休息を終え、一歩街に入るとどうであろう。
つい先程までは青い顔をして、今にも倒れそうなくらいフラフラだったのに、窓の外で街の人々が口々に聖女様と叫んでいるのを聞いた途端、にこやかに手を振り出したのだ。
私はもちろん、レオン殿下も唖然として彼女を見つめた。
もっとも、殿下の場合、すぐに笑みを貼り付けてご自身も人々に向かって手を振り始めたのだが。
そう、自分の事情をさておいて人々のために手を振ることが出来るなんて、並の庶民にはできないことだ。
手を振ったところで誰かの命が救われるわけではないし、カーテンを閉めて無視したところで誰も咎めない。
それを分かっていて、たとえ馬車酔いしていようが、内心とても驚いていようが、民のために笑顔をつくれる人なんて、それ相応の教育を受けているとしか思えない。
悲しいことに、この国でしっかりとした教育が受けられるのは貴族だけ。
たとえ貴族でも、爵位や財力によっては教育の質に差が出てくる。
少しの間共にいただけでも分かる。
彼女の言葉遣い、仕草、そしてにじみ出る気品。
もしかすると、この国の王族と同じくらいの教育を施されているのかもしれない。
けれど・・・
だとしたら一体、彼女は何者だ?
この国の貴族の娘に、銀髪の娘なんていなかった。
金色の瞳なんて、この国中の人々をかき集めても見つからないだろう。
なら、異国の娘か?
いや、それにしては我が国の言葉を流暢に話している。
なまりも感じないし、礼儀作法に他国の癖が見受けられない。
本当に、何者なのだろう。
なぜあなたはあの森にいたのですか?
なぜあなたはさらわれかけていたのですか?
あなたは一体何者ですか?
あなたは本当に、聖女なのですか?
聞きたいことが、たくさんある。
けれど私は、騎士団長とはいえ、今はただの護衛。
話しかけて良い立場ではない。
グッとこらえていると、不意に彼女がこちらを見た。
そして、ふわりと花が咲くように微笑む。
軽く細められた瞳が窓から差しこむ光を反射してキラキラ輝く。
「お勤め、ご苦労様です。」
ありがとうございますと礼を言うその澄みきった声が聞き惚れるほどに美しくて。
その言葉が、笑みが、自分に向けられていることに心が歓喜する。
この恐ろしいほどの胸の高まりは何なのだろう。
天から遣わされた聖女。
そう言われても信じられるほど彼女は神々しく、慈愛に満ちていて。
それでいて、何だかとても愛おしく感じるのだ。
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