The bloody rase

奈波実璃

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「本当にここなんだな!!」
「えぇ、私は確かにこの目で見ました! あれは間違いなくリーベ様とセーレ様でした」
 アウグストは集めるだけ集めた家臣を連れて、中庭に佇む聖堂に向かっていた。
 その脇には、平身低頭しながら歩く年老いた庭師がいた。
 リーベとセーレが行方不明になってから二日、アウグストは寝る間も惜しんで二人を探した。その表情は疲れにすっかりやつれていた。
 そしてやっと掴んだのが、この庭師の証言だった。
 庭師は腰が悪く、あれから暫く臥せっていたために、騒動に気が付くのが遅れてしまったのだ。

 アウグストは、躊躇することなく聖堂の扉を開けた。
 同時に、とてつもない臭気が襲い、家臣は皆一様に顔をしかめた。
 けれどアウグストはそれにもお構いなしに聖堂内の景色に釘づけになっていた。
 聖堂の中心で、一人の男が一心に『それ』を浴びていた。
 男の腕の中で肉という肉を削がれ、骨もほとんど砕かれ石畳の床にこびりついている『それ』の正体はもはや何だったのか判別つかないほどである。
 けれど『それ』の中に、アウグストは赤く染まりながらも辛うじて形を保っていたレースを見つけた。
 そのレースに、アウグストは見覚えがあった。

 アウグストが『それ』を見つめていたのは、ほんの少しの間だった。
 『それ』の上に跨っていた男が、ゆっくりと振り返った。
 大量の血と、どろどろに溶けたといっても差し支えのないほどに滅茶苦茶にされた肉片がこびりついた男の顔は、恍惚の光を放っている。
 その男の口が、アウグストに向かって何かを言った。
 けれどアウグストの耳にその言葉が届くことはなかった。

 アウグストはその場に崩れ落ると、両手で頭を抱えた。
 そして聖堂内に、親友と恋人の名を叫ぶアウグストの言葉が木霊したのだった。
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