The bloody rase

奈波実璃

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カメーリエは、小さな聖堂の前に立っていた。彼女は落ち着かない様子で、手の中の手紙を何度も読み返した。


   今夜、貴女に会いたい
      庭園の聖堂の前で待っています


もう何度となく読んだ手紙であったが、彼女の心をさらに高揚させるには十分だった。
その反面、最近若い貴族や商人の娘が相次いで行方不明になっており、その犯人がまだ特定されていないことを思い出し、不安にあたりを見回した。
聖堂の周りは無数の薔薇に囲まれていて花が咲けばとても美しい景色になる。
けれど今はまだその季節ではない為、一面緑色だった。


しばらくすると、聖堂に一人の男が歩いてきた。
カメーリエは彼の姿を見つけると、頬を赤く染め、ドレスの裾をつまんでお辞儀をした。
「待たせてしまったね、カメーリエ」
「今夜はお呼びいただき本当に光栄にございます、リーベ様」
カメーリエは目の前の男を熱い眼差しで見つめた。
彼は、シュテルン王国第二属州シュティーア領領主・リーベ公だ。彼は若くしてこの地を治め、その美貌から領地中の娘たちから憧れと羨望の眼差しを受けている。
(そんな素晴らしいお方から、お声が掛かるなんて……!)
 カメーリエの家柄は決して悪くはないが、大して取り柄もない平凡な貴族の家庭で生まれ育った。
そのコンプレックスからか、舞踏会等公の行事では広間隅っこに立ち、他の娘たちに囲まれているリーベを遠巻きに眺めることしかできないでいた。
(でももう、そんな日々とはお別れね!)
 今、彼女の目の前には夢にまで見た人物がいる。
その人物は、他の誰でもなく自分を選んでくれた……。これに勝る幸運は無い。
「貴女と二人でこの夜を過ごせることを光栄に思うよ、カメーリエ」
 そう言ってリーベはカメーリエの手を取ると、その甲にキスを落とした。カメーリエの心臓が、更に高鳴った。
「私もですわ、リーベ様。私の心は、今夜貴方に会えたことで喜びに震えています。あぁ、貴方にもこの熱く廻る私の血をご覧になっていただきたいわ」
 カメーリエは自分の言葉に酔いしれるように目を細めた。リーベもそれを聞いて、優しく微笑んだ。
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