Trypophobia

奈波実璃

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「エリカー!! 起きてー!! 大変大変!!」
 年子の姉・ミキが日曜日の朝だというのに、私の眠る布団を半狂乱に引き剥がした。

「なんなの、ミキねぇ。朝からうるさい」
「いいから! ちょっと来て!」
 ミキねぇは寝ぼけ眼を擦る私を無理矢理引っ張って、二人で下宿しているアパートのベランダへと連れ出した。

 ミキねぇは大学に通うため上京し、私もその後を追うように東京の大学へ入学した。
 幸いなことに、私の入った大学はミキねぇの通う大学と近く、家賃節約のために、この1DKのアパートでルームシェアをすることとなったのだ。

 両親は、ミキねぇはドジでおっちょこちょいだから、私が監視をしていた方が気が休まるとも言っていた。
 中々厄介な姉ではあるが、根は優しい人だから、私自身ミキねぇと一緒にいることについては悪く思っていない。

 私はミキねぇに引っ張られるままベランダへ出る硝子戸の前にやってきた。
 ミキねぇは口を固く引き結びながら(けれど目は力強く何かを訴えるように)ベランダのある一点を指差した。

「あ、あ~。蜂の巣……」
 私はミキねぇの指差す先にある、直径10センチ程の蜂の巣を見上げて、顔をしかめた。
 地元では近隣で何度か蜂の巣を見かけることがままあったけど、東京にも出るのか。意外。

「ねぇ、これどうすればいいのかな!? 殺虫剤、撒く!?」
「う~ん……。素人判断で退治するのは良くないような……。外した後の巣の処理も分かんないし。とりあえず、大屋さんに連絡しようか。業者さんにやってもらった方がいいんじゃない?」
「分かった! じゃあ私大屋さんに連絡しに行ってくるね」
 ミキねぇは箪笥から着替えを一式取り出してそれに着替えた。
「う~ん」
 私は尚も蜂の巣……いや、その手前の洗濯物を見つめた。
「業者さん呼ぶにしても……どうするつもりなの、あれ」
 洗濯物の中には、私たちの下着があった。
 昨日ミキねぇが干したものだ。
 さすがに業者とは言え、間近でこれを見られるのは嫌だけど、それ以上に蜂を刺激する方がいやだ。
「……」
「ね? だから私いつも言ってるじゃん。ここがいくら二階で、他の洗濯物で見えにくくしても、外に下着を干すのは不用心だって」
 私は姉の警戒心のなさに頭を抱えた。
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