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第1部 1章:運命の書との邂逅
第2話:葬儀と遺品
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篠田教授の葬儀は、三日後に執り行われることになった。
会場となった斎場には、予想以上に多くの参列者が集まっていた。大学関係者はもちろん、国内外の研究者、出版社の編集者、そして教授の教え子たち。篠田教授がいかに多くの人々に影響を与えてきたかを、賢吾は改めて実感した。
しかし、参列者の中に、明らかに異質な一団がいることに賢吾は気付いた。
葬儀場の片隅に、黒いスーツを着た外国人のグループが立っている。彼らは誰とも言葉を交わさず、ただ静かに式の進行を見守っていた。その視線は、参列者一人一人を観察しているようで、特に賢吾に対しては執拗なまでに注視していた。
「佐倉先生」
声をかけられて振り返ると、教え子の一人が立っていた。田中美月、先日の講義で質問をしてきた学生だ。
「田中さん。来てくれたんですね」
「篠田教授には、一度だけ特別講義でお世話になったことがあって。あの時の『神話は人類の記憶である』という言葉が忘れられなくて」
神話は人類の記憶。篠田教授がよく口にしていた言葉だった。当時は詩的な表現だと思っていたが、今となっては違う意味に聞こえる。
「ところで先生」
美月が声を潜めた。
「あの外国人の方々、どなたかご存知ですか?さっきから皆さんを観察しているようで、少し不気味で...」
賢吾も気になっていたが、知らないと首を振った。しかし、彼らの存在が単なる偶然ではないことは直感的に分かっていた。
焼香の列に並びながら、賢吾は篠田教授との思い出を振り返った。初めて会ったのは、十五年前の学会だった。当時、大学院生だった賢吾の発表に興味を持った教授が声をかけてきたのだ。
『君の北欧神話に対する解釈は面白い。既存の枠組みにとらわれていない』
それから、篠田教授は賢吾の指導教官となり、研究者としての道を導いてくれた。時に厳しく、時に優しく。まるで本当の父親のように。
賢吾の番が来た。遺影の前で手を合わせる。写真の中の篠田教授は、いつもの温和な笑顔を浮かべている。しかし、その瞳の奥に、何か言いたげな光があるように見えた。
『知識を求める者は深淵を覗く』
最後のメッセージが脳裏をよぎる。教授は何を見つけ、何を恐れていたのか。
焼香を終えて席に戻ると、隣に意外な人物が座っていた。篠田教授の妻、篠田晴美だった。
「奥様、お悔やみ申し上げます」
「ありがとうございます、佐倉さん」
晴美は静かに微笑んだ。
「主人も、あなたに見送ってもらえて喜んでいるでしょう」
しばらく沈黙が流れた後、晴美が口を開いた。
「実は、お渡ししたいものがあります。式が終わりましたら、少しお時間をいただけますか」
賢吾が頷くと、晴美は安堵の表情を見せた。そして、小声で付け加えた。
「主人の研究室に、あなた宛ての箱があったんです。『賢吾君に、必ず』と」
賢吾の鼓動が早まった。鍵に続いて、また新たな遺品。篠田教授は一体、何を残そうとしていたのか。
式が進み、弔辞の時間になった。大学の学長、学会の重鎮、そして最後に賢吾が指名された。
壇上に立ち、参列者を見渡す。黒いスーツの外国人たちは、相変わらず無表情で立っている。その中の一人と目が合った。鋭い青い瞳が、まるで賢吾の心の中を覗き込むように見つめている。
賢吾は視線を外し、用意していた原稿を読み始めた。篠田教授との出会い、受けた恩、そして北欧神話研究にかけた情熱について。しかし、話しながら、賢吾は別のことを考えていた。
もし、教授が本当に「人類の真実」を発見していたとしたら。そして、それが命に関わるほど危険なものだったとしたら。
弔辞を終えて席に戻る途中、賢吾は気付いた。黒いスーツの一人が、小型の機器で何かを記録している。まるで、参列者全員の顔をデータベース化しているかのように。
葬儀が終わり、出棺の時を迎えた。篠田教授を乗せた霊柩車が、ゆっくりと斎場を後にしていく。参列者たちも三々五々に散っていく中、晴美が賢吾に近寄ってきた。
「では、参りましょうか」
二人は晴美の車で、篠田家へと向かった。道中、晴美が口を開いた。
「主人は最後の一ヶ月、まるで何かに取り憑かれたようでした。食事も満足に取らず、書斎に籠もりきり。何度も心配したのですが...」
「何か、変わった様子はありませんでしたか?」
晴美は少し考えてから答えた。
「そういえば、夜中に外国語で寝言を言っていたことがあります。ドイツ語でもフランス語でもない、聞いたことのない言葉でした。それと...」
「それと?」
「『彼らが来る前に、真実を伝えなければ』と。彼らが誰なのかは、教えてくれませんでしたが」
賢吾は黒いスーツの一団を思い出した。もしかしたら、彼らが「来る」はずだった者たちなのかもしれない。しかし、教授の死によって、一歩遅れたのか。
篠田家に到着すると、晴美は賢吾を直接書斎へと案内した。あの日以来、初めて足を踏み入れる部屋。しかし、様子が少し違っていた。本棚の配置が変わり、机の上も整理されている。
「警察の現場検証の後、少し片付けさせていただきました」
晴美が説明する。
「でも、主人が残したものは、そのままにしてあります」
晴美は本棚の一角に向かい、何冊かの本を抜き取った。すると、隠し扉のように壁の一部が開いた。
「まさか、隠し金庫が...」
「私も知りませんでした。警察が帰った後、偶然見つけたんです」
中には、木製の古い箱が収められていた。表面には「賢吾へ」という文字と共に、奇妙な紋章が刻まれている。北欧のルーン文字に似ているが、微妙に違う。
「これを、お預かりください」
晴美が箱を差し出した。
「中身は見ていません。主人を信じて、そのままお渡しします」
賢吾は震える手で箱を受け取った。思ったより重い。そして、なぜか温かい。先日の鍵と同じような、不思議な温もりがあった。
「それと、もう一つ」
晴美は封筒を取り出した。中には数枚の写真が入っている。
「主人が最期の数日間に撮影したものです。場所は南極...三十年前の調査隊の写真だそうです。なぜ今になって見ていたのかは分かりませんが」
写真を見て、賢吾は息を呑んだ。氷原の下に、明らかに人工的な構造物が写っている。巨大な幾何学模様、金属のような光沢を持つ壁面。そして、その規模は...
「これは...」
「信じられないでしょう?私も最初は合成写真かと思いました。でも、主人は真剣でした。『これが全ての始まりだ』と」
賢吾は写真を見つめながら、頭の中で情報を整理しようとした。南極の構造物、謎の鍵、そしてこの箱。すべてが繋がっているはずだ。
「ありがとうございます、奥様。大切にお預かりします」
「主人が信頼していたのは、あなただけでした」
晴美は賢吾の手を握った。
「どうか、主人の遺志を...そして、お気をつけて」
最後の言葉には、明確な警告の響きがあった。
篠田家を後にして、賢吾は重い箱を抱えて帰路についた。電車の中で、ふと周囲を見渡す。乗客の中に、葬儀場にいた黒いスーツの男がいないか確認する。幸い、それらしい人物は見当たらない。
しかし、安心はできなかった。スマートフォンを取り出し、念のためGPSをオフにする。そして、いつもとは違う経路で帰宅することにした。
アパートに着いても、すぐには部屋に入らない。郵便受けを確認し、ドアに仕掛けておいた細い糸が切れていないか確かめる。子供じみた行動だと自分でも思うが、篠田教授の死が単なる自然死ではないという確信が、日に日に強くなっていた。
部屋に入ると、まず窓のカーテンを閉めた。そして、机の上に箱を置く。
改めて見ると、箱自体が芸術品のようだった。木材は何百年も経っているように見えるが、状態は完璧だ。表面の紋章は、光の角度によって違う模様に見える。
深呼吸をして、賢吾は箱を開けた。
中には、獣皮で作られた一冊の本が収められていた。表紙には金属の留め具があり、複雑なルーン文字が刻まれている。そして、中央には「YGGDRASIL」の文字。
ユグドラシル。世界樹。北欧神話の宇宙の中心。
賢吾は本を手に取った。獣皮の感触は、今まで触れたどんな素材とも違っていた。そして、例の温もり。まるで、生きているかのような...
鍵を取り出し、留め具に近づける。すると、まるで磁石に引き寄せられるように、鍵が留め具にぴたりと収まった。
カチリという音と共に、留め具が外れた。
賢吾は息を止めて、表紙を開いた。
最初のページには、現代の日本語で一文が記されていた。
『我が名はイール。汝らがロキと呼ぶ者。これは神話ではない。真実の記録である』
賢吾の手が震えた。ロキ。北欧神話のトリックスター。神でありながら巨人の血を引き、神々に災いをもたらす存在。
次のページをめくる。そこには、信じがたい内容が綴られていた。
『神々は、地球外からの訪問者により強化された人類である。巨人族とは、我々のことだ』
賢吾は本を閉じ、額に手を当てた。これが本物なら、人類の歴史、いや、人類の存在そのものの意味が根底から覆される。
篠田教授は、これを発見し、そして...
窓の外で、何か物音がした。賢吾は反射的に本を抱きしめ、明かりを消した。
カーテンの隙間から外を覗く。向かいのビルの屋上に、人影が見える。こちらを観察しているような...
賢吾は息を潜めた。
篠田教授の言葉が蘇る。
『誰も信じるな』
そして
『知識を求める者は深淵を覗く』
賢吾は今、その深淵の縁に立っていることを実感した。そして、もう後戻りはできないことも。
イールの書を胸に抱き、賢吾は決意を新たにした。明日、神保町の古書店「宝永堂」に行く。そこで、さらなる真実が待っているはずだ。
たとえそれが、危険な真実であったとしても。
会場となった斎場には、予想以上に多くの参列者が集まっていた。大学関係者はもちろん、国内外の研究者、出版社の編集者、そして教授の教え子たち。篠田教授がいかに多くの人々に影響を与えてきたかを、賢吾は改めて実感した。
しかし、参列者の中に、明らかに異質な一団がいることに賢吾は気付いた。
葬儀場の片隅に、黒いスーツを着た外国人のグループが立っている。彼らは誰とも言葉を交わさず、ただ静かに式の進行を見守っていた。その視線は、参列者一人一人を観察しているようで、特に賢吾に対しては執拗なまでに注視していた。
「佐倉先生」
声をかけられて振り返ると、教え子の一人が立っていた。田中美月、先日の講義で質問をしてきた学生だ。
「田中さん。来てくれたんですね」
「篠田教授には、一度だけ特別講義でお世話になったことがあって。あの時の『神話は人類の記憶である』という言葉が忘れられなくて」
神話は人類の記憶。篠田教授がよく口にしていた言葉だった。当時は詩的な表現だと思っていたが、今となっては違う意味に聞こえる。
「ところで先生」
美月が声を潜めた。
「あの外国人の方々、どなたかご存知ですか?さっきから皆さんを観察しているようで、少し不気味で...」
賢吾も気になっていたが、知らないと首を振った。しかし、彼らの存在が単なる偶然ではないことは直感的に分かっていた。
焼香の列に並びながら、賢吾は篠田教授との思い出を振り返った。初めて会ったのは、十五年前の学会だった。当時、大学院生だった賢吾の発表に興味を持った教授が声をかけてきたのだ。
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それから、篠田教授は賢吾の指導教官となり、研究者としての道を導いてくれた。時に厳しく、時に優しく。まるで本当の父親のように。
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『知識を求める者は深淵を覗く』
最後のメッセージが脳裏をよぎる。教授は何を見つけ、何を恐れていたのか。
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「ありがとうございます、佐倉さん」
晴美は静かに微笑んだ。
「主人も、あなたに見送ってもらえて喜んでいるでしょう」
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「実は、お渡ししたいものがあります。式が終わりましたら、少しお時間をいただけますか」
賢吾が頷くと、晴美は安堵の表情を見せた。そして、小声で付け加えた。
「主人の研究室に、あなた宛ての箱があったんです。『賢吾君に、必ず』と」
賢吾の鼓動が早まった。鍵に続いて、また新たな遺品。篠田教授は一体、何を残そうとしていたのか。
式が進み、弔辞の時間になった。大学の学長、学会の重鎮、そして最後に賢吾が指名された。
壇上に立ち、参列者を見渡す。黒いスーツの外国人たちは、相変わらず無表情で立っている。その中の一人と目が合った。鋭い青い瞳が、まるで賢吾の心の中を覗き込むように見つめている。
賢吾は視線を外し、用意していた原稿を読み始めた。篠田教授との出会い、受けた恩、そして北欧神話研究にかけた情熱について。しかし、話しながら、賢吾は別のことを考えていた。
もし、教授が本当に「人類の真実」を発見していたとしたら。そして、それが命に関わるほど危険なものだったとしたら。
弔辞を終えて席に戻る途中、賢吾は気付いた。黒いスーツの一人が、小型の機器で何かを記録している。まるで、参列者全員の顔をデータベース化しているかのように。
葬儀が終わり、出棺の時を迎えた。篠田教授を乗せた霊柩車が、ゆっくりと斎場を後にしていく。参列者たちも三々五々に散っていく中、晴美が賢吾に近寄ってきた。
「では、参りましょうか」
二人は晴美の車で、篠田家へと向かった。道中、晴美が口を開いた。
「主人は最後の一ヶ月、まるで何かに取り憑かれたようでした。食事も満足に取らず、書斎に籠もりきり。何度も心配したのですが...」
「何か、変わった様子はありませんでしたか?」
晴美は少し考えてから答えた。
「そういえば、夜中に外国語で寝言を言っていたことがあります。ドイツ語でもフランス語でもない、聞いたことのない言葉でした。それと...」
「それと?」
「『彼らが来る前に、真実を伝えなければ』と。彼らが誰なのかは、教えてくれませんでしたが」
賢吾は黒いスーツの一団を思い出した。もしかしたら、彼らが「来る」はずだった者たちなのかもしれない。しかし、教授の死によって、一歩遅れたのか。
篠田家に到着すると、晴美は賢吾を直接書斎へと案内した。あの日以来、初めて足を踏み入れる部屋。しかし、様子が少し違っていた。本棚の配置が変わり、机の上も整理されている。
「警察の現場検証の後、少し片付けさせていただきました」
晴美が説明する。
「でも、主人が残したものは、そのままにしてあります」
晴美は本棚の一角に向かい、何冊かの本を抜き取った。すると、隠し扉のように壁の一部が開いた。
「まさか、隠し金庫が...」
「私も知りませんでした。警察が帰った後、偶然見つけたんです」
中には、木製の古い箱が収められていた。表面には「賢吾へ」という文字と共に、奇妙な紋章が刻まれている。北欧のルーン文字に似ているが、微妙に違う。
「これを、お預かりください」
晴美が箱を差し出した。
「中身は見ていません。主人を信じて、そのままお渡しします」
賢吾は震える手で箱を受け取った。思ったより重い。そして、なぜか温かい。先日の鍵と同じような、不思議な温もりがあった。
「それと、もう一つ」
晴美は封筒を取り出した。中には数枚の写真が入っている。
「主人が最期の数日間に撮影したものです。場所は南極...三十年前の調査隊の写真だそうです。なぜ今になって見ていたのかは分かりませんが」
写真を見て、賢吾は息を呑んだ。氷原の下に、明らかに人工的な構造物が写っている。巨大な幾何学模様、金属のような光沢を持つ壁面。そして、その規模は...
「これは...」
「信じられないでしょう?私も最初は合成写真かと思いました。でも、主人は真剣でした。『これが全ての始まりだ』と」
賢吾は写真を見つめながら、頭の中で情報を整理しようとした。南極の構造物、謎の鍵、そしてこの箱。すべてが繋がっているはずだ。
「ありがとうございます、奥様。大切にお預かりします」
「主人が信頼していたのは、あなただけでした」
晴美は賢吾の手を握った。
「どうか、主人の遺志を...そして、お気をつけて」
最後の言葉には、明確な警告の響きがあった。
篠田家を後にして、賢吾は重い箱を抱えて帰路についた。電車の中で、ふと周囲を見渡す。乗客の中に、葬儀場にいた黒いスーツの男がいないか確認する。幸い、それらしい人物は見当たらない。
しかし、安心はできなかった。スマートフォンを取り出し、念のためGPSをオフにする。そして、いつもとは違う経路で帰宅することにした。
アパートに着いても、すぐには部屋に入らない。郵便受けを確認し、ドアに仕掛けておいた細い糸が切れていないか確かめる。子供じみた行動だと自分でも思うが、篠田教授の死が単なる自然死ではないという確信が、日に日に強くなっていた。
部屋に入ると、まず窓のカーテンを閉めた。そして、机の上に箱を置く。
改めて見ると、箱自体が芸術品のようだった。木材は何百年も経っているように見えるが、状態は完璧だ。表面の紋章は、光の角度によって違う模様に見える。
深呼吸をして、賢吾は箱を開けた。
中には、獣皮で作られた一冊の本が収められていた。表紙には金属の留め具があり、複雑なルーン文字が刻まれている。そして、中央には「YGGDRASIL」の文字。
ユグドラシル。世界樹。北欧神話の宇宙の中心。
賢吾は本を手に取った。獣皮の感触は、今まで触れたどんな素材とも違っていた。そして、例の温もり。まるで、生きているかのような...
鍵を取り出し、留め具に近づける。すると、まるで磁石に引き寄せられるように、鍵が留め具にぴたりと収まった。
カチリという音と共に、留め具が外れた。
賢吾は息を止めて、表紙を開いた。
最初のページには、現代の日本語で一文が記されていた。
『我が名はイール。汝らがロキと呼ぶ者。これは神話ではない。真実の記録である』
賢吾の手が震えた。ロキ。北欧神話のトリックスター。神でありながら巨人の血を引き、神々に災いをもたらす存在。
次のページをめくる。そこには、信じがたい内容が綴られていた。
『神々は、地球外からの訪問者により強化された人類である。巨人族とは、我々のことだ』
賢吾は本を閉じ、額に手を当てた。これが本物なら、人類の歴史、いや、人類の存在そのものの意味が根底から覆される。
篠田教授は、これを発見し、そして...
窓の外で、何か物音がした。賢吾は反射的に本を抱きしめ、明かりを消した。
カーテンの隙間から外を覗く。向かいのビルの屋上に、人影が見える。こちらを観察しているような...
賢吾は息を潜めた。
篠田教授の言葉が蘇る。
『誰も信じるな』
そして
『知識を求める者は深淵を覗く』
賢吾は今、その深淵の縁に立っていることを実感した。そして、もう後戻りはできないことも。
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