大天使の娘です。ある日人間界に落ちてしまいました。

ユーリ

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笑顔で誤魔化しました

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「疲れました・・・」

辺りがすっかり暗くなったころ、私はこっそり街の宿から抜け出しました。
聖女聖女と騒がれて、気が張っていたんだと思います。
一人になりたくて、護衛の人達の目を誤魔化して人気の少ない場所に移動しました。

もちろん、護衛の人達も私なんかに誤魔化されるくらい甘くはないので神力をこっそり使ってしまいました。
自分の姿を見られないようにすることもできるんです。

街の広場は昼間とは違い静まりかえっていました。
噴水の水がピチャピチャと心地よい音をたてているだけ。

そっと噴水の淵に腰掛け、今日一日のことを振り返りました。
今日はひどい馬車酔いに悩まされながら、街の人に挨拶をしました。

それにしても、久しぶりにあんなことをしました。
天界にいるときは、年に一度、今日よりももっと大きな規模のパレードをしてみんなに手を振ったりしていたものです。

なぜそんなことをするのかというと、私の父様が大天使だから。
天界には身分が一応存在します。
平和な場所なので、身分による縛りなんてないのですが。

それでも年に一度だけ、それがはっきり現れる行事があるのです。
それが、謝天祭(しゃてんさい)です。
天界の恵みに感謝し、新しい一年の繁栄を祈る新年のお祭りなのですが、そこで主役となるのが大天使である父様と、その娘である私なのです。
大天使は、天界の中で最も尊ばれる天使のことです。
ですから人間の国になぞらえて考えると、父様は王様、私は王女といったところでしょうか。

まあ、その謝天祭で主役としてパレードをすること以外にこれといった他の天使との違いはないのですけどね。
一応それなりの教養や立ち居振る舞いは学んできました。

シン達幼なじみは、そんな私につきあって一緒に同じ内容の勉強をしてくれていました。
今思えば、勉強ばかりでなかなか遊べない私を仲間外れにしないように気遣ってくれていたのでしょうね・・・

馬車の窓の外に見えた街の人々はみんな喜びの感情をあらわにしていました。
みんな優しそうな人ばかりでしたけど、天界にいる天使とはやはり違います。
雰囲気や、ふとした時の表情、仕草、言葉・・・
違いを目の当たりにする度に、胸がキュウッと絞られていくようです。

違いといえば、今私が見ているものもそうです。
暗闇を照らすように、空に浮かぶ球体がぼんやりと優しい光を放っています。
噴水の水が光を反射していて、とてもきれい。

でも、天界にはこんな球体ありませんでした。
みんなは球体があるのが当たり前というような表情でしたので、ついついあれが何なのか聞けずに過ごしていたのです。

何かは分かりませんが、あの光を見ていると、何かに守られているような、そんな気持ちになります。

「ここにいたのか。」

ボーッと光を見つめていると、背後から声をかけられ、ゆっくりと振り返りました。

「あ・・・」

宿から出て、いつのまにか神力の効果もなくなっていたようです。
気が抜けるとすぐに力が途切れてしまいます。
まだまだ練習不足ですね・・・

「月を見ていたのか?」

カツカツと音をさせながら近づいてくるのはレオン様。
護衛の姿は見えないので、この人も抜け出してきたのでしょうか・・・

「月?」

月、とは何のことでしょう。
レオン様が発した言葉がひっかかり、首を傾げました。
聞いたことのない言葉ですね。
するとレオン様は器用に片眉を上げて怪訝そうな顔をしました。

「何初めて聞く言葉に対する子供みたいな反応してるんだ。ほら、あの月を見ていたんだろ?」

そう言って視線を斜め上に上げてレオン様。
その視線を辿っていくと、そこにあったのはあの光る球体。

「ああ、あの球体は月っていう名前だったんですね・・・」

思わず呟きました。
月、ですか、素敵な名前です。
にこりと微笑むと、レオン様が信じられないようなものでも見るような顔をして私を見ていることに気がつきました。

「聖女、お前・・・月を知らなかったのか?」

あ・・・どうやら、やっぱり一般常識だったみたいです。

「えと、もちろん知ってますよ?ちょっとぼけたくなっただけです。ほら、そういう気分のときってあるじゃないですか。」

ねっ?と笑顔で誤魔化しました。
父様が昔言ってたんです。

エリン、困ったときはね、とりあえず笑って誤魔化せばいいんだよ。
そうすれば大抵の相手は誤魔化されてくれるよ、と。

「あー・・・そうだな。そんな時もある、よな。」

レオン様も納得して下さったようです。

やっぱり父様は偉大です。

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