The bloody rase

奈波実璃

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「ここに来るまで、誰にも見つかってはいないね?」
「えぇ。もちろんですわ」
カメーリエはそう言いつつも、本心ではこの密会現場を誰かに見られたいと願っていた。そして、リーベ公の寵愛を受けることが出来るのは自分だけだということを周知させたかったのだ。
(そうすれば、いつもリーベ様を取り巻いてるあの子達を出し抜けるわ……)
カメーリエは心の中でほくそ笑んだ。彼女の心からはすでに劣等感は消え去り、優越感が支配していた。
「それでは、行きましょうか」
 リーベは聖堂の扉を開けて中に入った。カメーリエも後に続こうとしたが、突如聖堂の中から漏れ出た強烈な臭気に、足を止めた。
「どうかしたかい?」
「え……?あ、いえ何でもございませんわ」
 カメーリエは一瞬聖堂の中に入ることを躊躇い、リーベを振り仰いだが。しかしリーベは何事もないように彼女を聖堂の中に招き入れようとするので、彼女は再び足を踏み出した。
 聖堂の中は椅子も教壇もなく、寒々としていた。先程から感じていた臭気は一層濃くなり、カメーリエは吐き気を覚えた。
「リーベ様、ここは一体……」
 ふと、彼女の視界に何かが映った。聖堂の一番奥――祭壇が置かれているはずの場所に、それはあった。
「……!」
 そこには、鉄の器具で宙吊りにされた女の死体があった。ステンドグラスを通して聖堂内に入ってきた月光が、彼女の生気を失った顔と、赤黒く染まった体を浮かび上がらせていた。
 言葉を失ったカメーリエの耳に、聖堂の扉が閉まる音が届いた。
「見せてくれるのでしょう? 熱く廻る貴女の血を……」
 カメーリエの体に、背後から近づいてきたリーベが腕をまわした。
その腕は、異様なほど冷たかった。
リーベの腕がカメーリエの首元に回された。その瞬間、カメーリエは目の前の死体が自分に待ち受けている運命である事に気がつき、喉につっかえていた悲鳴が飛び出していった。
「きゃああああ……」
 カメーリエの叫び声は、自身の首が折れる音に掻き消された。
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