カイト・シュヴァーン少佐の事件簿

奈波実璃

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二話 賭場に咲くのは消えた碧玉

賭場に咲くのは消えた碧玉

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賭場・紫の蝶リラ・シュマテリン
高い壁に囲まれた賭場は、今夜も客の往来で騒がしかった。
その裏手の井戸水を汲んでいるのは、細腕の十代半ばに見える少年。
襤褸布のような服は、この寒さから彼を守るには心許ないだろう。
住み込みで働く奉公人の寄宿舎で使われる寝具やテーブルクロス、裏方で働く奉公人の作業着などがそんな彼の傍らに渦高く積み上がっていた。


ふと、正面玄関が一際騒がしくなってきたことに、彼は気づいた。
気になって、そちらの方に顔を覗かせに行った。
紫の蝶を仕切る主人エッカルド・フレーベが、帰宅をしてきたらしい。
大きく膨らんだ体にシルクと宝飾をひっかけた中年男は、唾を飛ばしながら、何かがなっている。
どうやら、随分酔って気が大きくなっている様子だった。
少年にとっては、見慣れた光景だった。
だから彼はそれを一瞥しただけで、すぐ自分の仕事へと戻っていった。
かじかんで、最早指先の感覚すらなくなってきても、それでも手を止めるという選択肢は、彼にはないのだから。



同刻。
シュテルン王国、王都南部。
すっかり寝静まった街を見下ろす、ヴァイルシュタイン侯爵邸。
「方々探してはみたものの、それらしき物は見つけることはできなかった。本当に申し訳ない」
「そんなはずは……我が父の残した書面には、ヴァイルシュタイン侯爵に抵当として渡したと確かに認められていたんです……!!」
二人の男が、応接室で相対していた。
一人は四十路そこそこで、よく手入れのされたシルバーの髪と髭を持つ男。
もう一人は若いながらも、心労でかなりやつれた印象の長い茶髪の男。
片や相手の心労を察していくらか同情をしつつも、困ったように眉をひそめ、片や必死に相手に食らいつきながらも、落胆の濃い影に表情を暗くさせていた。
「……ハルベルト君、貴殿の気持ちはよく分かる。責任の一端は私や私の父の管理不足だと言っていい。しかしないものはない、と申し上げる他にないのだ」
「…………」
そう言われて、ハルベルトと呼ばれた茶髪の男は唇を噛んだ。
シルバーの髪のヴァイルシュタイン侯爵は、そうやって小さくなる彼に、哀れみを覚えないわけではない。
「私も心当たりをもう少し探ってみる。申し訳ないが馬車を出す故、今日はお引き取り願いたい。また何か分かったら一報を入れる故」
ヴァイルシュタイン侯爵はそう言うと、扉の向こうで控えていた使用人を呼んだ。
「彼を家までお連れしてさしあげなさい。確か、ブラウ通りの方だったね。ダクマルにそう伝えなさい」
命じられた使用人は、ハルベルトを玄関まで案内した。


ハルベルトは苦々しい思いを隠せないまま、馬車の中に乗り込んだ。
二頭立ての馬車はハルベルトを乗せて、夜の王都を駆けていく。
馬車に揺られながら、ハルベルトはぼんやり流れる街並みを見つめ続けていた。
馬車を走らせる黒い馬と、手綱を握る背の曲がった年寄りの御者が、彼の視界の端にちらつく。
ただそれだけの景色が、重苦しく不気味に見える。
それは自分の内心を反映しているせいなのだろうか──。




ある、春の足音が聞こえてくる日のことだった。
国家憲兵隊少佐、カイト・シュヴァーンは朝一番に、王都に誂えられた憲兵隊の屯所、その執務室へと足を運んだ。
自分とたった一人の下官のみが駐在する、屯所である。
「おはようございます、少佐。先日仰っていた資料ですが、お持ちしましたよ」
執務室で彼を出迎えたのは、彼の部下のアーベルだった。
小柄な体を忙しなく動かして、アーベルはカイトを迎えた。
ジャケットをアーベルに預けたカイトは、執務机に乗る資料の束……の隣の、冊子に手を伸ばした。
表紙には宝石店の名前と、そこで売買されているであろう宝石のスケッチが書かれている。
要するに、カタログだった。
カイトがそれを手に取ったと同時、アーベルはあっと声を上げてそれを取り返そうとした。
「すみません、出しっぱなしにしてしまって。今片しま……って、なんでそんな高く掲げるんですか!! 返してください!!」
ぴょんぴょんと飛びはねながら、カタログに手を伸ばすアーベルを尻目に、カイトはそれを高く掲げてペラペラと捲るのだった。
「買うのか?」
「か、買いませんけど、ほら、ちょっと見てると、いい暇潰し、じゃないですか!!」
頃合いを見て、カイトはそれをアーベルへ返した。
顔を赤くしているアーベルに、カイトは悪かったと言って席についた。
「あ~でも買うとしたら……」
しかしそのすぐ後には、アーベルは笑顔でカタログを捲り頬を緩めているのだった。
「そういえば少佐、この前カフスボタンを失くしてしまったジャケットがあるって言ってませんでしたっけ? 折角なら宝石のついたやつにしません? 例えばエメラルドなんてどうでしょう? 少佐の瞳の色にそっくりなのとか……」
「いらねーよ。興味ない」
夢見がちにカタログを捲るアーベルと、最早それらのことは眼中にないカイト。
しかしその時になって、この部屋に訪れる者が現れた。
「こんにちは、カイト・シュヴァーン君!! さぁさぁ仕事の時間だ要するに事件が起きた!! せいぜい働きたまえよー!!」
扉をノックもなしに盛大に開いたのは、ユリウス・ベルツ大佐。
カイトの上官であり、この屯所を尋ねて来る数少ない人物である。
おおよそ大佐の位を戴いているようには見えない騒々しさは、カイトの顔をしかめさせるには十分。
「うるせぇ……」
「うむ、相変わらずのふてぶてしさで結構!! やっぱり君は僕のことを蔑ろにし続けるのだね!! まぁいい時間が惜しい。今日の現場は北東のロット通り、賭場の多い地区だね。というか、その賭場が現場らしいのだがね」
ユリウスはアーベルの持ってきた資料の上に、自分が持ってきた王都の地図を広げた。
そして彼は机の上にあったペンで、現場と思われる場所に印を付けた。
仕事とあっては、例え煩い上官でも無下にはできない。
カイトはその地図を眺めながら、傍らのアーベルを呼んだ。
「馬車の用意を」
「……はい!」
アーベルは短く返事をすると、廊下へと駆け出していった。
ユリウスはそんな二人を、満足げに眺めていた。
「なんでも、賭場の主人が殺されてしまったらしい。詳しくは現場で聞くのがいいだろう。それじゃ、期待しているよ」
ユリウスはそう言い残して部屋を後にした。
(今日はそんなに……舐めた態度をとられなかった……!)
勝ち誇ったような笑みを彼が浮かべていることは、誰が見ても明白だろう。



王都の北東には、賭場に飲み屋が立ち並ぶ繁華街がある。
一見すると治安の悪く殺伐としている雰囲気を醸しているが、国から正式に営業許諾を受けている店が集まっている分、国一帯を眺めればまだマシな方だ。
しかしそんな区画は、今日は別の意味で浮き足だっている様子。
カイト達の乗った馬車が、繁華街ん走り抜けていく。
馬車が辿り着いたのは、煉瓦造りの二階建ての建物だった。
「紫の蝶……事件現場はここですね」
看板に書かれた文字を読んで、アーベルははその煉瓦造りの建物を見上げた。
歓楽街の中でも、よく目立つ大きな店を構える紫の蝶。
この辺りでは、どうやら有名な場所らしい。
そこで人死にが出たとあれば、街がざわめくのも無理はない。
「なぁ、死んだのは主人のエッカルド・フレーベらしいぞ」
「本当か!? あのじいさんのことだ、強突くばってついにバチが当たったんだ」
それが悪い方向で噂をされる人物であるなら尚更。




二人は野次馬を掻き分け店の中に入った。
一階は店舗、二階は奉公人の住居、その裏手を少し歩くと主人の住居として使われていた別邸があった。
二人はその別邸へと通された。
別邸の寝室、その扉を開けた途端、二人の鼻孔を血の臭いを擽った。
その臭いがあまり濃くないのは、扉の正面にある窓が開け放たれていたおかげであろう。
部屋に誂えられたキャビネットやクローゼットは、一級の職人が作ったものだろうか。
しかしそれらは、すっかり開け放たれて服や宝飾類が散乱して、一部は血液で汚れている。
そんな荒れた部屋の真ん中に、男が仰向けに倒れていた。
血はこの男の死体から流れているのは、言うに及ばず。
外套も羽織ったまま、指も首も宝飾類で飾り付けられ、今まさに帰ってきたという出で立ちだった。
「名前はエッカルド・フレーベ。この賭場の主人です」
少し遅れて部屋に入ったアーベルは、店の奉公人から聞き取ったメモを、カイトに読み上げた。
身につける服も、そして彼が横たわる部屋も、彼の栄華の極みを伝えている。
しかしそんな男も今や、頭を殴打されて固まった血液の海に沈むばかりだった。
「後頭部に一撃、それから正面から何度も殴られている。その他に傷はないな。恐らくは背後から一度殴られ、抵抗しようと振り返ったところ更に追い討ち……といったところだろうな」
遺体を一通り見聞したカイトは、次に部屋の中を見渡した。
荒らされた、その部屋を。
彼は部屋に鎮座する、金庫を見下ろした。
中にはジュエリーケースがあった。
ジュエリーケースの中は空っぽで、代わりに被害者の流した大量の血液を吸い込んでいた。
「物取り……でしょうか? それで、偶然鉢合わせたエッカルドさんが殺されてしまった、と」
カイトの横で遺体を検分していたアーベルも、そのジュエリーケースを見て、そう呟いた。
カイトは彼を一瞥すると、再び賭場の主人の遺体を見下ろした。
「そうだな、その可能性が高い……が……」
「何か気になることが?」
一度や二度の殴打でできたものとは到底思えないほどに、粉々になった頭蓋骨とその中身が辺りに飛び散っている。
頭蓋を砕かれて生き絶える男の側に、鈍く光る金の燭台。
廊下に等間隔に同じ燭台が並んでいる。
これが凶器なのだろうというのは明白だった。
カイトは目を細めてその様を見下ろしていた。
「随分と執拗に殴打されているな。何がなんでも、殺してやるつもりで殴られている」
「顔を見られてしまったから、口封じのために……でしょうか」
「……どうだろうな」
カイトは血の匂いのする部屋で、息を吐いた。
そんな彼は、ふと踵を返した。
「まずは関係者の話を聞きに行く。ここで働いている人間の名簿……あるかどうかは分からんが、客の名簿も必要だな」
「そうですね。第一発見者は……」
アーベルは慌ててカイトの後を追った。


「エッカルドがここへ戻ってきたのは……夜中の0時を回る頃だったかね。酒を呑み歩いてたんじゃないかね。いつもそんな感じだったよ。昼の間からやれ女だやれ酒だと歩き回って、金と客が集まる時間に帰っては勘定を始める。そんな男だったよ、アレは」
二人が向かったのは、エッカルドと共に紫の蝶を切り盛りしていた、マルクという男の元だった。
エッカルドと同い年くらいの、枯れ木を思わせる風体の男だった。
酒と煙草で焼けた声は酷くしわがれている。
カイトとアーベルは紫の蝶の雑然とした応接室で、彼と対面するように座っていた。
「それで誰が何時頃、最初にエッカルドの遺体を見つけたんだ?」
「掃除をしていた奉公人さ。あの部屋のドアが半開きになっていたらしい。なんとはなしに覗いたら、あれが死体になってたんだと。朝の4時頃じゃなかったかな。そう、店を閉じたすぐ後のことだったからね」
「つまり下手人はその間に侵入してエッカルドの殺害、そして窃盗を行ったことになる」
「そうさね」
マルクは当然のことを聞くな、とばかりに素っ気なく答えた。
「その時間、アンタは何をしていた?」
「自分の部屋にいたさ。……残念だが、俺は何もしちゃいない。何人かの奉公人も見てるはずだよ」
「それじゃあ、被害者を恨んでいる人物に心当たりはあるか?」
問われたマルクは、しばし思案するように遠い目をした。
ふとそんな彼は、窓に映る庭先に目を向けた。
「例えば……あの坊主。井戸で水汲みをしている、あの貧相なのだ。ニッキーって言うんだが、元はどこぞの商人の息子だったみたいでなぁ。口減らしか何かで捨てられたんだと。今じゃここで一日中洗濯をさせられている。それに加え、毎日エッカルドや誰かしらから殴られ蹴られ、だ。見目やら性格やらが、そういうことをするのにちょうどいいんだろう」
語るマルクは、他人事のよう。
カイトとアーベルは、マルクの指した方を見ると、井戸から水を汲む少年の姿があった。
重なる労働のために窶れた頬に、長い間着古しているであろう長袖と詰襟の作業着は、泥や埃で斑に黒くなっていた。
骨ばった白い腕には、ところどころ痣も見受けられる。
「生憎ね、ここで働く連中も……いいや客にすらアレが死んでも悲しんでやる気持ちなんてのは丸っきりないの。そりゃ、明日の食い扶持の心配くらいはするかもね。けどもそれだけさ。せいせいしたとすら思ってるくらいだ」
「……つまり、怨恨による殺人の可能性もあるわけか」
ふと呟いたカイトは、二人からの視線を余所に一人考え事をしている風だった。
「怨恨……」
カイトの言葉を反芻したアーベルも、はっとその事実に気がついた。
「……例えば、ここで多額の借金を作った人間なんかはいるか?」
「いるよ、勿論。ごまんとね。そうだ、帳簿の写しがある。それを持っていくといい」
マルクは一旦席を離れると、紙の束を持って戻ってきた。
マルクに差し出されたそれをパラパラと捲ったアーベルは、次第にその表情をひきつらせていった。
ざっと百人はいるだろうか。
その数の多さに、である。
「邪魔をした。他にも色々当たってみる」
カイトはまた少し考え事をした後、エッカルドに礼するとソファーから立ち上がった。
アーベルもその後に続いて一礼をすると、彼の背中を追った。
豪奢な部屋。そこから盗まれた宝石類。殴り殺された部屋の主。そして、アーベルに渡された帳簿。
それらが彼の頭の中で、静かに巡り続けていた。

そんな彼の背中を視線で追う人間が、マルクの他にもう一人。
カイトが紫の蝶の廊下を渡っていた、その時。
視線を感じて見上げれば、窓の外の野次馬が見えた。
その中に、長い茶髪の男を認めることができた。
その男はカイトと視線が合うや否や、その身を翻して野次馬の影へと消えていった。
カイトはその影が消えた方向を、しばらく見つめ続けていた。




「そうか、もし何か不審な人間が来たら報せてくれ」
紫の蝶での聞き込みと操作を終えたカイトとアーベルは、次に王都中の宝石商や宝飾店を巡り始めた。
盗まれた宝石が、どこかへ売り払われていないかを調べるためだった。
「どこのお店も、さっぱりですね」
「一日二日で売り払ったら、それこそ自分が犯人だと言ってるようなものだ。ハナから期待してない。むしろ可能性としては、憲兵隊の寄り付かない露天で売り捌くか、ツテがあれば外国へ密輸するかの方が足がつかないだろうしな。……もしくは、そもそも換金するつもりはないか」
「そういえば、怨恨での殺人も疑っていましたね」
「あぁ。宝石泥棒は捜査を撹乱させるための偽装。もしそうなら、宝石の行方から犯人を割り出すのは難しくなるな」
「だとしたら……」
一抹の不安が、アーベルの胸に去来した。
確かな証拠品の宝石が、こうしている間にも隠滅させられているかもしれない。
果たして自分たちは、その前に犯人を捕まえることができるのだろうか。
鞄の肩紐を、アーベルは無意識の内に握りしめた。


それからしばらく経って、二人が五軒目の宝飾店の扉を出た時だった。
馬車に乗り込んだカイトが、ふと呟いた。
「向かいの店の看板。その裏に男が立ってる」
傍目から見れば、アンニュイに窓の外を眺めているだけのように見えるだろう。
けれどアーベルだけに聞こえるように囁かれた言葉は、酷く冷徹なものだった。
「長い茶髪の若い男だ。紫の蝶にもいた。その時も、ずっとこっちを見ていた」
アーベルがその男の姿を見るよりも前に、二人を乗せた馬車は走り出した。
長い茶髪……若い男……。
アーベルは頭の中で、それを繰り返した。



夕暮れの王都に、男は一人佇んでいた。
(……)
憲兵隊の制服を着た男達の姿を見て、彼は反射的に近くの看板に身を隠した。
却って不審な動きになってしまっただろうか。
自分の迂闊な行動に気がついてからは、そんな自分の姿が彼らに見つかっていないことを願うばかりだった。
やがて憲兵隊の二人は店を出て、馬車を走らせた。
その馬車の走る音が、次第に聞こえなくなっていく。
その時になって、彼はようやく安堵のため息を吐くことができた。
その瞬間のことだった。
「すみません。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか」
まさに心臓が口から飛び出さんばかりに、男は驚いた。
いつからだろうか、自分の背後に男が立ったのは。
一見して少年のようにも見える男はしかし、憲兵隊の隊服を着ていた。
さっきまで彼が見つめていた男の内の、一人だった。
「憲兵隊の者なのですが」
彼がそれを言うよりも早く、長い茶髪の男は走り出した。
看板を蹴飛ばしながら、道行く人々の間をすり抜けながら、男は走る。
「……!! 少佐!!」
ふと、男は背後から絶叫にも似た声を聞いた。
自分に声をかけてきた、彼の絶叫だろう。
それと同時に、人混みの向こうから自分にめがけて誰かが走ってきた。
もう一人の、憲兵隊の男だ。
憲兵隊の男の手が、自分を捕まえようと伸ばされてくる。
彼は苦々しく口を歪めるばかりだった。



「……!! 少佐!!」
アーベルは標的の男が逃げたことを、カイトに報せた。
穏便に話を聞くことができるなら、という目論見が外れてしまった。
ならば次の手を打つのみ。
アーベルと男を挟むようになる位置に、カイトは待ち構えていた。
アーベルの声が聞こえたと同時、物陰から男を捕まえようと手を伸ばした。
その時、カイトは苦々しく口を歪める男の顔を見た気がした。
けれど次の瞬間には、男の姿はカイトの前から消えていた。
「しまっ……!!」
カイトの手をすり抜けた男は、人混みの中へと消えようと走り出した。
そんな時。
「……!!」
男の前を、小柄な影が横切った。
男がその影の主がか細い少年だったと気づいたのは、正面から衝突する瞬間だった。
石畳の道に男と少年が、派手な音を立てて転がった。
「き、君は……」
体を打ち付けた痛みに悶えながら、男は顔を上げて少年を伺おうとした。
けれどそんな間も、自分を取り押さえた腕に遮られてしまった。
「ったく……逃げることはねぇだろ。ただ話を聞くだけなんだからよ」
男は苦々しげに、自分を捕まえたカイトを見上げた。
そんな二人の元に、アーベルが駆け寄ってきた。
そんな彼は、男の逃走を阻んだ少年に気がついた。
「あ。確か紫の蝶で働いてた方……ですよね? ニッキーさんでしたか。え~と……」
アーベルは紫の蝶でのことを思い出した。
そして、そこで聞かされた彼の身の上のことも。
アーベルはそれ以上何も言えず、口をつぐませるばかりとなった。
そんなアーベルの代わりに口を開いたのは、カイトだった。
「悪かったな、わざわざ」
「憲兵隊の方が追っていらっしゃったので……僕は大丈夫です」
体と同じか細い声を聞きながら、カイトは男を組み敷いた。
目の前でノロノロと立ち上がった彼を、目で追う。
ニッキーは、彼らのことを気にも止める様子もなく歩き出した。
そんな彼の頬に、青い痣が出来ていることにカイトは気がついた。
何かにぶつかってできたのだろうか。
「待て、その怪我……」
カイトは彼を引き留めようと、その背中に手をのばした。
「少佐!!」
しかしその手は、自分を呼ぶ鋭い声に止められた。
それと同時、少し弛んだカイトの拘束から逃れようとして、組み敷いていた男は身を捻り出した。
「おっと、お前には聞きたいことがあるんだ。少し大人しくしてもらえるか」
カイトは再び男を拘束する腕に力を込めた。
彼はただただ、そんなカイトを見て臍を噛むばかりだった。

「ハルベルト・レッチュさん……ですね。今は何をされていますか?」
「以前は親から継いだ商屋を経営しておりました。今は……全て畳んで職をいくつか掛け持って生活しています。ブラウ通りの方に住んでます」
「それで? なんでまた、あんなところに居たんだ?」
カイトとアーベルは、ハルベルト・レッチュと名乗った男を連れ立って、馬車に乗せた。
そうして停車させた馬車の中、二人はハルベルトから事情を聞くこととした。
「何故紫の蝶、それからそこの宝飾店に顔を出していた? 偶然鉢合わせ続けた……というのは、少し難しい話だと思うが」
カイトはじっと、ハルベルトを見据えた。
「ほ、本当に偶然なんですよ、偶然……」
そう言ったハルベルトであるが、しかしカイトの目に見据えられて肩を落とした。
そうして仕方なしといった体で、再び口を開いた。
「確かに、王都中の宝飾店宝石店を巡っていました……ちょっと、探しものをしていて」
「探し物?」
カイトは眉を上げて、更に問うた。
ハルベルトはもう一度、観念したように口を開いた。
「我が家に伝わっていた、サファイアのペンダントです。伝わっていた、といっても祖父が僕の弟の誕生を祝って買い付けたものなのですが。……けれど祖父が亡くなり、父が商屋を継いだ頃には経営が傾いていき、家財を抵当に出すようになりました」
当時のことを思い出しているのだろうか。
ハルベルトの声音が、徐々に苦々しいものになっていった。
「その抵当の中に、そのペンダントもあったと」
カイトに問われて、ハルベルトは悔しそうに頷いた。
「僕はどうしても、そのサファイアを取り戻したかったのです。父の死後、生活を切り詰めて取り戻そうとしました。しかし、それを預かっていた方は、もう所有していないとおっしゃっていまして……。どこかへ売ってしまったか譲渡してしまったか、それすらも不明なようで」
「それで宝飾店や宝石店を巡っていた、と。紫の蝶にいた理由は?」
「そちらは本当の本当に偶然なんです!」
ハルベルトは食いぎみに反論した。
「通りがかったところに人だかりができていたので、つい自分も覗いてしまったんです。……だって、気になるじゃないですか」
カイトは少しの間思案をした。
「サファイアのペンダント……ねぇ」
頭を抱えながら、カイトは低く呟いた。
「ところで、昨夜の0時から明け方4時までどこで何をしていた?」
唐突に訊ねられたハルベルトは、しばらく考えを巡らせた。
「昨夜の0時……ですか……? 残念ですけど、僕はその時間、港の倉庫で寝ずの番をしていました。何ならそこに訊ねたって構いません。その時間なんですね? 事件があったというのは」
ハルベルトは自分の荷物の中から、紙片を一枚取り出してカイトに見せた。
ハルベルトと倉庫の管理人や雇い主との契約書のようだ。
そこには倉庫の所在地も書かれていた。
アーベルはそれを素早くメモをした。
「あぁ、おおよそその時間と見当をつけているが、正確なところまでは分からない。……悪かったな。無理に掴まえて。一応、その倉庫の管理人にも確認はすると思うが」
「まぁ、僕も不審な行動をしていましたし。誤解が解けるなら何よりです。それでは、僕はこれで」
ハルベルトは煩わしげに、馬車を降りていった。
それを見送りながら、カイトは傍らのアーベルに小声で言った。
馬車の扉が閉まり、街を歩き出すハルベルト。
その背中を、カイトは窓から視線で追った。
「ハルベルトさんの名前は、貰った帳簿の写しには載っていませんでしたよ。紫の蝶との関係は今のところ見られませんね」
アーベルは手元の帳簿を改めながら、カイトにさっきメモをしたハルベルトの仕事先を写したメモを手渡した。
「五件の宝石店、それから紫の蝶。本当に偶然足を運んで、偶然俺たちと遭遇しただけか……それとも俺たちをつけていたが、捕まって咄嗟に誤魔化したのか……果たして」
視線で追っていたその背中が、いよいよ人波に消えようとする直前、カイトは傍らのアーベルに命じた。
「明朝まで、ハルベルトを尾行しておいてくれ。王都を出ようとするなら、権限を使って足止めしても構わん。もし何か決定的な証拠や、不審な動きを見せたらその場で捕縛、難しければその情報さえ持って帰ってくれればいい。俺は倉庫の管理人や雇い主の方……それから被害者の足取りを当たる」
アーベルはそれを聞くや否や、着ていた深紅のジャケットを脱ぎ、肩にかけた鞄にしまった。
そして馬車から降りると、彼はハルベルトが消えていった人波に滑り込んで行ったのだった。



港の倉庫街から、繁華街に向かう馬車があった。
カイトを乗せた馬車だ。
倉庫で得られたのは、明らかに怪しい動きをしていたハルベルトの、確かなアリバイだった。
確かに犯行のあった日時、彼はそこで寝ずの番をしていたのだという。
──本当に、彼は偶然カイトとアーベルが寄る店にハルベルトが訪れたのは偶然なのだろうか。
などとカイトは疑問を抱きながら、次の店へと向かっていった。
馬車はよくエッカルドが通ってたという酒場『猫の背中カッツェ・リュッケン』の前に停まった。
もしかすると、昨晩もここに来ていたかもしれない。
彼の正確な足取りを探るため、カイトは酒場の門を叩いた。
まだこの区域が賑わうには早い時間。
バルも静かで──。
「おーし、また俺の勝ちだな」
「待て、さすがにおかしいだろ! お前イカサマしてるんじゃないだろうな!」
いいや、従業員達がカードゲームで賭け事に興じる声で大層賑やかな様子だった。
「あーお客さん、まだ開店前なんです……よ……」
バルの扉が開いたと同時、振り返った従業員は途端に静まりかえった。
そこにいたのは、憲兵隊の深紅のジャケットだったから。
それを受け止めながら肩を竦めるカイト。
「個人間の賭け事なんて、いちいち取り締まらん。ただ話を聞きにきただけだ」


「紫の蝶の主人? うん、来てたよ。昨日の夜中」
従業員が各々開店作業を行い始める中、一人がカイトの聞き込みに協力することとなった。
オスヴィンと名乗った彼は、異様なまでに快くカイトに話をした。
「いつも真ん中の方の席で豪勢に飲み食い暴れてるんだけど、昨日もそんな感じだった。そりゃもう突然死ぬ前の人間とは思えないくらいにさ」
オスヴィンは、どうも身近で起きたゴシップを楽しんでる様子だ。
「それじゃあ、昨日でなくてもいい。紫の蝶の主人に関する、気になったことは何かないか?」
「そうは言ってもねぇ……」
オスヴィンは天井を仰いでしばし思案をした。
そんな彼に助け船を出したのは、近くを通りかかった掃き掃除をしていた他の従業員だった。
「そういえば一月前くらいだったよな。あのおっさん、いやに静かだった日があって。その日は店の隅の方で、男の人と話してた」
それを聞いたオスヴィンも、それを思い出したように顔を明るくさせた。
「その男の特徴、聞かせて貰ってもいいか?」
答えたのはオスヴィンだった。
「うーん、背中くらいの長さの茶髪で、背丈は俺より少し高いくらいで……あ、給仕の時にブラウ通りの辺りに住んでるって聞いたかも。多分」
カイトの眉がいよいよひそめられた。
なんせ先程取り調べをした、ハルベルトの特徴を思い起こしたからだ。
「何の話をしていたか分かるか?」
カイトは務めて冷静に訊ねた。
「さぁ? そこまでは。でも、紫の蝶のおっさんは随分楽しそうだったけど、相手はそうでもなかったっぽい。なんか、怒ってるみたいだった」
オスヴィンはあっけらかんに語る。
「しかしまぁ、いずれはあぁなると思ってたけどね、あのおっさん。恨みを買いすぎなんだよー。うちの店でもさ、酔ってちょいちょい大暴れしてたんだ。おっさんが壊したグラスとテーブルと椅子の数を合わせたら、十や二十じゃ足らないんじゃないかな~……まぁ上客だったから無下にはできなかったけどね」
「分かった。とりあえずはこれで失礼する。また何かあったら訪ねに来るかもしれない」
カイトは足早に、酒場を後にした。
彼は背中に、嫌な汗が一筋流れていくのを感じていた。



カイトは酒場から馬車を走らせた。
ブラウ通りの、ハルベルトが住むアパートの付近にまで辿り着いたところを、物陰から呼び止める人物があった。
「どうしたんですか、少佐!? 何かあったんですか……!?」
暗がりの町並みから、通りに立ったカイトを見つけて近づいてきたのは、勿論アーベル。
命令された時間よりもかなり早いカイトの来訪。
緊急の用が発生した以外の理由はまずないだろう。
「ハルベルトはどうしてる!?」
「えっと、買い物をしてから、しばらく前にご自身の住むアパートに入られていました。ずっと見張っていましたけど、アパートは住人や来客と思われる人が数人出入りしたのみで、本人は部屋から出て来ていません。何か分かったんです?」
「あいつは被害者と事件の少し前に面会をしていた。にも関わらず聞き込みにはシラを切っていた……少なくとも、ただ捨て置いてもいい人間じゃねぇな」
彼から聞き出さなければいけないことが、カイトの脳裏に次々に浮かんでくる。
例え彼が犯人ではなくても、何か情報を持っていることは明白だ。
『被害者との関係を隠していたこと』そのものが、何よりの証拠だった。
カイトとアーベルは、通りをかけていった。

ハルベルトの住居は、古いアパートメントの一階にあった。
小さな居間と台所だけを設けた部屋が、彼の住む場所だった。
カイトはハルベルトの部屋を見つけると、その扉を勢いよく開けた。
果たして、ハルベルトはそこにいた。
──自ら流した血の海に沈みながら。
カイトはまだ色鮮やかな赤色に、目を見張った。
そして彼の頭の中に巡っていた疑念や疑惑は、一瞬にしてその赤に塗り潰されてしまったのだ。
うつ伏せの彼は、浅い呼吸を繰り返しながら来訪者を認めようと顔を上げた。
「おい、しっかりしろ!!」
カイトは慌てて彼を抱き起こすと、血の流れ出る額を自分のハンカチで押さえる。
「誰にやられた!?」
ハルベルトは僅かに口を開き、カイトに何かを訴えようとした。
しかしそれは、言葉にならずせいぜい小さな呻き声となるばかりだった。
代わりに、ハルベルトは手で持っていたものをカイトに差し出した。
一枚の紙だった。
手の中に握られ、すっかりグシャグシャになっている、契約書。
部屋のキャビネットは開け放たれていて、引き出しには血がべっとりついている。
どうやら僅かに残った力で、その契約書を取り出した様子。
カイトがそれを認めたと同時、ついにハルベルトは意識を手放した。
その横を駆け抜けたのはアーベルだった。
彼は部屋の窓が開いていることに気がつくと、その下を見下ろした。
夜の闇の中からは、犯人はおろか足跡一つ見つけることはできなかった。
彼は悔しげに、奥歯を噛みしめていた。


カイトがその屋敷を訪ねたのは、次の日の早朝だった。
王都の、貴族の邸宅が並ぶ地区にその屋敷も建っている。
「こちらですね、ハルベルトさんが取り戻したいというサファイアのペンダントを持っていたという方のお宅は」
二人が屋敷を訪ねれば、憲兵隊の深紅のジャケットに使用人達は狼狽を露にした。
勿論、屋敷の主人も同様にである。
「はるばるご足労いただき、恐悦でございます。私、現ヴァイルシュタイン家当主、オスカー・ヴァイルシュタインでございます」
応接室に通された二人に、後から入ってきた四十路の男は恭しく頭を垂れた。
彼の服や髪は一つの乱れもなくきっちりと整えられて、頭から爪先に至るまで全てが洗練とされていた。
その所作からは、どこか安心感を覚えるような穏やかな雰囲気を感じることができた。
「国家憲兵隊所属のカイト・シュヴァーン。はじめまして」
カイトがヴァイルシュタイン公は握手を交わす。
「……ところで、用件というのは?」
ヴァイルシュタイン公は突然の来客の、その目的が分からず困惑している様子だった。
「昨晩、ハルベルト・レッチェという男が自宅で何者かに頭を殴られ倒れていた」
「ハ、ハルベルト君がですか!?」
侯爵はその名前を聞いた途端に、顔を青くさせた。
「幸い、一命は取り留めた。だがしばらくは目を覚ませないそうだ。……彼が気を失う直前に差し出して来たのがこれなのだが」
カイトは侯爵の反応の大きさに些か驚きを覚えた。
しかしそれを表情に出すことなく、一枚の契約書をヴァイルシュタイン公に向けて差し出した。
「ハルベルト・レッチェ……彼の父親は貴方の父親に借金の抵当としてサファイアのペンダントを渡していた様子。そしてそれを、彼は取り戻そうとしていた」
「えぇ、そうです。これは彼の父君と私の父とで交わした契約書です。そして彼は半年前、その借金を全額返済しに我が家に訪ねに来ていました。しかしもうそのペンダントは残っておらず……それどころか、譲渡先も分からない有り様で」
ヴァイルシュタイン公の困惑や焦燥は、褪せるどころかみるみる深くなっていった。
カイトは眉を寄せ、契約書を改めて確認した。
「書面の金額を見るに、相当なものだろう。そんなぞんざいな扱いをしていいものではないはずだが……」
「えぇ、私もそう思って方々探してみました。彼にとっても特別なものだったのでしょう。ハルベルト君はかなりやつれた様子で、可哀想に思ってしまいましてね。しかし、本当に行方が分からなかったのです。出納帳や父の手記、勿論どこかに紛れているのではないかと家中の隅から隅まで探したのですが、影も形も、記述の一片すら見当たらなかったのです」
「持ち出された記録はないが、家中のどこにもない……か」
そんな風に呟くカイトの脳裏に浮かぶのは、空のジュエリーケース。
血の海に染まる、ジュエリーケースだ。
「紫の蝶、もしくはエッカルド・フレーベという名前に心当たりはないだろうか?」
「紫……? いいえ、まるで聞いたことはありません。ハルベルト君の件と、何か関係があるのです?」
カイトは少し逡巡した後、口を開いた。
「ハルベルトのことは別の殺人事件において、重要な情報を持っていると見なして追っていたところだった。賭場の主人が殺され、ハルベルトはそのしばらく前にその主人と会っていたそうだ。しかしそれを確かめるより前に、何者かにハルベルトが襲われてしまった……。そちらの件と合わせて探っていたところなのだが」
「そう……ですか……。申し訳ございません、これといった心当たりはなく……しかしハルベルト君が賭場とは……あまりそういう場所に出入りするような方には見えなかったのですが……」
ヴァイルシュタイン公は、まさに寝耳に水といった様子。
その後も幾つかの問答があったけれど、これといった情報を掴むことはできなかった。
──しかしそんな中、その偶然は起きてしまった。
カイトとヴァイルシュタイン公の問答を聞きながら、アーベルはふと、窓に目を向けた。
彼は、自分の目が捉えたものにその目を見開かせた。
「えっ……?」
アーベルが上げた声に、カイトとヴァイルシュタイン公は振り返った。
二人の視線を他所に、アーベルはただ窓の外を凝視していた。
カイトが彼の視線を辿ると、その先には黒い外套を纏った老齢の男がいた。
アーベルはおずおずと、続けて口を開いた。
「僕、昨日あの人を見かけました……ハルベルトさんの張り込みをしている時に──」


その老齢の男は、ヴァイルシュタイン公爵家の御者であった。
彼は早朝から、馬体を洗って馬屋の掃除をし、今は飼い葉桶を運びこもうとしているところだった。
そんな彼の名は──。
「ダクマル・ドゥーナ。先代の時分より、ヴァイルシュタイン公爵家の御者をしていたそうだな。……そして、紫の蝶では随分遊んだ様子」
御者の男は、刺すように投げかけられた言葉にびくりと振り返った。
そして自分の真後ろに立っていた、深紅の憲兵隊のジャケットを見るや顔を青ざめさせる。
「紫の蝶で貰った帳簿の写しに、お前の名前が載っていた。莫大なツケと共に。だが不思議なことに、数年前突然それがまるっきり完済されていた」
冷ややかな目で、カイトはこの老人を見下ろし続けている。
「おまえは主人の財産に手をつけてツケの支払いに充てた……そうだろう? 金さえ手に入ればそれでいい紫の蝶の主人は、特に出所を精査することなくそれを受け取ったみたいだな」
そう話すカイトの後ろから、バタバタと足音が二つ迫ってきた。
「少佐! ありましたよ! ダクマルさんの部屋に!」
アーベルとヴァイルシュタイン公だった。
アーベルの手には、麻の袋が握られている。
彼はその袋の口を開いて、カイトに見せた。
中にはその使い古しの袋には似つかわしくないような、宝石の山が顔を覗かせた。
ダイヤモンドが散りばめられたブレスレットに、銀細工のブローチ、そして燦然と輝くサファイアのペンダント……。
「しかし賭博の快楽を忘れることはできなかった。再びツケが積み重なり出した頃、ちょうど主人に来客があった。自分がかつて主人からくすねたペンダントを求めにやってきたという客人だ。そんな時、お前はこう考えた。『そのペンダントを盗み出してその客人に売り付ければ、金が用意できるのではないか』と。盗んだ宝飾類をただ売るだけでは足がつくから、その方が手早く金が手に入ると考えたのだろう。……しかし事はそう上手くいかなかった。客人はお前が思っていたより、高潔な人物だったから」
カイトが一歩、一歩とその老人に近づく度、彼は冷や汗を吹き出させ目を泳がせた。
最早、それ自体が自供だと言っていい程に、目に見えた動揺だった。
「客人は家宝のペンダントを買い取ろうとするどころか、目の前の盗人に対する義憤にかられた。そして、その盗人は自分の行いが白日の元に晒されることを恐れ、咄嗟に客人を……」
ダクマルは悲鳴を上げながら走り出した。
それが己の凶行がバレてしまった彼の、思い付く限りの最善策だったから。
しかし泡を吹いて足を縺れさせながらようやく走り出すことのできた老人を捕まえるなど、カイトにとっては造作もなかった。
哀れな老人は、すぐにカイトに取り押さえられることとなった。
「ユリウスに連絡を。護送車で憲兵隊の本隊へ送る」
アーベルはカイトの指示に、素早く動いた。
そんな三人の様を、ヴァイルシュタイン公はただただ茫然と眺めるばかりだった。


「本当だ!! 俺は盗みをしただけだ!! 紫の蝶の主人なんざ殺してねぇ!! それは本当なんだ!!」
護送車に半ば無理矢理乗させられるダクマルを、三人は見送った。
そしてその護送車が走り去った後、ヴァイルシュタイン公はカイトとアーベルに向き直った。
「当家の使用人が行った不道、主人としてお詫びの言葉もございません」
頭を下げたヴァイルシュタイン公。
「その上あのように往生際の悪さまで露呈させ、最早私自身も呆れる次第でございます。ただ全うに裁きを受けることを望むばかりです」
「いいや、むしろ協力に感謝する……さて、俺はこれで失礼する。急用ができてしまったのでな」
「急用……ですか?」
聞いたのはアーベルだった。
カイトは歩き出しながら、答えた。
「これで『紫の蝶の主人の宝石を盗み出した犯人』は判明した。『紫の蝶の主人を殺した犯人』を捕まえに行く」


主人を喪った紫の蝶は静まり返っていた。
どうやらどこかで、紫の蝶の経営権やエッカルドの残した財産の分与について話し合い……という名の陣取り合戦が開かれている様子らしい。
しかし奉公人にとっては、まるで関心のないこと。
誰が経営者になろうと、自分の食い扶持さえ確保できればそれでいい。
それは彼も同じだった。
「精が出るな」
井戸で水汲みをしていたニッキーを呼び止めたのは、カイトだった。
「仕事ですから」
ニッキーは彼を一瞥するだけで、すぐに井戸汲みの作業を再開させた。
「さっき、エッカルドの部屋に盗みに入った犯人が捕まった」
「そうですか、よかったです」
ニッキーは汲んだ水を桶に移し変えながら淡々と返事をした。
「しかし、まだエッカルドを殺した犯人は捕まっていなくてな」
ニッキーの手が止まった。
カイトは更に続けた。
「一つ、部屋に転がっていたジュエリーケースと凶器の燭台。現場では空のジュエリーケースが転がっていて、その上に被害者の血液が飛び散っていた。つまりは被害者は犯人が部屋を荒らした後に殺されたというわけだ。しかし犯人が被害者と鉢合わせをして咄嗟に殺害をした……と考えるには、凶器が不自然。凶器は廊下に飾ってあった燭台。もしも部屋を荒らしている最中に殺害したとしたら、犯人はわざわざ被害者の背中に回り込み、廊下に出て凶器を手にしたということになる。いくらなんでも不自然すぎる」
ニッキーはただただ、黙って話を聞いていた。
「それからもう一つ。あんだけ毎日派手に遊び歩いていた被害者だ。被害者が家にいない時間を、犯人が見計らうなんて造作もない。にも関わらず、犯人は被害者と鉢合わせをしてしまった……なんてのも不自然だ。しかも盗みに入った犯人は、紫の蝶の常連客。その程度のこと分からないはずもない。なら、こう考えられる。部屋から宝石がすっかり盗み出された後に、エッカルドは部屋へと戻ってきた。そしてその際に、窃盗犯とは別の人間に殴殺されてしまった、と」
「それを、僕に言ってどうするんですか」
「その頬の傷」
カイトはゆっくりと、ニッキーに歩み寄った。
彼の頬には、ハルベルトを拘束する時にもあった痣が、未だ鎮座していた。
「最初に背後から殴られた被害者は、最後の力で抵抗したのだろう。指輪の填めれた手で犯人に殴りかかった。その傷が出来たのはここ2~3日だろう? 確認すれば、当時被害者が填めていた指輪の飾りと傷痕が合致するだろう。……何より」
ニッキーは目を伏せた。
桶を握る手に、僅かに力が入る。
そんなニッキーへと、カイトは更に詰め寄った。
そして彼の襟元を、ぐっと掴みあげた。
「どれ程他の汚れに紛れようと分かる。飛び散った血痕くらいはな」
カイトが掴み見下ろしたニッキーの襟元。
泥や埃にまみれてすっかり黒ずんでいるけれど、確かによりどす黒い滲みが見て取れた。
ニッキーは僅かに目を伏せた。
遠くから、馬車が轍を刻む音が聞こえてきた。
彼を運ぶ護送車が、たった今紫の蝶の前に止まったのだった。



彼の一日の仕事が終わるのは、すっかり満月が天頂に昇る頃だった。
賭場で使われたテーブルクロスだとか、奉公人の服だとかは、毎日ニッキーが休む暇もなく仕事をさせられ続けた。
重たい井戸水を汲み上げ、冷たい水で洗い物をし続けていた彼の掌は、あかぎれと擦り傷だらけで痛々しいものだった。
そして時に、その華奢な体と陰鬱な面持ちは、他の奉公人の憂さ晴らしの的になることもあった。
殴られ蹴られ、時には洗い終えた洗濯物を汚されることもしばしばあった。
そうやって彼は、数年をこの場所で過ごしてきた。
幼い頃に口減らしで捨てられ、ここで働かされていると以前マルクから聞かされたことがある。
最早幼い頃の記憶は、彼の中にはすっかり消え去っている。
彼はただただ、空虚な心を抱えて生きていた。
その空虚な心の中に、真っ黒い感情が植え付けられていたという自覚が芽生えたのは、あの日のことだった。


取り込んだ洗濯物を、それぞれの持ち主や保管場所まで届けるのは、他の者の仕事だった。
ニッキーの作業が終わるのが遅いといちゃもんをつけられては、その仕事さえも押し付けられることもしばしばあった。
その日も、そんな日であった。
店や奉公人の住み込み部屋などを周ったニッキー。
彼が最後に届けた洗濯物は主人のエッカルドの部屋のテーブルクロスだった。
主人の部屋の扉を開けようとしたその時、扉の向こうから声が聞こえた。
「なんだ、これは……おい、どうなっているんだ……!!」
低く唸るような主人の声に、ニッキーは息を飲んだ。
そして音を立てないように、そっと部屋の扉を開ける。
部屋の中で、主人は呆然と辺りを見渡していた。
開け放たれた金庫を見下ろし、ひっくり返っていたジュエリーケースを逆さにして振り回している。
酷く哀れな見目の主人の、酷く哀れな様相。
こんな哀れな人間のせいで、自分は──。
空虚だったはずの心に、黒い感情が満ち溢れるのを感じながら、ニッキーは廊下に立たされていた燭台を手に取った。
──鈍い殴打音と、燭台から伝わった頭蓋が響く感触が、嫌にはっきりと感じられた。
──それ以外のことは、あまりよく覚えていない。
振り返ったエッカルドに、もう一度。
だけどそれは少し逸れて、代わりに自分の頬に鈍い痛みが走った。
けれどエッカルドにできた抵抗は、せいぜいそれが限界だった。
ニッキーはもう何度か、燭台を振り下ろす。
彼が倒れ、血が溢れ、心臓が止まっても、ずっと。
しばらくして、彼は自分の息が切れていることに気がついて、呼吸を整えるためにその手を止めた。
勿論その頃になると、エッカルドの頭蓋はすっかり粉々で、辺りに脳漿だとか血液だとかを散らしきり、一目でそこに魂はないのだと分かる程になっていた。
ニッキーは自分の体を見下ろした。
エッカルドから吹き出たモノで、べっとりとした自分の服を、じっと見下ろして虚ろに呟いた。
「……これだと、怒られてしまう。また、怒られてしまうね」
主人を殺したと知られれば、どれ程の叱責が待っていようか。
ニッキーは血に濡れた靴と上着を脱いで、血が滴らないように持ってきたテーブルクロスで包んで運び出した。
そしてそれらを洗い流すため、彼は自分の持ち場へと戻った。
幸い元から着ていた服は元から薄汚いものだったから、多少汚れが落ちなくてもバレはしないかもしれない。
テーブルクロスは……流石にそうはいかないだろう。
どこかへ隠して『失くした』とシラを切ろう。
多少殴られても、主人殺しの叱責よりはマシだろう。
幸いなことに、天は彼の味方をした。
彼が汚れたものを洗うなり隠すなりしている頃、誰も彼の行動など気にもすることはなかった。
明け方まで『仕事』をする彼を、誰も彼も気にも留めることはいなかった。



「汚れたテーブルクロスは洗濯場の井戸の中です。あそこは僕しか使いませんから、隠しものをするにはちょうどいいんです」
護送車に向かいながら、ニッキーは傍らのカイトに語った。
そんなニッキーが、護送車に乗り込む直前のことだった。
「……何故逃げなかったんだ?」
カイトは訊ねた。
「逃げるって?」
「自分が犯人だと露見する前に、逃げればよかっただろうに。姿を眩ましてしまえば、捕捉も困難になっていた」
ニッキーは空を見上げた。
賭場を囲っていた高い塀に遮られない、青い空。
その青い空を見上げる、より深い青色の瞳が、僅かに潤んだ。
「逃げる……」
初めて知った言葉かのように、ニッキーはその言葉を呟いた。
彼はそれっきり、護送車の中へと姿を消していった。




「紫の蝶の主人がサファイアのペンダントを所持していると聞いたのは、ヴァイルシュタイン公の御者からでした。初めて公とお会いした日、その御者に公の馬車で家まで送ってもらったのですが、その際に。今にして思えば、あれはそれとなく僕に盗みの共犯を持ちかけようと探りを入れていたのかもしれません。あの時はそんなこと、思いつきもしませんでしたけど……その情報を頼りに、僕は紫の蝶の主人に買い取りの相談を持ちかけました。しかし彼は僕が提示した値段の、倍の金額を要求したのです。よほどペンダントを気に入ったのか、それとも僕からならもっと絞り取れると思ったのか……」
それから数日後、病院のベッドに上体を起こして座るハルベルト。
治療の甲斐があり、快方へと向かっていた。
来院したカイトに全てを話した。
「そしてあの日、御者が盗んだペンダント持って僕の前にやってきたのです。あとはカイトさんのおっしゃる通りのことが、あの場で起きました。強盗なんて許されるはずもないし、何より……自分の大事なものが、そんな風に扱われることに腹が立って、僕は彼を糾弾しました。そうしている内、逆上した彼に……」
ハルベルトは包帯の巻かれた額に触れた。
「事件のあった日、どうして僕たちを尾行していたんですか? それから、エッカルドさんと面識があったことも隠していらっしゃいましたし」
問い詰めるように聞いたのはアーベルだった。
「あぁ、それは……紫の蝶に強盗が入ったと聞いて、どうしてもサファイアの行方が気になったんです。しかし自分にはそれを確認する術は思い浮かばなかったから、調べてる憲兵さんを追えば何か情報を得られるんじゃないかって思って。紫の蝶の主人との面識を隠してしまったのは、何といいますか、疑いの目を向けられたことに動揺して、咄嗟に……」
ハルベルトは気まずそうに目を反らした。
「なるほどな……悪かったな、疑ったりして」
「いえ、前にも言いました通り不審な行動をしていた僕にも非はありましたから。それにあの日、お二人が僕の家にいなければ、きっと僕は助かっていなかったでしょうし。その節は、むしろ感謝しています」
そう言って微笑むハルベルトは、傍らの小箱を二人の前で開けた。
「実はヴァイルシュタイン公のご尽力で、サファイアのペンダントを買い戻すことができたのです。……色々不運が重なりましたけど、怪我の功名と言いましょうか。お二人が犯人を捕まえてくれたお陰です。重ねてお礼を申し上げます」
「……別に、やることをやっただけだ。礼を言われることじゃないだろ」
カイトはあっさりと、そう答えてしまった。
ハルベルトは少し寂しそうに、手元のペンダントに視線を落とした。
「本当に感謝しているんですよ。ずっと、このためだけに生きていたみたいなものでしたから。……それから、実はもう一個探し物がありましてね。もしかするとそれも見つかりそうで」
首を傾げたカイトを、ハルベルトは振り仰いだ。
「弟がいると話しましたよね。幼い頃にどこかへ奉公に出されてしまった弟が。……そうそう、このペンダントは弟の瞳と同じ色の石を選んだと聞きました。そんな弟はペンダントと違って所在が分からないから、探しようもないと諦めていたのです。しかし先日、弟によく似た少年を見かけたんです。すぐに見失って後を追うことはできなかったのですが、もしかすると、きっとあの子は……なんて淡い希望を持ってしまったのです。でも、このペンダントを取り戻せたのと同じように、その希望が叶うような、そんな予感がしているんです。退院したら早速探しに回ろうかと思っているんです」
ハルベルトはペンダントを握りしめた。
そうして手中にあるそれを、愛しげに見下ろし続けた。
カイトはその様子を見ながら、喉の屋が乾くような、嫌な焦燥にかられた。
そして、何を言おうか逡巡を巡らす。
「……そうか、そっちも見つかるといいな」
結局カイトは最後にそれだけを言って、部屋を後にした。




「逃げればいい、なんて随分酷なことをおっしゃいましたね」
病院から出て馬車に向かう、カイトとアーベル。
一歩前を歩いていたアーベルは、振り返らずにカイトに言った。
カイトは視線だけを僅かに彼の方へと向けた。
「ニッキーさんに言ったじゃないですか。何で逃げなかったのかって」
アーベルは、やはり振り返らない。
振り返らなくても見えた口元は、僅かに微笑んでいるようにも見えた。
けれどその声音は、ひたすら冷たいものだった。
「逃げた彼はどうするんです? 物乞い? ゴミ溜め漁り? それとも……まぁ、どれにしろ、結局いずれは監獄に送られる運命にあったと思いますよ」
カイトは黙って、彼の言葉を聞いた。
「結局、本人が望もうが望むまいが、虐げられていようとも捕縛の恐怖に怯えなければいけなくとも、ツテも学も持たない彼はあそこにしか生活する場がないんですよ。『逃げればいい』なんて簡単に言って、相変わらず浅い同情心しか持ってないんですね。だからそんな役回りをさせられるに至ったんですよ」
まるで溶けた氷柱が軒下へ降り注ぐかのごとく、カイトに向かうアーベルの言葉。
ふいに、そんなアーベルがカイトに振り返った。
「ごめんなさい、少佐。あなたのそういうところ、本当に大嫌いです。あなたのことを許せる日は、まだ来ないみたいです」
アーベルの目は、まっすぐカイトを射ぬいた。
射ぬいた瞳に燻るのは、暗い暗い、怨嗟の炎。
──その怨嗟のことを、カイトはよく知っている。
──その怨嗟を生んだ自分自身が、一番よく知っている。
それを受け止めるカイトの瞳も、まっすぐだった。
「それじゃ、行きましょう。明日もまた大佐からのお呼びがあるでしょうから。早く休んでしまいましょう」
アーベルが歩を進める頃には、彼の声音もまたいつもの調子に戻っていた。
黙ってそのあとを着いていくカイトも、いつもと変わらないものだった。


──どうしたってあなたのこと、絶対に許せそうにありません。
──あの日嗅いだ硝煙の匂いと共に。
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