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第1章 美少年の来訪
6、戻れないふたり(★)
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(いや、そんなこと一言も言ってなくない!?)
なんていう自意識過剰な発言か! 抗議したくても口が塞がれていて声にはならない。おまけに、ちょっとした隙をつかれて舌まで入り込んで来て、絡め取られてしまった。唾液を交換しあうような執拗で濃厚な口付けに、百花はどんどん抵抗の力を奪われていく。
いつのまにか肩をつかんでいたはずのカイリの手は百花の背中にまわされていて、ぎゅっとかたく抱きしめられていた。その力強さが彼が男性であることを誇示してきて、どきりと胸の奥が動く。
(いったい何がどうして、こんなことに……!?)
無音の室内で粘着質な音ばかり響き、百花の羞恥心をあおってくる。
とりあえず恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。
密着しているせいでカイリの下半身事情にまで気づいてしまい、さらに恥ずかしい。
ついでに言うならば、おそらく自分の体も反応してしまっている。
「……待って……お願いだから」
角度を変えようとカイリが一瞬唇を離した隙に、百花は渾身の素早さで彼の口元に手のひらを当てた。
「急すぎだよ……無理、もう無理!」
涙目の百花を見ても表情を変えず、カイリはペロリと彼女の手のひらをなめた。
「ぎゃあっ」
あわてて手を離したら再び顔が近づいて来たから、今度は精一杯顔を背けて防御をはかった。
「お願い! ちょっと待って! 大人すぎる!!」
「大人すぎるって……」
カイリが小馬鹿にしたように笑う。
「モモカの方が大人なんだから、これくらい経験してるでしょ?」
「してないしてない! いや、したことはあるけど、こんなに……」
ねちっこいのと言いかけて、これは失礼ワードだと口を慎む。カイリは無言のまま、百花の首筋に舌をはわせた。びくんと身体が大きくはねてしまう。それを見てカイリが薄く微笑んだ。もはやカイリに少年の要素はどこにもなく、妖艶な色香ただよう男性にしか見えなかった。
姿は同じだというのに雰囲気がここまで変わるなんて、と百花の胸が早鐘を打ち出す。
(どうしよう! カイリがかっこいい!)
何かと言うと、その一言に尽きた。
もちろん今までも美少年だと思っていたが、本当に童顔なので高校生男子くらいにしか思っていなかったのだ。けれど、百花を好きだと言って彼女を求めてくるカイリに、ドキドキしてしまう。
(こ、これは簡単にほだされちゃいそう……!)
危険だ、と脳内でサイレンが鳴っている。どういう対応をしたらいいのか決めかねている百花に気づいたのか、カイリの手はカットソーの隙間にもぐりこんできた。カップ付きのキャミソールを下に着ているのだが、彼は容赦なくそれを押し上げて直に触れてくる。
「あ、ちょっと……!」
「──たってる」
「そんなの言わなくていいから!」
とにかく一旦ストップ……とカイリの手を抑えても、まるで効果がない。やわやわと胸をもまれて、いよいよ足に力が入らなくなってきた。
「も、ダメだって……」
すがるようにカイリの腕をつかんで、百花は首を横に振った。
「大丈夫。心配いらない」
耳元で囁かれ、また百花の身体が反応した。
普段は若くて青い声だとしか思っていなかったのに、今のカイリの声は別人のような色香を持っている。もう本当に無理、ダメ、とうわ言のように呟く百花を気にする素振りもなく、カイリは行為を深めてきた。耳の中に舌をさしこまれてなぶられると声をあげるのを止められない。
「そこ……反則……!」
「良いって意味で受け取るよ」
「ダメだって……ばぁ……」
自分でもいやになるくらい甘ったるい声になってしまう。
(もうダメだ……気持ちいい)
暖かい腕に包まれて、熱のこもった囁きを受けて、そうまでして自分を求めてくれる存在をどうして拒否できるだろうか。
(──もうこうなったら、覚悟を決めよう)
どっちにしろカイリと同じく自分だって身体が昂ぶっている。ここで止めたら、それはそれで眠れないのは確実だった。
「……お願い……せめてベッドまで……」
もはや立っているのがつらくて、百花はカイリに懇願した。その言葉に、カイリは彼女の耳から唇を離して、うなずく。そっと手を引かれてベッドに押し倒される形になって見上げたカイリの表情は、思った以上にとろんとしていた。情欲が宿った目に、ぞくりと下腹部が反応する。
「──好きだよ」
カイリはそう囁きながら、再び百花に口付けた。
豆電球のかすかなオレンジ色が照らす薄暗い部屋に、リップ音が響く。
カイリは、それはそれは丁寧に百花の身体をほぐしていった。
胸を柔らかいタッチで揉み、頂を舌で転がしては、いちいち百花の反応を確認してくる。それでなくても恥ずかしいのに「ここがいい? どっちが好き?」などと聞かれて、もはや羞恥心の限界突破も近い。
あえぐ百花の姿にカイリは目を細めて「下もさわるよ」と言いながら、手を百花の内腿にあてた。そのままその手を上に移動させ、百花の秘められた場所へと指をあてる。
「あっ……んんっ」
触られた瞬間に、目の前で何かが弾け飛んだ気がした。と思ったらそのまま指が入ってきて、今度こそ百花は「ああぁっ……」と一際大きな声が出てしまった。ゆるゆると指を動かされて、百花はぎゅっとカイリにしがみつきながら断続的に喘いだ。
(何これ……! 久しぶりだから? なんかものすごく気持ちいいんですけど!)
濡れているのはもはやわかりきっていて、多分ものすごい潤みをうみだしている。百花の反応に気をよくしたのか、カイリの方も指の動かし方に緩急をつけてきて、彼女を翻弄してくる。
「あっ……ま、まって……もう……」
限界が近づいてきたのが自分でわかり、百花は必死で首を横に振って、カイリの指から逃れようと身体を上にずらそうとした。それをものすごい力で押さえつけて、カイリが「いいよ……」と耳元で囁く。指の動きがどんどん激しくなって、あっけなく百花は達した。
脱力する百花の額をぺろりとなめて、カイリは「いれるよ」と自身を百花の膣に押し当てる。
ぼんやりしながらも「ゴムないから……」と呟き、カイリを押しとどめる。
「ゴムって何?」
それを説明するのはかなり難しい。たどたどしく赤ちゃんできないようにするやつ、と伝える。
「それなら大丈夫。結婚してないから」
なんだそんな事とでも言いたげな空気を醸し出し、もう待てないと言いながら、カイリは改めて身体を押し進めた。ずんと重い衝撃とともにカイリが入ってきて、百花の息が詰まる。圧迫感は痛みにも似ていたけれど、ゆっくりカイリが動きだしてからは、それが徐々に快楽に変わっていった。
胸に刺激を与えながらカイリが抽送するから、達したばかりの百花も再び気持ち良さに喘いでしまう。
突かれて、なめられて、もまれて、もはや何からの快感なのかまったくわからない。
久しぶりのセックスは、とても気持ちが良くて激しいものだった。
◆
これでもう昨日までの二人には戻れない。
事後特有のけだるさに包まれながら、百花はカイリの表情を確認した。百花の中で何度か果てた彼は随分とスッキリした表情で、目にもいつもの理知的な光が宿っている。
「……どうしたの」
片腕を百花の頭の下に差し入れ、もう片方の手で百花の髪をすく。甘ったるいキザな行為も、カイリがやると様になるから不思議だ。百花は思わず「カイリって……慣れてるね」と呟いた。
「は?」
「女の扱いがうまい……」
「別にそんなことないでしょ」
そんなことあるけどなぁ、と思いながら百花は目を閉じる。
はっきり言って、カイリとのセックスは気持ちが良かった。大学時代に付き合っていた人とのセックスより、断然。元彼が淡白だったのかカイリが上手なのか、その真偽はわからないが、とりあえずカイリが果てた回数以上に百花も達してしまっている。
(……なかなか鮮烈な経験だった)
くせになりそうで怖い。
不安がよぎったけれどそれにはふたをして「そういえば結婚してないから赤ちゃんできないって、どういう意味?」とたずねてみる。最中はそんな余裕なかったけれど、改めて考えると意味がわからない。
「モモカのところでは違うの?」
カイリはカイリで目をしばたかせながら、故郷での仕組みを教えてくれた。向こうでは結婚の儀というのがあって、それを経て精子に子種が宿るのだそうだ。あとは魔法でも避妊できるとのことで、まさに異文化だ。
「なるほどねー、それなら安心……」
ホッとした百花は、腕の暖かさに包まれながら眠りに誘いこまれていった。
そうして次の朝目を覚ますと、変わらずに目の前にカイリがいた。まだ眠っているようで、目を閉じるとまつげの長さが際立つ。肌もなめらかでうらやましい。
(当たり前だけど、夢じゃないんだなぁ……)
肌掛け布団の下はお互い何も身につけていない。昨晩の行為の余韻が、下半身の重だるい感じとなってまだ身体に残っている。
(結構明るくなってる。今何時だろ)
枕元のスマホを確認すると、十時を過ぎている。今日は薬草園に行く予定だし、そろそろ起きなければ。出かける前にシーツも洗濯したい。
しばらくカイリの寝顔で目の保養をした後で、ゆったりと起き上がろうと身じろぎする。そこでパチリとカイリの目が開いた。寝ぼけた様子はまるでなく、いつも通り、むしろいつも以上にアーモンド型の目が大きく見える。もしかしたら彼は、百花より前から起きて狸寝入りでもしていたのかもしれない。
「もう起きる?」
「うん、薬草園に行く準備しよ」
「ん……」
その前にとカイリが腕の中に百花を閉じ込めた。素肌同士が触れ合う感覚は柔らかく気持ちが良い。ただ、彼の下半身が反応していたので、百花は一人赤面した。朝勃ちってやつか、と察して、触れないようにする。腰が引けた百花に目ざとく気づいたカイリが逆に押し付けてくるので「ちょっと!」と百花は頬をふくらませた。
「逃げなくてもいいでしょ」
「いや、刺激を与えたらまずいかなって……」
「その変な動きの方が刺激になる」
「変って……」
これ以上やりとりを続けて『じゃあ朝からもう一回』となっても困るので、百花は黙って身体を起こした。
「シャワー行ってくる」
「じゃあ僕も」
カイリも同じように起き上がってきたので、コラコラと百花はカイリをにらんだ。
「別々ね、絶対」
「いいじゃん、一緒で」
「あの狭い場所に二人なんて無理だから」
それからやいのやいのとやりとりをして、結局カイリが先にシャワーに行くことになった。ボクサーショーツだけを身につけて洗面所へと向かう後ろ姿を眺めて「いい身体だな……」と呟いてしまう。
(ってわたしはおっさんか!!)
盛大に一人で突っ込んで、百花ははーっとため息をついた。
なんていう自意識過剰な発言か! 抗議したくても口が塞がれていて声にはならない。おまけに、ちょっとした隙をつかれて舌まで入り込んで来て、絡め取られてしまった。唾液を交換しあうような執拗で濃厚な口付けに、百花はどんどん抵抗の力を奪われていく。
いつのまにか肩をつかんでいたはずのカイリの手は百花の背中にまわされていて、ぎゅっとかたく抱きしめられていた。その力強さが彼が男性であることを誇示してきて、どきりと胸の奥が動く。
(いったい何がどうして、こんなことに……!?)
無音の室内で粘着質な音ばかり響き、百花の羞恥心をあおってくる。
とりあえず恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。
密着しているせいでカイリの下半身事情にまで気づいてしまい、さらに恥ずかしい。
ついでに言うならば、おそらく自分の体も反応してしまっている。
「……待って……お願いだから」
角度を変えようとカイリが一瞬唇を離した隙に、百花は渾身の素早さで彼の口元に手のひらを当てた。
「急すぎだよ……無理、もう無理!」
涙目の百花を見ても表情を変えず、カイリはペロリと彼女の手のひらをなめた。
「ぎゃあっ」
あわてて手を離したら再び顔が近づいて来たから、今度は精一杯顔を背けて防御をはかった。
「お願い! ちょっと待って! 大人すぎる!!」
「大人すぎるって……」
カイリが小馬鹿にしたように笑う。
「モモカの方が大人なんだから、これくらい経験してるでしょ?」
「してないしてない! いや、したことはあるけど、こんなに……」
ねちっこいのと言いかけて、これは失礼ワードだと口を慎む。カイリは無言のまま、百花の首筋に舌をはわせた。びくんと身体が大きくはねてしまう。それを見てカイリが薄く微笑んだ。もはやカイリに少年の要素はどこにもなく、妖艶な色香ただよう男性にしか見えなかった。
姿は同じだというのに雰囲気がここまで変わるなんて、と百花の胸が早鐘を打ち出す。
(どうしよう! カイリがかっこいい!)
何かと言うと、その一言に尽きた。
もちろん今までも美少年だと思っていたが、本当に童顔なので高校生男子くらいにしか思っていなかったのだ。けれど、百花を好きだと言って彼女を求めてくるカイリに、ドキドキしてしまう。
(こ、これは簡単にほだされちゃいそう……!)
危険だ、と脳内でサイレンが鳴っている。どういう対応をしたらいいのか決めかねている百花に気づいたのか、カイリの手はカットソーの隙間にもぐりこんできた。カップ付きのキャミソールを下に着ているのだが、彼は容赦なくそれを押し上げて直に触れてくる。
「あ、ちょっと……!」
「──たってる」
「そんなの言わなくていいから!」
とにかく一旦ストップ……とカイリの手を抑えても、まるで効果がない。やわやわと胸をもまれて、いよいよ足に力が入らなくなってきた。
「も、ダメだって……」
すがるようにカイリの腕をつかんで、百花は首を横に振った。
「大丈夫。心配いらない」
耳元で囁かれ、また百花の身体が反応した。
普段は若くて青い声だとしか思っていなかったのに、今のカイリの声は別人のような色香を持っている。もう本当に無理、ダメ、とうわ言のように呟く百花を気にする素振りもなく、カイリは行為を深めてきた。耳の中に舌をさしこまれてなぶられると声をあげるのを止められない。
「そこ……反則……!」
「良いって意味で受け取るよ」
「ダメだって……ばぁ……」
自分でもいやになるくらい甘ったるい声になってしまう。
(もうダメだ……気持ちいい)
暖かい腕に包まれて、熱のこもった囁きを受けて、そうまでして自分を求めてくれる存在をどうして拒否できるだろうか。
(──もうこうなったら、覚悟を決めよう)
どっちにしろカイリと同じく自分だって身体が昂ぶっている。ここで止めたら、それはそれで眠れないのは確実だった。
「……お願い……せめてベッドまで……」
もはや立っているのがつらくて、百花はカイリに懇願した。その言葉に、カイリは彼女の耳から唇を離して、うなずく。そっと手を引かれてベッドに押し倒される形になって見上げたカイリの表情は、思った以上にとろんとしていた。情欲が宿った目に、ぞくりと下腹部が反応する。
「──好きだよ」
カイリはそう囁きながら、再び百花に口付けた。
豆電球のかすかなオレンジ色が照らす薄暗い部屋に、リップ音が響く。
カイリは、それはそれは丁寧に百花の身体をほぐしていった。
胸を柔らかいタッチで揉み、頂を舌で転がしては、いちいち百花の反応を確認してくる。それでなくても恥ずかしいのに「ここがいい? どっちが好き?」などと聞かれて、もはや羞恥心の限界突破も近い。
あえぐ百花の姿にカイリは目を細めて「下もさわるよ」と言いながら、手を百花の内腿にあてた。そのままその手を上に移動させ、百花の秘められた場所へと指をあてる。
「あっ……んんっ」
触られた瞬間に、目の前で何かが弾け飛んだ気がした。と思ったらそのまま指が入ってきて、今度こそ百花は「ああぁっ……」と一際大きな声が出てしまった。ゆるゆると指を動かされて、百花はぎゅっとカイリにしがみつきながら断続的に喘いだ。
(何これ……! 久しぶりだから? なんかものすごく気持ちいいんですけど!)
濡れているのはもはやわかりきっていて、多分ものすごい潤みをうみだしている。百花の反応に気をよくしたのか、カイリの方も指の動かし方に緩急をつけてきて、彼女を翻弄してくる。
「あっ……ま、まって……もう……」
限界が近づいてきたのが自分でわかり、百花は必死で首を横に振って、カイリの指から逃れようと身体を上にずらそうとした。それをものすごい力で押さえつけて、カイリが「いいよ……」と耳元で囁く。指の動きがどんどん激しくなって、あっけなく百花は達した。
脱力する百花の額をぺろりとなめて、カイリは「いれるよ」と自身を百花の膣に押し当てる。
ぼんやりしながらも「ゴムないから……」と呟き、カイリを押しとどめる。
「ゴムって何?」
それを説明するのはかなり難しい。たどたどしく赤ちゃんできないようにするやつ、と伝える。
「それなら大丈夫。結婚してないから」
なんだそんな事とでも言いたげな空気を醸し出し、もう待てないと言いながら、カイリは改めて身体を押し進めた。ずんと重い衝撃とともにカイリが入ってきて、百花の息が詰まる。圧迫感は痛みにも似ていたけれど、ゆっくりカイリが動きだしてからは、それが徐々に快楽に変わっていった。
胸に刺激を与えながらカイリが抽送するから、達したばかりの百花も再び気持ち良さに喘いでしまう。
突かれて、なめられて、もまれて、もはや何からの快感なのかまったくわからない。
久しぶりのセックスは、とても気持ちが良くて激しいものだった。
◆
これでもう昨日までの二人には戻れない。
事後特有のけだるさに包まれながら、百花はカイリの表情を確認した。百花の中で何度か果てた彼は随分とスッキリした表情で、目にもいつもの理知的な光が宿っている。
「……どうしたの」
片腕を百花の頭の下に差し入れ、もう片方の手で百花の髪をすく。甘ったるいキザな行為も、カイリがやると様になるから不思議だ。百花は思わず「カイリって……慣れてるね」と呟いた。
「は?」
「女の扱いがうまい……」
「別にそんなことないでしょ」
そんなことあるけどなぁ、と思いながら百花は目を閉じる。
はっきり言って、カイリとのセックスは気持ちが良かった。大学時代に付き合っていた人とのセックスより、断然。元彼が淡白だったのかカイリが上手なのか、その真偽はわからないが、とりあえずカイリが果てた回数以上に百花も達してしまっている。
(……なかなか鮮烈な経験だった)
くせになりそうで怖い。
不安がよぎったけれどそれにはふたをして「そういえば結婚してないから赤ちゃんできないって、どういう意味?」とたずねてみる。最中はそんな余裕なかったけれど、改めて考えると意味がわからない。
「モモカのところでは違うの?」
カイリはカイリで目をしばたかせながら、故郷での仕組みを教えてくれた。向こうでは結婚の儀というのがあって、それを経て精子に子種が宿るのだそうだ。あとは魔法でも避妊できるとのことで、まさに異文化だ。
「なるほどねー、それなら安心……」
ホッとした百花は、腕の暖かさに包まれながら眠りに誘いこまれていった。
そうして次の朝目を覚ますと、変わらずに目の前にカイリがいた。まだ眠っているようで、目を閉じるとまつげの長さが際立つ。肌もなめらかでうらやましい。
(当たり前だけど、夢じゃないんだなぁ……)
肌掛け布団の下はお互い何も身につけていない。昨晩の行為の余韻が、下半身の重だるい感じとなってまだ身体に残っている。
(結構明るくなってる。今何時だろ)
枕元のスマホを確認すると、十時を過ぎている。今日は薬草園に行く予定だし、そろそろ起きなければ。出かける前にシーツも洗濯したい。
しばらくカイリの寝顔で目の保養をした後で、ゆったりと起き上がろうと身じろぎする。そこでパチリとカイリの目が開いた。寝ぼけた様子はまるでなく、いつも通り、むしろいつも以上にアーモンド型の目が大きく見える。もしかしたら彼は、百花より前から起きて狸寝入りでもしていたのかもしれない。
「もう起きる?」
「うん、薬草園に行く準備しよ」
「ん……」
その前にとカイリが腕の中に百花を閉じ込めた。素肌同士が触れ合う感覚は柔らかく気持ちが良い。ただ、彼の下半身が反応していたので、百花は一人赤面した。朝勃ちってやつか、と察して、触れないようにする。腰が引けた百花に目ざとく気づいたカイリが逆に押し付けてくるので「ちょっと!」と百花は頬をふくらませた。
「逃げなくてもいいでしょ」
「いや、刺激を与えたらまずいかなって……」
「その変な動きの方が刺激になる」
「変って……」
これ以上やりとりを続けて『じゃあ朝からもう一回』となっても困るので、百花は黙って身体を起こした。
「シャワー行ってくる」
「じゃあ僕も」
カイリも同じように起き上がってきたので、コラコラと百花はカイリをにらんだ。
「別々ね、絶対」
「いいじゃん、一緒で」
「あの狭い場所に二人なんて無理だから」
それからやいのやいのとやりとりをして、結局カイリが先にシャワーに行くことになった。ボクサーショーツだけを身につけて洗面所へと向かう後ろ姿を眺めて「いい身体だな……」と呟いてしまう。
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