イールの書〜神々の⻩昏、⼈類の夜明け〜

なぎ

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第1部 6章:神々の真実

第28話:現代人との遺伝子比較

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ヴァン神族の真実を知ってから数日後、美咲が重要な報告を持って隠れ家に現れた。彼女の表情には、興奮と同時に深い困惑が浮かんでいた。



「ついに完了しました」



美咲は大量のデータが入ったハードディスクを置いた。



「私の研究チームが密かに進めていた、世界規模の遺伝子解析プロジェクトです」



彼女はノートPCを開き、複雑なグラフを表示した。



「サンプル数は10万人。五大陸すべてから、様々な民族のDNAを集めました。そして、イールの書に記載された遺伝子マーカーと照合した結果」



美咲は深呼吸をしてから続けた。



「現生人類の約15%に、何らかの改造の痕跡があります」



一同は息を呑んだ。15%といえば、世界で10億人以上が該当することになる。



「地域別の分布を見てください」



美咲は世界地図を表示した。各地域が、改造遺伝子の濃度に応じて色分けされている。



「特に北欧系は40%、アイスランドに至っては70%以上です」



地図上で、アイスランドは深い赤色に染まっていた。続いてノルウェー、スウェーデン、デンマークも高い数値を示している。



「しかし、最も興味深いのは」



美咲が地図を拡大した。



「改造遺伝子の分布が、古代遺跡の位置と相関していることです」



新しいレイヤーが地図に重ねられた。ピラミッド、ストーンヘンジ、マチュピチュ、アンコールワット。すべての主要な古代遺跡の周辺で、改造遺伝子の濃度が高くなっていた。



「日本にも?」



賢吾が自国の部分を指差した。



「はい」



美咲は日本列島を拡大した。



「特に出雲地方と東北地方に集中しています。出雲大社周辺では35%、東北の特定地域では40%を超えています」



リンドバーグ教授が考察を加えた。



「記紀神話との関連を示唆するデータですね。天孫降臨、国譲り、そして東北の鬼伝説。すべてが神々の末裔と関係している可能性がある」



斎藤博士が医学的な観点から補足した。



「重要なのは、これらの遺伝子は通常は休眠状態だということです」



博士は別のデータを示した。



「しかし、特定の条件下で活性化する。その条件が、最近頻繁に発生しています」

「どんな条件ですか?」



山田が尋ねた。

斎藤博士は三つの要因を挙げた。



「第一に、地磁気の変動です。ここ数年、地球の磁場は異常な変化を示しています。第二に、特定の周波数の電磁波。これは携帯電話の5G帯域と偶然にも重なります」

「そして第三は?」

「強いストレスや危機感です」



博士の表情が厳しくなった。



「パンデミック、気候変動、経済不安。現代人は常に危機感を抱えています」



香川教授が物理学的な解釈を提供した。



「まるで、防衛機構のようですね。人類が危機に瀕した時、眠っていた力が目覚める。地球外生命体が仕込んだ、究極のセーフティネットかもしれません」



美咲はさらに詳細なデータを表示した。



「改造遺伝子にも種類があります」



彼女は円グラフを示した。



「アース系統が全体の30%、ヴァン系統が45%、そして未分類が25%」

「未分類?」

「イールの書にも記載がない、新しいタイプです」



美咲は困惑した表情を見せた。



「もしかしたら、地球環境での独自の進化かもしれません」



山田が重要な発見をした。



「日本のデータを詳しく見ると」



彼は画面を操作した。



「沖縄と北海道に、特殊なパターンがあります。本土とは異なる遺伝子マーカーです」

「琉球とアイヌ」



賢吾が理解した。



「彼らは、異なる系統の神々の末裔なのかもしれない」



斎藤博士が現実的な問題を提起した。



「問題は」



博士の表情が曇った。



「覚醒した人々をどう扱うかです。彼らは最早、通常の人類とは言えない存在になりつつあります」

「差別や迫害の対象になる可能性がある」



リンドバーグ教授が懸念を示した。



「歴史上、魔女狩りのような悲劇が繰り返されてきました」



美咲が希望的な観測を述べた。



「でも、15%という数字は無視できません。もはやマイノリティとは言えない規模です。そして、その割合は増加傾向にあります」



彼女は最新のグラフを表示した。



「2020年から2025年にかけて、活性化した遺伝子を持つ人の割合は、3%から15%に急増しています。このペースが続けば、2030年には30%を超えるでしょう」



賢吾は深く考え込んだ。



「これは進化なのか、それとも」

「計画された変化でしょう」



香川教授が断言した。



「3000年前に仕込まれたプログラムが、今起動している。問題は、その目的が何かということです」



美咲が最後のデータを見せた。



「そして、最も驚くべき発見がこれです」



画面には、遺伝子の系統樹が表示されていた。すべての改造遺伝子が、一つの起源に収束している。



「すべての神々の末裔は、元を辿れば同じ祖先に行き着きます。アース神族もヴァン神族も、そして未分類の系統も。すべては一つの実験から始まった」



賢吾は窓の外を見た。街を歩く人々の15%が、神々の血を引いている。そして、その数は日々増加している。



「人類は今、大きな転換点に立っている」



賢吾は呟いた。



「問題は、この変化を受け入れるか、それとも抗うかだ」



しかし、選択の時間はあまり残されていない。3ヶ月後には、小惑星からの物体が到着する。その時までに、人類は一つにならなければならない。

覚醒者も、未覚醒者も、すべての人類が。


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