イールの書〜神々の⻩昏、⼈類の夜明け〜

なぎ

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第2部 1章:オーディンの物語

第35話:現代への影響

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オーディンが神々の王となった経緯を学んだ後、エイリークは現代の話題へと移った。大広間の壁に、世界地図が投影される。そこには無数の光点が輝いていた。



「これが現在確認されている、世界中のオーディンの末裔の分布です」



エイリークは地図を示しながら説明を始めた。



「我々は密かに連絡を取り合ってきました。表の顔は、政治家、科学者、実業家...様々な分野で活躍しています」



光点は特に北欧地域に集中していたが、世界中に散らばっていることも確認できた。アメリカ、日本、中国、インド、そして意外なことにアフリカや南米にも。



エイリークは最初の写真を表示した。知的な顔立ちの金髪の女性。どこかで見たことがある顔だった。



「例えば、北欧某国の首相」



エイリークは説明した。



「アストリッド・ヨハンソン。彼女は第25代目です。異常な記憶力と先見性で、国を導いてきました」



リンドバーグ教授が驚きの声を上げた。



「まさか、あの革新的な社会政策の数々は...」

「はい」



エイリークは頷いた。



「彼女の『未来予測』は、実際にはミーミルのシステムへの部分的なアクセスによるものです。そして今、真実の公開を準備しています」



実際、最近の彼女の演説には意味深な言葉が増えていた。



『人類は新たな段階に入る準備をしなければならない』

『古い秘密が明らかになる時が来た』



といった発言が、メディアでは謎めいた表現として話題になっていた。

次の写真が表示された。若い男性で、カジュアルな服装だが、その目には鋭い知性が宿っている。



「シリコンバレーのIT企業CEO、デイビッド・ラーソン」



エイリークは続けた。



「表向きは天才プログラマーですが、彼のイノベーションは、実は遺伝的な知識アクセス能力による。量子コンピュータの開発も、その一環です」



山田が興奮気味に反応した。



「彼の会社の量子アルゴリズムは、理論的にあり得ないレベルで効率的だと言われています。まさか、それが...」

「ユグドラシルシステムの基本原理を、現代技術で再現しようとしているのです」



エイリークは説明した。



「完全ではありませんが、部分的な成功を収めています」



美咲が重要な質問をした。



「つまり、現代の技術革新の一部は、神々の血統による?」



エイリークは慎重に答えた。



「すべてではありません。人類の創造性を過小評価してはいけない。しかし、重要なブレークスルーの多くに、我々が関わっています。人類を次の段階に導くために」



彼は次々と写真を表示していった。

日本の某大手電機メーカーの研究開発部長。彼が開発した新型電池は、エネルギー密度が理論限界を超えていた。



ドイツの物理学者。彼女の提唱する統一場理論は、アインシュタインの夢を実現しつつあった。



インドの医学研究者。彼の開発した新薬は、これまで不治とされていた病気に希望をもたらしていた。



「しかし、全員が自覚しているわけではありません」



エイリークは付け加えた。



「多くは、自分が『天才』だと思っているだけです。遺伝子が部分的に覚醒していても、真実を知らない」



斎藤博士が医学的な懸念を示した。



「問題は、覚醒が加速していることです。制御できない力を持つ者も現れ始めています」



エイリークは重い表情で頷いた。



「その通りです。準備なしに覚醒した者たちは、時に危険です」



彼は最近のニュース映像を表示した。世界各地で報告されている、説明のつかない現象の数々。



ロシアで、素手で車を持ち上げた男性。

ブラジルで、落雷を受けても無傷だった女性。

日本で、地震を予知したという子供。

アメリカで、複雑な数式を一瞬で解いた高校生。



「これらは氷山の一角です」



エイリークは言った。



「覚醒者の数は指数関数的に増加しています。2020年には世界で約1000人でしたが、現在は推定5万人以上」



香川教授が科学的な分析を加えた。



「地球の磁場変動と相関があります。まるで、地球自体が警報を発しているかのように」

「その通りです」



エイリークは確認した。



「ラグナロクが近づくにつれ、休眠していた遺伝子が活性化している。これは自然の防衛機構かもしれません」



田中が歴史的な視点から質問した。



「過去のラグナロクでも、同じことが起きたのでしょうか?」



ドヴァリンが答えた。



「記録によれば、そうだ。終末の前には必ず、英雄が数多く現れる。それは偶然ではなく、必然だった」



エイリークは、より組織的な活動について語り始めた。



「我々は『継承者評議会』と呼ばれる組織を作っています。オーディンの末裔だけでなく、すべての神々の血統を含む、国際的なネットワークです」



新たな画面には、組織図が表示された。



最高評議会:各血統の代表者12名

地域評議会:各大陸に設置

実行部隊:覚醒者の保護と訓練

研究部門:古代技術の解析と現代への応用

広報部門:段階的な真実の公開



「現在、約3000人が組織に参加しています」



エイリークは説明した。



「しかし、これでは足りない。ラグナロクに対抗するには、もっと多くの覚醒者が必要です」



賢吾が核心的な質問をした。



「本当に3か月しかないのか?」



エイリークの表情が厳しくなった。



「3ヶ月です。小惑星からの物体は、単なる先遣隊。本隊が来る前に、人類の20%以上を覚醒させる必要があります」

「20%...」



美咲が計算した。



「それは15億人以上です。不可能では?」

「通常なら不可能です」



エイリークは認めた。



「しかし、我々には切り札があります」



彼は、ある装置の設計図を表示した。



「覚醒促進装置。ドワーフの技術と現代科学を組み合わせたものです。特定の周波数で、休眠遺伝子を安全に活性化できます」



山田が技術的な詳細を確認した。



「量子もつれを利用した、DNAへの非侵襲的アプローチ...理論的には可能ですが、エネルギー源は?」

「それが問題です」



エイリークは認めた。



「装置を世界規模で稼働させるには、膨大なエネルギーが必要です。そして、それを得る方法は一つしかない」

「まさか...」



香川教授が気づいた。



「はい。古代の施設を再起動させる必要があります。南極、ギザ、ストーンヘンジ。すべてを繋いで、地球規模の覚醒フィールドを作り出す」



斎藤博士が警告した。



「しかし、それは諸刃の剣では?準備のできていない人々が一斉に覚醒したら...」

「混乱は避けられません」



エイリークは重々しく頷いた。



「しかし、何もしなければ全滅です。リスクを取るしかない」



実際、ニュースでは原因不明の超常現象が日々増加していた。各国政府も、もはや隠蔽しきれなくなっている。



「時間がない」



エイリークは締めくくった。



「ラグナロクの前に、人類を準備させなければ。それが、オーディンから受け継いだ我々の使命です」



賢吾は窓の外を見た。平和に見える世界の裏で、人類の運命を左右する準備が進んでいる。そして自分も、その一部になろうとしている。



「次は何を学べばいいのですか?」



賢吾が尋ねた。



「他の神々の血統についても知る必要があります」



エイリークは答えた。



「特に、トールの系統。彼らは戦士として、重要な役割を果たすことになるでしょう」



ドヴァリンが付け加えた。



「明日、トール系統の末裔が一人、ここに来る予定だ。マグナスという若者だ。彼から直接、話を聞くといい」



一同は頷いた。オーディンの知恵だけでは、ラグナロクは乗り越えられない。すべての神々の力を結集する必要がある。そのための準備が、今始まろうとしていた。
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