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秋の章 甘口男子は強くなりたい
7、甘口カレーの策略
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「ひとまずお米はといであるよー!」
ノイ君は嬉しそうに報告しながら、玄関入ってすぐのキッチンにわたしを手招きした。一人暮らしには十分といえるスペースのキッチンは、白で統一されていた。それだけでもきれいな感じなのに、コンロの脇のカウンタートップには何も置かれていなくて、広々とした印象まである。
ノイ君って、ものすごく整理整頓力があるな……。
自分の部屋の物の多さを思い出して、あまりの差に絶句しちゃう。
きっと食器とかも必要最低限しか置いてないタイプだ。わたしみたいに「あっ、これかわいい!」なんて衝動買いはしないんだろうな……。
「ひとまず荷物はこっちに置いてね」
ノイ君はスーパー袋を冷蔵庫の前に置くと、先にわたしを部屋へと案内してくれた。2つある部屋は、1つは寝室、1つは配信部屋にしているそうだ。その配信部屋へ一歩踏み入ってまず目に入ったのが、ぶら下がっている観葉植物だ。
「わぁっ! すごい!」
天井のポールから鉢植えが吊り下げられていて、元気な葉っぱがわさわさとたれている。
「こんなふうになってたんだね!」
普段ノイ君の配信を見ていて、彼のバックにこの葉っぱが映っているのが不思議だったんだよね。どうやって飾ってるんだろうって。
「これいいでしょ。ポトスって言うんだよ。目が疲れた時には緑を見るといいって言うから飾ってみた」
葉っぱをつまみながら、ノイ君が少し嬉しそうに言った。彼は元々大学は建築学科に通っていて、インテリアの勉強をしていたと言っていたから、キッチン含め全体的にセンスがある。
ポトスと平行になるように吊るされたペンダントライトも、シンプルでこの部屋によく合ってるもん。
もしわたしの部屋を見たら、ノイ君はドン引きするだろうな。物が多過ぎて。
「……ミニマムな暮らしが羨ましい」
「え? 何か言った?」
「あ、ううん。おしゃれな部屋に住んでるんだろうなって思ってたけど、本当に素敵だからびっくりしてるの」
「そうかな? ……まあでも、ありがと」
ノイ君はまんざらでもない様子で微笑んだ。
まだ部屋に上がった緊張感は消えないけれど、とにかくカレー作りだ。わたしはトートバッグを部屋の隅に置かせてもらって、中からエプロンを取り出した。パーカー(はからずしも、ノイ君とかぶってしまった!)のフードをよけながらエプロンをつけていると「おー、エプロンだっ。似合ってる」とノイ君が弾んだ声をあげる。
「あ、ありがと……?」
たかだかデニム地のシンプルなエプロンなんだけどな。そんなふうに褒められると照れくさい。
それをごまかすようにキッチンへと行って、わたしは玉ねぎの袋を取り出した。
「じゃあ早速作り始めるね」
コオリ君とおいちゃん(ともしかしたら由加子ちゃんも)は、お酒やケーキを調達して5時過ぎに来ることになっている。その頃にはカレーもばっちりできているはず。
ノイ君は「俺も手伝うよ」と言って、まな板と包丁を用意してくれた。
「えっ、大丈夫だよ。わたし一人で──」
「いいの。そばでやり方見てれば、次は俺も作れるでしょ」
ノイ君ってそこまで料理やらない人だったっけ? 前にカレーくらいは作れるって聞いたような気がしたけど……。少々腑に落ちないところはありつつも、お手伝いの申し出を無下にするのも悪いし、わたしはノイ君と並んでキッチンに立った。
◆
特別なことは何もない正真正銘の平凡カレーは、5時になる頃にはぐつぐつと美味しそうな香りをたてて煮込まれていた。大きな鍋いっぱいのカレーは、結構具沢山だ。
せっかくだし野菜をたくさん食べてもらいたくて、欲張り過ぎたかも……。
まあでもいっか。食べきれなかったら冷凍すればいいだけだし。それを見越してじゃがいもはいれてないし、フリーザーバッグも購入済みだ。
わたしは腕時計を見て、5時をとっくに過ぎていることを確認した。いまだ、コオリ君とおいちゃんが来ない。
「2人とも遅いね。何かあったのかな。連絡きてる?」
わたしと一緒に鍋をのぞきこんでいたノイ君にたずねると、何だか微妙な表情。
あれ、この顔は何か隠してることがあるなってピンときて、質問を重ねようとしたところに「ごめんっ……2人は今日、来れませんっ」とノイ君が両手を合わせた。
「ええっ!? そうなの!?」
わたしは思わず鍋を見た。由加子ちゃんも来るかもしれないしと思って、全部ルーをつぎこんじゃったよ! 即ち10杯分……。
こ、これは2人で食べた後、相当な量を冷凍しないといけないぞっ。
「フリーザーバッグ買わないと……!」
あわてて火を止めて、配信部屋に財布を取りに行こうとするわたしに「え……そこ?」とノイ君の気の抜けた声をあげた。
「だってカレーものすごい余っちゃうもん。フリーザーバッグ、買って来た分じゃ絶対足りないよー!」
「そこは大丈夫だよ、何枚かは持ってるし」
「ほんと……? じゃあ足りるかな……。まあ明日の分くらいは冷蔵庫でもいっか」
せっかく作ったんだから、できれば無駄にはしたくない。フリーザーバッグの予備があるならコンビニに走る必要はないかと思い直して、また鍋に火をかける。
「あ、あとコオリ君用の激辛パウダーと、おいちゃん用のらっきょうがあるよね。激辛パウダーは今度渡すとして、らっきょうは食べちゃおっか。ノイ君、らっきょう嫌いじゃない?」
「うん、平気」
それなら良かったと微笑むと、ノイ君は吹き出した。
「ふくちゃん……気になるのそこなんだね。意外すぎる」
「そりゃそうだよ、みんなで食べると思ったから、大量に作ったんだもん」
「理由は聞かないの? なんで2人とも来ないのか」
「何か用事ができたんでしょ? ……あ、もしかして体調不良なの?」
ノイ君は笑って否定した。
「ふくちゃんのカレーを食べるのは俺だけが良かったの」
ノイ君は嬉しそうに報告しながら、玄関入ってすぐのキッチンにわたしを手招きした。一人暮らしには十分といえるスペースのキッチンは、白で統一されていた。それだけでもきれいな感じなのに、コンロの脇のカウンタートップには何も置かれていなくて、広々とした印象まである。
ノイ君って、ものすごく整理整頓力があるな……。
自分の部屋の物の多さを思い出して、あまりの差に絶句しちゃう。
きっと食器とかも必要最低限しか置いてないタイプだ。わたしみたいに「あっ、これかわいい!」なんて衝動買いはしないんだろうな……。
「ひとまず荷物はこっちに置いてね」
ノイ君はスーパー袋を冷蔵庫の前に置くと、先にわたしを部屋へと案内してくれた。2つある部屋は、1つは寝室、1つは配信部屋にしているそうだ。その配信部屋へ一歩踏み入ってまず目に入ったのが、ぶら下がっている観葉植物だ。
「わぁっ! すごい!」
天井のポールから鉢植えが吊り下げられていて、元気な葉っぱがわさわさとたれている。
「こんなふうになってたんだね!」
普段ノイ君の配信を見ていて、彼のバックにこの葉っぱが映っているのが不思議だったんだよね。どうやって飾ってるんだろうって。
「これいいでしょ。ポトスって言うんだよ。目が疲れた時には緑を見るといいって言うから飾ってみた」
葉っぱをつまみながら、ノイ君が少し嬉しそうに言った。彼は元々大学は建築学科に通っていて、インテリアの勉強をしていたと言っていたから、キッチン含め全体的にセンスがある。
ポトスと平行になるように吊るされたペンダントライトも、シンプルでこの部屋によく合ってるもん。
もしわたしの部屋を見たら、ノイ君はドン引きするだろうな。物が多過ぎて。
「……ミニマムな暮らしが羨ましい」
「え? 何か言った?」
「あ、ううん。おしゃれな部屋に住んでるんだろうなって思ってたけど、本当に素敵だからびっくりしてるの」
「そうかな? ……まあでも、ありがと」
ノイ君はまんざらでもない様子で微笑んだ。
まだ部屋に上がった緊張感は消えないけれど、とにかくカレー作りだ。わたしはトートバッグを部屋の隅に置かせてもらって、中からエプロンを取り出した。パーカー(はからずしも、ノイ君とかぶってしまった!)のフードをよけながらエプロンをつけていると「おー、エプロンだっ。似合ってる」とノイ君が弾んだ声をあげる。
「あ、ありがと……?」
たかだかデニム地のシンプルなエプロンなんだけどな。そんなふうに褒められると照れくさい。
それをごまかすようにキッチンへと行って、わたしは玉ねぎの袋を取り出した。
「じゃあ早速作り始めるね」
コオリ君とおいちゃん(ともしかしたら由加子ちゃんも)は、お酒やケーキを調達して5時過ぎに来ることになっている。その頃にはカレーもばっちりできているはず。
ノイ君は「俺も手伝うよ」と言って、まな板と包丁を用意してくれた。
「えっ、大丈夫だよ。わたし一人で──」
「いいの。そばでやり方見てれば、次は俺も作れるでしょ」
ノイ君ってそこまで料理やらない人だったっけ? 前にカレーくらいは作れるって聞いたような気がしたけど……。少々腑に落ちないところはありつつも、お手伝いの申し出を無下にするのも悪いし、わたしはノイ君と並んでキッチンに立った。
◆
特別なことは何もない正真正銘の平凡カレーは、5時になる頃にはぐつぐつと美味しそうな香りをたてて煮込まれていた。大きな鍋いっぱいのカレーは、結構具沢山だ。
せっかくだし野菜をたくさん食べてもらいたくて、欲張り過ぎたかも……。
まあでもいっか。食べきれなかったら冷凍すればいいだけだし。それを見越してじゃがいもはいれてないし、フリーザーバッグも購入済みだ。
わたしは腕時計を見て、5時をとっくに過ぎていることを確認した。いまだ、コオリ君とおいちゃんが来ない。
「2人とも遅いね。何かあったのかな。連絡きてる?」
わたしと一緒に鍋をのぞきこんでいたノイ君にたずねると、何だか微妙な表情。
あれ、この顔は何か隠してることがあるなってピンときて、質問を重ねようとしたところに「ごめんっ……2人は今日、来れませんっ」とノイ君が両手を合わせた。
「ええっ!? そうなの!?」
わたしは思わず鍋を見た。由加子ちゃんも来るかもしれないしと思って、全部ルーをつぎこんじゃったよ! 即ち10杯分……。
こ、これは2人で食べた後、相当な量を冷凍しないといけないぞっ。
「フリーザーバッグ買わないと……!」
あわてて火を止めて、配信部屋に財布を取りに行こうとするわたしに「え……そこ?」とノイ君の気の抜けた声をあげた。
「だってカレーものすごい余っちゃうもん。フリーザーバッグ、買って来た分じゃ絶対足りないよー!」
「そこは大丈夫だよ、何枚かは持ってるし」
「ほんと……? じゃあ足りるかな……。まあ明日の分くらいは冷蔵庫でもいっか」
せっかく作ったんだから、できれば無駄にはしたくない。フリーザーバッグの予備があるならコンビニに走る必要はないかと思い直して、また鍋に火をかける。
「あ、あとコオリ君用の激辛パウダーと、おいちゃん用のらっきょうがあるよね。激辛パウダーは今度渡すとして、らっきょうは食べちゃおっか。ノイ君、らっきょう嫌いじゃない?」
「うん、平気」
それなら良かったと微笑むと、ノイ君は吹き出した。
「ふくちゃん……気になるのそこなんだね。意外すぎる」
「そりゃそうだよ、みんなで食べると思ったから、大量に作ったんだもん」
「理由は聞かないの? なんで2人とも来ないのか」
「何か用事ができたんでしょ? ……あ、もしかして体調不良なの?」
ノイ君は笑って否定した。
「ふくちゃんのカレーを食べるのは俺だけが良かったの」
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