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「何か、悩みごとでも?」
 彼は街灯が作る光の領域に侵入して、私の隣に座った。
「……別に、何でもありません」
 私は彼に背を向けた。とにかく、今は一人になりたかったのだ。
「何でもないわけないだろう? 見れば分かる」
 絡みつくような、けれど優しくて暖かい声。なんだか妙に心が引き込まれるような……。
私はちらりと彼を見やった。彼は足を組み、優しい目でただ真っ直ぐに私を見つめている。それがどこかこそばゆくて、だけど、それ以上に縋りたい自分もいて……。
「……同棲相手に追い出されたんです。昨日高校時代の男友達からメールが入って、それを彼に見られて……。それで浮気を疑われちゃったんです。前から束縛が強いとは思ってたんですけどね。それで私もカッとなって言い返したら、追い出されちゃって。ケータイも財布も無いから、どうにもこうにもできなくて……」
 思わずこぼすと、私は深ーいため息をついた。素直に謝るべきか、でも私は何も悪くないし! もういっそのこと……。
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