深淵の教会にて

奈波実璃

文字の大きさ
上 下
13 / 24
第四章~闇の中で聞いた音~

13

しおりを挟む

 居間の襖をそっと開け、中を覗いた。
 中に敷かれた布団が目に入る。

 けれどその上で眠っているはずの男の姿が見当たらない。
 高橋は怪訝に思い、さらに襖を引こうと隙間に手をかけた。







「どうしました? 何かご用ですか?」
 突然、高橋の背後から声がした。
 高橋は飛び上がらんばかりに驚きながら、後ろに振り返った。
 高橋の背後には、あの男が立っていた。
 暗闇の中でただ銀色の髪だけが妙に浮き上がり、幽霊を彷彿させた。

「いや、少し訊ねたいことがあってな……。さっき妙な物音がしなかったか?」
 高橋は極力動揺を隠しながら、男に訊ねた。
「物音……? ですか?」
 男は一瞬首をかしげたが、すぐに柔和な笑みを浮かべた。
「あぁ、僕が水を飲みに立った音ですかね? 夜中に申し訳ない」
 そう言って、男は高橋の前を横切り居間の中へ入っていった。

 高橋は男が閉めた襖の前で、しばらく立ち竦んでいた。
 けれどこれ以上の追及する意思は沸かず、高橋は寝室へと戻っていった。
しおりを挟む

処理中です...