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 翌朝、私はとっても憂鬱でした。
 今日は宿題を忘れて先生にこっぴどく怒られるのではないか、と考えていたからです。

 私は喜陽川沿いを歩いて登校しました。

『もしも何か嫌なことから逃げたくなった時は、喜陽川に願いを書いた紙を流すんだよ。そうすれば、喜陽川にいる妖怪が願いを聞いてくれるかもしれないからね』

 ふと、昨日のお爺さんの言葉が思い起こされました。
 私は隣の喜陽川を見下ろします。
 金属製の柵の間から見える、コンクリートの壁のはるか下を這う水の流れ。
 都会の只中を細く貫くその流れを、私はしばらく見下ろしていました。
 突然ーー自分でもそう思う程に突然にーー私はランドセルを下ろして中のノートのページを一枚裂くと、一筆認めました。

『先生に怒られたくない』

 私はそう書くと、それを柵の間に差し出して手を離しました。
 私はその紙の行方を見届けることなく、学校まで走りました。
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