Trypophobia

奈波実璃

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けれど私はそんな自分を奮い立たせて、お風呂場の戸に手をかけた。
「ミキねぇ……?」
 私はお風呂場の戸を少し開けて、中の様子を伺った。
 ミキねぇはお風呂の縁に座り、半身浴をしていて、戸が開く音と私の声で振り返った。

 ……私は、ミキねぇのその時の表情を見ることができなかった。
 私は、ミキねぇのこちらに捻られた上半身にに目を奪われてしまったのだ。

 ミキねぇの白くて柔らかくて、綺麗な肌には無数の水滴が付着していた。
 細い首筋に、ピンと伸びた背に、しなやかな腕に、ツンと張ったおっぱいに、なだらかな腹に……。

 水滴は私の脳ミソを蕩けさせた。
 蜂の巣のように。蓮の実のように。

 私の目を焼き脳ミソを融解させる水滴が、ミキねぇの体にまとわりついている。
 ……その姿はまるで、夢に出てきた蓮の実を貼り付けられた私に酷く似ていた。



「ミキねぇ……!!だめ……!!」
 私はとっさにお風呂場に踊り込むと、ミキねぇから水滴を払うべく動いた。

 ミキねぇを湯船に突き飛ばすと、そのまま深く沈めた。
 私も着衣のまま湯船に飛び込むと、俯せで湯船に沈むミキねぇの体に跨がった。

 ミキねぇの全身を、私は一心不乱に擦った。
 ミキねぇが湯船の中でもがき、ミキねぇの足が私の背を打つほど暴れる。

 もう落ちただろうか。
 私は腰を浮かして、ミキねぇの上半身を力任せに引っ張り上げた。
 私は何か叫ぶミキねぇを無視して、その背を見つめた。
 水滴はミキねぇの体にまだ残っている。
 だめ、全然だめ。

 私は再びミキねぇを湯船に沈めた。
 そして私は一生懸命擦った。
 首筋を、背を、腕を、おっぱいを、腹を……


 やがて、ミキねぇの抵抗が止まった。
 

 ミキねぇ……ミキねぇ……
 私の大好きなミキねぇ……
 本当に、私が見てないとだめなんだから……


 何度もそう呟きながら、ミキねぇを擦り続けた。







 水音響くアパートの一室に、一匹の蜂が侵入した。
 蜂は部屋を彷徨するように飛び回ると、やがてゴミ箱の中のピンク色の花に止まった。
 蜂は水音を愉しげに聞くように、花の色を慈しむかのように、翅を揺らした。
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