【完結】【番外編】ナストくんの淫らな非日常【R18BL】

ちゃっぷす

文字の大きさ
13 / 29
ナストとフラスト

2話【ナストとフラスト】

しおりを挟む
 面倒ごとはさっさと済ませてしまいたいとでも言わんばかりに、森の調査は翌日に行われることになった。調査メンバーは、フラスト様、護衛、植物学者、そして僕の四人だ。

 僕は与えられた服――紺色の軍服に身を包んだ。外でフラスト様の後ろを歩くなら、身なりだけでもまともにしていろと言われたのだ。しかし僕の体のサイズに合う軍服はなく、ベルトをしっかり締めないとズボンがずり落ちてきてしまう。
 ダボダボの軍服を着た僕を見て、フラスト様は鼻で笑った。

「悪いな。子ども用の軍服がなかった」
「僕は子どもじゃありません」
「はっ、そうかい。そうだな。夜になると大人以上だ」
「……」

 実は、フラスト様とまともに話したのは昨日が初めてだった。だから彼がこんなにも……こんなにも、僕のことを軽蔑しているなんて知りもしなかった。好まれていないことは分かっていたが……まさかここまでとは。

 彼と話していると心が膿むように痛むし、苦しい。
 そういえば、僕は今まで一度も誰かに悪意を向けられたことがなかった。

 僕は唇を噛み、俯いたまま馬車に乗り込んだ。馬車にはすでに護衛と植物学者が座っていた。彼らは僕をまじまじと見つめ、「ほう」やら「おー」やら漏らしている。

 隣に座っている護衛が僕に話しかける。

「君が噂の?」
「噂、ですか?」
「あ、あはは。いや、まあ」
「どんな噂ですか?」
「いやあ、えっと。その」

 護衛が口ごもっているときにフラスト様が馬車に乗り、ついでに口を挟んだ。

「〝ヴァルアお気に入りの男娼〟」
「えっ、あっ、いやあ、その」

 護衛の口ぶりからして、フラスト様が言ったことは本当に噂になっているのだろう。

「僕は男娼なんかじゃ――」
「いえいえ! それだけじゃないよ! 教会の――」
「〝司祭さえも夢中にさせた名器持ち〟」

 またもやフラスト様が横取りした。僕が顔を歪めていると、護衛はさらにフォローしようと口を開く。

「それだけでもない! 絶世の美男子、顔に負けない美しい体、それからすごくエロい下着を付けているとか――」

 どこからそんな噂が漏れているんだろう。どれも全然フォローになっていない。当然嬉しくもない。
 僕は護衛を無視して植物学者に挨拶することにした。

「はじめまして。ナストといいます。足手まといかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いしますね、ナスト様」

 植物学者はおっとりとした口調でそう返し、すぐに調査資料に目を戻した。よかった。彼は僕のことを性的な目で見ていないようだ。

 ホッとしたのも束の間、いつの間にか顔を寄せていた護衛が、僕の首元で鼻をヒクつかせた。

「わ。なんか良いにおいする……」
「ちょっと! フラスト様! なんかこの人気持ち悪いです!! 席変えてください!!」

 そう訴えてもフラスト様は知らん顔だ。

「仕方ないだろう。お前が悪い」
「どうしてですか!」
「お前が赤ちゃんみたいな匂いを体から発しているからだ」
「僕は赤ちゃんなんかじゃありません!! どうしてみんなそう言うんですか!?」
「お前がそんな匂いを発しているからだろう」
「そもそも赤ちゃんの匂いってなんですか!?」

 調査資料を読みながら、植物学者がポソッと呟いた。

「おそらく保湿パウダーのせいでしょうなあ」
「保湿パウダー? まさかお前、未だに幼児用の保湿パウダーを体に塗っているのか……?」
「知りませんよ!! それはアリスに聞いてください!!」
「くだらん。どうでもいい」

 司祭様にもヴァルア様にも、赤ちゃんの匂いがすると言われたことがある。それがもし毎朝毎晩体につけられているあの保湿パウダーが原因なら、即刻パウダーを変えてもらわなくてはいけない。なぜなら僕は子どもでも、ましてや赤ちゃんでもないのだから。


 目的地に到着した。馬車を降りるなり、フラスト様の指示が飛んでくる。

「護衛はナストを守れ。傷一つでも付けてはいけない。分かったな」
「はい!」
「植物学者は護衛と共に行動し、例の植物を探せ。ついでにナストに植物について教えろ」
「はい」

 フラスト様が僕に視線を送る。

「お前は護衛から絶対に離れるな。分かったな」
「は、はい。あの、フラスト様は……?」
「俺は単独で行動をする。二手に分かれた方が効率がいいからな」
「……」
「なんだ。そんな目で俺を見るな鬱陶しい」

 僕は一体どんな目でフラスト様を見ていたのだろう。そんな、汚らわしいものを見るみたいに僕を見ないでほしい。
 フラスト様は一刻でも早く僕たちと……僕と離れたいようで、足早に森の中に姿を消した。

「僕、どうしてこんなにフラスト様に嫌われているのでしょうか……」

 思わずそう呟いてしまった。
 すると護衛がアハハと笑い、僕の背中を叩いた。

「気にしないでいいよ! フラスト様とヴァルア様はなんというか……普段からとても仲が悪くてね! というか、フラスト様がヴァルア様のことを毛嫌いしているのかな。だから、ヴァルア様と密接な関係を持つ君のこともちょっとアレなだけだよ。君は悪くない!」
「どうしてフラスト様はヴァルア様のことを嫌いなのでしょうか……」
「さあ? でも兄弟ってそんなもんじゃない?」

 護衛の言葉に、植物学者は頷いた。

「大貴族の兄弟関係はかなりややこしいのでね。フラスト様は将来大公様となる長男。大きな責任と重圧をお持ちです。一方、ヴァルア様は三男。それも、自由気ままなお方です。その上大公様のお気に入り。そりゃ、フラスト様は思うところがあるでしょうな」

 ましてやヴァルア様は男性の恋人を許された方ですし、と植物学者は付け足した。
 
「それに、フラスト様はナスト様のことを嫌ってなんかいませんよ。あなたがいないところでは、好意的なことをおっしゃってました。だから本人の前ではあんな態度だったことにびっくりしましたよ」
「まさか」
「本当です。とても美しいとか、目を奪われるから困るとか、そんなことを」

 にわかには信じられない。おそらく植物学者の優しさからくる嘘だろう。
 ぼんやりと立っている僕に、植物学者が手招きした。

「さ、ナスト様。せっかくの機会です。植物のお勉強をしましょう」
「は、はい!」

 そうだ。フラスト様のことで悩まされるためにここに来たわけじゃない。少しでも調査の役に立ちたいし、今後役に立てる知識を身につけておかねば。

「いいですか。これはツユリグサという薬草でして――」

 僕は植物学者に教わったことを調査資料の余白にメモをした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

処理中です...