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トラブル
第二十一話
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ヤヨイさんがシャワーを浴びている間に、小鳥遊にメッセージを送った。
《月見里:部屋番号502》
《小鳥遊:了解》
《小鳥遊:待ち合わせのときに揉めていたようだったが、大丈夫か》
《月見里:大丈夫。ちょっとめんどくさそうだけど》
《小鳥遊:何かあればすぐに呼べよ》
《小鳥遊:ホテルの前で立ってるから》
《月見里:カフェでいればよかったのに……》
《小鳥遊:諸事情あって周りに変な目で見られてな》
《小鳥遊:退店を余儀なくされた》
「ぷっ」
そりゃ、紙製であっても、熱々のコーヒー入りのタンブラーを握りつぶしているヤツがいたら、誰でも変な目で見るだろうな。
ヤヨイさんが戻ってきたので、俺は慌ててスマホを仕舞った。
「ツキさんっ……!」
「えっ……?」
風呂上がりのヤヨイさんが俺をベッドに押し倒す。
「えっ、ヤヨイさん、俺もシャワー浴びたいです……っ」
「いやだっ。お風呂入ってないツキさんとえっちしたい……!」
「キ……」
キモ、と言いかけて、必死に口を噤んだ。
「……ヤヨイさん。俺きれい好きなんで、ちょっとそれは――」
「いいからいいからっ。一回だけっ、一回だけでいいからっ。ねっ?」
「はあ……」
俺の意思を聞く気はさらさらないらしい。
「スーツ似合ってるね、ツキさんっ……!」
「どうも……」
「今日はこのまましようねっ!」
ヤヨイさんが俺の汗のにおいを嗅いでいる。気持ち悪い。気持ち悪い。
脇を舐められた。もう嫌だ帰りたい。
ヤヨイさんが俺の体に舌を這わせるたび、悪寒が走る。
なんでこんなに気持ち悪いんだ。どうしてこんなに怖いんだ?
「ツキさん……っ」
ヤヨイさんがうっとりした顔を近づけ、唇を重ねてきた。
「んっ!? んーーー!! んーーー!!」
ざらざらの唇の感触。剃り残した髭が擦れて痛い。鼻息が顔にかかる。
至近距離にあるヤヨイさんの顔面を見るのもキツい。
「ツキさんっ……口開いてっ……」
嫌がる俺に構わず、ヤヨイさんが俺の唇を指でこじ開けた。
どろっとした舌が口内に入ってくる。太くて、ぬめぬめしていて、不快感で吐きそうだ。
舌の使い方も気持ち悪い。ヤヨイさんの唾液が俺の中に入ってくるのが耐えられない。
ある程度は我慢するのを覚悟していたが、これだけは無理だ。
俺はヤヨイさんを突き放す。
「ヤヨイさん!! キスはダメって言ってましたよね!! やめてください!!」
「あっ、あはっ。ごめんごめん。ツキさんがかわいくて、つい」
ぼそぼそと言い訳をしながら、ヤヨイさんがズボンを下ろした。
「ごめんねっ。ほんと、そんなつもりじゃなかったんだ。えへ。えへへ」
「分かってくれたのならいいんです……」
「ごめんね。もうキスはしないから。約束するから」
「はい……」
さっさとイッて終わらせてほしい。なんだこのセックスは。今までしてきた中でも最悪のセックスだ。
「ツキさんっ、挿れるね」
「え? ちょっと待――」
こいつ……!! ゴム付けないまま挿れやがった……!!
「ヤヨイさん……!! 生NGです!! それも言ってあったでしょう!?」
「ごめんねっ。どうしてもツキさんと生でしたいんだっ、あぁぁっ! 気持ちいっ! あぁぁっ、あっ、あっ!」
「このっ……抜けっ……! 抜けよっ……! 生でするなっ……!」
いくら暴れてもヤヨイさんは離れてくれない。それどころか――
「あっ……もう出るっ……! もっとしてたいのにっ、出ちゃうっ、出ちゃうぅっ!!」
「ひっ……。……中に、出すなよ……!? やめろ……やめろ!! 抜けっ! 抜けぇっ!!」
「あぁぁん! あっ、あっ、ああああ!! ツキさぁぁんっ!! 出るぅぅぅっ!!」
「――……っ」
最悪。
その後、ヤヨイさんは俺のことを滅茶苦茶に五回抱いた。まるでダッチワイフにでもなった気分だった。
五回抱いても、トータルでかかった時間はわずか一時間半程度だったが。この時ばかりは、相手を即射精させてしまう自分の名器に感謝した。
大満足したヤヨイさんは、上機嫌で俺と別れた。
「またDM送ります」と手を振る彼に、俺は愛想よく手を振り返した。
ヤヨイさんが姿を消してから、俺は小鳥遊にメッセージを送った。
《月見里:まだ出てくんなよ》
《月見里:俺、今から〇〇駅まで移動して、××ホテルに入るから》
《月見里:小鳥遊も時間ずらしてホテル来て》
《小鳥遊:了解》
できるだけ遠回りして家に帰らないと。万が一ヤヨイさんに尾行されていたらシャレになんないからな……
二時間後、待ち合わせのホテルに小鳥遊が入ってきた。
「どうだった。無事か」
「かろうじて、な……」
俺の不機嫌さに、小鳥遊は気の毒そうな顔をする。
「何されたんだ」
「シャワーも浴びさせてもらえなかったよ。俺の汗を味わいたかったんだと」
「……おえ」
「それに……中出しされた」
「は?」
「……キスまで……された……」
「……」
ヤヨイさんから解放されて気が緩んだのか、俺の目から涙がこぼれた。
「最悪……っ。約束守らないのはどっちだよ……っ」
「……」
「まじキモかった……っ、最悪っ……最悪っ……!!」
「月見里……」
小鳥遊が立ち上がり、俺の腕を引っ張る。
「まず……精液を掻き出そう。俺がしてやるから……」
「……うん……」
バスルームで、小鳥遊が俺の尻を丁寧に洗ってくれた。
精液が大量に入っていたのか、小鳥遊が苛立ちの声を上げる。
「ちっ……。あいつ、あの短時間で何度……」
「六回。二週間射精管理してたんだと」
「は? まじ? 射精管理していたにしても……早漏すぎるだろ」
「ぷっ。ほんとにな。でもお前以外だいたいそんくらいだぞ」
……小鳥遊がついて来てくれてよかったと、この時しみじみ実感した。
一人だったら耐えられなかったと思う。少なくとも、こんなふうに笑えなかっただろう。
全身を洗ってから、俺たちはベッドに潜り込んだ。
俺を憐れんでいるのだろう。小鳥遊は一切手を出そうとしてこない。
「小鳥遊……悪い、頼みがある」
「なんだ」
俺はちらっと小鳥遊を見上げ、すぐに目を逸らした。
「……キス、してほしい」
「っ……」
小鳥遊が目を見開いた。
「……いいのか」
「してほしい。さっきのキモイの、忘れたい」
「……分かった」
小鳥遊が俺のあごを上向かせる。そして遠慮がちにそっと、唇を重ねた。
どうしてだろうな。俺、こいつのこと嫌いなはずなのに。
こいつとのキス、いやじゃないんだ。
長いキスののち、俺たちは顔を離した。
「……不思議だ」
「なにがだ?」
「お前には、中出しされても、キスされても、嫌な気持ちにならないんだよな」
「……」
「ならなかったんだよな、はじめから……」
今日の相手がキモすぎただけじゃないか? と小鳥遊が冗談交じりに言った。俺はそれに笑い、酔ってもいないのに小鳥遊の胸に顔をうずめた。
《月見里:部屋番号502》
《小鳥遊:了解》
《小鳥遊:待ち合わせのときに揉めていたようだったが、大丈夫か》
《月見里:大丈夫。ちょっとめんどくさそうだけど》
《小鳥遊:何かあればすぐに呼べよ》
《小鳥遊:ホテルの前で立ってるから》
《月見里:カフェでいればよかったのに……》
《小鳥遊:諸事情あって周りに変な目で見られてな》
《小鳥遊:退店を余儀なくされた》
「ぷっ」
そりゃ、紙製であっても、熱々のコーヒー入りのタンブラーを握りつぶしているヤツがいたら、誰でも変な目で見るだろうな。
ヤヨイさんが戻ってきたので、俺は慌ててスマホを仕舞った。
「ツキさんっ……!」
「えっ……?」
風呂上がりのヤヨイさんが俺をベッドに押し倒す。
「えっ、ヤヨイさん、俺もシャワー浴びたいです……っ」
「いやだっ。お風呂入ってないツキさんとえっちしたい……!」
「キ……」
キモ、と言いかけて、必死に口を噤んだ。
「……ヤヨイさん。俺きれい好きなんで、ちょっとそれは――」
「いいからいいからっ。一回だけっ、一回だけでいいからっ。ねっ?」
「はあ……」
俺の意思を聞く気はさらさらないらしい。
「スーツ似合ってるね、ツキさんっ……!」
「どうも……」
「今日はこのまましようねっ!」
ヤヨイさんが俺の汗のにおいを嗅いでいる。気持ち悪い。気持ち悪い。
脇を舐められた。もう嫌だ帰りたい。
ヤヨイさんが俺の体に舌を這わせるたび、悪寒が走る。
なんでこんなに気持ち悪いんだ。どうしてこんなに怖いんだ?
「ツキさん……っ」
ヤヨイさんがうっとりした顔を近づけ、唇を重ねてきた。
「んっ!? んーーー!! んーーー!!」
ざらざらの唇の感触。剃り残した髭が擦れて痛い。鼻息が顔にかかる。
至近距離にあるヤヨイさんの顔面を見るのもキツい。
「ツキさんっ……口開いてっ……」
嫌がる俺に構わず、ヤヨイさんが俺の唇を指でこじ開けた。
どろっとした舌が口内に入ってくる。太くて、ぬめぬめしていて、不快感で吐きそうだ。
舌の使い方も気持ち悪い。ヤヨイさんの唾液が俺の中に入ってくるのが耐えられない。
ある程度は我慢するのを覚悟していたが、これだけは無理だ。
俺はヤヨイさんを突き放す。
「ヤヨイさん!! キスはダメって言ってましたよね!! やめてください!!」
「あっ、あはっ。ごめんごめん。ツキさんがかわいくて、つい」
ぼそぼそと言い訳をしながら、ヤヨイさんがズボンを下ろした。
「ごめんねっ。ほんと、そんなつもりじゃなかったんだ。えへ。えへへ」
「分かってくれたのならいいんです……」
「ごめんね。もうキスはしないから。約束するから」
「はい……」
さっさとイッて終わらせてほしい。なんだこのセックスは。今までしてきた中でも最悪のセックスだ。
「ツキさんっ、挿れるね」
「え? ちょっと待――」
こいつ……!! ゴム付けないまま挿れやがった……!!
「ヤヨイさん……!! 生NGです!! それも言ってあったでしょう!?」
「ごめんねっ。どうしてもツキさんと生でしたいんだっ、あぁぁっ! 気持ちいっ! あぁぁっ、あっ、あっ!」
「このっ……抜けっ……! 抜けよっ……! 生でするなっ……!」
いくら暴れてもヤヨイさんは離れてくれない。それどころか――
「あっ……もう出るっ……! もっとしてたいのにっ、出ちゃうっ、出ちゃうぅっ!!」
「ひっ……。……中に、出すなよ……!? やめろ……やめろ!! 抜けっ! 抜けぇっ!!」
「あぁぁん! あっ、あっ、ああああ!! ツキさぁぁんっ!! 出るぅぅぅっ!!」
「――……っ」
最悪。
その後、ヤヨイさんは俺のことを滅茶苦茶に五回抱いた。まるでダッチワイフにでもなった気分だった。
五回抱いても、トータルでかかった時間はわずか一時間半程度だったが。この時ばかりは、相手を即射精させてしまう自分の名器に感謝した。
大満足したヤヨイさんは、上機嫌で俺と別れた。
「またDM送ります」と手を振る彼に、俺は愛想よく手を振り返した。
ヤヨイさんが姿を消してから、俺は小鳥遊にメッセージを送った。
《月見里:まだ出てくんなよ》
《月見里:俺、今から〇〇駅まで移動して、××ホテルに入るから》
《月見里:小鳥遊も時間ずらしてホテル来て》
《小鳥遊:了解》
できるだけ遠回りして家に帰らないと。万が一ヤヨイさんに尾行されていたらシャレになんないからな……
二時間後、待ち合わせのホテルに小鳥遊が入ってきた。
「どうだった。無事か」
「かろうじて、な……」
俺の不機嫌さに、小鳥遊は気の毒そうな顔をする。
「何されたんだ」
「シャワーも浴びさせてもらえなかったよ。俺の汗を味わいたかったんだと」
「……おえ」
「それに……中出しされた」
「は?」
「……キスまで……された……」
「……」
ヤヨイさんから解放されて気が緩んだのか、俺の目から涙がこぼれた。
「最悪……っ。約束守らないのはどっちだよ……っ」
「……」
「まじキモかった……っ、最悪っ……最悪っ……!!」
「月見里……」
小鳥遊が立ち上がり、俺の腕を引っ張る。
「まず……精液を掻き出そう。俺がしてやるから……」
「……うん……」
バスルームで、小鳥遊が俺の尻を丁寧に洗ってくれた。
精液が大量に入っていたのか、小鳥遊が苛立ちの声を上げる。
「ちっ……。あいつ、あの短時間で何度……」
「六回。二週間射精管理してたんだと」
「は? まじ? 射精管理していたにしても……早漏すぎるだろ」
「ぷっ。ほんとにな。でもお前以外だいたいそんくらいだぞ」
……小鳥遊がついて来てくれてよかったと、この時しみじみ実感した。
一人だったら耐えられなかったと思う。少なくとも、こんなふうに笑えなかっただろう。
全身を洗ってから、俺たちはベッドに潜り込んだ。
俺を憐れんでいるのだろう。小鳥遊は一切手を出そうとしてこない。
「小鳥遊……悪い、頼みがある」
「なんだ」
俺はちらっと小鳥遊を見上げ、すぐに目を逸らした。
「……キス、してほしい」
「っ……」
小鳥遊が目を見開いた。
「……いいのか」
「してほしい。さっきのキモイの、忘れたい」
「……分かった」
小鳥遊が俺のあごを上向かせる。そして遠慮がちにそっと、唇を重ねた。
どうしてだろうな。俺、こいつのこと嫌いなはずなのに。
こいつとのキス、いやじゃないんだ。
長いキスののち、俺たちは顔を離した。
「……不思議だ」
「なにがだ?」
「お前には、中出しされても、キスされても、嫌な気持ちにならないんだよな」
「……」
「ならなかったんだよな、はじめから……」
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