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「彼のことは、まだ好き?」
「え?」
 私は思わぬ言葉に顔を上げた。彼は相変わらず優しい目で微笑んでいる。
「それは……」

 私の脳裏に今年の誕生日のことが浮かんだ。確か無理矢理休みを作ってくれたんだよね。それで夜景が素敵なフレンチレストランに連れて行ってくれて、サプライズでブランドもののネックレスを用意してくれてて……。

「それはもちろん……好きですよ」
 自分の言葉なのに、なんだか妙にこそばゆい。それでいて、どこかほっとする。そうか、私はやっぱり彼のことを……。
「だったら、彼にもその気持ちを伝えるべきだ。もっとも素敵な方法で」
 彼は立ち上がり私の右手をとると、再び暗闇世界に向かって歩き出した。
「え……? ちょっと!」
 私もそれにつられ、腰を浮かす。彼はさらに闇の世界へと踏み込む。私も誘われるままあちらの世界へ足を踏み出した。
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