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一年:学期末考査~一学期中間考査
第四十五話
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◆◆◆
(凪side)
春が訪れ、俺は二年になった。
校舎前の掲示板に貼られたポスターに、クラス分けが記載されている。
俺はCクラスだった。同じクラスに友人Aと友人Cがいたので少しホッとした。
同じクラスになる生徒の名前を一通りチェックしていたのだが――
「……そんなことってある?」
一番同じクラスになりたくなかった人の名前が載っていた。
苗字の五十音順が近いから、席もまた前後で並ぶのだろう。
「……」
本気でいやだった。二度と顔を見たくないとまで思っていたのに。
カミサマってのは残酷だ。
ぼんやり突っ立っていると、背後から誰かに抱きつかれた。
「なーぎっ! 同じクラスじゃーん!」
「わっ。C~。やったな! 今年もよろしく」
「よろしくー! きゃっきゃ!」
「BとDとは離れたなー。そううまくはいかないかー」
「ねー、寂しいねー。……って、げっ。鳥次も同じクラスじゃん!」
「……だね」
「うえー……。ちょっとテンション下がったー」
心の中で「俺も」と呟いた。
教室にはまだ理玖の姿がなかったので安堵した。
やっぱり前の席か。きっついなあ。
HRがはじまるまでの時間を、友人A・Cと三人でおしゃべりして過ごした。
友人AとCは、教室を見回してニヤニヤしている。
「ほら、見ろよあそこの女子グループ。ずっと凪のことチラチラ見てる」
「あっちもあっちも。ひゃー。スマホで隠し撮りされてるよ、凪?」
名前も知らない女子の観察がそんなに面白いのだろうか。正直どうでもいいんだけど。
俺がこっそりため息を吐いたと同時に、教室がざわめいた。「えっ?」「きゃっ……」などと戸惑いの声と歓声が入り混じっている。
「え? なになに?」と、Cが興味津々にその原因を探った。
そして「わ……」と腑抜けた声を漏らす。
その様子が少しおかしくて、俺はCの顔を見た。
「どうした?」
「誰? あれ……転校生?」
続いてAも「うおっ……」と声を上げる。
「あんなヤツいたっけ……? ってかあれ男? 女? どっち……?」
「……?」
どうやらみんな、教室に入ってきた生徒に視線を向けているようだ。
俺もほんの少しの好奇心を胸に、その生徒に目をやった。
「え……」
一瞬、呼吸が止まった。
確かにクラスメイトにとっては覚えのない顔だろう。だが、俺にとっては――
彼の顔を見ただけで喉元が締め付けられるほど、見覚えがありすぎた。
「理玖……」
ちょっと猫背で、おろおろと周囲を怖がるように歩く様子は変わっていない。
しかしそこにいる理玖は、前髪と眼鏡で顔を隠してはいなかった。
前髪は眉下で整えられており、ボサついていた髪もさっぱりさせ、きれいにセットされている。
びっくりするくらいまつ毛の長い大きな目と、すっと通った鼻筋がはっきりと表に出されていた。
「凪?」
Cの声で我に返った。
俺は無意識に立ち上がっていた。
俺は慌てて席に座り、AとCを盾にして身を隠した。
やばい。
やっぱりダメだ。
理玖の姿を見ただけで心臓がバクバクする。
春休みの間、ずっと抑え込んでいたさまざまな欲求が体の中で暴れまわる。
それだけでもいけないのに……なんで顔を隠していないんだよ!
そんなきれいな顔を世間に見せつけたらどうなるかなんて、身をもって思い知っているだろう!
ほら見ろ女子たちが熱っぽい視線で理玖を見ている。
男子だってふぬけた顔で理玖のことを見ている。
そんな目で理玖を見るなって叫びたくなる。
理玖に手を出したら全員ぶっ殺すぞって喚き散らしそうになる。
あー……だめだ。自分でも自分が恐ろしくてかなわない。
俺は理玖のなんでもないのに。
理玖が俺の前の席に座ったのを見て、CとAが驚きの声を上げた。
「えっ!? ももも、もしかしてあんた、と、とと、鳥次!?」
「はっ!? うそだろ!?」
それに対して理玖は――
ぎこちなくはあるが、笑みで返した。
「う、うん」
なにその顔。なんで俺以外に笑顔向けてんの?
Cが絶叫する。
「えーーーー!! なに!? 鳥次そんな顔してたのーーーー!? 知らなかったんだけど!!」
「ま、前髪で隠してたから……。知らなくて当然……だし……」
「ねえ、なんで!? なんで隠してたの!?」
聞いてやるなよ、そんなこと。
「あ……えっと……。恥ずかしくて……」
「えーーーー!! 絶対こっちのほうがいいよ!! やばー! 顔、良!!」
「やめて……恥ずかしいから……」
「きゃーーー!! かわいいんだけど!! 照れてるとこ可愛いんだがぁぁぁ!?」
「~~……」
「ぎゃーーーー!! 顔真っ赤にして可愛すぎるんだがあああ!!」
AはAで理玖に絡む。
「おまっ……。え? 整形した?」
「してない……元々こういう顔だった……」
「おいおい……なんだよお前……。え? 男だよな……?」
言ってやるなそういうこと。
「う、うん……。一応、付いてる……」
ちっちゃくて可愛いの付いてるもんな。男の子だもんな、ちゃんと。
A。お前は知らないだろうが俺は知っているから。理玖にどんなちんこ付いているか。
「えー、まじ? やっべ……惚れるとこだったわ……」
おいやめろ。理玖に手ぇ出すなよA。お前でも絶対許さんからな。
「あはは……やめろよ。そんな冗談……」
「……なんだよお前。普通に喋れんじゃん」
「……二年生になったし、頑張って喋ろうと思って……」
そう言って、理玖は照れながら耳に髪をかけた。だめ。耳まで出さないで。卑猥。
「なに? どういう心境?」
「と、友だち、作ろうって思って……。ほら、俺一年生のとき……友だちいなかった、から……」
友だちがいなかった。理玖のその言葉に膝から崩れ落ちそうになった。
完全に、理玖の中から俺の存在を抹消されている。
Cは「んきゅうぅぅぅ~!」と奇声を発し、理玖に抱きついた。
「かわいい~~!! 鳥次! えっと……下の名前なんだっけ?」
「……理玖です」
「理玖~! 私と友だちになろっ!!」
「う、うん……」
Cが理玖の肌に触れた瞬間、俺は飛び跳ねるように立ち上がった。
驚いたCとA、そして理玖が俺を見る。
俺と目が合った理玖は、ぎこちなく、そして気まずそうに目じりを下げた。
「……っ」
そのときの俺はどんな顔をしていたんだろう。
理玖と会えて顔をほころばせていた?
それとも嫉妬で顔を歪ませていた?
どちらにせよ、俺は鼻血が出そうなほど感情がめちゃくちゃになっていた。
たった数分のできごとで、春休みの間に、俺たちの距離感がぐんと遠くなっていたことを思い知らされた。
自分から突き放したくせに、どうしようもなく悲しくなった。
(凪side)
春が訪れ、俺は二年になった。
校舎前の掲示板に貼られたポスターに、クラス分けが記載されている。
俺はCクラスだった。同じクラスに友人Aと友人Cがいたので少しホッとした。
同じクラスになる生徒の名前を一通りチェックしていたのだが――
「……そんなことってある?」
一番同じクラスになりたくなかった人の名前が載っていた。
苗字の五十音順が近いから、席もまた前後で並ぶのだろう。
「……」
本気でいやだった。二度と顔を見たくないとまで思っていたのに。
カミサマってのは残酷だ。
ぼんやり突っ立っていると、背後から誰かに抱きつかれた。
「なーぎっ! 同じクラスじゃーん!」
「わっ。C~。やったな! 今年もよろしく」
「よろしくー! きゃっきゃ!」
「BとDとは離れたなー。そううまくはいかないかー」
「ねー、寂しいねー。……って、げっ。鳥次も同じクラスじゃん!」
「……だね」
「うえー……。ちょっとテンション下がったー」
心の中で「俺も」と呟いた。
教室にはまだ理玖の姿がなかったので安堵した。
やっぱり前の席か。きっついなあ。
HRがはじまるまでの時間を、友人A・Cと三人でおしゃべりして過ごした。
友人AとCは、教室を見回してニヤニヤしている。
「ほら、見ろよあそこの女子グループ。ずっと凪のことチラチラ見てる」
「あっちもあっちも。ひゃー。スマホで隠し撮りされてるよ、凪?」
名前も知らない女子の観察がそんなに面白いのだろうか。正直どうでもいいんだけど。
俺がこっそりため息を吐いたと同時に、教室がざわめいた。「えっ?」「きゃっ……」などと戸惑いの声と歓声が入り混じっている。
「え? なになに?」と、Cが興味津々にその原因を探った。
そして「わ……」と腑抜けた声を漏らす。
その様子が少しおかしくて、俺はCの顔を見た。
「どうした?」
「誰? あれ……転校生?」
続いてAも「うおっ……」と声を上げる。
「あんなヤツいたっけ……? ってかあれ男? 女? どっち……?」
「……?」
どうやらみんな、教室に入ってきた生徒に視線を向けているようだ。
俺もほんの少しの好奇心を胸に、その生徒に目をやった。
「え……」
一瞬、呼吸が止まった。
確かにクラスメイトにとっては覚えのない顔だろう。だが、俺にとっては――
彼の顔を見ただけで喉元が締め付けられるほど、見覚えがありすぎた。
「理玖……」
ちょっと猫背で、おろおろと周囲を怖がるように歩く様子は変わっていない。
しかしそこにいる理玖は、前髪と眼鏡で顔を隠してはいなかった。
前髪は眉下で整えられており、ボサついていた髪もさっぱりさせ、きれいにセットされている。
びっくりするくらいまつ毛の長い大きな目と、すっと通った鼻筋がはっきりと表に出されていた。
「凪?」
Cの声で我に返った。
俺は無意識に立ち上がっていた。
俺は慌てて席に座り、AとCを盾にして身を隠した。
やばい。
やっぱりダメだ。
理玖の姿を見ただけで心臓がバクバクする。
春休みの間、ずっと抑え込んでいたさまざまな欲求が体の中で暴れまわる。
それだけでもいけないのに……なんで顔を隠していないんだよ!
そんなきれいな顔を世間に見せつけたらどうなるかなんて、身をもって思い知っているだろう!
ほら見ろ女子たちが熱っぽい視線で理玖を見ている。
男子だってふぬけた顔で理玖のことを見ている。
そんな目で理玖を見るなって叫びたくなる。
理玖に手を出したら全員ぶっ殺すぞって喚き散らしそうになる。
あー……だめだ。自分でも自分が恐ろしくてかなわない。
俺は理玖のなんでもないのに。
理玖が俺の前の席に座ったのを見て、CとAが驚きの声を上げた。
「えっ!? ももも、もしかしてあんた、と、とと、鳥次!?」
「はっ!? うそだろ!?」
それに対して理玖は――
ぎこちなくはあるが、笑みで返した。
「う、うん」
なにその顔。なんで俺以外に笑顔向けてんの?
Cが絶叫する。
「えーーーー!! なに!? 鳥次そんな顔してたのーーーー!? 知らなかったんだけど!!」
「ま、前髪で隠してたから……。知らなくて当然……だし……」
「ねえ、なんで!? なんで隠してたの!?」
聞いてやるなよ、そんなこと。
「あ……えっと……。恥ずかしくて……」
「えーーーー!! 絶対こっちのほうがいいよ!! やばー! 顔、良!!」
「やめて……恥ずかしいから……」
「きゃーーー!! かわいいんだけど!! 照れてるとこ可愛いんだがぁぁぁ!?」
「~~……」
「ぎゃーーーー!! 顔真っ赤にして可愛すぎるんだがあああ!!」
AはAで理玖に絡む。
「おまっ……。え? 整形した?」
「してない……元々こういう顔だった……」
「おいおい……なんだよお前……。え? 男だよな……?」
言ってやるなそういうこと。
「う、うん……。一応、付いてる……」
ちっちゃくて可愛いの付いてるもんな。男の子だもんな、ちゃんと。
A。お前は知らないだろうが俺は知っているから。理玖にどんなちんこ付いているか。
「えー、まじ? やっべ……惚れるとこだったわ……」
おいやめろ。理玖に手ぇ出すなよA。お前でも絶対許さんからな。
「あはは……やめろよ。そんな冗談……」
「……なんだよお前。普通に喋れんじゃん」
「……二年生になったし、頑張って喋ろうと思って……」
そう言って、理玖は照れながら耳に髪をかけた。だめ。耳まで出さないで。卑猥。
「なに? どういう心境?」
「と、友だち、作ろうって思って……。ほら、俺一年生のとき……友だちいなかった、から……」
友だちがいなかった。理玖のその言葉に膝から崩れ落ちそうになった。
完全に、理玖の中から俺の存在を抹消されている。
Cは「んきゅうぅぅぅ~!」と奇声を発し、理玖に抱きついた。
「かわいい~~!! 鳥次! えっと……下の名前なんだっけ?」
「……理玖です」
「理玖~! 私と友だちになろっ!!」
「う、うん……」
Cが理玖の肌に触れた瞬間、俺は飛び跳ねるように立ち上がった。
驚いたCとA、そして理玖が俺を見る。
俺と目が合った理玖は、ぎこちなく、そして気まずそうに目じりを下げた。
「……っ」
そのときの俺はどんな顔をしていたんだろう。
理玖と会えて顔をほころばせていた?
それとも嫉妬で顔を歪ませていた?
どちらにせよ、俺は鼻血が出そうなほど感情がめちゃくちゃになっていた。
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